仮面ライダーローグ、カッコよかったですね。
今ではローグ、もっとカッコよくなりましたよね。
でも幻さんはネタキャラになりましたね。
仕方ないんじゃ! ナイトローグ時代に悪い事し過ぎたんじゃ! ヘイトをネタで中和するしかないんじゃ!(必死なフォロー)
でも次回からはカシラみたいに戦闘中はビシっとキメてくれるって鯛焼きマン信じてる(儚い願い)。
そんなこんなで最新話投稿です。
シャロはバイトが終わった後、帰る途中で行きつけのカップ専門店に立ち寄った。
この時点でバイト前に病院の前で発作(?)を起こし苦しんでいた少年の忠告は、直後にバイト時間に遅刻しかけて奔走していたのもあって頭から抜けていた。
しかしそのおかげで偶然にも憧れの先輩のリゼに会うことができ、さらに彼女とのペアカップを買ってもらうという幸運に恵まれた。
幸福な気持ちに包まれたシャロは意気揚々と家に帰る。
その帰り道で
摩訶不思議な出来事にどうしたらいいのかわからず立ち尽くしていた彼女を助けたのは、偶然出会った少年だった。
後で気付いたが、その少年は病院の前で会った少年と同一人物だった。
少年はシャロへ逃げるように促し、シャロもそれに従った。
だが、逃げたはいいがまたしてもどうしたらいいのかわからなくなる。
とっさに逃げてしまったが、あのドッペルゲンガーは一体何だったのか?
少年はドッペルゲンガーについて訳知りのような様子だったが、どういった関係なのか?
そもそも少年を置いてきてしまって本当に良かったのか?
様々な疑問が頭を回り、収拾がつかない。
このまま見捨てるのも後味が悪いが、だからといって助けを呼ぼうにも「ドッペルゲンガーが出たから」などと言っても誰も信じてくれないだろう。
実際、白昼夢でも見たと思って踵を返し、全部見なかったことにして家に帰るのが賢い選択だ。
他人事にして忘れるのが精神衛生的にも無難。
だがしかし、シャロにとって少年は他人ではなかった。
ドッペルゲンガーが現れる前の会話で少年は自身の事を『リゼの弟』だと言っていた。
少年は知り合いではないが、リゼは知り合いだ。
少年に強い個人的感情は抱いていないが、リゼにシャロは強い憧れを抱いている。
少年個人は今日会ったばかりの他人だが、リゼは先日(苦手なウサギから)シャロを助けてくれた学校の先輩だ。
リゼはシャロを助けてくれた、少年もシャロを助けてくれた。
シャロは自分自身を博愛精神を持った聖人君主などとは思っていないが『自分とは知り合いじゃないけど、自分の知り合いと親しい人』そして『深くは知らないが悪い人には見えなかった人』は見捨てられない、ぐらいの良心は持っているつもりだった。
だから、
「僕にとってのベスト・オブ・ラーメンは、やはり豚骨だ」
「え、あ、うん?」
「北海道の塩や味噌も捨てがたい。だけど福岡の豚骨は・・・・・・ふぅ、格別だ」
「えーと、醤油は?」
「醤油は殿堂」
「そ、そう・・・・・・」
そして現在、その少年に連行されている。
と言っても拘束されているわけでもなければ、脅されているわけでもない。
歩く少年の隣り、正確には2歩右斜め後ろをついていく形だ。
「ところで君って週どのくらいラーメン食べるの?」
「そこまで頻繁にラーメン食べないわよ」
「ふーん、そうなんだ。美味しいのに」
(その謎のラーメン推しはなんなの?)
監視されているわけではないが、つけ入る隙もまた無い。
歩幅が短い低身長のシャロがリゼと同じくらい高身長な少年に置いて行かれないのは彼が
なので『死角にいる間にこっそりと』とはいかない。
(私を連れて行って、どうするつもりなんだろう)
引き返してしまった結果、戦士に変身した少年と謎の怪物との戦闘を目撃してしまったシャロは呆然としていた。
そんな彼女に、少年は言ったのだ。
ラーメン食べたい――――――と。
(いや意味わかんないから)
そんな思い出しツッコミをするシャロが大人しく少年の後に続いている理由は、正体不明の力を持つ少年に対する恐怖心もあったが、ドッペルゲンガーや戦っていた怪物などへの好奇心も強かったからだ。
少年についていけばそれらについて教えてくれるのではないか、という期待があったからだ。
しかし少女は知らなかった。
下手な真実なら知らないくらいがいいのに―――――ということを。
歩いていると、野原が広がる公園が見えてきた。
夕陽に照らされた野良ウサギが野原のあちらこちらでぴょんぴょんしているのが見える。
(あれ、なんのお店かしら?)
そんな公園の前に、シャロが知らない白い移動販売車が停車していた。
シャロは学費や生活費を稼ぐため多くのバイトを掛け持ちしている。
上手く複数のバイトをこなすために街の求人情報については一通り網羅しており、以前この公園で移動店舗のバイトをしていたこともある。
そんなシャロが知らないということは新しくできた店なのか・・・・・・というわけでもなく、掲げている看板はそれなりの年季が入っている。
「流石、時間通りだ」
心なしか嬉しそうに呟いた少年はシャロに少しの間近くのベンチで待っているように言って、その移動販売車に向かっていく。
しばらくして左手に紙袋を下げて戻ってきた。
そして買ってきた商品の一つをシャロに差し出す。
「これは?」
「見てわかるでしょ、たい焼きだよ」
「ラーメンじゃないんかい!」
さんざっぱらラーメン語りしてこれである。
「あんた・・・・・・リゼ先輩の弟さん、なのよね?」
「やめてくれないか、そういうお子様ランチのおまけみたいな呼び方は。僕には『天々座刃』という名前があるんだ」
食い気味に反論する少年・ジンの態度に、怪訝に眉をひそめつつシャロは不満げに反論する。
「私、あんた名前聞いたの今が初めてなんだけど」
「そういえばそうだね」
「こいつぅ・・・・・・」
あっけらかんと言いのける
こういうとことんマイペースなタイプは一度手綱を握られるとどこまでも引きずられていく。
似たようにマイペースな友人を持つシャロは経験則でわかっていた。
既に手遅れ感はあるが、わかっていた。
それでもシャロは『
病院の前で悶えていた『彼』は地獄の苦しみに耐える囚人のようだった。
怪物と戦っていた『彼』は死線を潜ることに慣れている冷徹な剣士のようだった。
面と向かって話す『彼』は見た目こそ憧れの先輩に似ているが、それ以外が全然似てない。
ラーメンを語る『彼』はただのラーメン厨。
どれが
たい焼きを食べるシャロの姿をじっと見つめるジン。
「・・・・・・なに? 食べたいの?」
「勘違いしないでくれ。そのたい焼きは既に君のものだ。僕が他人の物を欲しがるような卑しい奴に見える?」
見えるか否かはともかくすごく食べ辛い、というのがシャロの返答だった。
それを慮ってシャロがたい焼きを食べ終わるまで目を逸らすジンだが、妙なプレッシャーは隠しきれていなかった。
「味、どうだった?」
「美味しかったわよ・・・・・・」
釈然としないが、たい焼きが美味しかったのは事実だ。
生地は外がパリッと、中はもちもちの不思議な二段構造。生地そのものが風味を持ちながら、餡子の味を引き立てる。
その餡子はたい焼きの尾ヒレの先まで詰まっていて、そのこし餡のしつこ過ぎない甘味が口の中で溶けるように広がっていく感覚が堪らない。
そんな一品であり、逸品だった。
「そう、よかった」
「どういうこと?」
「元々これはいつもお世話になっている父の部下の隊員達の差し入れに買おうと思って、三か月前から予約していたんだ」
『味は絶品だが、予約した数しか作らないたい焼き屋』の情報を口コミで聞いた噂を基に連絡先を突き止め、何とか
「今までのたい焼きにない美味しさという評判だったけど、どこぞの誰とも知れない人の評価を鵜呑みにしてそのまま渡すのは失礼だからね」
(その言い草だと、まるで毒見させられたみたいで嫌なんだけど)
「なにはともあれ、噂に違わぬ美味しさが証明されたところで・・・・・・」
空気の変化にシャロは身構える。
随分と回り道をしてきたがとうとう説明してくれる気になったか、と。
一体どんな秘密があるのか、自分が知らない世界への恐怖と興味で身が震える。
ジンの口が開く。
シャロは生唾を飲む。
「今日見たことは他言しないように。じゃあね」
そう言ってジンはそそくさとその場を去った。
「って待ちなさいよ!」
シャロはジンの右腕を掴んで止める。彼女の顔は呆れと困惑、そして少しの苛立ちが混ざったしかめっ面になっていた。
「なに? 僕にはこのたい焼きをあったかいうちに隊員達に届けて、その上で夕食の時間までにウチに帰るという重要な用事があるんだけど」
「知らないわよ。そんなことより、ここまで来て放置はないでしょ、放置は」
シャロからしてみればドッペルゲンガーや少年が変身した戦士のこと等々、色々と説明してほしいことが山ほどある。
それが知りたいがためにここまで来たのに、これでは肩透かしもいいところだ。
「その件なら、あげたでしょ? たい焼き」
「・・・・・・まさかとは思うけど、あれが口止め料だったわけじゃないわよね?」
「・・・・・・? だって、食べたでしょ?」
「いやそれはおかしい」
どんだけ安い女だと思っているのか、とシャロの中で苛立ちのメーターが上がる。
「絶対あんた頭悪いでしょ」
「誰の頭が悪いって?
テストはオール90点超。
全教科トップ10ランクイン。
でも数学でココアさんに負けた。おのれココアさん。ゆるさん」
次は絶対勝つ的な意味で。
「自慢か」
「誇りだ」
少女と少年の言葉の応酬は続く。
「一体何が不満なんだ? ・・・・・・こうなったら奥の手だ。何が食べたい? 最高の店を紹介してあげよう」
「何でっ! 食べ物っ! オンリーなのっ!?」
「美味しいから」
「知るか!」
天然でエキセントリックな性格の少年にシャロのツッコミが光る光る。
ただし効果は今ひとつのようだ。
ポ〇モンでいうならシャロはフェアリータイプ。少年はどく/はがねタイプといったところか。
「あのたい焼きは最低でも数か月前から予約しないと買えない、とても貴重なたい焼きなんだ。君にあげたのはそんな貴重なたい焼きの一つ。厳密には僕の分だ」
「たい焼きならまだあるでしょ? それを食べればいいじゃない」
「これは隊員達の分のたい焼きだ。僕のじゃない」
「じゃあまた買えばいいじゃない」
「だから予約した分しか買えないたい焼きなんだよ」
「あーもう!」
埒が明かない問答にシャロは頭を抱える。
一方的だったとはいえ期待を裏切られたこと、非日常的な秘密をたい焼き一つでチャラにされようとしていることに納得ができずイライラが募る。
それらの負の感情に引っ張られるように、普段から心の隅で
そして、つい口が滑ってしまった。
プライドの高いジンの前で言ってはならないことを口にしてしまった。
「あんたの家、お金持ちでしょ。そんなに食べたいならお金を出してサービスしてもら「は?」
シャロは、首筋を氷の刃で撫でられた・・・・・・錯覚をした。
「僕にそんな恥知らずなことをしろっていうのか?」
言葉が、
視線が、
空気が、
総てが鋭い刃になってシャロに向けられていた。
「実際に口にしていなくても店を見れば、品の出来上がりを見れば、この
かつてリゼからジンについて相談された際に千夜は『お客様にはまず敬意を払う』のが自分の考えだが、ジンなら『店員も客も相応に敬意を払うべき』と言い返しそうだと想像していた。
事実、その想像は的を射ていた。
ただし天々座刃という少年が、敬意を払うと認めた相手が貶められる発言・行為に対し、例え過失であったとしてもここまで
「うっ・・・・・・ごめんなさい」
だが、その理不尽な氷点下の怒りが逆にシャロを冷静にさせる。
先程の発言はたい焼き屋さんに失礼だ、と考えれるだけの頭は回るようになった。
ただし結果的に自分の頭を冷やしてくれたとはいえ冷水どころか氷塊をぶっかけてきた少年には、そこまで罪悪感はなかったが(そもそもシャロがイライラした原因はジンだ)。
(って、本題はそこじゃないでしょ!)
冷静になったところでシャロは改めて事情を問おうとした。
「・・・・・・こちらこそ、ごめん。今のはちょっと言い過ぎた」
しかしあまりに素直過ぎるジンの謝罪に拍子抜けした。
シャロはジンのことをもっと傲慢な人間だと思っていたがために、尚更だった。
「腕、いい加減に離してよ」
「ああ、ごめんなさい」
少年の意外な一面を見て衝撃を受けていたシャロは言われたままに右腕を離す。
そこで、日頃から多種多様なバイトをこなしていくうちに培われた洞察力と観察力・・・・・・一言で『気遣い』と略せるシャロの技能が気付かせた。
「右腕、怪我してるの?」
「・・・・・・だったら何?」
ジンが右腕を庇ったほんの僅かな違和感をシャロは見抜いた。
これはひとえにシャロが特別だったからではない。
むしろ逆。
シャロがジンにとって
リゼやチノ、ココアの前ならジンはもっと上手く自身の痛みを隠す。
実際にそうやって今まで隠してきた。
シャロがジンと親しくない他人だったから、ジンはそこまで気を張って隠そうと思わなかったのだ。
「・・・・・・来なさい。(勇気が無くて)行ったことは無いけど、たぶんここからならリゼ先輩の家よりウチの方が近いから」
「どういうこと?」
「だ・か・ら、簡易的でも手当してあげるからウチに来なさいって言ってるの」
「え?」
ジンは、シャロの義理堅く面倒見のいい性格を甘く見ていた。
シャロは頭の悪い人間ではない。
それは学力が高いというだけでなく、人間として
しつこく説明責任を求めているものの、何となく『危ない所を助けてもらった』というのは理解できているし忘れていない。
説明を求めているのも『何から襲われ、どうして助けられたのか』がわからなければ
見知らぬ世界への好奇心があるのも偽りない事実だが、それだけではないのもまた事実。
「その必要はないよ。まずは
「いいえ手当が先よ。治療が遅れた分、後に響くんだから」
「いいって言ってるでしょ。この程度は問題ないよ。それより、早く家に帰らないとリゼが・・・・・・」
「え? リゼ先輩がどうしたの?」
妙なタイミングで出た憧れの先輩の名前にシャロは引っ掛かりを感じた。
「・・・・・・何でもない。君には関係ない」
「?」
シャロは急に暗くなったジンの表情が気になったが、
「だから僕は・・・・・・なに? そんなことより治療してもらえって? なんで? ・・・・・・ついでに事情もある程度説明してあげればって、そんなことしてたら夕食に間に合わないよ。・・・・・・いや、ちゃんとフォローするとかそういう問題じゃ・・・・・・じゃあいいよ。わかったよ。僕の責任だよ。説明すればいいんでしょ、説明すれば。・・・・・・拗ねてないから」
最後に幾つか事務報告をして、ジンはスマホの通話を切った。
「オペレーターの人とやらと話は終わった?」
スマホをズボンのポケットにしまって振り返れば、ジト目で呆れているシャロがいた。
「勝ったと思わないでよ」
「何の話よ・・・・・・」
シャロの抵抗に折れた(できれば穏便に済ましたかった)ジンが渋っていた隊員達への報告(という名の相談)をしたのだった。
その結果シャロの主張が通ったが、ジンの負けん気が納得しない。
納得はしてないが、されど反抗する理由があるかとなると今回はないので従う。
ここらへんに彼が普段、敬意を払う人物にどう対応しているかが見える。
「とにかく、話がついたのなら行くわよ」
「あ・・・・・・たい焼き、どうしよう」
「まだ言うか」
「いや確か、『冷めても美味しいたい焼きだ』という評判も聞いた・・・・・・それに賭ける」
「もう賭けるなり何なり勝手にしてなさいよ・・・・・・」
シャロは深い深い溜息を吐いて『なんで自分はコイツにここまで親身になってあげているのだろう』と当初の目的を忘れそうになりながらも、自分の家の救急箱の位置を記憶から探っていた。
※
そして場所を移動してシャロの家。と言っても彼女が一人で下宿している仮の住まいだが。
しかもちょっとボロい一階建ての小屋。
それでも部屋の中は綺麗に掃除が行き届いている。
ジンのシャロへの好感度が結構上がった。
「これでよしっと」
打撲していた
ジンは患部を心臓より上の位置に置き(血流が滞ってうっ血になるのを防ぐため)ながら、その手際に感心する。
ジンのシャロへの好感度が大分上がった。
「えーと、どこから説明すればいいかな」
「あ、ちょっと待って」
とても億劫そうに説明を始めようとしたジンを一旦止めてシャロは部屋の奥へ消える。
そして
「それは?」
「ちょっと長話になりそうだし、飲み物ぐらいは出すわよ」
「なるほど」
その気遣いは良し。
ただし味の方はどうかな? とジンは淹れられた紅茶を受け取り、一口。
ジンのシャロへの好感度が一気に上がった。
「さて、まずはさっき君を襲ったドッペルゲンガー・・・・・・“ワーム”について話そう」
「紅茶飲んだ途端、急に乗り気になったわね」
「君の品にそれだけの価値があった、というだけだよ」
「はいはい、わかったわよ」
美味い紅茶を飲んで態度を改めたジンの現金な性格に、それまで能面のように無表情で感情の見えない彼に苦手意識を持っていたシャロは少しだけ親近感が湧いてきてしまっていた。
紅茶で一息ついて、ジンは語り始めた。
人の姿と記憶を奪う“ワーム”のことを、
この街の有力な地主である天々座家がその“ワーム”に対抗する組織だということを、
“ワーム”に唯一対抗できるのがマスクドライダーシステム・・・・・・仮面ライダーの力だけだということを、
そしてそれらは街の一般市民は勿論、リゼにすら秘密にしているということを。
「なんで秘密にしているかは・・・・・・言わなくてもわかってるみたいだね」
「
“ワーム”が持つ擬態能力。これは下手なクローン技術よりも完璧だ、と言っても過言ではない。
姿形どころか記憶さえ完全にコピーする彼らは質問応答でボロは出さないし、精密検査を行ったとしても人間と判別することはできない。
ただしその肉体強度は人間を遥かに上回り、その気になればあっという間に人を殺傷できる。
しかもそのまま何食わぬ顔でまた人間の中に紛れ込むのだ。
木の葉を隠すなら森の中、というが“ワーム”の場合は
そんな奴らが人間社会に紛れていると周知されればどうなるか?
即、怪しき者は殺せの魔女狩りが起こるとは限らないが、間違いなく人々の平穏は終わりを告げる。
『もしかしたら今さっき擦れ違った奴は怪物かもしれない』
『いや、もしかしたらお隣のあの人はもう怪物になっているのかも』
『あるいは自分以外の家族は全員、怪物が成り代わった偽物なんじゃ』
『それとも気付いてないだけで既に自分は自分ではなく、同じ記憶を持っているだけの怪物なのでは?』
そんな不安と疑心暗鬼に飲まれて生きていくしかない地獄に変わってしまうだろう。
例え故郷を捨てて街から離れても、その恐怖からは一生逃れられない。
今の桐間紗路のように。
「心配することはない」
だが天々座刃はその不安を無用だと切り捨てた。
その断言にシャロは怪訝な目を向ける。
「・・・・・・どうしてそう言い切れるの? そう言っているあんたでさえ、本物である保証は無いのに」
シャロの意見は正論だった。常識的とも言える。
しかしその常識に、ジンは非常識を返した。
「総てのワームは僕が斃すし、仮に僕がコピーされても判別は容易だよ。だって僕の体内にはウチの優秀な
ジンは
シャロの背筋には、ついさっきジンに睨まれた際の比ではない悪寒が走った。
「あん、た・・・・・・それ、どういうことよっ・・・・・・」
嫌悪感で顔を真っ青にしてシャロはジンに詰め寄る。
「そんなの、おかしいでしょ・・・・・・! 体の中にGPSって・・・・・・まるで、モルモットか道具みたいな扱いじゃないっ・・・・・・! あんた、それでいいの!? 何とも思わないの?!」
ジンはシャロが嫌悪感だけでなく、自分のために怒りも感じてくれているのがわかった。
そんな優しい彼女の性格を知ってさらに好感度が上がりそうなことに、
「ああ、同じことを
「はい?」
シャロはジンが言った言葉の意味がわからず、思考が止まる。
否、わからないのではなく、わかりたくなかった・・・・・・が正しい。
「なん、で・・・・・・そんなことを?」
「君がさっき言ったでしょ、僕が本物である保証は無いって。実際そうさ。
しかもワームの擬態能力はマスクドライダーシステム、ゼクターさえ欺くことができる。
「保険って・・・・・・それだけでそんな・・・・・・」
「まぁ、実際こんなことしているのは僕だけだよ。僕以外のワームなら僕が見破れるし」
「え? どうやって?」
「それは流石に機密事項かな。ただ僕が特殊体質だから、とだけ言っておこう」
いっそ飄々とした物言いで流してしまう。
GPSを自分の体内に埋め込むというおよそ社会の倫理感から外れた行為は、ジンにとってその程度のことらしい。
ジンに親近感を抱き始めていたシャロだったが、急に彼との間に深い谷ができたような気がした。
溝、ではなく谷。
とてもじゃないが手も足も向こう側へ届きそうにない谷だ。
シャロはただ、カップに残った冷めた紅茶を見つめることしかできなかった。
「しゃ、シャロちゃんが男の人を自分の家にっ・・・・・・!」
そしてお隣の千夜から要らぬ誤解を受けるのを阻止できなかった。
千夜からあらぬ誤解を受けてしまったジンとシャロ。彼らは思い込むと暴走してしまう彼女を無事止めることができるのか・・・・・・次回『初めて会った日の事憶えてる? 自分の家のメイドにしようとしてたわよね 4』
読んでくださりありがとうございました。
ご感想待ってます。
P.S. 今回のお話で何回『たい焼き』って単語が出たでしょう?