無色の世界   作:Hiramii

15 / 24
お待たせしました、ようやくシエル編です。
あと二話、あと数話と延ばしてきましたが…次か、次の次くらいで!なんとか!


第十三話 晴れない憂鬱

翌日シアンは、フライアに帰還したラケル博士とジュリウスを出迎えて、そのまま研究室で2人の不在中の様子を報告した。

 

『…以上です』

「不在中ご苦労だった。ありがとう」

『いえ…では、失礼します』

 

研究室を出てエレベーターに向かう途中、レア博士とすれ違ったので会釈をしてそのまま行こうとした。

 

「あ、そうだわ。ねぇ副隊長さん」

『はい、何でしょうか』

「そういえばシエルの様子はどう?ブラッドに溶け込めているのかしら?」

『シエルですか……その…』

 

少し浮いてる、とは言えない。

答えに困って黙っていると、かえってレア博士に伝わってしまったようだ。

 

「その様子だと、うまくいってないみたいね」

『…はい…ナナやロミオも、色々協力してくれてはいるんですが…。すみません、力不足で…』

「謝らなくていいのよ。そうね…あの子の生い立ちは知ってるかしら?」

『?いえ…』

「…シエルはもともと裕福な軍閥の出身でね。両親が亡くなったのをきっかけに、ラケルに引き取られたの。

シエルはマグノリア・コンパスで、とても過酷で、高度な軍事教育を施されていたようね」

『軍事教育……』

 

シエルと初めて会った時、暗殺術や破壊工作などを学んだと言っていたのを思い出した。

あの時は物騒だと思ったが、そういう事か。

軍閥の出身だというから、恐らく親族か、両親に関係していた周りがそれをやらせたのだろう。

 

「極限状態でのストレステストや、少しのミスで懲罰房に入れられたりして…しばらく経ってから私が会った時には、任務を忠実に実行する、猟犬のような女の子になっていたわ…」

『…そういえば、シエルはジュリウス隊長の護衛を務めたことがあると聞きましたが』

「確かにそんな時期もあったわね。歳が近かったから、ジュリウスのボディーガードをずっと任されていたの。でも守る、守られるの関係だったせいか、2人は友達にはなれなかったみたいね…」

 

…確かに2人の性格や普段のことを考えると、アレじゃあ友達なんて無理かもしれない。

 

『…シエルが気になりますか?』

「あら、あなたは気にならないの?」

『えっと、そういうつもりじゃ…』

「フフ、マグノリア・コンパスであの子と一番話していたのは、多分私だから…。あの子、フライアに来てから少し肩の力が抜けたみたいね。あなたたちブラッドの雰囲気がそうさせるのかしらね?ジュリウスも昔に比べるとずっと接しやすくなったし…」

『ジュリウス隊長も?』

「ええ、彼もまた裕福な家の出身なのだけど、幼い頃からとても賢い子で…とても子供とは思えなかったわ。あまり感情も出なかったし」

『そうだったんですか…』

「だから、シエルのこともよろしくね。あの子は人との距離の取り方がとても不器用な子だけど、少しずつ変わろうとしてる。仲良くしてあげてね」

 

そう言うと、レア博士は去っていった。

 

 

ーーーーーーーーー

 

今日も連携訓練が行われる。

しかしそこにギルの姿はない。

 

『…私、探して来ますね』

「あいつ、またサボりか?」

「また?…何かあったのか」

「昨日、ギルのやつ任務で招集されたのに来なかったんだよ。俺達が任務を終えて帰って来たら、何食わぬ顔で出て来てさ…」

「何でサボったんだって言う私たちのことを無視して、副隊長と何か話をしてたんですけど…副隊長も詳しく教えてくれなくって」

 

ロミオとナナから事情を聞き、ふむ…と考えるジュリウス。

 

(さっきの報告では、副隊長はそんな事は一言も言っていなかったが…)

 

そして、ふとシエルに問いかけた。

 

「シエル、確か今日は連携訓練だったな」

「はい。昨日の訓練での反省点を踏まえて、副隊長の提案でもう一度やってみようということになりました」

「そうか…よし、とりあえず俺たちで訓練を始めてしまおう」

「えっ?副隊長とギルを待たないんですか?」

「ギルのことは副隊長に任せよう。…きっと何とかなる」

 

 

一方シアンは、庭園やライブラリなど、思いつくところを見て回ったもののギルを見つけられずにいた。

 

『ここにもいない…あとはギルの部屋しかないか…』

 

特殊部隊ブラッドの為につくられた特別区画に、メンバー全員分の部屋がある。

居るとしても、呼びかけに応じて部屋を開けてもらえるかどうか怪しいところだ。

 

ダメ元で部屋を訪ねてみる。

とりあえず、部屋の扉をノックした。

 

『ギルさん?いるなら返事してくれませんか?さすがに訓練をサボるなんてどうかと思いますけど』

 

返事はない。

だが部屋の中から人の気配がしているので、中にいるはずだった。

外で生まれ育ったシアンは、知らず知らずの内に人やアラガミの気配に敏感になっていた。

 

『ギルさ〜ん?上司相手に無視ですか?』

 

相変わらず返事はない。

 

『……なるほど。あなたがそのつもりならこちらにも考えがあります』

 

シアンが大きく息を吸い込み、インターホンマイクの前で大声をあげようとした時、勢いよく部屋の扉が開き部屋の中へ引っ張り込まれた。

 

『うぎゃ』

 

勢いを殺すことができず、そのまま前に転んだ。

ぶつけた額をさすりながら起き上がって、引っ張った犯人を見上げる。

 

『まったく、レディは丁寧に扱うものですよ』

「…今何しようとした」

『マイクの前で大声出したら流石に開けるだろうと思いまして』

「嫌な予感が当たった……」

 

どうやらギルの危機察知能力が働いたらしい。

シアンはその場に座り直すと、ギルを見上げて言った。

 

『それよりもギルさん、訓練をサボるのは感心しません。昨日は見逃してあげましたけど、今日はそうはいきませんよ』

「言ったろ、俺は俺のやりたいようにやらせてもらうと…」

 

ギルはやっていられるか、といった様子だ。

 

『ダメです、これだけは認められません。訓練はちゃんと出てください』

 

シアンはまるでハルトを相手にしているような気分になった。

そこでふとあることを思いついた。

シアンは立ち上がると、ギルを見据えて言った。

 

『ギル、副隊長命令です。訓練に出なさい』

「……チッ、わかったよ。出りゃいいんだろ」

『物分かりが良くて助かります』

 

ハルトの場合も似たようなものだった。

かつては暴れるハルトを止めるために、リーダーという立場を使ってよくたしなめた。

外にいる以上、規律の乱れは自らだけでなく、仲間の命を危険に晒すことにもなりかねなかったからだ。

あえて組織化することで互いを守っていた。

 

ギルを連れて訓練場に戻ると、すでにジュリウス達は訓練を開始していた。

 

『ただいま戻りましたー』

「あ、おかえりー!」

「手間をかけさせたな、副隊長」

『いえ、このくらい平気です』

 

ジュリウスはシアンに声をかけると、その後ろにいるギルに視線を向けた。

 

「何があったかはあえて聞かないが…感心しないな」

「……悪かった」

 

ギルは少し不服そうではあったものの、一言謝罪した。

 

「…今回は迎えに行った副隊長に免じて見逃してやる。次はないぞ」

「ああ、わかってる…」

 

その後無事に訓練を終えて、シアンは呼び出されてジュリウスの私室にいた。

 

「さて、お前を呼んだのは他でもない。…報告漏れがあったようだな?」

『う……』

「ロミオが話してくれた。昨日、ギルが任務をサボったそうだな。それをお前が見逃した、と…何故だ?」

 

椅子に腰掛け足を組んで、目の前に立つシアンを見上げるジュリウス。

その威厳に改めてこの人がブラッドの隊長であり、自身の上司であると実感したシアンは、一呼吸おいて話し始めた。

 

『…実は、少しだけ喧嘩を…』

 

ジュリウスは目を丸くした。

 

「(シアンがギルと?)…喧嘩?お前がか」

『あからさまに言い争ったわけじゃないですけど、考え方の相違があって…シエルの、件で…』

 

それを聞いて、ジュリウスは予測がついた。

 

「そういえば、シエルと言い争いをしていたことがあったな。…納得していない、ということか」

『はい…シエルはまだ、戦術理論と実戦での立ち回りとのギャップの穴埋め…適応が上手く出来ていなくて…。ギルはそれが不服らしくて、"私たちでサポートしてあげよう"と言ったんですが、なかなか…』

「理解を得られず喧嘩か。…それで?」

『…その後顔を合わせるのが気まずくて…すでに彼以外は揃っていて緊急任務だったのと、呼び出しに彼が応じなかったのをいいことに、黙認しました…すみません』

 

完全に副隊長としての自覚に欠けている。

ジュリウスはため息をついた。

 

「……わかった、この件は不問にする。今後はこういうことがないように…いいな」

『…はい』

「それはそれとして、だ」

 

ジュリウスは徐に立ち上がり、シアンの肩に手をかけた。

 

「…苦労をかける」

『いえ、別に…』

「俺はそういうことは不得手でな、お前やロミオ達に頼らざるを得ない…すまない」

『いいんです、気にしないでください。ただでさえ隊長もお忙しいでしょうし』

 

ジュリウスはふっ、と微笑んだ。

 

「本当に変わったな、シアン…以前なら仕事だから、とか仕方なく、とかで片付けられていそうなものだが」

『その方がよろしければそうしますが?』

「いや、今のままでいい…一層お前らしい」

『…そうですか』

 

シアンもまた微笑み返した。

 

 

その夜、シエルは自分が入隊してから今までの任務内容と訓練内容について自分でまとめた資料を見返していた。

 

ブラッドの戦闘には、作戦も規律もない。

端的に言えば、雑だった。

役割分担も徹底されず、作戦もロクになく…。

個人の力に依存しすぎている。一小隊としてその姿勢が正しいとは、とても思えない。

それでどうして任務がこなせているのか、シエルには理解できないでいた。

昨日の任務もそうだった。

シユウ二体が合流しない様に分断したまでは良かったものの、ロミオと副隊長、自分とナナで分かれて戦ったが、規律ある連携など無かった。

 

…明日、副隊長に意見を聞いてみよう…シエルはそう決めて、タブレットの電源を切った。

 




大人げないギル可愛いですよね。(違う
「俺は俺のやり方で~」とか言うからホンット初見の時殴り飛ばしたくなりました。
は?何言ってんのコイツ。みたいな。
コイツ超面倒くさい。的な。

そもそも始めたての頃、ブラッド=ジュリウス、ロミオ、ナナ、主人公だけ、って認識だったんで後から加入したギルとシエルは枠が空くまで蚊帳の外でした。←
任務もロクに連れて行かなかったっていう…。
なのにキャラエピは有用なもんだから「面倒だけどやるかー…」くらいの気持ちでした。
今になって思えば本編のシエルとギルのくだりは色々とズルいと思います。(笑)
確実に副隊長のすぐ横立ってますよね的な。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。