無色の世界   作:Hiramii

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わーいやっとシエルが血の力に目覚めました〜!
ホント遅れて申し訳ないです。
今回は平常運転。全体的に会話多め。
後半シアン出てきません。


第十六話 格子の中で

「あ〜暇だ…全く何で懲罰房なんか入らなきゃいけないんだか」

 

シアンは狭い懲罰房の中で、何度目かもわからない欠伸をした。

 

「…お前自身が招いた事だろう」

「分かってます〜。後悔も反省もしてませんけどね」

 

背中の壁越しに上司がため息をつくのが聞こえた。

 

「てか、隊長も懲罰房ですか。おめでとうございます」

「懲罰を受けている者とは思えないほど呑気だな。思ったより元気そうで何よりだ」

「いっそのこと除隊でもよかったんですけどね〜」

 

ジュリウスの皮肉をさらっと躱し、シアンは再び欠伸をする。

シアンが懲罰房に入れられてから1週間経った。

たったさっきジュリウスも懲罰房に入れられたばかりだった。

 

「私、どのくらいで出られますかね?」

「さぁ…シエルが嘆願書を書いているようだが」

「懲罰房から出たら感謝しなきゃですね。そういえば隊長も副隊長もいなくて、ブラッドは大丈夫なんですか?」

「その辺はシエルに引き継いである、心配するな。それに俺が出られるのは明後日だ、数日程度なら問題ない」

「喧嘩さえしなければ…でしょ」

「それは俺も頭が痛い…」

 

しばらくの沈黙。

 

「…それにしても驚いたぞ。お前がまさかあんな無茶をするとは…。オマケに局長に対してもあんな態度で、自ら罰を重くするなんて…」

 

シエルを救援し、戻ったシアンはメディカルチェックの後、ジュリウスと共に局長室に居た。

本来なら命令違反したことを謝罪するところなのだが、シアンは頭を下げるどころか反抗的な態度に出た。

 

"人命を軽視して私の仲間の命を平気で危険に晒すような最低な男に頭を下げる気はないし、従いたくもない。懲罰房でも除隊でも、お好きにどうぞ"

 

シアンが終始こんな様子だったものだから、本来なら当分の間の給与減額で済むところを除隊にされかけ、ジュリウスとラケル博士、そしてレア博士までもシアンのフォローに回り、何とか免れた。

代わりに無期限の懲罰房入りを言い渡され、こうしていつ出られるかも分からない懲罰房生活をシアンは強いられているのだった。

 

「私は絶対に謝りません」

「…次があったら俺も庇いきれないぞ」

「隊長だって局長に反論してたくせに」

「やりすぎだと言ったんだ。…だがシエルを助けてくれた事には感謝している。お前が動いていなければ、シエルがどうなっていたか…」

「隊長命令に従っただけです、私の上司はジュリウス隊長ですから」

「!」

 

ジュリウスが身じろぎする気配がした。

そんなに意外な言葉だったろうか。

 

「まぁ、命令されなくてもシエルは助けるつもりでしたけど」

「…ありがとう」

「それは私の台詞ですよ。隊長が局長相手に反論してくれたのが後押しになったんですから」

 

組織というものをわかっているはずの隊長だから、正直ジュリウスに然程期待はしていなかった。

本部の人間なら尚更、部下の命より組織を取るだろうと。

しかしジュリウスは組織ではなく部下の、仲間の命をとり、局長に反論した。

それはシアンにとっては意外な事だったが、とても心強かった。

 

「…そうか、役に立てて何よりだ」

 

ジュリウスは穏やかにそう言った。

 

「…でもご迷惑をおかけしてしまいましたね…申し訳ありません」

「気にするな、俺がお前でもきっとそうしていた。それに、ナナからお前が神機兵に乗って行ったと聞いた時の局長の驚いた顔…あれはしばらく忘れられん。正直スカッとした」

「…………」

「?どうした」

「…ジュリウス隊長の口から"スカッとした"なんて俗物的な言葉が出てくるとは思いませんでした…」

「俺だってそういう時くらいあるさ」

「…そうですよね、隊長も人ですもんね」

「なんだ、俺はお前から人外扱いされていたのか?」

「そういう意味じゃなくて…なんか、そういう人間味ある言葉が隊長からは連想出来ないというか…正直、似合わないというか…」

「どうやら俺は余程お堅い人間だとお前から思われているようだな」

「…そう、ですね…否定はしません」

「なら、こういうのはどうだ?互いに隊長、副隊長という立場は抜きにして名前で呼び合うというのは」

「ええっ!?」

 

ジュリウスの突然の提案に、シアンは驚愕した。

 

「それ、つまり隊長のこと呼び捨てにしろってことですよね。無理ですよ、無理無理」

「最近、思っていたんだ…他のみんなの事は名前やあだ名で呼んでいるのに、なぜ俺だけ"隊長"なのかと」

「そりゃ上司ですし…」

「ロミオは俺を名前で呼んでくれている」

「それはロミオと隊長の仲がいいからですよ」

「俺はお前とも仲良くなりたい…ダメ、だろうか」

「………………」

 

シアンは何だがむず痒い気持ちになった。

ジュリウスのストレートな言葉に対する照れと、上司と部下というハッキリとした関係なのに呼び捨てはまずいだろうという認識が、シアンの中に渦巻いていた。

 

(…前にも似たような気分にさせられた事があるような……)

 

シエルが突然、友達になってくれと言ってきた時と似ていた。

あの時はシエルがすごく頑張っているのを見ていたし、少し戸惑いはあったものの、素直に友達になろうと思えたのだが…。

 

(流石に隊長相手っていうのはなぁ〜……)

 

シアンはため息をつきながら頭を抱えた。

よりによって相手は上司だ。嫌なわけではないが、素直に頷くことも出来ない。

なかなかシアンから返事がないので、ジュリウスは改めて言った。

 

「…俺はお前のことをもっと知りたい。シアンは何が好きで、何が嫌いで、どんな本を読み、どんな曲を聴き…どんな生き方を、してきたのかを」

 

どうやら単なる思いつきではないらしい。

流石にそこまで考えていたとなれば、否定する理由もない以上断れない。

 

「……はぁ〜…。今すぐ呼び捨ては出来ませんけど、それでいいなら」

「む…今からではないのか」

「無理です、そもそも私の中では隊長は隊長なんですから」

「………」

「あの、隊長?」

「………」

「隊長、急に黙るのやめてください」

 

返事がない。

 

「(まさか…)たいちょ…じゃない、じ、ジュリウス…?」

「なんだ」

 

卑怯だ。卑怯すぎる。

 

「無視はひどくないですか…?」

「お前が名前で呼んでくれないからだ。…さて次は敬語もナシでいこうか」

「…何でそんなにこだわるんです?」

「ブラッドは"家族"だ。…家族に上司も部下もないだろう?」

「…それ絶対今思いついたやつでしょ…」

「ふふ、悪いか?」

「…いーえ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

シアンがいない間、ロミオ、ナナ、シエルは交代でシアンに毎日会いに行った。

懲罰房に入れられている者の関係者の懲罰房立ち入りは原則1人、1日に一回のみと定められているためだ。

ただ1人、ギルバートだけはシアンに会う気は一切なかった。

 

「なぁ、ギルはシアンに会いにいかねーの?」

 

ブラッド区画の共有リビング。

ロミオは炭酸飲料を飲みながら目の前のソファに寝転がるギルバートにそう投げかけた。

 

「誰が行くかよ、あんな空気の悪い所」

「でもシアンはあそこにいるんだぜ?ジュリウスも何日か入れられたしさー。それに心配にならねえのかよ?」

「…別に」

「うっわ、最低だなお前」

「あいつの自業自得だろ」

「そりゃそうかもしれないけどさぁ…」

「命令違反以前に、神機兵に乗ること自体危険だったんだぞ。命があっただけマシだ。そんな自分の身も顧みないような奴を心配してやるほど俺は優しくねえ」

 

出て来たらまず説教だ…ギルバートはそう言って帽子のつばを下げた。

そうは言うけど、とナナがつっこむ。

 

「撤退した直後は心配そうな顔してロビーをウロウロして落ち着きなかったくせに〜」

「うるせぇ」

「もしかしてギル、シアンの事好きなんじゃ…」

「えっ、まじで」

「んなわけねぇだろ…アホか」

「だって、ギルが一番シアンと一緒にいるもん」

「だからってそういう結論に至る意味が分からねぇよ」

 

ギルバートは億劫そうに身体を起こすと、ゆっくりと立ち上がった。

 

「まったく、お前らといると静かに昼寝も出来ねぇ…」

 

そう言うとギルバートはブラッド区画を出た。向かう先は庭園だ。

あそこならうるさい奴は滅多に来ない。

 

庭園に行くと、樹の下にまた見知った顔を見つけた。

まぁいいか、とギルバートは構わずそこに近づき、彼の横に少し間をあけて寝転がった。

 

「…ギルか」

「よう」

 

ジュリウスだ。

つい昨日、懲罰房から出てきたらしい。

 

「…あまり機嫌がよくなさそうだな」

「だったら構わないでくれ。さっきもナナとロミオに散々昼寝を邪魔されたんだ」

「ここにはよく来るらしいな。シアンから聞いた」

「…俺の話を聞いてたか、隊長」

 

コイツも俺の昼寝の邪魔をするのか。お喋りな奴が多い部隊だ…とギルバートは心の中で吐き捨てた。

ただひとつ、気になるワードがあった。

 

「…シアンから聞いただと?」

「ああ。懲罰房の中というのもなかなか退屈でな…シアンとあんなに長話をしたのは初めてだった。他にもいろいろ聞いた…好きなものの話や極東での話、あいつの昔話も」

「…で?」

「あいつには兄がいたらしい。生きていればギルと同い年の」

「兄?へェ…」

「何かと自分を気にかけてくるから、お前が兄と重なることがあるそうだ」

 

ギルバートは冗談じゃない、と思った。シアンの兄だと?

 

「…俺はお前が羨ましいよ、ギル」

「なんで」

「積極的に近づこうとしなければ距離を縮められない俺と違って、ギルは気付いたら当たり前の様に彼女の横にいるからな。羨ましいし、正直言って妬ましくもある」

 

なんだそれは。その言い方はまるで…。

 

「…まさか隊長」

 

ギルバートは思わず身を起こしジュリウスを見た。

ジュリウスは眉根を寄せて困った様に微笑んでいる。

 

「…難しいものだな、こういうのは。俺もそれなりに対人経験はあると思うのだが」

「マジか…」

 

先ほどロミオが放った言葉を、今度はギルバート自身が発する事になった。

確かにシアンは普段の人柄はとても良いし、容姿もそれほど悪くない。可愛いと言っても差し支えないレベルだろう。惹かれるのも理解できる。

だが、対人経験と恋愛経験は、同じようで別物な気がする。

前に属していた支部で同じ部隊にいた彼ならば、それなりに的確なアドバイスが出来そう…かとも思ったが、そういえば彼は女好きだった。

ギルバートは再び寝転がった。

 

「…俺は邪魔する気はねぇよ」

「てっきりギルはシアンに気があるものだと思っていたんだが、違うのか?」

「はぁ!?」

 

ギルバートはまた身を起こすことになった。

ナナといい隊長といい、なぜそんな見当違いな結論に至るのか。

 

「俺があいつにっ、んなわけ…」

 

しかしその思考とは逆に、ギルバートの言葉は動揺に溢れていた。

 

「落ち着け、ギル」

「俺は元から落ち着いてっ…!」

「その状態を落ち着いているとは言わないぞ」

「……」

 

ギルバートはこうなったらヤケだ、とふて寝を決め込んだ。

こうなったのは全部、シアンのせいだ。

 

何も考えるな、と自身に言い聞かせるが、立て続けに同じ指摘をされては流石に意識せざるを得なかった。

 

(兄のよう、か…)

 

少なくとも異性としては見られていないのだろう。

嬉しいやら悲しいやら。

 

(いや、俺も似たようなものか)

 

シアンと自分の恩師はよく似ている。

ギルバートはかつての恩師を思い浮かべた。

だがその度に罪悪感と悲しみと悔しさがこみ上げてギルバートを苦しめる。

 

(ケイトさん…)

 

この件に関して考えるのはやめよう、とギルバートは今度こそ眠りについた。




正直逆ハーじみてきた。
そんなに恋愛要素入れるつもりありませんでしたが。

シアンが開放されるのは次話…かな?
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