無色の世界   作:Hiramii

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神河シアン(18)
出生:4月10日
身長:165cm

第三サテライト拠点出身。


第二話 転機

翌日の朝はすこぶる穏やかだった。

今まで朝と夜はアラガミへの警戒をいっそう強める時間帯で、のんびりしている暇などなかったからだ。

 

アラガミのことを気にせずに眠ったのも初めてのことだった。

 

配給でもらったパンを食べるだけで朝食を済ませた私は、ふとあることに気づいた。

 

 

 

『…することが何もないな』

 

 

 

それはそうだ。

荷物は緊急時のために常備していたリュックの中身だけだし、

与えられたばかりの部屋は掃除するほど汚いわけでもない。

とりあえず拠点内の施設を一通り見て回る事にした。

 

施設といっても、主だったものは診療所とサテライト拠点へ出入りするゲート、それからゲート前の広場と緊急時のシェルターくらいなものだった。

 

広場の隅のベンチに座って朝から元気に走り回る子供達を眺めていると、声をかけられた。

 

「おはようさん。よく眠れたか?」

 

雨宮リンドウだ。

 

『……ええ、まぁ』

「そうか、そりゃあよかった。助けた甲斐がある」

『…お礼は言いませんよ』

「そういう意味で言ったんじゃねぇよ。本心だ。…隣、いいか?」

『どーぞ』

 

よっこらせ、といかにもおじさんくさい座り方をするリンドウ。

 

『…おっさんくさいなぁ』

「オジさんだからな。もう29だ」

『…で?』

「ん?」

『何か用があってきたんじゃないんですか?』

 

私がそう言うと、リンドウはあー、とかうー、とか唸り始めた。

どう話を切り出すか悩んでる様子だった。

そして、

 

 

「…神機使いにならないか?シアン」

 

と、単刀直入に言われた。

 

『ならない、と昨日お伝えしたはずですが』

「いやー、そうなんだけどな。実を言うと神機使いってのはどこもかしこも人手不足なんだ。この近くにある極東支部はありとあらゆるアラガミがいるから特にな。オレの見立てではお前さんは結構良い線イケると思う」

『そんなのどうでもいいですし』

「…オレたちクレイドルも結構ギリギリの人数で運営してるんだ。1人も欠けられねぇ」

 

リンドウはそこで一度言葉を区切った。

 

「お前さんたちは神機無しでアラガミの脅威と戦ってきたワケだが…お前さんに至っては仲間を逃がすために1人、囮まで引き受けた。分かってるとは思うが危険極まりない行為だ。

でも神機が使えたら、ヤツらを倒す事が出来る。逃げるんじゃなくて戦える。そしたらもっといろんなものが守れるとは思わないか?」

 

リンドウの言っていることは理解出来る。

しかし戦って死んだのでは元も子もないのではないか。

そう伝えるとリンドウは首を横に振った。

 

「だから"死なない"のさ。守ることってのは死なないことだ。

守る立場の自分が居なくなったら、誰が守りたい誰かを守るんだ?

オレは最初こそ義務だったから神機使いになりはしたが、今は違う。守りたいものがあるから神機使いをやってる。"死なない程度"に戦ってる。

オレはな、新人の神機使いと任務に出るとき、最初に必ず教えることが3つあるんだ」

 

 

 

死ぬな。

死にそうになったら逃げろ。

そんで隠れろ。

隙があったらぶっ殺せ。

 

 

 

『…それじゃあ4つですよ』

 

苦笑しながらそう言えば、リンドウは私の頭を撫でた。

 

『な、何を…』

「やっと笑ったか。お前さんずっと険しい顔してたぞ?」

『…余計なお世話です』

「笑ったら結構かわいいな。笑ってた方がいいぞ、きっとモテる」

『だから余計なお世話ですっ』

「おう、その調子だ。せっかく助かった命だ、元気にいこうぜ。

ああそうだ、"生きることから逃げるな"ってのもあったな」

『…その調子で10個くらいに増えそうですね』

「ははは、そうかもしれないなぁ」

『…はぁ………』

 

何なんだこの人は。

昨日に引き続き何だかこの人のペースに巻き込まれている。

 

『…とにかく神機使いになんかなりませんから、お引き取りください』

「まぁ、そう直ぐに決意がかわるとは思ってないさ。でも少しは考えてくれると嬉しい。何ならお前さんが折れるまで勧誘続けるぞ?」

『超絶迷惑』

「ははは…さてと、そろそろ拠点周辺の見回りに行かなきゃな。んじゃ、またな」

 

リンドウはそう言ってゲートの方へ去っていった。

 

神機使いにはならない。

その意思はハッキリしているけど、頭の隅では神機使いになってもいいかもな、なんて考えている自分が嫌になった。

あの男には今後近づかないようにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

それから1週間、私はリンドウを避け続けた。

 

しかしどこからともなく不意に現れて、「神機使いになれよ」と勧誘してくる。

流石に腹立たしくなってきて、エイダに不満をぶちまけた。

 

『なんなのあいつ!!!?本当にしつこいんだけど!!』

「あはは、随分気に入られたねぇ」

『もう、他人事だと思って…!!』

「他の神機使い達が話してたけど、あの雨宮って奴は最前線の極東支部じゃ有名人らしいね。なんでも普通はベテラン4人がかりでも倒すのがやっとな、山ほどもある巨大なアラガミをたった1人で倒したって伝説があるらしい」

『山!?』

「極東支部の中でも特にズバ抜けた実力者で、あいつを慕う神機使いも多いみたいだよ。しかも妻子持ち」

 

狙ってたのにな〜なんて軽口を叩くエイダ。

 

『…情報が早いねエイダ…』

「そりゃあそうさ、あたしらに関わる話だからね。アンタは凄い人に口説かれてるって事さ」

 

まぁアンタにその気がないならそれでいいさ、とエイダは配給の紅茶を啜った。

 

「にしても熱心だねぇ。アンタのどこが気に入ったんだか」

『私がいちばん知りたい……』

「実は結構考えてたりするんじゃないの?」

『まさか』

 

その時だった。

耳を劈くようなサイレンが鳴り響く。

 

『なに!?』

 

部屋の扉がバン、と開いて、クレイドルの隊員が駆け込んでくる。

 

「アラガミの襲撃だ!シェルターへ急げ!!」

 

案内されてシェルターへ入ると、大勢の人で溢れかえっていた。

不安と恐怖で泣いている子供もいる。

 

「皆さんは警報が解除されるまでここから出ないで!我々が必ず皆さんを守ります!!」

 

直後、シェルターの護衛にあたっていた神機使いが耳に当てていた無線機に手を当てる。

チッ、と舌打ちをすると仲間と連れ立ってサテライト拠点の外へ走っていった。

 

「状況は悪いみたいだな…」

 

ハルトが眉間にしわを寄せた。

 

「本当に大丈夫なんだろうな…!!」

 

銃声とともに時折アラガミの咆哮が聞こえてくる。

いつまでも収まらないその音に、自分は苛立ちを募らせていた。

 

 

理由は簡単。

"何もできない"からだ。

 

 

かつては自ら囮となって仲間を助け、守ってきた。

けど今は自分も守られる側。

それが違和感となって押し寄せ、力のない自分が腹立たしくあった。

 

万一のためにと渡された閃光弾(スタングレネード)を見やる。

昨日、リンドウにほぼ無理矢理に渡されたものだ。

 

《全員シェルターから離れろ!!アラガミが一体そっちに向かってる!!》

 

戦いに出ていたリンドウの声がシェルター内に響いた。

 

《みんなを守れ、シアン!!お前ならやれる!!》

『!!?』

「裏口からシェルターを出るんだ!!」

 

誰かが叫んだのを皮切りに、一斉に出口に駆け出す。

 

 

 

【いいから一つくらい持っとけ。万一ってのはいつ起こるかわからないからな】

 

 

 

まさか今日のことを見越していたとでもいうのか。

 

「おいシアン!!」

 

ハルトの声がしてはっ、として前方を見る。

すぐそこに、虎のような大きなアラガミが迫っていた。

私がみんなを守らなければ。

今までそうしてきたのだ。

 

『私が囮になる!あんたたちはみんなと逃げて!!』

「馬鹿言うな、今までの小型と比べものにならねぇぞ!!?まさかさっきの真に受けてねぇよな!?」

『いいから!!』

「っ!…くそっ、死ぬなよ!!?」

 

閃光弾を投げてアラガミの目をくらますと、背後に回り込んで足元に転がっていたボールをアラガミにぶつけた。

 

『ほらこっちだバケモノ!!』

 

咆哮をあげて突進してくるアラガミを避けて、みんなが逃げた方とは逆へ走った。

外に向かえば神機使い達がいるはずだ。

そこまで何とか誘導することができれば…!

 

シェルターから出ると、遠くにリンドウが見えた。

 

 

『雨宮さん!!!』

「こっちだ!!!走れ!!」

 

 

背後からの攻撃に気を付けながら思いっきり全速力で駆ける。

向こうもこちらへ駆けてくる。

 

 

 

不意にバランスを崩して、転倒しそうになった。

何とか堪えて、両手を地につけそのままの勢いで回転する。

頭が地面まで来た時に見えたのは、まばゆい閃光。

 

 

『!!』

 

 

全身に強い電流と痛みが走った。

そのまま吹き飛ばされて家屋の壁に激突する。

 

 

「シアン!!……てめぇよくも…!」

 

 

視界が霞み薄れていく意識の中見たのは、アラガミに対峙するリンドウの後ろ姿だった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

リンドウside

 

シアンが目覚めたのはあれから2週間後だった。

目を開けてから暫くボーッとしていたが、こちらに気付くと起き上がろうとした。

 

『いっ……!!?』

「まだ起きるな。…まったく本当にしぶといんだなぁお前、常人がヴァジュラの攻撃くらって打撲で済んでるなんて聞いたことねぇよ」

『リンドウ…さん』

「まぁ、無事で何よりだ…よくやってくれた。お前さんのおかげで住民達の死人はゼロ、けが人はお前一人だ」

 

ありがとな、と頭を撫でてやると、シアンは気持ちよさそうに目を細めた。

 

『…何で、あの時私を呼んだんですか』

「ああ、悪い。シェルターの護衛まで外に出てたんで、どうするか悩んでたらお前さんに閃光弾渡したの思い出してなぁ。

お前ら以外の住民達はそういうのは不得手だから、経験積んでるお前さんが妥当だと思ったんだ」

『…そう、ですか』

「な?万一ってのはいつ起こるかわからないって言ったろう」

『…分かってたんですか、襲撃があるの』

「まさか。気付いてたらその前に討伐しに行ってる。で、オレのやった閃光弾は役に立ったか?」

『…はい。あの…』

「ん?」

 

シアンが言いにくそうに口ごもる。

そして意を決したように口を開いた。

 

『……シェルターにいた時、何も出来ない自分にイライラしてました。今まで私は守る側だったから、違和感があって。

でも、リンドウさんの呼びかけがあった時に"これこそが自分の役割だ"って思って…自分にもやれる事があるって分かって…それまでのイライラがすっかり無くなってて。…その……』

 

 

オレは黙って次の言葉を待った。

 

 

『……なります、神機使い(ゴッドイーター)に。やってみます』

「ん、そうか。歓迎するぜ。

でも、そのつもりならもっと周りをよく見ろ、と忠告しとくぞ。

今回は命があったけどな、次もそうとは限らない。特に撤退や後退する時はより周りに注意しろ。

あと真っ直ぐ走りすぎだ。ちゃんと隠れるとか路地を利用するとか…もっとかく乱させてだな」

「おいリンドウ、怪我人になに説教してんだ。やれって指示したのはアンタだろう」

「ソーマ、お前いつの間にいたんだ」

「さっきからそこで待機してた。自分で呼んだのも忘れたか」

「あー…そうだったそうだった。悪い」

「…フン。おいお前、神機使いになるならせいぜい死なねえようにするこったな」

 

話が終わってから呼べ、と言い残して、ソーマは診療所を出てった。

 

「さてと…お前さんが本当に神機使いになる気なら動かねぇとなぁ。

もう一度確認するぞ、本当にやるんだな?一度神機使いになったら、腕輪は死ぬまで一生外せねえぞ」

『はい、やります』

「ん、了解。そうだ、あと1週間は安静にしてろよ。痛みも引くはずだ…って医療班が言ってたぞ、んじゃな」

 

もう一度シアンの頭を撫でると、オレも診療所をあとにした。

 

 

診療所を出ると、すぐそこにソーマが待っていた。

 

「先に行ってるんじゃなかったのか?」

「…ずいぶんご執心のようだな」

「お前もそれなりに気にしてるクセに」

「ユウはユウ、あいつはあいつだ。神機使いになった途端根を上げるかもしれん」

「いーや、あいつはやってくれるね。オレは信じてる」

「…勝手にしろ。それより例の進捗は」

「ダメだ、目撃情報が全くねぇ。痕跡の一つや二つ残してくれれば探しやすいんだが…」

「…また遠征か」

「そうなるな、悪いけどまた暫く頼むわ。コウタにもよろしく言っといてくれ」

「分かった」

 




ここまでは思いついた設定とストーリー通り書けてる…と思う。
展開早すぎるかな?とも思いましたがここはメインではないのでまぁサクサクっと進めちゃいました。
次からやっとGE2の時間軸(になると思う)。

クレイドルの主人公は神薙ユウ。(公式キャラ、ほぼ出ない)
そして断じてリンドウ落ちではない。
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