しばらくの間極東支部で過ごすため、フライアから少し荷物を移動させるために任務前にブラッドに用意された部屋のある区画へ行った。
「…やっぱりアナグラはいいなぁ…」
「シアン、ほんとに嬉しそうだね」
「こっちの方が私には馴染めるんだよね〜、この空気感」
「フライアよりも人が多くて、賑やかですね」
「ホント、アナグラはいい所だよな。可愛い女の子も多いし…でもちょっと設備がボロい?さすが最前線って感じ…オレ、フライアで寝泊まりしようかなぁ」
「フライアが貴族趣味なだけだ、フツーはこんなもんだ」
「"フツー"?」
突然聞こえてきた声に振り向くと、そこに眼鏡をかけた短髪の女性が立っていた。
その女性はヒールをカツカツ鳴らしながらギルバートに詰め寄る。
「ここがフツーなら、この外で暮らしている人達はなんなんですかねー。外部居住区にすら住めない、サテライト拠点の人達がいる所はいったいなんだって言うんですかねー?」
「…なんなんだ、アンタ」
「高峰サツキ。フリーのジャーナリスト。…ふーん、あなた方は本部からの出向ですか」
それを聞いて少し厄介そうな顔をしたギルバート。
「気分を害したなら謝る。だが…ジャーナリストって人種はどうにも苦手でな。…あとは頼んだぞ、ロミオ」
「えっ?おい!?」
ギルバートは足早にエレベーターに消えた。
厄介事をぶん投げられたロミオは、ひとまず頭を下げた。
「…ごめんなさい」
「あら、意外と素直」
「…すみません、うちの隊の者が失礼を」
シアンも頭を下げる。
「あれ、もしかして噂のシアンさんってあなた?」
「?はい、そうですけど…噂?」
「サテライト拠点から来て、アナグラでオペレーターやってたって本当?」
「はい、ほんのひと月ほどですが」
「私ったら、そんな人の前で大人気ないことしちゃったわね、あなたは本部で頑張ってるのに。私、主にサテライト拠点の記事を組んでるんですよ。あなたが以前アナグラにいた時は、私は違う現場にいて取材出来なかったから、今度ゆっくりお話聞かせてくださいね」
「え、ええ…」
シアンはサツキに名刺を渡された。
「フリージャーナリスト
マネージャー
高峰サツキ」
と名刺には書かれていた。
(…マネージャー?)
その時サツキの後ろの扉が開く。
「ごめんサツキ、待たせちゃった。…あら?」
そこにいたのは、前にフライアで見かけた…。
「ユノだ!!?」
ロミオが叫んだ。
「あなた達、フライアにいた…」
「ユノ、この人たち知り合い?」
「ううん、フライアで少しすれ違っただけなの。話したわけじゃなくて…」
「もしかしてサツキさん、ユノさんのマネージャーを?」
「ええ、フリージャーナリスト兼ユノのマネージャー。2人でサテライト拠点を回ったり、本部に出向いて色々お話とかしてるんですよ」
ね、ユノ、とサツキはユノに顔を向ける。
「フライアではお話出来なかったから…改めて自己紹介させてね。私は葦原ユノ、歌手活動をしています」
「はいはいはーい!よーく存じ上げてます!オレ、ロミオっていいます!あなたの歌がほんっと好きで…」
ロミオは距離を詰めユノの手を取った。
すかさずサツキが間に入る。
「はいはい、そういうのはマネージャーを通してくださいねー」
「ないわ…」
「ロミオ先輩、流石にそれはないよ…」
「ドン引きしました」
「ちょっ、三人揃ってそんな目するなよ!!」
ブラッド女子3名からの冷たい視線にうろたえるロミオ。
「お、お前らがユノの良さをわかってないからだよ」
「絶対ロミオ先輩が前のめりすぎるだけだよ」
「私も流石にそこまでならないかな…」
2度否定されて落ち込むロミオ。
「さて、ロミオは放っとくとして…私はブラッド隊副隊長のシアンです。こっちがナナとシエル」
「よろしくねー!」
「よろしくお願いします、ユノさん」
「うん、よろしく」
「そういえば同年代と話をするの、久しぶりかもね。ずーっとフェンリルの偉いおじさん達ばっかりと話してたから」
「そういうことならオレ達が友達になりまっす!ね!ユノさん!」
「復活早っ」
「あ、コウタくんに呼ばれてるんだった。ごめんユノ、やっぱり後で迎えに来るから」
サツキは去り際、シアンにそっと耳打ちした。
「ユノ、同年代の友達がいなくて…よかったら仲良くしてあげてくださいね。あと、あのロミオって子、ちゃんと抑えておいてくださいねー」
シアンは静かに頷いた。