無色の世界   作:Hiramii

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遅くなりましたー!!


二十一話 言葉の裏側

真壁隊長と再会してからというもの、ギルさんの調子は微妙に悪いままだった。

特に任務に支障をきたしているわけではないけど、うたた寝が多いし、やっぱり夜は眠れていないらしい。

おまけに、私への小言がいつにも増して増えた。

 

"無闇に前に出るな"

"オレの後ろにいろ"

"三度目は許さねえ"

 

「ほんっっとに多いんですよ最近…!!」

「…なにかしたんじゃないのか?」

「何もしてませんよ、だから困ってるんです!おかげで連携も崩れがちで…」

 

ブラッドの共有ルームにて、私はテーブルの向かい側のジュリウスに愚痴って…もとい、相談していた。

 

「逆にそっちの方が危ないのに…」

「…それはそうだな」

「私だって気をつけてるんですよ?2度も迷惑かけたことくらい気にしてるんですから…」

「むしろ気にしていなければオレがお前に説教する所だな」

「う"っ…」

「しかし、お前をそれほど気にかけるようになった出来事があったのは事実だろうな」

「そう思って話を聞こうとしても、何も話してくれないんですよギルさん。私もうどうしたらいいかわかんなくて…」

 

はぁ〜…とため息をつく私を見て、隊長がふっと微かに笑った。

 

「…何がおかしいんですか」

「すまない。まさかお前から相談、もとい愚痴られる日が来ようとは思っていなかったものでな」

 

オレも出世したものだ、と言うと隊長はコーヒーを啜った。

 

「ぐ、愚痴のつもりは…」

「手遅れになっては困る。オレも気にかけてみよう」

「…お願いします」

 

 

 

 

「…で、あんたが来たのか」

「シアンは相当お前を心配しているぞ。あいつに話せなくても俺には話せる事もあるかもしれない。…こういうのはオレは不得手だから、力になってやれるかわからんが」

 

夜のラウンジ、ギルバートとジュリウスは窓側の席に並んで酒を片手に話していた。

 

「悩んでいると言った覚えはない…余計なお世話だ」

「だが連携が崩れるのは良くないな、ギル。危険性は分かっているはずだ」

「…ちっ」

「ようやくブラッドにまとまりが見え始めたんだ…お前からも、もう少しみんなに歩み寄ってほしい」

「…考えとく」

 

ギルバートはグラスに残っていた酒を飲み干すと、ラウンジから立ち去った。

 

「…厄介そうだな」

 

ジュリウスの手に持つグラスがカラン…と音を立てた。

 

 

数日後…

 

「第一部隊が!?」

「はい、エリナさんとエミールさんはどうにか脱出出来たのですが、コウタ隊長はまだエイジスに…」

「わかりました、すぐ助けに行きます」

 

そうヒバリさんに答えると、私はギルさん、ナナ、ロミオを連れてエイジスに向かった。

 

エイジス…かつて全世界の人々が入るほどの巨大なシェルターになるはずだったもの。

謎の崩落事故により建設は中止、事実上凍結された。

今は極東支部の管理の下、時々アラガミの研究にも使われるらしい。

どういう訳かエイジスにはアラガミが集まりやすく、その掃討を定期的に行っているようだけど、今回第一部隊は運悪く、他に類を見ない強敵に出くわしたということだった。

エリナから聞いた話では、そのアラガミは大型で、背中に神機が刺さっていたという。

 

「背中に神機の刺さったアラガミかぁ…誰かが倒しそこねちゃったって事だよね…」

 

輸送機の中、ナナは暗い顔を覗かせた。

 

「コウタさん大丈夫かな…」

「コウタならきっと大丈夫。だから、私たちはどんなアラガミでも対応出来るように集中しよう」

「…うん。集中集中…」

「ギルさんもね。さっきから何をイラついてるんですか」

 

私の横に座るギルさんはさっきからずっと貧乏ゆすりをして落ち着きがない。

 

「少し、心当たりがあってな…」

「ギルさん、何か知ってるんですか?」

「…いや、本当にそうだとも限らねえ。悪い、忘れてくれ」

「や、やめろよギル…余計に不安になるだろ」

 

ロミオが身震いした。

 

そうこうしているうちにエイジスに到着した私達は、集まってきたアラガミを倒しつつコウタと合流した。

身体中傷だらけではあるけど、命に別状があるわけではなさそうだった。

ようやく最後の一体を倒し、迎えを待つ間にコウタから話を聞いた。

 

「コウタ、例の襲ってきたアラガミは…?」

「ああ、エリナたちを逃がした後にどっかいっちゃったよ。それにしても、ずいぶん珍しいアラガミだったなぁ」

「珍しい?」

「ああ、神機が刺さってるだけでも充分衝撃だったんだけどさ、赤かったんだ。あのカリギュラ…赤い雨の影響かもな」

「赤い、カリギュラ…」

 

小声で聞き取りにくかったけれど、そう小さく呟いたギルさんの表情は強ばっていた。

 

無事にコウタを助け出してアナグラに帰還した私は、医務室で看護士のヤエさんと一緒にコウタの傷の手当をしていた。

 

「シアンまでやらなくても…別に大怪我じゃないし…」

「出来ることはしたいから。怪我人は大人しくしててください」

「…手当してくれるのは嬉しいけど…恥ずかしいんだよな…」

 

と、そこへ真壁隊長が来た。

 

「よおコウタ。見舞いに来てやったぞー」

「あ、ハルさん」

「なんだよ、可愛い女子2人から手当てしてもらってんのか。羨ましいぜ」

「…真壁隊長、喋りに来ただけなら退出してもらえますか」

 

私がジト目で真壁隊長を見ながらそう言うと、真壁隊長は「またまた」と肩を竦めた。

 

「相変わらずシアンちゃんは冷たいねぇ…エイジスに現れたっていう強力なアラガミに興味があって、話を聞きに来たんだよ」

「赤いカリギュラのこと?すぐ逃げちゃったし、逃げた方向なんて知りませんよ」

「赤いカリギュラ?…背中に神機が刺さった?」

「そうっすよ」

 

さっきまで飄々としていた真壁隊長の表情が変わった。

 

(…そういえば真壁隊長とギルさんは昔、同じ支部に所属していたんだっけ)

「真壁隊長、もしかして心当たりがあるんですか?」

「…ん、んー…ないと言えばないし、あると言えば、ある」

「どっちなんですか。ギルさんといい真壁隊長といい、何かあるんならハッキリ言ってくださいよ」

 

眉間に皺を寄せイラつきを隠そうともしない私に、真壁隊長は少し考える素振りを見せて、言った。

 

「…シアンちゃん、あとで少し付き合ってくれるか?ラウンジで待ってるわ」

「…分かりました」

 

コウタの手当てを終えてラウンジへ向かうと、窓側の席で真壁隊長が待っていた。

真壁隊長は「よう」と手を挙げて挨拶してくるけど、やはりどこか違和感があった。

 

「お待たせしました」

「ん。まぁとりあえず座れよ」

「失礼します」

 

私が真壁隊長の隣の席に腰を落ち着けると、真壁隊長はゆっくりと深呼吸した。

 

「…ギルとは、うまくやれてんのか?」

「まぁまぁ、ってところですね。私が前に出ると小言を言われたりしますけど。…特にこっちに来てからは酷いです。おかげで連携も崩れがちで、絶賛頭を悩ませ中です」

「ははは…そうか。あいつが小言をねぇ…」

「…私もこっちに来る前に何度かブラッドのみんなに心配と迷惑をかけてるので、あまり強くも言えないんですけど…」

「ギルから聞いたぜ。赤い雨の中、ポンコツ神機兵に乗って仲間を助けに行ったんだって?」

「…ぁ…はい……」

 

真壁隊長は面白そうに言うけど、私にしてみればただただ恥ずかしい…。

 

「なんだってそんな無茶したんだ」

「…仲間のためです。バカだったって、自分でも思います。でも、あの時は出来るって思ってしまったので…その後、命令違反と危険行為でしばらく独居房に入ってました…」

「いやぁ流石だとオレは思うね。上司に反発して命令無視して危険な状況下で仲間を助ける…ロマンがあるじゃないか。気に入ったよ」

「…ギルさんには叱られましたけどね…"万が一があった場合、残された方は死んだやつのことを一生背負って生きていくんだ"って」

 

その時のギルさんからはすごく厳しい目を向けられたし、同時にかなり心配をかけたのがよく伝わってきた。

ギルさんだけでなく、ブラッド全員に心配と迷惑をかけた。

だからこそ、それからはそういう無茶は控えなければと自分でも注意しているのだけど…。

 

「…急に小言が酷くなるんですもん、連携が崩れるからって反論しても直らないし、何かあったのかって事情を聞こうとしても何も教えてくれないし…どうすればいいのか」

「…やっぱりあいつ、お前らに自分のことを話したりはしてないんだな」

「はい。…真壁隊長、教えてくれませんか?ギルさんの事」

「…ああ。…3年前の事だ…」

 

かつてギルバートとハルオミが所属していたグラスゴー支部は、極東支部に比べてアラガミの被害が少ない地域だった。

グラスゴー支部の神機使いはギルバートとハルオミともう1人だけだったが、それでも何とか捌けていた。

 

「そのもう1人が、オレ達のチームの隊長を務めていた。名前はケイト、ケイト・ロウリー。…ま、オレの嫁だったんだけどね。…その日もいつも通り、なんの問題もない任務になるはずだったんだ…」

 

3人は二手に分かれてアラガミの掃討にあたっていた。

単独で戦闘していたハルオミの耳に、通信機からギルバートの悲鳴が聞こえたのが始まりだった。

 

2人で戦闘していたギルバートとケイトの下に、その地域では見かけたことのない、強力なアラガミが現れたのだ。

尋常ではない様子を察知したハルオミはなるだけ急いで2人のもとへ急行した。

 

「…悪い!ここからけっこう重い話になるんだが…それでも聞くか?」

「……はい、聞きます」

「…ふー…OK…。簡潔に言うとギルは…その任務で、ケイトを"手にかける"羽目になっちまったんだ」

「手に、かける……」

 

私は何となく察した。

この極東支部では有名な、伝説とも呼ばれるとある話が頭の中をよぎった。

 

「2人は目の前に現れた現れた強力なアラガミ…赤いカリギュラに必死に抗戦した。けどその最中にケイトの神機と腕輪が壊れて…その後もケイトは最後の力を振り絞って神機をヤツに突き刺したけど、倒すことは叶わなかった…」

 

神機使いの腕輪は、神機使いにとって大切な命綱。

それが壊れるという事は、その神機使いの命が危ういことを示していた。

 

「…腕輪が壊れると、偏食因子の制御が利かなくなる話は知ってるよな?その結果アラガミ化が進行した隊員の"処理方法"…お前も1度は聞いたんじゃないか」

「…副隊長に就任した時に、隊長から聞きました。隊員に万が一があった場合、完全にアラガミ化が進行する前に、その時のチームリーダーが…」

 

その先は、言うことが出来なかった。

こんな万が一なんて、考えたくない。

 

「ギルは、アラガミ化が進行しているケイトを…殺したんだ」

 

真壁隊長はゆっくりと、確かにそう言った。

 

「オレが到着した時には既にケイトの姿はどこにもなかった。…ケイトが着ていた服だけが、ギルの槍で岩肌に縫い止められていて…ギルはケイトの腕輪を大事そうに抱えて…ずっと、泣いていたんだ」

 

真壁隊長の話を聞いた今なら、ギルさんの今までの発言や行動の一つ一つに納得がいく。

ただうるさいと思っていた小言も、あの厳しい目も、全ては過去の悲劇を二度と味わいたくないからに他ならない。

 

「誰の目にも明らかだった…他に方法はなかった。もちろん軍法上も無罪だった。…けど、騒ぎ立てるやつもいてな。それからあいつには"上官殺しのギル"、フラッギング・ギルって呼び名がついてまわるようになった。誰もあいつを責めることなんて、出来やしないのにな…」

「上官殺し…あ」

 

フライアでほかの神機使いたちが陰で言っていたあれはこのことだったんだ。

それでギルは周りから距離を置いていたのだろうか。

 

「湿っぽい話になっちまったな。聞いてくれてありがとな」

「…いえ、聞いたのは私ですから。すみません、こんな話、するのも辛いはずなのに」

「いいんだ。お前さんには知る権利があったし、オレも話すべきだと思った。…きっとギルは、お前さんのその真っ直ぐな瞳を見ると、ケイトの事を思い出しちまうんだろうな…」

 

真壁隊長はそう言いながら私の頬にそっと触れ、親指で目元をなぞった。

 

「…真壁隊長もですか?」

「まぁ、ないとは言えねえな」

 

真壁隊長は苦笑気味にそう答えた。

 

「そこで、だ…。シアン、頼みがある」

「はい」

「きっとギルは敵討ちに乗り出すはずだ。…それに協力してくれ」

「…止めなくていいんですか?」

「止めたってきっとあいつは聞かねえよ。それに、俺も敵討ちをずっと考えてたんだ」

「…私が止めても、1対2で負けちゃいますね。わかりました、お付き合いします」

 

その時、自分にヒバリさんから無線が入った。

 

「どうしました?」

〔シアンさん、ギルさんを止めてください!1人でアラガミの討伐に行こうとしていて…〕

「わかりました、時間稼ぎをお願いします。すぐ行くので」

 

ふう…、と息を吐く。

 

「…まったく、なんでウチの部隊員ってこんなに手を焼くんだろう」




頑張ってまとめたつもりです…!
ギルバート編、後半頑張ります。
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