神河シアン(18)
2074年フェンリル極東支部入隊。
出生:4月10日 身長:165cm
サテライト拠点初めてのゴッドイーター候補者。
フェンリルに対して不信感を持っているが、クレイドルとの関係は比較的良好なため、今後のサテライト拠点の住民達との連携にあたり重要な役割を果たしてくれるものと思われる。
神機使いになると決めてから1週間。
その決意を仲間に伝えると、皆一様に反対した。
なぜなんだ、と。
勿論ハルトも例外ではなく。
「あいつになに吹き込まれた?それともやっぱり強制的に…」
『違うってば。本当に自分で決意したの。あの時私は何もせずにいられなかったし、何も出来ないのが嫌だと思った。だから…』
「死ぬかもしれないんだぞ!?せっかく逃げ回ったり囮になったりする必要が無くなったのに!お前はまた自分の命を…」
「やめなハルト。シアンが一度言ったら聞かないのはお前も知ってるだろ?」
ハルトを制するエイダ。
「でもよ」
「…私は、なんとなくそんな気がしてたんだ。シアンはこんなところでただ黙って守られてる様なコじゃない」
「だって、神機使いになるってことはフェンリルのイヌになるってことだぞ!?」
それでいいのか!?とハルトは詰め寄る。
『もし私が望むなら、新人訓練が終わって現場に出られる様になったら、クレイドルの所属にしてもらうことも出来るってさ。そしたらまた会えるよ』
「そういう事じゃなくてだな…!」
『怯えるだけより守りたいんだ。…お願い、分かって』
「…"希望の団"はどうすんだよ」
『どうしたい?私は解散でも構わないけど。もっとも、クレイドルの人達にお世話になってるから、今残ってるのは殆ど形だけだけどね』
「解散ってお前…」
「諦めなハルト。もう変わりゃしないさ」
「…俺は……」
まだ何か言いたげだったが、それは他の人によって遮られた。
アリサさんだ。
「シアンさん、今極東支部から例の件について返答がありました。来週には極東支部へ入隊することになります。よろしいですか?」
『はい、大丈夫です』
「…ありがとうございます。サテライト拠点から神機使いが出た前例は無かったので…ご協力、感謝します。あと、ごめんなさい。リンドウさんの勧誘がしつこかったらしいですね…」
『あ〜…いいんです、別に。多分勧誘されてなくても、神機使いになるっていずれは決めたと思いますし』
「シアンさん、本当に優しいですね。ユウみたい」
『ユウ?』
「あ、ごめんなさい急に!私の仲間の事です。今は遠征に行ってていないんですけど…アナグラの第一部隊の前隊長で、私も同じ部隊にいたんです。…とても頼りになる人で、私が落ち込んでる時も一緒にいて、励ましてくれて……」
そう語るアリサさんの表情は終始笑顔だ。
これはもしや、とエイダと顔を見合わせる。
「へぇ〜…ずいぶん素敵な殿方なんだねぇ」
「え、あ、ち、違いますよ!!そんなんじゃ…」
「隠さなくたっていいじゃないか、ねぇシアン?」
『そうだね。早く会えるといいですねぇ、アリサさん』
「〜〜っ!からかわないでくださいよ、もうっ」
この1週間でアリサさんとはかなり打ち解けたが、目の前で繰り広げられる女子トークに、ハルトは終始ついていけなかった。
『そういえばリンドウさんは?全く見かけなくなりましたけど…』
「リンドウさんなら遠征に行きました。他の支部への応援です」
『…そうですか……。お礼、言おうと思ったんだけどな』
それを聞いたハルトが「はぁ!?お礼!!?」と叫ぶ。
「お前本当に頭大丈夫か!!?」
『だまらっしゃい』
ごんっ、とハルトの頭上に拳を落とした。
『あの人のおかげでこれからの私の生きる道筋が見えたの。お礼くらいして当然でしょ』
「…道筋ねぇ…具体的には?
『とにかく"死なない"こと』
「は?なにそれ」
『そのままだよ』
「いや意味わかんねえし」
やっぱお前アレで頭おかしくなっただろ、と再度言うハルトの頭に再び拳が振り下ろされたのは言うまでもない。
1週間後、シアンはアリサに連れられて極東支部ー通称"アナグラ"ーの支部長室にいた。
目の前には細い目に眼鏡をかけた白髪の老人が、支部長デスクの椅子に座っている。
「初めまして、私はここアナグラの支部長、ペイラー・榊だ。アリサくんから話は大方聞いてるよ。サテライト拠点から来たんだってね?
サテライト拠点の人々との協力も今後いっそう密に出来るだろうし、戦力の補充という二重の意味で、我々は歓迎するよ。ここは君の家だと思ってくれたまえ」
『ありがとうございます、サカキ支部長』
「さてと…本当はすぐにでも君に神機を渡したいところなんだけど、あいにく基準値以上の適合率を示す偏食因子が見つからなくってね。
それまでの間はオペレーターのヒバリくんについて、オペレーション業務を手伝ってもらうよ、いいかい?」
『はい、分かりました』
再びアリサさん立会いのもとヒバリさんと顔合わせをし、業務内容の説明を受けてオペレーション業務の初日を終えた頃には日付が変わろうとしていた。
『…げ、激務……』
「こら、まだ仕事が残ってますよ。だらけるにはまだ早い」
『は、はいっ。ヒバリ先輩!』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あら、こんなところに……」
黒い喪服のようなものを身に纏った金髪の女性は、画面を見て微笑んだ。
そこには"偏食因子ブラッド適合者"と"Cyan Kaminawa"の文字。
「ついこの間までなかった名前だわ…新しい入隊者かしら。所属は…極東支部になっているわね。サカキ支部長に掛け合ってもらいましょう。
…久々に家族が増えそうですよ、ジュリウス」
ジュリウスと呼ばれた青年はほんの少しだけ口角を上げると短く答えた。
「ええ、楽しみにしています…ラケル先生」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
極東支部に配属されてから丸1ヶ月が経とうとしていたが、未だに適合する偏食因子が見つかったという連絡はない。
おかげで簡単なミッションなら一人でもオペレーション出来るくらいになっていた。
『付近にアラガミの反応はありません。お疲れ様でした』
「ふふっ。…板についてきましたね、シアンさん」
『えっ、そうですか…?そんなこと無いですよ』
「謙遜しないで。着実に力はついてますから、これからもこの調子でお願いしますね」
『はい!』
元気よく答えてみたものの、自分としてはオペレーターよりもアラガミ討伐がしたいというのが本音だ。
これでは仲間達に示しがつかない上、自分のした決意や覚悟は無駄だったんじゃないかとさえ思ってしまう。
つい、聞いてしまった。
『…ヒバリ先輩は、オペレーションしているより現場で仲間を助けたい、って思ったことありますか?』
と。
「そうですね…。ない、と言えば嘘になりますけど、オペレーション業務も現場で戦う人たちを助けることに繋がっているのだという実感はあります。
現場では視覚や聴覚が情報源ですが、こうしてオペレーションしているとそれ以上の情報が入ってきます。
その一つ一つを見て情報を現場に伝えることは、その人の命を左右する事でもありますから、命の灯火をとても強く感じるんです。
だから、現場にいられないことに不満を感じたことはありません。
…強いていうなら、その人の命の灯火が尽きた時、でしょうか…私なんかに何が出来るわけじゃないけど、それでも…何かを変えられるのならそこにいたい、と思います。
そういえばシアンさんはサテライト拠点にいらしたんですよね。やっぱり現場に行きたいですか?」
『…正直………』
「そう思うのは悪いことじゃありません、胸を張ってください。きっとすぐ見つかりますよ」
ピピピ、とヒバリ先輩の端末に通信がはいる。
「はい、ヒバリです。…あ、サカキ博士?ええ、いますよ。わかりました、伝えます」
『…?』
「噂をすれば、ってやつです。偏食因子、見つかったそうですよ。ただ、ちょっと事情が複雑なようで…詳しい説明をするから支部長室にきて欲しい、との事です」
『…!はい!』
急いで支部長室に向かう。
コンコン、とドアをノックしてインターホン越しに声をかける。
『私です、神河シアンです』
「ああ待ってたよ、入りたまえ」
『失礼します』
扉を開ければ、そこには相変わらず目の細いサカキ支部長が鎮座していた。
「急に呼び立ててすまなかったね。
ヒバリくんからあらかた話は聞いたと思うが、君に適合する偏食因子がついに見つかったよ。まずはおめでとう」
『はい、ありがとうございます。あの、複雑な事情って…?』
「うん、その事なんだけどね。結果から言うとどうやら君は"第三世代"の神機の適合者だったんだよ」
『第三世代…?神機は第一世代と第二世代神機の二種では?』
「第三世代神機は、本部の研究機関が開発している神機のことでね。
知っているかい?"フェンリル極致化技術開発局"…通称フライアというんだが」
いいえ、と首を横に振った。
「そこでは従来の偏食因子…P53偏食因子というんだが、それではなくて、俗に"偏食因子ブラッド"と呼ばれるP66偏食因子による神機使いの養成が試験的に行われているんだよ。
その偏食因子と君との適合率が非常に高い数値を示した、と本部から連絡があってね。すぐにでもフライアへ転属して欲しいということなんだ」
『…つまり本部所属の神機使いになるということですか?』
「簡単に言えばそうなるね。…すまない、君がフェンリルを信用していないのは重々承知なのだが、いくら最前線でも支部の立場では権限に限界があってね…断ることが出来なかったよ。行ってくれるね?」
『……分かりました、行きましょう。納得はいきませんが…』
「ありがとう。恩にきるよ」
これが人生の転換点になるとは、この時の私は思いもしていなかった。
転属を了承してからは凄く早かった。
ほんの1ヶ月程しか過ごさなかった部屋を引き払い、ヒバリ先輩をはじめ関わった人たちへの挨拶もそこそこに、フライアに着いたのは3日後だった。
今は実験台の上に横たわっている。
天井には何やら私には理解できそうもない無機質な機械がぶら下がっていた。
壁際につくり付けられたスピーカーからは、偏食因子ブラッドを研究する第一人者、ラケル博士の声が聞こえる。
特殊部隊ブラッドの創設者だ。
「気を楽になさい…あなたはすでに選ばれて、ここにいるのです…。今から対アラガミ討伐部隊、ゴッドイーターの適合試験を行います。…試験といっても、不安に思う必要はありませんよ。あなたはそう…荒ぶる神に選ばれし者ですから…神の祝福があらんことを…」
サイドの台に乗せた右腕に黒い腕輪が装着される。
そして天井から機械が降りてきて、腕輪に接続した。
『……っ!!うわぁぁぁ!!』
痛みで腕がちぎれそうだった。
適合出来るまでは神機を手放すな、と言われていて手放せず、神機ごと床をのたうちまわる。
しばらくして漸く痛みが収まり、なんとか神機を支えに立ち上がることが出来た。
「おめでとう。これであなたはゴッドイーターになりました。
ゴッドイーターを超えた神を喰らう存在…ブラッド。あなたの活躍、期待していますよ」
無事に適合試験を通過したシアンは、休憩するならあそこがいいと職員から勧められた庭園に足を運んでいた。
現段階では、まだ正式なブラッドのメンバーではない。"候補生"だ。
なんでも、"血の力"に目覚めたとき初めて正式な隊員になるとかどうとか…。
研究者の話は長くて難しいから、詳しいことはあまり理解していない。
そもそもその辺の知識に関して、私はど素人だった。
エレベーターが庭園のある階層に着いた。
扉が開いた途端目に飛び込んできたのは、見たこともないカラフルな植物たちで彩られた景色だった。
『…わぁ……』
近くによれば、微かに甘い香りがする。
これが本物の"花"か。データベースにあった写真から察するに、これはシバザクラか。
確か極東がかつて日本と呼ばれていた頃には、日本全土に大きなサクラの木がどこにでもあって、春に満開の桜を楽しむ"花見"という習慣があったらしい。
国の花にも指定されるほど大切にされていたんだ、とサカキ支部長は言っていた。
確かにこの花がたくさんあったら壮観だろう。
ただ花を見るだけだが、それが習慣化されるのも分からなくはない。
庭園の奥へ進めば、東屋のような小屋と、緑生い茂る木があった。
どうやら先客がいるようだ。
その木の根元に座ってただ虚空を見つめていた。
あの人は確か、さっきの適合試験の時にラケル博士の隣に立っていた人だ。
彼はこちらに気がつくとああ、と手を挙げ、自らの隣を指差して座るよう私に促した。
促されるまま、少し間隔をあけて隣に座る。
「適合試験、お疲れ様。無事に済んで何よりだ」
『…腕輪ってこんなに重いんですね、右腕が重いです』
「フッ、最初は誰しもそんなものだ、その内慣れるさ。…身体に不調はないか?腕が痛むとか」
と、彼は私の右手をとって両手で包み込むように私の手を握りしめた。
不意にそんな事をされたので嫌でも鼓動が速くなる。
『え、…あ、はい。今のところは…何ともない、です』
「そうか、よかった」
端正な顔立ちの彼は、心底安心したように穏やかな笑みを浮かべた。
顔を向かい合わせているのが恥ずかしくなって、ふいっと顔を背けてしまった。
彼は少しの間?マークを浮かべていたが、漸く察したのか「…ああ、すまない」と手を離した。
「お前が少し不安そうな顔をしていたから、ついやってしまった…。幼い頃、ラケル先生もよく同じ事を俺にしてくれていたものでな」
今度は私が?マークを浮かべる番だった。
「俺は孤児院出身なんだ。その孤児院を運営しているのが、ラケル先生だ」
『そうだったんですか』
「俺がここに来てからも、何かとお世話になっている。…母親のような存在だ」
『……ここには、よく来るんですか?』
孤児院、と聞いて気まずくなった私は別の話題を持ちだした。
「ああ。暇な時にここへ来て、ずっとぼーっとしてる…」
『いいところですよね』
「…ああ、すごく気に入ってる」
さてと、と彼はおもむろに立ち上がった。
「そろそろ仕事に戻らないとな…少し休んだら、フライアの中をゆっくり見て回るといい。これからはここがお前の
そう言うと彼は庭園をあとにした。
『…名前、聞くの忘れた』
今回からGE2の時間軸で進みます!
ジュリウスだったらあのくらい平気でやりそう。
ご質問があったのでここで改めて回答させていただきます。
主人公のセリフが『』なのは、他のキャラの発言と区別をつけるためです。
そのほかの意味はありません。
主人公は特に特徴のある話し方はしませんので。