ちょっと長めです。
初陣を無事に帰還してから数日後、例の実地訓練の成果が認められ、やっと正式に任務を受注できるようになった。
そしてまた新たに、ブラッドにメンバーが加わるという話をジュリウス隊長から聞いた。
「新しいメンバーかぁ〜!どんな人かな?楽しみだね!シアン」
『…そうだね』
そうは言ったが正直、誰が来ようがどうでもよかった。
「また後輩が増えちまうぜ。いや〜参ったなぁ〜」
「でもジュリウス隊長、新しく来る人は他の支部からの転属だって言ってたよ?」
「え、そうなの?」
『…話聞いてなかったの?』
「い、いや〜楽しみで仕方なくってさーあはは…」
ロミオ先輩は半ば棒読みだ。
聞いてなくても仕方ないだろう、何故なら昨夜は夜更かししていたようだし、今朝は寝不足だ〜とか言ってコーヒーをがぶ飲みしていた。
何もすることがなければ眠くなるのも当然だ。
神機使いだっていう自覚が足りないと思う。
私たちは人々を守る砦なのに。
『戦場だったら死んでますね』
「ええ?それは言い過ぎでしょ」
『情報一つ聞き逃したが故に対応が遅れたら死に直結するのが戦場ですよ』
「さすが極東から来ただけあってシアンは厳しいな〜…」
「ねぇねぇシアン、極東支部ってどんな所?」
『…極東から来たって言ったって、やってたのはオペレーターだし、実際の現場に行ったわけじゃない。…まぁでも、ここより緊迫感は常にあるよ。大型種なんかザラにいるし、目標外の乱入もしょっちゅうだし』
「うわ、それマジ?フライアが最前線じゃなくてよかったぜ。そんな厳しいところでやっていける自信ないや…」
『…ホントにロミオ先輩、極東に配属されなくてよかったですね。新人の訓練もこっちほど長期間やりませんし、神機の操作だけ覚えたらあとは実践、ってくらいですから』
今は訓練が義務化されているけど、昔は訓練すら自発的に申請しなければいけなかったらしい。
訓練する前にいきなり任務、って結構地獄だ。
「…さ、さ~て、今日も任務頑張ろう!!」
と、ロミオ先輩が私の背中を押した。
『わっ!?』
「あ!」
しまった、誰かにぶつかった。
『すいません、大丈夫ですか?』
「もー、ロミオ先輩が押すからだよ」
「ホントにすいません…て、うわ!?」
ロミオ先輩が相手を見て驚いた。
白いワンピースの髪の長い女性だった。歳は私たちと同じくらい?
そこに恰幅のいいおっさん…もとい、ここフライアのグレム局長が私たちを睨んだ。
「全く貴様らは…すみませんねェ、ユノさん。戦う以外能のない奴らで…」
「あ、いえ…」
ユノと呼ばれた女性に対する明らかな態度の変わり様に不快感を覚えた。
赤い髪の白衣を着た女性…レア博士―ラケル博士の姉だ―が諭す。
「ロビーではあまり騒がないでね。お客様に迷惑でしょう?」
「はーい。すみませんでした…」
レア博士はそう言うと、局長とユノと連れ立ってエレベーターに消えた。
「…あれ?ロミオ先輩どうしたの?」
「バッカ、あれ…あれ…!ユノ!!」
「ユノ?知ってる?」
『…あまり』
「うっそ!?葦原ユノだよ!ユノアシハラ!!超歌うまいの!有名人!!」
そういえばハルトからのメールにそんな事が書いてあった気がする。
「まさかこんな所で会えるなんて…カメラ持ってくれば良かったぁ…。
なんだかまだユノの香りが残ってる気がするよ…今日は風呂入らないようにしとこう」
「えー、お風呂は入ろうよ先輩…」
「いやいや!今日という日は二度とやってこないかもしれないんだよ!?」
『じゃあせいぜい頑張ってください、先輩。行こう、ナナ』
「うん、いこー」
「えっ?ちょ…待てよ!!」
今日はドレッドパイクの討伐だった。
基本的にその人に合った難易度の任務が発行されるから、現段階での任務難易度は低い。
さっさと任務を終わらせてロビーに戻ると、カウンターで何やらフランとやり取りしている見ない顔があった。
紫色のジャケットと帽子が印象的な、長身で細身の男性。
任務報告の提出のためにカウンターへ近づく。
『フラン、ただいま。ハイ、任務報告書』
「確かに受け取りました。おかえりなさい、シアンさん」
「黒い腕輪…あんた、ブラッドの人間か?」
彼の右腕を見ると、真新しい黒い腕輪があった。
それに気づいたロミオが「おおっ!」と駆け寄る。
「黒い腕輪だ!ブラッドの新メンバーってお前?」
「…ああ。俺はギルバート・マクレイン。ギルでいい」
「俺の名前はロミオってんだ。なぁ、ギルはどっから来たんだ?他の支部からの転属だって聞いたぜ」
「……グラスゴー支部だ」
少し間があったのが引っ掛かった。
「グラスゴー?」
「旧イギリスのスコットランド南西にある支部で…比較的アラガミの少ない地域だ」
「へぇ~、遠いとこから来たんだなぁ。なぁなぁ、来たばっかで暇だろ?俺達任務終えてきたばっかだしさ、話でもしない?グラスゴーの事とか教えてよ」
「…悪いが昔話は断る」
「何で?」
「教えてやる義理もねェな」
「いいじゃんちょっとくらい」
『ロミオ先輩、無理に聞くのはちょっと……』
「でも気にならねぇ?」
間があったのは何か聞かれたくないことが含まれているからだ、と直感してロミオ先輩を止めるが、本人はやめようとしない。
『話したくないことを無理に聞くのは同意できません』
「でもそれって勝手に思いつめてるだけって事もあるだろ?ブラッドは家族だしさ、そういう過去も聞いてやるのが……」
「うるせぇぞクソガキ!」
『!!』
ギルがロミオを殴り飛ばした。
「いってぇ…!いきなり殴る事ないだろ!!」
『……はぁ…』
だから言ったのに、と首を横に振った。
そこへ騒ぎを聞きつけたのか、ジュリウス隊長が来た。
「…状況を説明してほしいな」
「あ、ジュリウス隊長…」
「コイツの前いた所とか聞いただけだよ。そしたら急になぐりかかってきて…」
「アンタが隊長か…おれはギルバート・マクレイン、ギルでいい。このクソガキがムカついたから殴った、それだけだ」
懲罰房でも除隊でも好きにしてくれ、と吐き捨てて、ギルはどこかへ行ってしまった。
『だからやめろって言ったじゃないですか』
「そりゃあちょっとしつこかったかもだけどさ…」
「暴力はよくないねー。先輩の聞き方もよくなかったかもだけどさー」
「軽くいったほうが早く打ち解けられるじゃん!」
ジュリウスは軽く考えるそぶりを見せた後、「今回の件は不問に付す」と言った。
「関係を修復する事」という条件を付けて…。
「お前らも、協力してやってくれ」
『…了解』
「はーい」
「無理だってあんな暴力ゴリラ…」
『ちょっとくらい反省したらどうですか?何もないのに怒る訳ないでしょう』
「それはわかってるけど…ああもう!どうしてこうなったかなぁ。こういうの苦手なんだよ…」
呆れた。
これだから軽い奴は嫌いだ。
他人の事を何も考えやしないんだから。
『ナナ、あとよろしくー』
「え!?ちょっとシアン!?」
『ロミオ先輩が自分でまいたタネでしょ?なんで私が…やってらんないっつーの』
気晴らしに庭園で本でも読もう。
ここに来てからの私の主な暇つぶしだった。
『……で、よりによっているし』
ギルが。
しかも私がいつも本を読んでいる東屋に。
仕方ない…。
『さーて私の好きな読書でも…ってうわぁ、ギルさん、ここにいたんだねー』
「…………」
『ぎーるーさーん?』
「…………」
無視かコイツ。
帽子を被ってるせいで表情が見えない。
『おーいギルバートさーん、見えてますかー』
「……そのわざとらしい演技をやめろ。偶然を装うとか、ベタすぎる」
『残念でした、本を読みに来たのはホントです〜』
「そうかよ。…で、俺の処分は決まったか」
『今回は不問に付す、って隊長が』
「はぁ?」
『その代わりに仲直りしろと』
「…ハハッ、お人よしな隊長だ。で、お前が来たのか」
『別に探しに来たわけじゃないですけど見つけてしまったものは仕方がないので、面倒ですがご協力させていただきますよー』
「面倒って…」
ギルの向かいに座って本を開く。
「……悪いな、配属早々こんなことになって」
『何も考えてないロミオ先輩が悪いんですよ』
「あとでロミオに謝っておくよ」
一瞬だけギルを見やって、すぐに視線を本に戻した。
「?なんだ」
『いいえ、別に』
意外と素直な人だ。骨が折れそうだと思ってたのに。
「意外だと思ったろ、今」
『……否定はしません』
「グラスゴーにいた時に先輩からよく言われたよ、顔が怖いから誤解されるってな」
『昔話はしないんじゃ?』
「根掘り葉掘り聞かれそうで嫌だっただけだ。…聞き上手なんだな、お前になら話してやってもいい」
『フェンリルの人間には総じて興味ないんで結構です』
「………そうか。そうだ、さっきの流れでお前の名前を聞けなかった。教えてくれないか」
……会話しながらの読書は集中できない。というか視線を感じて落ち着かない。
諦めて本を閉じて改めてギルの方を向く。
腕を支えに前かがみに座っている彼の顔には、さっきまでとはうって変わって笑みを湛えていた。
『神河シアン、第二期ブラッド候補生。極東支部からの転属です』
「へぇ、極東から?じゃあ結構腕が立つんだろうな」
『残念ながら入隊は2か月ほど前で、あちらで神機使いになる前に転属したので、実際の経験はひと月ほどです』
「なら俺の方が先輩だな。グラスゴーで5年やってた。槍はよく使う…ただ、今まで旧型だったんで新型の扱いはお前より素人だ。色々教えてくれよ」
『仕方ないですね……』
ため息とともにそう言うと、ギルはくつくつと堪えるように笑った。
『何がおかしいんですか?』
「お前もお前でお人よしだな。面倒だとか言って、実はこういうの放っておけないタイプだろ」
『…隊長命令だっただけです』
「ああ、わかってるよ」
そう言いつつも未だにギルの笑いは収まっていない。
『ギルさん、しつこいです』
「……っははははっ」
ついには腹を抱えて笑い出した。
さすがにここまで笑われては恥ずかしい。
『ああもう、勝手にしてください…』
さすがにギルも悪いと思ったのか、漸く笑うのをやめた。
「悪かった、そんなにむくれるな。おごってやるからそれで勘弁してくれ」
『…メロンソーダ』
「はいはい」
『ちゃんとロミオ先輩に』
「謝るって、そんなに心配するな」
二人でフライアの神機使いの生活区に行き、食堂で約束通りメロンソーダを奢ってもらった。
ちょうどお昼の時間帯で人は多かったが、幸い席は空いていた。
…ロミオとナナのすぐ隣が。
ホントに運が悪いというかなんというか、ギルは謝ると言ってたけど、ロミオのほうは未だ意固地になってるようで、気まずそうに目をそらした。
よく考えれば、食堂なんて行けばはち合う可能性は大いにあったはずだ。
仕方ないのでロミオ、ナナ、私、ギルと並んでカウンター席に座る。
ナナが勤めて明るい声で言った。
「なんだ、結局シアンはギルのとこ行ってたんだ~」
『…まぁね』
ナナが声を潜めて耳打ちする。
「ロミオ先輩、まだ意地はってるんだよ。はやく謝っちゃえばいいのにさ。…ギルの方は?」
『ちゃんと謝るってさ。話したらわかってくれた。ロミオ先輩の説得も私がやるよ』
「ほんと?ありがとう!困ってたんだぁ~…」
「…ごちそうさま」
「え、あ、ロミオ先輩…」
ロミオ先輩はさっさと昼食を済ませてどこかへ行ってしまった。
「もう、ロミオ先輩大人げないよ」
『あとで私が言ってみるよ。ごめんギルさん、少し待っててもらえますか』
「…ああ」
ひとまず3人で昼食を済ませ、ギルの事はナナに任せてロミオ先輩を探しに出た。
ロミオ先輩はロビーの自販機の前にいた。
「…あ、シアン……」
『もう、探しましたよ。…ギルさんは話したらわかってくれました、配属早々悪かった、と…』
「…そっか…よし!おれも謝ってくるわ!心配かけて悪かったな、あとは自分で何とかしてみるよ!アイツ、今どこ?」
『まだ食堂にいると思います』
「わかった!」
そう言うとロミオ先輩はエレベーターへ駆けていった。
ようやく解決した、と私はモニター前のソファに腰掛ける。
『…ほんと手間のかかるやつら…』
「無事に解決はしそうだな」
『!隊長』
どこから見ていたのか、ジュリウス隊長が現れた。
「ナナが焦っていたぞ。"シアンが喧嘩の仲裁を放棄した"と」
『げ…余計なことを……』
「けど最後には動いてくれた。礼を言う」
『…別に大したことしてないですし』
「ナナもロミオも、お前と話していると不思議と落ち着く、と口を揃えて言っていた。俺にはないものがお前にはあるんだろうな」
こうしてブラッドにギルが加わった。
ギル贔屓なのが否めない。
ギルシアになっても許してください。
というかギルシアのつもりで書いてた(自白)。
今回はいつも以上に勢いで書いてますので、もしかしたら後々修正入るかもしれません。