ギルバートが仲間になり、賑やかさを増したブラッド。
その直後、シアンは妙な噂を耳にするのだった。
ロミオとギルバートの喧嘩が解決し、訓練もひと通りこなした所で自販機で買ったスポーツドリンクを飲んで休んでいた。
そこに、ブラッドではないフライア所属の神機使いが2名、目の前を通り過ぎた。
何がそんなに楽しいのか、時折笑い声すら聞こえたその会話の内容にシアンが興味を持つことは無い。
…はずだった。
遠ざかっていったはずの話し声と足音がどんどん近くなる。
そしてその音はシアンの目の前で止まった。
それに気付いてはいたものの、シアンがスポーツドリンクを飲みながら見ていた端末から顔を上げることは無い。
それも当然、相手は普段仕事でも滅多に関わらない人間だ。
ただでさえ本部の人間を毛嫌いしているシアンが彼らに興味など抱くはずがなかった。
「なぁ君、ブラッドの子だろう?」
「……そうですが、何か御用ですか」
シアンは一瞬無視しようかと考えたが、無駄に相手の気分を害しトラブルを起こす方が愚策だと判断し気だるげに返事をした。
2人のうち片方は品行方正さが漂っているが、もう片方はそっちよりガラが悪そう。
貴族階級出身と、成り上がりといったところか。
このあたりのアラガミは弱いから、実力は定かではないが。
「さっきロビーで見かけたんだが、あの長髪長身の帽子男、もしかして"フラッギング・ギル"じゃないか?」
「もしかしてあいつもブラッドなのか?」
「…ギルバートさんの事ですか?」
聞きなれない呼び名に疑問符をつけて返すと、目の前の男2人は顔を見合わせた。
そして何故か得意げな顔をしてきた。
「なんだ知らないのか?"フラッギング・ギル"を…あんな危ない奴が同僚とは、君も運がない」
「上官殺しとさえ呼ばれた男だもんなぁ」
シアンはよく分からないがギルバートが今好奇の的にされている事を理解し、その事になんだか腹が立ち2人を睨みつけた。
「…彼がどうしたっていうんですか。だいたいさっきから何なんですか、フラッギング・ギルとか上官殺しとか」
「おっと悪い、気分を悪くしたかな。詳しい事はデータベースで調べればすぐ出てくるぞ。ゴシップを賑わせた一大事件だったからな」
こいつら、ゴシップ記事なんて低俗なものを読むのか。
「…それで?私はこれでも暇ではないのですが」
「そりゃ重ね重ね失礼したなぁ。おい、世界の未来を担う特殊部隊ブラッド様のお邪魔だとさ」
「では俺達はこれで」
去り際、「生意気な奴…」と品行方正そうな奴がそう呟いたのが聞こえた。
どうやら貴族階級よろしく、ただの生意気なボンボンのようだ。
気分を害したシアンは端末の電源を落とすと、自室に戻るべく立ち上がった。
自室に戻ってからも、シアンの頭の中のモヤモヤは晴れなかった。
更に知り合ったばかりの相手にまとわりついていたただの噂だというのに、それに気を取られている自分にイライラした。
自分は周りに興味を持つつもりなど無かったのではなかったのか。
同じ部隊員だからと心のどこかで仲間意識をしている自分はどうやらお人好しらしい。
しかし、ギルが上官殺しとさえ言われているのはどういう訳か。
理由は知りたいが、ゴシップ記事なんて読む気が起きない。
結局シアンがたどり着いた結論は、そもそも聞いた噂を忘れる事だった。
やっぱり噂の一つも聞かないのはありえないだろ、というわけでモブに噂話させてみただけです。