考えるより先に体が動いた。
後ろから家族が呼んでる気がするけど止まらない。
でも普段まともに運動をしていなかったせいだろうか、まだほんの少し走っただけなのにもう息が荒く、脇腹がズキズキと痛む。
たまにジョギングぐらいするべきだったと思うけども、そんな痛みや疲労を無視して走り続ける。
彼にどうしても伝えたいことがあったから
彼を包んでいた炎が一際勢いよく燃え上がりそのまま消えてしまったそのとき一瞬、僕を含めて全員が言葉を出すことすら出来ず固まった。
時が止まったというのはこういうことを言うのかな。何処か現実味がわかず、夢でも見ているような気分の中そう思った。
他の人がどう思ってたかは分からない。それでもやっぱり目の前で起こったことは夢じゃなく現実で、ひとりまたひとりと我に返りまた時が動き出す。
でも僕はまだ現実に戻ることは出来ず、やっぱり何処か夢見心地の中周りを見渡せばやるせなさそうに下を向く人や顔を腕や掌で覆い何かが溢れそうになるのを必死に押しとどめている人。
さらに耳を澄ませば荒れ果て散閑とした大地の上に顔を覆っている人たちの嗚咽やすすり泣く声が小さく聞こえてくる。
そこまでしてようやく頭が回ってきた気がする。けど、むしろずっと夢の中にいたかったように思う。
「ぁぁ……あ」
さっきリボーンさんが言ってた彼が行ったことを思い出し、そしてさっきまで彼がいた場所に落ちているズタボロのコートで……それだけで察してしまったから。
目の前で彼がこの世界どころか、この世界含めて全ての世界から消えさったということを。
「――――――!!」
声にならないような叫び声。
多分文字に起こすとしたらそんなものを上げ、誰かが必死に僕を支え呼びかけてくるのを何処かすごく遠くで聞こえてくるように感じながら……ゆっくりと意識を失った。
夢心地の中、ふと気づけば慣れ親しんだ椅子の上。目の前には大学時代に寄せ集めの部品で作った自作のパソコン画面にYou Winの文字が浮かんで僕の勝利を示しており、両手はパソコンに繋げられたキーボードとマウスに添えられている。
おかしいな、確かすごく大事な何かをしていた気がするんだけど……僕は何をしていたんだっけ。
そんな突然のことに戸惑っている僕を不審に思ったのか、向かい側からパソコン越しに心配そうな顔で白髪の男の人が声をかけてくる。
『ねぇ、ぼーっとしてるけど大丈夫かい? 最後だしはりきっちゃうのは分かるけど体調が悪かったらやらなくてもよかったんだよ?』
……そうだ、確か目の前の彼が僕をマフィアに誘った後折角だから最後にって大学時代に作ったゲーム、チョイスで勝負して僕が勝ったんだった。
『あぁ、ちょっと寝不足だったみたいです』
まだ違和感はあるけど少し気まずげにそう答える。すると目の前の彼は気にしないで、と笑った後ふと思い出したかのようにそのまま続ける。
『そういえば僕から言い出してあれだけどいきなりだったから支払う物がないね。……そうだ、次にチョイスで遊ぶ時にハンデとして『すいません』どうしたの?』
自分でも何故彼の途中で口を挟んでしまったのか分からない。
確かに毎回やるときにはお互いに何かかけてやっていた。けど正直僕も彼もゲームだからってだけでやってたわけで、今彼が言おうとしてただろう事でも何でも良かったのに。
『僕に決めさせてくれませんか?』
そう言ってしまった。
自分でも珍しい事をしてると思うからきっと彼は余計そう思ってるんだと思う。実際彼は驚いたみたいでキョトンとした顔になってた。
だけどまた笑って続きを促すところを見ると改めて彼の器は広いと思い、そのままさらに口を開ける。
『僕はあなたの親友、ですよね』
本当に何言ってるんだろう。もう物どころか質問にもなってないしいくら彼だってもう呆れてるんじゃないかな。
若干自分でもやらかしたと思い、心配そうに目の前の彼を見ると
『当たり前じゃないか』
とても綺麗な、優しい顔で言ってくれた。
そしてそれを聞いた僕はさらに踏み込んでしまった。
『なら、僕に全部話してくれますか』
それを聞くとさっきまで笑っていた彼の表情が固まったと思ったらゆっくりと僕の隣の席にまで来て座りなおし、息を吐いた。
だけど今度こそ本当にやらかしてしまったと思った僕が急いで撤回しようとしたとき……彼は僕の撤回を止めて、どこか覚悟を決めたような顔で語りだした。
『――、――』
『――――、…』
『――――――‼』
それは静かに、泣きながら、激しく僕に語っている。筈なのに、何故か僕には何も聞こえてこない。
ただ、だからと言ってそんな彼を止める事はなく、彼が心に貯めていた全てを吐ききるその時まで黙って彼の聞こえぬ話に耳を傾けた。
それはもう分かってしまったから。これはいつだったかの出来事を僕の都合のいいように見せている……ただの夢にすぎないって。
だけどそんな夢の、現実では決してあり得ない、捉え方によっては彼を侮辱するかもしれないようなことだとしても止めるなんてことはしない。出来るわけがなかった。
これはきっと、僕への罰だから。
彼自身の言葉を聴くことなく、未来の自分からの知識というだけで踊らされて親友を裏切った僕への。
だから止めることはない。
たとえ夢だとしても、覚めた後数分という短い時間で忘れてしまうような一時の出来事だとしても
もう二度と、彼の言葉を聴き逃すことなんて出来るわけがなかった。
それでもやっぱり夢は夢で、徐々に視界が暗くなり何処かへと意識が浮かび上がっていくのを感じる。
それでも僕は彼の話を聴き続けた。
頬に何か湿ったものが流れたとしても、今すぐ彼に言葉をかけたい衝動に駆られても。もう彼以外に、彼すらも薄っすらとしか見えなくなってもただ黙って聴き続けた。
ついに彼は話し終えた。
よっぽど力を込めていたんだろう、彼は肩で息をしており顔も汗や涙で普段の姿は見る影もなかった。
でも、とても笑顔だった。
『――――――』
そしてやっぱり最後も聞こえることはなかったけどきっと、その言葉は……
目が覚めるとそこはどこかの医務室のベッドの上のようだった。
きっと倒れた僕を心配して誰かが運んでくれてたんだろう。それにありがたく思うも僕がいるベッド以外が全て空いてることに気づき、気絶したのは僕だけなんだと察してほんの少しだけ恥ずかしく思う。
「ん、起きたか。気分はどうだ?」
「ワッ!?」
いきなり話しかけられたから驚いたけど僕以外にも人がいたみたいだ。
まだ少し体がだるかったから心配かけさせまいと呼びに行く手間が省けて少し助かった。
「その様子だと大丈夫みてぇだな」
「……ははは」
僕に話しかけてきたのはアルコバレーノの一人、リボーンさん。
少し格好悪いところを見せてしまったから苦笑いでしか返せないや。
そんな風に考えてたらもうユニや真六弔花からことのあらましを聞いたらしく、一から順に丁寧に教えてくれた。
本当に無茶してきたんだな。彼が今までやってきたことを聞くと怒るどころか呆れてしまうようなことばかりだった。
「……でもって、次があいつの最期の言葉だ」
話終えて一息つくとリボーンさんがそんな風に切り出してきた。
僕の状態を見て今なら大丈夫と思ったんだろう、早く聞きたい僕にとってその気遣いはすごくありがたかった。
そしてゆっくりと口を開いて教えてくれたその言葉は
『幸せだったよ』
何処かで聴いたことのある言葉で、また頬に何かが伝った気がした。
ある日思い出すように僕の中に入ってきた記憶を振り返りながら息を切らせて目的の場所にたどり着くと、そこは浜辺だった。
もう既に僕以外にも集まってるらしく目当ての人の周りには人が集まってる。
まだ痛む脇腹や肺を抑えつつ明日から絶対に何か運動を始めようと考えながら近づいていくと集まっていた人の内の一人と目が合い、それを皮切りに全員が僕が来たことに気付いた。
来たばかりの僕に気を遣ってくれたのか目当ての人へと続く道を開けてくれる。……中には話の途中だったのか、ほっぺを膨らましてる子もいて少し申し訳ないけど。
そうして周りの、特に赤髪の男の人に少し茶化されながらも歩いた先には彼がいた。
目の前の彼は記憶の中にある結局忘れることのなかった夢と同じ……ただ笑顔で僕を見つめている。
それを見てつい僕も笑ってしまう
ここに来て正直周りに人がいるから少し恥ずかしく思ってたけど
あのとき
もう二度とないと思ってた機会が目の前にあるから
きっと彼なら
嗤うことなく、笑ってくれるだろうから
「初めまして、僕は入江正一」
「
「あなたの親友です」
そう、いつかの彼との夢を忘れなかった僕は意味が分からない筈なのに
とても笑顔で、僕と同じで涙を流してる白蘭さんにそう言った。