彼を思う   作:お餅さんです

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最後に投稿してから一年と数か月、続編を期待してくださる声もあったので遅ればせながら書かさせていただきました。
人によっては蛇足と思われるかもしれませんが、また少しの間この自己満足にお付き合い頂けると幸いです。

……継承式編と代理戦争編期待してたらごめんなさい。


第二章 彷徨って半ば
プロローグ


 感じた眠気に何となく目をこすった。

 

 こすった後、また開いた目に映ったのは大きな液晶の画面。少し前に白蘭がハッキングをしていたそれが目に入るように、俺たちは部屋に並べられた机の席にそれぞれ座ってた。

 最近はそれぞれで修行を始めたせいなのかな。食堂以外ではあんまり見ない光景だった。だからそれにほんの少し、もしかして夢を見てるんじゃないかと思う。だけどまだ眠気の抜けきってない頭が、段々と何でここにいるのかを思い出して否定していった。

 

 今俺たちがいるのは、元いた世界から十年経った後の世界。その十年後の世界で、白蘭たち(リアル)6弔花とのトゥリニセッテをかけた正式な力比べ――チョイスまであと数日もない今日。その戦いに向けてそれぞれが修行なり準備してた時、俺たちはいきなり受けた呼び出しにこの会議室で集まった。

 そんなことを思い出して、そういえばそうだったと一人頭の中で納得する。それから夢と現実の区別のつかない、今の自分の体調を少し不安に思った。

 

「こっちはアホ共の世話で忙しいってのに。こんな大事な時に一体何事っすかね」

 

 十代目は何か聞いてますか――まだ少し頭がボーっとしていた俺に、獄寺くんがそう聞いてきた。

 

「……あー、俺もさっきリボーンに聞いたばっかりなんだ」

 

 言いながら思い浮かんだのは、この会議室に来るよりも少し前のこと。それは修行合間の休憩に入ろうとしていた時。でもってその時に、いきなりハリセン状態のレオンで張り倒してきたリボーン。

 それも狙ったのか、やられたのはわざわざ差し入れの飲み物を飲んでいた最中。不意打ちだったのもあるけど、床に向かって勢いよく吹き出したときは何事かと思った。

 

『入江のやつが会議室に人を集めてたぞ。ツナもその床掃除したら行ってこい』

 

 そう言われて掃除したのがついさっきで、俺がこの会議室に来た頃にはもう殆ど集まってた。

 遅れた原因はもちろん掃除のせい。正直、というか実際に飲み物溢したのは俺のせいじゃないんだけど。でも言ったら言ったでまた叩かれたんだろうな――なんてことを、嫌な慣れだなんて感じたことまで思い出した。

 

「なら誰も分かんないってことか。早いとこ戻んねえとスクアーロが怖えんだけどな」

 

 苦笑いしながらそう話す山本。それにあのスクアーロを苦笑いで済ませてるのに内心驚いて、俺が来る前も似たようなことを話してたのが何となく分かった。

 

「俺も極限に我流(ガリュウ)とスパーリングをせねばいかんというのに!!」

「……京子ちゃんたちと、夕飯を作る約束が」

 

 続けて話すお兄さんにクローム。呼ばれたのはみんな俺と同じでいきなり、それも当たり前だけどそれぞれに予定はあった。

 それに少し目を凝らしたら、程度はあってもみんな目の下に隈が出来てる。実際見つけた俺も最近寝不足で出来てたし、結局リボーンに邪魔されたけどあの時も少し休憩しようとしてた。

 だからみんなにはゆっくり休んで欲しいし、そうじゃなくてもやりたいことをやって欲しいと思う。でもチョイスのことやみんなの思いを考えると、認めてはないけど一応ボスの俺からは少し言い出しづらい。それはもう今みたいな時間なんて尚更。でもこの部屋から出られない今なら、ある意味休憩にはなってるかもしれないのかな。

 

「ったく、集めといて自分は来てねえとか。入江の野郎はどういうつもりなんだ」

 

 俺や獄寺くんと山本、それにお兄さんにクローム。今この会議室にいるのはこの五人で全員。俺を張り倒したリボーンはもちろん、俺たち全員を集めた入江くんすらいない。それにさっきから皆で話してる通り。俺達が何のために集められたのか、それすら知っている人はいなかった。

 

 白蘭との戦いを控えた状態で、訳も分からないまま集められた。それにすぐ話し合うのかと思ったら、そのままなにも言われずに放置されてる。今の俺たちは、多分そんなよく分からない状況。だから獄寺くんの少し苛立った言い分も、たぶんみんな分からなくはなかったんだと思う。よく獄寺くんとケンカするお兄さんですら、それに直接何か言ったりはしなかった。

 ただそれでも席を立って、そのまま誰一人部屋を出て行かない。入江くん自身誰よりも今回の戦いに意気込んでたみたいに見えた。それもあって絶対にチョイスに向けた必要な会議になる、なんて思いもあるのかもしれない。

   

 そんな感じで修行の進歩なんかを話し合ってて暫く、廊下の方から足音が聞こえて来た。コツコツとゆっくり、全然慌てた様子を感じさせないその歩調。

 部屋にいた殆どが来た――で済んだそれは、獄寺くんに限っては違った。獄寺くんの頭からは何かがブチっと千切れたような音。それが聞こえたと思ったら、顔をこれでもかってぐらいにしかめて部屋の出入り口の方へ歩き出した。

 

 俺が席を立って慌てて止めようとした時には、もう出入り口から人影が見えた時。怒鳴る獄寺くんに怯える入江くん。俺の中で、そんな少し先の未来が思い浮かんでいた。

 

「てめえ、遅れて来たんなら少しぐらい急いで――」

 

 獄寺くんの言葉は最後まで続かなかった。それは何も俺が止めたからってわけじゃない。実際はじめから大声って訳でもなかったし、そこまで止める必要もなかったかもしれないけど。

 ただ止まったのは、獄寺くんだけじゃない。俺も他のみんなも、驚きながら出入り口に獄寺くんと向かい合ってる人影を見ていた。

 

「じゃまだよ」

 

 そう言った、向かいあった獄寺くんのせいで部屋に入れずにいる――雲雀さんが、どこからかトンファーを出して構えた。

 

 何で群れるのが嫌いな雲雀さんがこの基地にいるのか、それもわざわざ人が集まって使うこの部屋に来たのか。気になること、おかしなことは直ぐには言い切れないぐらい沢山ある。でもこのままは流石にまずい、そう思って今度こそはと声を上げながら止めに入ろうとする。

 

「ちょっ、待ってください雲雀さ――ていったー!?」

 

 けど、そうしようとしたところで何かに躓いて床へと突撃。漫画のように両手を前に突き出して、顔面から二人の丁度真ん中へスライディングしたのが何となく――日頃の嫌な慣れで分かった。

 声を、というよりかは悲鳴を上げながら一体何が起こったのか。痛みや恥ずかしさで真っ赤になってる顔を抑えて、転ぶ少し前まで自分がいた足元を見てみる。そしたらそこにはピンと張られた一本の太い糸――見覚えのある緑色をした糸が、どう考えても場違いなこの会議室に張られていた。

 

「もしかして、レオン……?」

 

 言い終わる前に糸に目が付いたように開かれた、かと思ったら張られた片方の側へ縮むように動き出す。床からよろよろと立ちながら目で追うと、糸から段々元のカメレオンに戻るレオンが部屋の出入り口の方へ。

 さらに追えば心配そうにこっちを見ながら雲雀さんを警戒する獄寺くんに、白けたみたいにトンファーを仕舞う雲雀さん。そしてそんな雲雀さんの、もっと奥の廊下に人がふたり。

 

「待たせたなお前ら」

「えっと……これ、どういう状況なのかな?」

 

 困ったように聞いてくる入江くんと、俺を転がしたドヤ顔のリボーンがいた。

 

 

 

 

 

「いや、待たせて本当にごめん。ちょっと説得に時間かかちゃって」

 

 改めて全員が席に着いたところで入江くんが話し出した。獄寺くんが何か言うか心配してたけど、そんなこともなく大人しく話を聞いてる。まあ、あの人を説得するのに一日もかからないなんて早過ぎるぐらいだし。

 納得しながら、むしろ何て言ったんだろうと雲雀さんの方を見る。そうすれば気づいたのか、俺の隣に座るリボーンがそんな考えを訂正してきた。

 

「一応言っとくが、入江が説得したのは雲雀じゃねえぞ」

 

 リボーンたちが来るまで、会議室に集められてた人はみんなボンゴレの守護者だけ。だから俺も含めてみんな、入江くんは守護者の人を集めてると思ってた。そしてそれはまだ子どものランボや復讐者(ヴィンディチェ)の牢獄にいる骸、性格的に来ないだろうと考えてた雲雀さんたちを除いて。

 なのに誰も来ると思ってなかった人が来て、集めた人が説得に時間がかかったと言った。俺たちもまさか、ただ頼んだだけで雲雀さんが来るとは思えない。だけどそれは違うっていう話。それに俺だけじゃなく、元からいたみんなも本題そっちのけで首を傾げてた。

 

「リボーンさんの言う通り、彼は説得してたところを偶々通りかかったんだ。まあ、来てくれれば嬉しいとは思ってたけどね」

 

 そんな入江くんの言葉にも、雲雀さんは我関せずって風に俺たちとは少し離れた席に座ってた。けれどその言葉に、雲雀さん以外の俺たちはみんなそろって体を硬くする。

 

 なにせ今回の集まりはただでさえ大切な話だと思ってた。そこへさらに、よっぽどの用でもなきゃ俺たちに近づきもしないあの雲雀さんが、偶々少し聞いた話だけでここにいる。

 それだけで予想してたよりも大事な話だって言うのは十分。今から入江くんが始める話を前に、感じてた眠気もいつの間にか消えていた。

 

「じゃあまず、聞きたいことがあるんだけど――」

 

 神妙そうに話し出す入江くんを前に何となく、場違いに思い浮かんだのは昨日俺の所に来た二人。それはなんでも絵を描きたかったらしくて、結局完成した絵は見せてくれなかったランボとイーピンのこと。白と黒のクレヨンや画用紙を持って、楽し気に見本になれと休憩中の俺に言ってきた。

 いきなり思い出したそれに緊張はどこにいったんだろうと、相変わらず続かない集中力にバレないよう一つため息。そうして自分でもやっぱり場違いだと思いながら、ほんの少しだけ笑った。声には出さずに、ちょっと口元がにやけた感じ。周りに見られてたら気持ち悪く思われるかな。

 だけど今は、いつ白蘭が嘘だなんて言ってこの基地に乗り込んで来るかも分からない。そんな少し緊迫した日々に、変わらない日常があることが嬉しかった。

 

 ただ本当に今考えることじゃないし、真剣に話してる入江くんには悪いと思う。だけど俺は、そんな何気ない日々をみんなと送りたくて戦ってる。

 だからその時もそうだったけど、自分が何のために戦っているのか。そんなことが改めて分かった気がする。最近は京子ちゃんやハル達のこともあったし、そのことに対して思うところがあった分も余計に。

 

 そしてだからこそ、俺は動揺を隠せなかった。

 

「みんな――最近、変な夢を見たんじゃないかな」 

 

 気づいたら俺の頭の中は真っ白になった。何も考えられなくて、どうすればいいのかも分からない。心当たりがあれば教えて欲しい――そんな入江くんの言葉が、どこかすごく遠くの方から聞こえた気がした。

 意識が会議室にいる俺に戻った後も、寒くもないのに体の震えが止まらない。傍からみたら分かりやすいぐらいにがくがくと、心当たりがあると言っているものだった。

 

 それは実際、俺は入江くんの言葉に心当たりがあった。入江くんが何を聞きたいのかも、俺が何を話せばいいのかも。そんなことが何となく、そこまでの理由もなしに直感で分かった。

 だけど、それでも俺は言おうと思わなかった。言おうと、知っているとこの場所で手を挙げようとは決してしなかった。だってそれは、ただ怖かったから。単純に俺が、心当たりのある()()話をして、みんなが何をどう思うのか。それを考えてしまえば誰にも、ましてやこんな大勢の場所で言えるわけがなかった。

 ただそれでも、知らないとは言えない。入江くんが言うのなら、この話は絶対に下らないことなんかじゃない。とても大事で、大切で、俺たちのことを考えてくれてのこと。そんな入江くんに俺は、嘘をつこうとは思えなかった。でも、それだけ分かっていてもまだ言えない。

 

 ――だから俺は、黙って俯いた。

 

 暫くはそのまま、一時間近く無言の時間が続く。途中で京子ちゃんがクロームを探しに来たけど、様子のおかしい俺たちに気を遣ってすぐに戻って行った。そうして時間も経てば気持ちもいくらか落ち着いてくる。だからこそという訳ではないけど、何となく座ったままのみんなを視線だけで見渡してみる。

 見た先にいるみんなの表情は、俺と同じように俯いてるせいで見えなかった。そんな様子に心当たりがあるのは俺だけじゃないと何となく分かって、一人じゃないと喜んだ自分が嫌になる。それでもただ一人、雲雀さんだけは変わらずに同じ様子で座っていた。だけど座ったまま一時間近く、何もせずにいるのがむしろおかしく思えた。

 

 そうして意味もなく時間が過ぎていく中、いきなり一人が切り出した。

 

「どうか、僕に教えて欲しい」

 

 それはこの部屋に俺たちを集めた、俺たちを見つめる入江くんの声。話した言葉は一時間前のと合わせて二回目の――疑いようもないぐらい真剣な、たった一言だけのお願い。

 

「夢だなんて、今の時期を考えれば馬鹿らしいと思うかもしれない。だけど、ちゃんとした意味はあるんだ。その理由もよろこんで説明するし、むしろ僕の方から説明させて欲しい」

 

 俺も合わせて、そんな入江くんが話す言葉に何人も反応した。下心のない、心から思ってるんだろう言葉。それに俯きがちだった顔を少しづつ上げて、視線も入江くんに向かって集まってくる。

 

「あと、本当に少しなんだ。それさえ分かれば、きっと僕の考える何もかもに説明がつく。それは君たちが元の世界へと帰るために十分な手助けにも――それ以上に重大な事実を知ることも出来るはずなんだ」

 

 視線が合わさってよく見れば、入江くんの目の下には誰よりも深い隈。チョイスに向けてジャンニーニやスパナ達と夜遅くまで準備してたのは知ってる。けどその時の休憩も潰して今回の話に臨んだのが、またなんとなくだけど分かった気がした。

 

「だからお願いだ。ほんの少しでも心当たりがあるなら、どうか僕に教えて欲しい。僕はこれ以上、大切な人が傷つくのを見たくない。僕は、もうこれ以上――――」 

 

 思えば今まで、入江くんには助けられてばかりだった。十年後の俺が考えた作戦に預かっていたボンゴレ匣、最近じゃ白蘭の打倒に向けたチョイスの準備。

 何で入江くんがそこまでしてくれるのかは、正直まだよく分からない。それでも確かにずっと、支えて助けられてた。だから、俺は思った。こんな機会でもなければ何て訳じゃないけど、確かに俺は入江くんに対して思ったんだ。

 

 

「間違えるわけにはいかないんだ」

 

 ――助けになりたいと思ったんだ。

 

 

 入江くんのそれは、何かの宣誓にしては少し小さな声だったように思う。途中までの力強い声は嘘みたいに掠れて、絞り出すように出した小さな声。

 だけどこの部屋は外に音が漏れないよう設計されてる会議室、元々の広さもそんなに大きい訳じゃない。だからなのか、やけにその声は俺の耳に深く響いた気がした。

 

「おめえら、いつまで黙ってるつもりだ?」

 

 それは俺の隣にいる、話の中で殆ど黙っていたリボーンから。疑問ともいえないような、だけど俺たちに尋ねてるみたいな声。言葉の中に見下したようなものはなかったけど、どこか呆れたような雰囲気は感じた。

 きっと俺だけじゃなく他のみんなも、リボーンにだって心当たりがあったんだと思う。それを知ったうえで、入江くんやリボーンが俺たちを待っていたことに気づいた。

 

「俺から話すよ」

 

 話すとしたら何を、どこまでを、なんて話せばいいんだろう。そんなことを考えるよりもずっと早く、気づけば俺の口からはそんな声が出てた。

 

「……いえ、十代目の後に話したとあっては右腕の名折れ! 不肖この獄寺、自分から話させていただきます!!」

 

「それなら、獄寺の次は俺が話すぜ。前から誰かに相談しようとは思ってたし、この際丁度いい機会だってな?」

 

「正直なところ気は進まん。だが、この逆境を乗り越えてこその漢! 極限にこの俺の話術を披露してくれるわ!!」

 

「私も……頑張る」

 

「僕は元からそのつもりだよ。いい加減イライラしてるんだ」

 

 思わず出した俺に続くように、他のみんなもどんどん声を上げていった。さっきまでのお通夜みたいな雰囲気は嘘みたいに、むしろ少しうるさいぐらいに和気藹々としている。

 それに俺もつられて笑った。見たら呆れてたリボーンも、根詰めた様子だった入江くんも笑ってた。だからもう、俺が怖がることはない。たとえどんな話をされようと、どんな話をしようと、もう怖くはなかった。

 

 

 

 

 

 そうして俺たちは話した。

 

 最近になってよく見る、ただの夢の話を。

 

 

 ただその殆どが、少しだけ違うこれまでの日常。

 

 もしかして、こんな日々を送ったかもしれない。

 

 そんなありふれた――悪夢のような話を。

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