オーバーロード〜吸血鬼が好きな狐〜   作:舞姫

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カルネ村

モモンガさんと合流してから数日。私は、第一階層をぶらぶらしていた。

 

「異世界か。どんな感じなのかしら?」

 第六階層から転移したあの後、私はモモンガがさんから詳しい説明を受けた。転移直後に起こった異変、守護者達の反応、ユグドラシルとの違いについてなどだ。

 

「スキルや武器は問題なく使えるけど・・・・・問題は、敵に対して有効かどうかよね〜」

 

 説明の後、武器やスキルが使えるかどうか試してみた。結果、問題なく使えることが分かった。しかし、この世界の生物や住人に対して、有効かどうかは不明である。こればかりは、実際に試すしかない。

 

「私のレベルは100だから、いけるとは思うけど・・・・・不安よね〜」

 

そんなことを呟きながら、私はため息を吐いた。

 

「弧月様。そんな所でどうしたのでありんすか?」

 

そんな時、私の背後からシャルティアちゃんがやって来た。今日も変わらず可愛らしい。

 

「ちょと考え事かな。それより、シャルティアちゃんはどうしたの?」

 

「モモンガ様がお呼びでありんす。何でも、見せたいものがあるとか」

 

「そうなの。呼びに来てくれてありがとうね」

 

「これくらい、至高の御方の為であれば、なんでもありんせん」

 

 シャルティアちゃんは、私にお礼を言われたのが嬉しいのか、顔を綻ばせていた。守護者達に限らず、ナザリックに所属するNPCにとって、私たちの役に立つことは、無上の喜びらしい。その為、労いの言葉や感謝の言葉を言ってあげると、かなり喜ぶ。

 

「それじゃあ、モモンガさんに会いに行きましょうか」

 

私は、リング・オブ・アインズウールゴウンを取り出すと、指に嵌めて転移した。

 

 転移先である第9層では、モモンガが遠隔視の鏡(リモート・オブ・ミラー・ビューティング)を使って、何かを覗いていた。

 

「来ましたよ、ももんがさん。いったいどうしたんですか?」

 

「あっ!狐月さん。これを見てください」

 

そう言うと、モモンガさんは遠視の鏡で見ている風景を拡大した。

 

「村が襲われてる?」

 

「はい。それで、どうするか相談したいと思いまして」

 

「放っておけばいいんじゃないですか?優先すべきはナザリックの安全。今無闇に介入して、注目を集めるべきではないと、私は思います」

 

 私は無情に言い放った。残念だが、優先すべきは仲間の安全であり、それが万全の状態で確保されていない今は、他のことを気にしている暇はない。

 

「そうですね。それじゃあ、この事には関わらないという――」

 

モモンガさんが決定を下そうとした直前、何の偶然か、映像が切り替わり、今にも殺されそうな姉妹が映し出される。

 

「可愛そうですが、今は我慢です」

 

私は言い切る。優先すべきはナザリックの者達。頭では理解していても、心が理解しない。

 

「――弧月さん。やっぱり、私は行くことにします」

 

「はい!?」

 

「『困っている人がいたら、助けるのは当たり前』」

 

「!・・・・・タッチさんの言葉ですか」

 

「はい」

 

モモンガさんは、転移門(ゲート)を発動し、今にも転移しようとしていた。

 

「はぁ〜。仕方ありませんね」

 

私は仕方ないと笑いながら、モモンガさんを押しのけた。

 

「狐月さん?」

 

「モモンガさんはギルマスですよ。ここにいないと、不測の事態が起きた時に、誰が対処するんですか?」

 

「そ、それは・・・・・」

 

「そういうのは、私みたいな暇な人に命令すればいいんですよ。ちょうど、この世界の相手に、スキルや武器が効くか試したかったですし」

 

そう言いながら、帯に刺していた扇子を抜く。

 

「狐月さん」

 

「それじゃあ、ささっといって、ささっと帰ってきますね」

 

「分かりました。お任せします」

 

「出来れば、念のために誰か送ってくれれば嬉しいですよ」

 

そう言って、私は転移門に入った。

 

 

 

 

 

 

「おっと、ぎりぎりセーフと言った所かしら」

 

 転移門から出ると、目の前には剣を振り上げた二人の騎士と、その足元にうずくまる姉妹がいた。私は即座に、自分が取得していた魔法を発動させる。

 

人間種魅了(チャームパーソン)

 

直後、剣を振り上げていた騎士達が、剣を下ろして、こちらに向かってくる。

 

「上手くいったのかしら?・・・・・こんにちは。いい天気ね」

 

私は人間種魅了(チャームパーソン)の効果を確認するため、騎士に向かって話しかける。

 

「ああ、いい天気だな。そっちは散歩かい?」

 

問題なくかかっているようだ。騎士達は、昔からの友人と会話するように、気軽な雰囲気で話している。

 

「ええ、それよりあなた達は何をしているの?」

 

「俺達は任務中だ。今は近くの村を襲っているところさ」

 

「そうなの。それで、そこの姉妹はどうするの?」

 

「可愛そうだが殺すしかない。隊長の命令だからな」

 

「やりたくはないが、仕方ないさ」

 

その言葉を聞いて、私は瞬時に顔を顰める。

 

「それは困るわ。その子達は私の友人なの。だからお願い、殺さないでくれない?」

 

「何?あんたの友人なのか?それなら、殺すわけにはいかないな」

 

「そうだよな。友人の頼みなんだものな」

 

「ありがとうね」

 

ゲームでは効果時間が存在したが、それがこの世界でも適応されるかは謎だ。

 私は、騎士達に微笑むと、視線を外し、うずくまっている姉妹の方へ視線を向けた。少女等は明らかに怯えていた。

 

「もう大丈夫よ。あなた達を害そうとしていた騎士は、私が魔法で縛ったから」

 

警戒を解いてもらえるように、ほほ笑みを浮かべて近づく。

 

「あら?怪我をしているの?」

 

近づくと、姉妹の姉の方が、背中に大きな裂傷を負っていることに気づいた。私は、アイテムボックスからポーションを取り出すと、姉の方に差し出した。

 

「これを飲みなさい。背中の傷が治るから」

 

 恐る恐ると言った様子で受け取る娘に、安心するようニッコリと笑う。しかし、未だに信じきれていないのか、姉は迷うように。ポーションを眺めていた。

 

「大丈夫だから、私を信じて」

 

 私は優しい口調で、飲むように促す。そこで、ようやく口に運んでくれた。そして、飲み下した瞬間、背中の裂傷が見る見るうちに閉じていった。

 

「え、うそ!?傷が治った?」

 

「痛みはない?」

 

「はい。痛くありません。あれだけ痛かったのが嘘のようです」

 

「良かった♪ところで、お名前は?」

 

落ち着いたところで、二人に名前を聞く。

 

「私はエンリと言います。こっちは妹のネムです」

 

傷を負っていた方がエンリ。抱きしめられていた方がネムというようだ。

 

「私は狐月って言うの」

 

「狐月さん?」

 

「そうよ。ところで、いったい何があったの?」

 

紹介が済んだところで、何が起こっているのかを確認する。

 

「私達にもわからないです。突然、そこにいる騎士達が襲ってきて・・・・・」

 

エンリはそう言うと、目線を騎士達に向ける。

 

「とりあえず、村に行ってみましょうか。そうすれば、もっと何か分かるかもしれないしね」

 

私がそう言って村に向かおうとした時、再び背後に転移門(ゲート)が開き、誰かが出てきた。

 

「お待たせして申し訳ありんせん。狐月様」

 

「あら、シャルティアちゃんだったの。来てくれて嬉しいわ」

 

援軍として送られてきたのシャルティアだった。念のためか、完全装備である赤い鎧を着ている。

 

「鎧姿も素敵ね♪」

 

「光栄でありんす。それで、そこにいる下等生物は何でありんすか?」

 

「こっちの姉妹は私が保護したのよ。傷つけちゃダメよ。そっちにいる騎士達は敵よ。今は人間種魅了(チャームパーソン)状態にあるわ」

 

「そうでありんしたか。それで、次はどうするでありんすか?」

 

「とりあえず、村に向かいましょう。もともと村を救うために来たのだし、敵から事情を聴けるかもしれないしね」

 

「了解でありんす。至高の御方が決めた事に異存はありんせん」

 

「っと、その前に」

 

私は騎士達の方を向く。

 

「私達が戻るまでこの姉妹を守っていてくれない?」

 

「ああ、いいとも。友達の頼みだもんな」

 

「お安い御用さ」

 

騎士たちは、快諾すると、二人を守るように立ち位置を変えた。

 

「これで良し。それじゃあ行きましょうか」

 

「あ、あの、助けてくださって、ありがとうございます!」

 

「ありがとうございますっ」

 

そこで、エンリが私へとお礼を告げる。妹のネムも姉に倣い礼を告げた。

 

エンリは目尻に涙を浮かべつつ感謝の表情を浮かべていた。

 

「気にさなくても良いのよ」

 

「あ、あと、図々しいことは分かっていますが、でも、狐月さんしか、頼れる方がいないんです! どうか、どうか! お父さんとお母さんを助けてくださいっ」

 

「助けてくださいっ!」

 

妹のネムもハッとし、両親救助を姉に続き必死に懇願してきた。

 

「生きていれば助けます。だから、そこで大人しく待っいなさいね」

 

私はそう言うと、シャルティアを伴って村の方へ向かった。

 

 

 

 

 

 

「おら!さっさと集まれ!」

 

「逃げた奴は殺せ」

 

村での虐殺はすでに止んでおり、生き残った者たちが中央へと集められていた。

 

「隊長。こいつらはどうしますか」

 

一人の騎士が、周りのものよりも豪華な鎧を着る騎士へと質問する。

 

「話を伝える者を数人生かしておけばいい。それ以外は殺せ」

 

「わかりました――聞いていたな。適当な数になるまで殺せ」

 

その指示を受け、村人を囲んでいた騎士たちが剣を抜く。村人たちは、恐怖で動けなくなった体を寄せ合う事しかできなかった。

そして、振り上げられた剣が、村人目掛けて振り下ろされる。

 

「は~い。そこまでにしてね」

 

 しかし、振り下ろされた剣が村人を切り裂くことはなかった。剣は、突如として現れた女性が持つ扇子によって、受け止められていた。

 

「無抵抗の人を虐殺するなんて、どういう教育を受けたのかしら?」

 

 そして一閃。騎士の持つ剣は、たやすく退けられ、剣を持った騎士も、あまりの勢いに態勢いを崩し、尻餅をついた。

 

「な、なんだ貴様は!」

 

隊長らしき騎士が、突如として現れら女性に驚きの声を上げる

 

「通りすがりの者ですよ。なんだか、困っているみたいなので、助けることにしました♪」

 

「ふざけたことを!お前たち。さっさと殺せ!」

 

その声に、今まで呆然としていた騎士たちが、一斉に剣を抜いて向かってきた。

 

「さて、どれだけの物か見てみましょうか」

 

 女性は、騎士たちの攻撃を容易くかわし、鎧に覆われていない箇所を扇子でたたいていく。一見して、威力のあるようには見えない一撃だが、叩かれた騎士たちは、次々と地面に倒れていく。

 

「遅いわね~。レベルが低いのかしら?」

 

騎士たちは必死に追いかけ、剣を振り回すが、女性には一太刀すらあたらない。

 

そうしている間に、騎士の数はどんどん減っていった。

 

「あと5人・・・4人・・・3人・・・2人・・・1人・・・はい、お終い♪」

 

 最後の一人が地面に倒れる。残っているのは、身を寄せ合ってこちらを窺う村人と、剣も抜かずに腰を抜かしている隊長だけだった。

 

「結構簡単だったわね」

 

「お見事でありんす、狐月(こげつ)様」

 

戦闘が終わったので、上空で静観しているように言いつけたシャルティアが地上へと降りてくる。

 

「ありがとう、シャルティアちゃん。退屈じゃなかったかしら?」

 

「至高の御方である狐月様の戦闘をこの目で見れたのですから、退屈などしんせん」

 

「そこまで言われると照れちゃうわ」

 

 私は、シャルティアちゃんとの会話を切り上げると、村人たちの方を向いた。村人たちは、騎士を倒してくれた私たちに怯えてこそいなかったが、僅かに警戒しているようだった。

 

「誰か縛るものを持っていないかしら。ここに倒れている騎士と、あそこで震えてる偉そうなのを縛ってほしいのだけど・・・・・」

 

「い、家にロープがあります」

 

「ならそれを持ってきてくれるかしら?」

 

「は、はい!」

 

一人の村人がロープを取りに家に戻っていった。

 

「あ、貴女様はいったい何者でしょうか?」

 

そんな時、一人の村人が近寄ってきた。

 

「私は通りすがりの者です。近くから悲鳴が聞こえたもので、何事かと駆けつけました」

 

「そうでしたか。私はこの村の村長をしている者です」

 

「村長さんでしたか。これは挨拶が遅れました」

 

私は村長に向けて礼をする。それに対し、村長のほうも慌てて礼を返した。

 

「ここで立ち話もなんです。良ければ、私の家に来ませんか?」

 

「そうですね。いろいろと伺いこともありますから、お邪魔させてもらいます」

 

私とシャルティアちゃんは、村長の後に続き、彼の邸宅へと向かった。彼の邸宅は、他の村人のものより少しだけ立派であった。

 

「それで、村を救っていただいた報酬の事なですが・・・・・」

 

「報酬?」

 

「はい。村はこんな有様ですし、何とかかき集めますが、ご満足いただけるほどの額はないかと・・・・・」

 

邸宅に入り、用意された席に座った私たちに、村長が報酬の話をし始める。

 

「別にいりませんよ。私は報酬を期待して助けたわけではありませんから」

 

「そうですか」

 

私が断ると、村長は明らかに安堵した表情になる。

 

「ですが、その代わりほしいものがあります」

 

「そ、それはなんでしょうか」

 

村長の表情が再び緊張する。

 

「情報ですよ。実は、私はあなたが知らないような、遠くの国から旅してきました。そのため、ここら辺の状況や、通貨について知らないのです」

 

「本当にそのようなもので宜しいのですか?」

 

「ええ、時に情報は金よりも価値を持ちますから」

 

「分かりました。私が知る限りの事をお教えします

 

この世界を知る第一歩である。

 

 

 

 

 

 

「それでは、葬儀の用意が整ったようですので、暫し席を外します」

 

「かまいませんよ」

 

私は、呼びに来た村人に付いて墓地に向かう村長夫妻を見送った。

 

「ふ~ん。それにしても、いろいろと聞くことができたわね」

 

「はい。あの男。そこそこ使えたでありんす」

 

村長から聞けた話は、周辺に存在する国と、その関係。通貨や生息するモンスター。その他もろもろだ。

 

「バハルス帝国、リ・エスティーゼ王国、スレイン法国。村長さんが知っていたのはこれだけね」

 

 村長が知っていたのはこの三つであり、今いるのはリ・エスティーゼ王国らしい。バハルス帝国とスレイン法国はこの国の隣にあり、仲は良くない。特に、バハルス帝国とは、年に一度のペースで戦争が起きているらしい。

 

「村長さんが知らないだけで、他にも存在する可能性もあるわね」

 

出来れば、どこかで地図を入手したい所だが、今は難しい。

 

「それにしても、周辺に出るのがゴブリンとオーガだけとは、拍子抜けでありんす」

 

先程の話で判明した、この近辺に出現するモンスターの弱さに、シャルティアちゃんが笑う。

 

「そうね。それに、それすらも脅威だというのだから、この世界の人達のレベルは、思っていたよりもずっと低いみたいね」

 

この情報はかなり有益だ。まだ確実ではないが、これから行動を起こす時の判断基準にはなるだろう。

 

「村も救ったし、有益な情報はこれ以上なさそう。そろそろ、ナザリックに戻ろうかしら」

 

 私は、そろそろナザリックに帰還しようか検討し始めた。しかし、村長が急いで戻ってきたことで、まだ戻れないという予感がした。

 

「狐月さん。馬に乗った者達が、村に近づいてきているようです」

 

予感は的中。帰還は先送りになった。

 

「先程の残党かしら?とりあえず、村人達を安全な避難させてください。村長さんは私と一緒に来てくださいね」

 

「分かりました」

 

村長が村人達に避難を呼びかけに行った後、私は席を立ち、村の広場へと向かう。村人達は、早くも避難を終えたようだった。

 

広場につくと、遠くから騎乗した戦士の一団がやって来るのが見えた。先程の騎士達と違い、装備に統一感がなく、先程の残党ではないことが分かった。

 

「――私は、リ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士達を退治するために王の御命を受け、村々を回っているものである」

 

一団は広場までやってくると、その中の一騎が名乗りをあげる。

 

「王国戦士長!?」

 

隣に立っつ村長が驚いたように呟く。

 

「知っているのですか?」

 

私は、村長だけに聞こえる声で尋ねる。

 

「はい。商人達の話では、王国の御前試合勝利した最も腕の立つ人間が選ばれる地位であり、王国の王直属の精鋭兵士達を指揮する人物だとか」

 

「なるほど」

 

話している間に、戦士長の視線が村長を捉える。

 

「村長だな。隣の者は誰か教えて貰いたい」

 

「初めまして。私の名は狐月。遠い異国から旅をして来た者です」

 

「異国の者か。何故このような所に?」

 

「悲鳴が聞こえたので駆けつけました。そうすると、村人達が襲われていましたので、助けた次第です」

 

「そうであったか。村を救っていただき感謝の言葉もない」

 

「気にしないでください。こちらも報酬は頂きましたから」

 

「そうか。では申し訳ないが、どのような者達が村を襲ったのか、詳しい話を聞きたいのだが?」

 

「それでしたら、私の家でいたしましょう。長くな――」

 

村長が自分の家に戦士長を誘った時である。一人の戦士が、息を切らしながら駆け込んできた。

 

「戦士長! 周囲に多数の人影を確認。すでに村を包囲した状態で、接近しつつあります!」

 

村の危機は去っていないようだった。

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