それでもいいという方は第五話をお楽しみください。
「-っ!?」
妖夢の囁くような小さな声が耳元で聞こえ、走って逃げようとしていた私の首元に後ろから伸びてきている楼観剣が添えられていて、なんとか踏みとどまった。
「…魔理沙、大人しくしてもらうわよ」
私の予想は大外れだったらしい。妖精が起こした異変ならば妖夢は出てこないだろう。妖夢が何かしらの事情で参加している可能性もある。もしかしたら、妖夢達が異変を起こして妖精たちが従っているという可能性も捨てきれないが、今はそんなことはどうでもいい。
「…くそ……次から次へと…なんだってんだ……!」
私が小さな声で毒づいていると、真後ろに立っている妖夢は無言で私の足を蹴り飛ばしてきた。
妖夢の華奢な見た目からは想像もつかないほどの威力で足を蹴られた私の体は、空中で一回転して地面に背中から落ちてしまい。妖夢に無防備な姿をさらしてしまう。
「うぐっ!?」
たった三十センチ程度の高さでも、受け身を取れなかったおかげで思っていた以上の鈍い痛みを背中に感じる。
衝撃でほんのわずかな時間だけ肺が変形し、肺の中にあった空気が肺から押し出されて口から漏れ出た。
「魔理沙、これであなたは終わり…調子が悪かったのか知らないけど、さようなら」
起き上がろうとした私の首に妖夢は正面から楼観剣を添え、淡々と冷たく言い放つと持っていた得物をまるで、武士が切腹者を介錯をするように持ち上げる。
「っ……ちょっ……まっ…!?」
自分の身の危険を感じた私はとっさに手を上げてガードしようとするが、木の幹すら簡単に切断するほどまでに切るという行為に特化している楼観剣にとって、私の細い腕など紙同然だろう。
怖い。怖すぎて言葉も出なかった。生まれてこのかた向けられたことのない殺気に、私は圧倒されていたのだ。
自分の切られる瞬間なんか見たくもない。私が目を閉じようとしたとき、妖夢が私の首に向けて楼観剣を振り下ろす。
「妖夢、私の友人をどうするつもりかしら?」
パキィィィィッ!!
金属の何かがぶつかったような甲高い音が無駄に大きく響き、妖夢は舌打ちをしながらステップを踏むようにして私たちから数メートルの距離を取る。
赤色と白色の巫女服がふわりと私の前ではためき、魔力の塵をまき散らさせながら私を切り裂くはずだった楼観剣を彼女は弾き飛ばさせた。
凛とした横顔、手入れが行き届いていてサラサラで綺麗な黒色の髪、博麗を象徴する赤と白の巫女服を着た女性の博麗霊夢は間一髪で私を助けてくれた。
妖夢の楼観剣は折れたわけではない。だが、妖夢の手には霊夢に殴られたことで強い衝撃を貰ったらしく、ビリビリと痺れている手を握ったり開いたりし始めた。
「…私たちは敵、それ以上でもそれ以下でもないでしょう?……どうせ話なんかお互いに通じないんだから、最終的には穏便では終わるはずがない……だから戦ったのだけれど、何か悪いの?」
妖夢は楼観剣の刃が欠けたり曲がったりしていないか、刀が歪んではないかを確認して痺れの治まった手で楼観剣を握り直す。
「…そうね。……それより魔理沙。あんたがこの二人に後れを取るなんて想像もつかないんだけど、大丈夫かしら?」
妖夢が楼観剣の柄をギュッと握り直し、何度も見たことのある剣道の基本的な構えに似た型で構えをした妖夢は戦闘体制に移行した。
「…ああ……」
体に存在している痛みと自分が生存していることを確認し、多少痛みを感じはするが騒ぐほどの痛みでもないため、私は霊夢に短く返答を返す。
「…そう、無事ならよかったわ」
霊夢が安心したように肩からわずかに力を抜き、そのうちに妖夢とこちらにふわふわと遅れて浮きながら飛んできたチルノが合流する。
「妖夢!!二人で霊夢を倒そう!さいきょーのアタイがいれば霊夢なんてちょちょいのちょいだよ!!」
そのどこから来るのかわからない自信で余裕そうな笑みを浮かべてチルノが言い。右手の平を上に向けて勢い良く振り上げ、手のひらの上に氷の剣を形成させた。
「…っ」
私は目を見張った。こっちの世界にいるチルノと私のいた世界にいたチルノとではスケールも質も違いすぎるのだ。
チルノの周りや私たちの場所まで急激に気温が下がり、私たちの吐く息が白くなっていく。
体内の温度と外気温の差が高くなり、周りの温度が低いため吐いた息に含まれる水蒸気が空気中の塵や埃に付着して水滴となり、吐いた息が白く見える。
森の中でさっきまでの攻防で木が折れ、そこから遮られていた日の光が入ってきてわずかに温度が上がったというのに、意外と涼しかった周りの温度が摂氏〇度かそれ以下にまで下がっていき、あまりの寒さに耐えきれずに私は魔力で体を覆って寒さから身を守った。
バキキキキキッ!!
自分の身長の倍以上にもなる大きさの巨大な氷の大剣をチルノは簡単に作り出す。無駄な装飾品などは一切作られておらず、かなりシンプルなつくりである。
その剣は切るというよりは、叩き潰して力任せに対象をぶった切るといった用途なのだろう。刃の鋭さはあまりないように見えた。
私がいた世界よりもこっちのチルノはかなり強い。頭の方は置いておいて、もしかしたら、紅魔館の居眠り門番とどっこいどっこいになるぐらい強いかもしれない。
「…食らえぇぇぇぇぇぇっ!!霊夢うぅぅぅ!!」
ぶん回して周りの木を叩き折り、チルノが真上から霊夢に向けて氷の大剣を振り下ろした。
「チルノ!待って!!」
妖夢がかなり焦った様子で、霊夢にその大剣で斬りかかっていくチルノの攻撃をやめさせようと手を伸ばす。
だが、妖夢は霊夢に近づいていたチルノの肩に触れることができなかったらしく、伸ばしていた手が何かに触れることなく握りしめられ、少し悔しそうな顔をした妖夢はそれと同時に後ろに引き去る。
霊夢がこちらに向けていた優しい瞳の色が変わり、攻撃対象でない私が寒気するような攻撃的な瞳をチルノの方向に向けた。
「…ふふっ…」
霊夢はわずかに口角を上げて薄く笑い。チルノの攻撃に備えてお祓い棒を構えた。
ドガッ!!
大砲でもぶっ放したような大音量と共に、私の目に映し出されたのは内部から爆発したように見えるチルノの大剣だった。
剣を形成している氷の結晶が大小さまざまな大きさで散らばり、空気中でキラキラと光り、この光景は非常にきれいだ。
それよりも、驚いたのは霊夢がチルノの大剣を叩き壊したのは、スペルカードなどの小賢しい手を使ったわけではなく。魔力で強化された自らの純粋な力だけでチルノの得物を破壊したのだ。
四方八方に散らばっていく氷の結晶をかき分けながら、霊夢が突然持っていた武器が無くなったチルノの胸倉に左手で掴みかかった。
「いぎっ!?」
霊夢の引き寄せる力がだいぶ強かったのか、チルノが小さく悲鳴を上げた。その直後、霊夢が掴んだチルノのことを勢いよく地面に投げ技で叩きつけた。
「……がはっ…!?」
チルノが投げ技で地面にぶつかると、チルノのいる位置が一〇センチほど狭い範囲で地面が陥没し、その周りが地割れのように割れながら岩石などがわずかに浮き上がってくる。
その時点で既にチルノは虫の息となっており、肺に折れた肋骨や砕けた背骨が突き刺さってしまったのか、ものすごい量の血を口から吐き出して失神している。
びくびくと手足を痙攣させ、白目をむいて気絶しているチルノを掴んだまま、右手に持っているお祓い棒でチルノを殴るためにお祓い棒を振りあげた。
「霊夢!まっ……!」
殴ろうとした霊夢に手を伸ばして待ってと叫ぼうとしたとき、霊夢は無視したのか私の言葉が遅かったのか、またはその両方かもしれないが霊夢はチルノの胸にお祓い棒を振り下ろす。
肉を砕くというよりも、肉を潰すという表現の方が近いだろう。それと同時に大量に並べられた骨を一気に叩き割ったような身の毛がよだつような音が聞こえてきた時、私はその光景を見ていなければよかったと後悔した。
たぶん明日も投稿すると思います。気が向いたら見てやってください。
読みずらかったら申し訳ないです。