『蟷螂の島』   作:城元太

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「ある種の動物は個体群密度が高くなると、『孤独相』と呼ばれる通常の個体から『群生相』という飛翔・移動に適した形態に変異する場合がある。今日見た飛翔体は、まさにその『群生相』に変化した個体群だろう。この島にディマンティスがこれ以上棲めなくなるのも時間の問題だ。それに先の攻撃で進化速度が加速されたに違いない」

「それで奴らは色と形を変えたのですか」

 ウォルターの質問の間、ナイルズは一度だけコーヒーを口にして息つく暇なく語る。

「最悪のシナリオとして聞いてくれればいい。奴らが大陸を目指すとしたら、あのオーガノイドが巣を掛けた古代遺跡ではないかと思う。北エウロペまで渡ればその先はすぐデルポイとニクスだ。ただでさえ爆発的に増殖を始めているのに、新たな営巣地を確保し繁殖し始めれば、この惑星がディマンティスだらけになることも有り得る。

 生態系とは地質学的な年代を重ねて育まれて来たものであり、単独種が繁栄することは生物多様性の面からみて許されるものではない。この星のゾイドのユニークさは誰もが認めるものだろう。ところが奴らはつい先程産まれたばかりの生物界のルールを知らない怪物だ。今は化石木を食って成長してきたが、食糧に事欠けば次に栄養分となるものを探すだろう。世代交代の速さは進化の速さに比例している。何千何万に増殖したディマンティスが狙うのは、この惑星で最も繁栄している生物だ。それは何だと思う」

 腕を組んだウォルターが、絞り出すような低い声で答える。

「生きたゾイドか」

 ナイルズが静かに頷く。

「奴らはどんなものでも養分として摂取できるように消化器官を改変できる。化石木の次はゾイドを食糧として襲い始めるだろう。そしてゾイドに次いで繁栄しているものは何か」

 答えは知っている。だがその場にいる誰もが声を出せない。

「人間」

 答えたのは扉の向こう側から飲み物を運んできたルイであった。彼女の返答を機に一度留めた堰を切るが如く、ナイルズの説明が続けられた。 

「我々を構成する有機物というものは非常に効率よく熱量を産み出せる。人類は奴らにとって最良の、そして最後の食糧だ。歯止めなく増殖し、ゾイドを食い尽くし、人類を食い尽くし、この惑星上の全てを食い尽くしたら、奴らは自分達も滅びることを知らない。奴らは今の惑星Ziの生態系の外側にあるのだから」

 デニスがファイルを開き、ホーソンから送られた資料を示そうとするとナイルズが奪い取るように彼の前の資料を手に取った。

「しかし、それを押し留めるかもしれない方策を、ここにいるデニス君が示してくれたのだ。皆さんは『ゴルディオス』という生物を聞いたことがありますか」

「『オルディオス』ですか」

「『ゴルディオス』、ペガサスには似ても似つかない代物です。正式には『ゴーディアン・ワーム』と呼ばれますが、その名の由来は『ゴルディオスの結び目』と呼ばれる地球の古代の王が示した解けない謎から付けられたものです。ゾイドに寄生する生物で、今度の事件の解決の糸口を示してくれるかもしれないのです」

 更に興奮気味で早口に捲し立てるナイルズに、デニスは全く言葉を発することができない。一方ナイルズは次第に身を乗り出していく。

「我々は見落としていたのだ。彼がウェイクフィールドのところで取材した時思いついたこと、天敵というものが外部から狩猟をするものだけだという先入観を拭えずに」

「少し落ち着いて下さい。あなたの悪い癖だ」

 ウォルターの静止に、我に返ったナイルズが応接間のソファーに深く腰を下ろす。コーヒーを一気に飲み干し激しく咳き込む。デニスは唖然として目の前の研究者を見ていた。不思議な人だと思った。

「大凡の内容はウォルターから聞きましたよ。それにしてもよく気が付いたものだ。奴らの生殖機能を奪い、漸進的に減少させ殲滅させるとは」

「彼は、蟲に関、して、造詣(ぞうけい)、が深い、そう、なの、です」

 咳き込みながら告げるナイルズに半ば呆れながら、ワイツゼッカーは続ける。

「問題はどのようにして奴らにそれを摂取させるかだ。餌場に撒き散らしてもいいが、それでは『ゴルディオス』が成長するまでに渡りを行ってしまうかもしれない。奴らをこの島に閉じ込め、もっと効果的に漸減する方法はないものだろうか」

「それについてなのだが、ルイ君ちょっと」

 ウォルターが背後を振り向きルイを呼び止める。若い女性事務員は戸惑いながらトレイを持ったまま近づいた。

「彼女が先程話していたこと、覚えていますか。『人は助け合って生きなければならない。最初から疑うのではなく、信じ合うことから始められる。怖いのは人を信じられなくなった時だ』と」

「今、更、倫理、観、など、持ち、出し、ても……」

「だから少し落ち着いて下さい。この()の話の様に、我々もあのディマンティスも互いに助け合って繁栄してきたとすれば、今度はそのコミュニティーを破壊できれば繁殖を抑制できるのではないかと思うのです。お互いに信じられない世界を作って崩壊させる。その為に、中佐にはもう一度帝国軍に交渉を願いたいのです」

「いったい何をお考えなのですか」

「『目には目を』、ディマンティスにはディマンティスを、です」

 時折咳き込むナイルズに会話を中断されながら、デニスは漸く次の作戦行動への骨子を語る事が出来た。感嘆の声と共に夜の闇が閉ざしていく。彼らの後ろで一人の女性が佇みながら。

 

『呪縛を断ち切れるか、ゴルディオス作戦発動』

 ダイノ島でのディマンティス大量発生事件に対し、共和国軍は再びその掃討を開始した。(中略)本作戦は前回の反省を踏まえ天敵を利用した生物農薬での駆逐を行う。今回利用されるのは、昆虫型ゾイドに寄生し宿主の繁殖を抑制する線形虫型ゾイド『ゴルディオス』である。大量に培養されたゴルディオスのコアをディマンティスに食べさせ、体内に寄生させ繁殖を抑制する。なお、生物汚染が発生することのないよう、ゴルディオスは繁殖能力を奪った形で利用される。(中略)仲間と見せかけた小型ゾイド※を使い、摂食行動を模倣させ、仲間同士での戦いによる相討ちを狙う。生物学的な研究を元にした作戦に大きな期待が持たれている。

(※注;本来「帝国から譲渡されたディマンティス」と記述した部分は本社の指示により文言を差し替えられている)

 

『ゴルディオス作戦』の音韻は華々しく響く。しかしその実態とは遥かにかけ離れていた。

 駐屯地には黄緑色のディマンティスが整列している。積載してきたホエールキングがダイノ島を後に飛び去って行く。ワイツゼッカーの提案を介し、再び帝国軍に要求されたのは中隊規模でのディマンティスの貸与である。ところがダイノ島での状況を知り、帝国内でも機体を持て余し気味であったゾイドは、貸与ではなく譲渡という形で、ダイノ島に留め置かれることとなった。

『ハーメルン作戦』で使用したダークスパイナーと異なり、機体のみでパイロットがいないため、軍はPMCを含め急遽島内で操縦可能な人材に協力を要請し、その中に島のパイロットのアンドリューも加わっていた。

「自分がこいつに乗るなんて複雑な気持ちです。こいつ新型なのに操縦系は随分と単純だ。コクピットの狭さは耐えられない。危険な事は我慢できますが狭いのはどうも。共和国軍部隊を先導すればいいのですね。危険手当もお願いしますよ」

 慣れない帝国製のゾイドに戸惑いながらも、人の操るディマンティスは作戦発動に向け待機していた。

 

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