『蟷螂の島』   作:城元太

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 ディマンティスは、鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)が開発したSSゾイドである。共和国首都侵攻作戦を初め、生産性の高さから短期間で大量の製造が行われた。公称データによると全長6.48m、全高7.2m、重量10.0t。その後ブロックスゾイドが普及しても、ネオゼネバス帝国軍の中核となり活躍し続けた。

 大規模な戦闘が終わり役目を終えた戦闘ゾイドは、そのまま民間に払い下げられるか場合によっては軍によって解体処分される。ディマンティスの場合も同様で、ネオゼネバス帝国内での処理が行われたが、拡大した戦線の中、デルポイを含めニクス、エウロペなど幅広い地域で遺棄された機体も多く残っていた。ニクスなど極北の大地には昆虫型ゾイドの成育は不適なため野良ゾイド化しても生き延びることは無かったが、エウロペの砂漠地帯には環境に適応し野生化した昆虫型ゾイドは多数棲息していた。モルガを筆頭に、ガイサック、サイカーチス、グランチュラなどが散見され、その中に後発のディマンティスも加わっていた。

 古物商であり中古ゾイドの回収業を営むシェイラーにとって、作業用ゾイドを確実に捕獲できる北エウロペのレッドラストは絶好の活動場所であった。作業用ゾイドには小型が好まれる。コマンドウルフなどの中型以上となると、民間では維持が難しく、また戦闘に特化した機体であれば尚更民間転用がしにくくなるからだ。ディマンティスはまさに、彼にとって理想的な小型ゾイドであったのだ。

 ダイノ島から再び注文の報せが届いたのは、ウェイクフィールドの農場に3機のディマンティスを届けたその1週間後であった。果樹栽培を営む農場主たちから、ウェイクフィールド同様に使い勝手のいい小型のカマキリ型ゾイドを購入したいという申し出が相次いだ。丁度捕獲のためレッドラスト周辺で作業を続けていたシェイラーは、一度に十数機の注文を受け歓声をあげた。個人作業を行っている彼にとって大量輸送は不可能である。日取りを選びつつ、輸送と捕獲の手配を済まし、目標数を捕獲の後に再びダイノ島へ向かう準備を整えた。

 彼が向かったのは古代遺跡の神殿である。激戦が繰り広げられたらしく、遺跡の奥には幾つものゾイドの残骸が横たわっていた。戦闘が終わって十数年が過ぎ、遺跡の中の残骸の殆どが砂に埋もれていたが、不思議な事にどの残骸も一様にコアが消失し、機体の中央に大きな穴が空いていた。

「薄気味悪い遺跡だ」

 牽引してきたグスタフと、捕獲機器を装備したゴドスを前にシェイラーは呟く。照りつける砂漠の陽射しは陰影のコントラストを明確につけているのに、遺跡の周りは異空間が広がるように不気味な静寂を保っていた。だが今の彼にとって必要なのは一匹でも多くのディマンティスを捕獲する事である。彼は傍らに建てられた無名兵士の墓碑に気付くことはなかった。シェイラーは視線を通路の奥に向けた。

 いた。

 遺跡の奥、赤い複眼を光らせた小型のカマキリ型ゾイドが神殿の片隅に群がっている。上体を起こした警戒のポーズを取るものの、体格に優れた捕獲用ゴドスを前にして一斉に散らばって行く。

 捕獲用の電磁ネットワイヤーを撃ちこむと、ディマンティスはたちまち網にかかった。2機、3機。牽引してきたグスタフのトレーラーのケージは直ぐに一杯となる。シェイラーは経験的に疑問を持った。警戒感が少ない。戦場を駆け抜けてきた機体であればもっと遥かに獰猛なはず。まるで捕えられることを待っているかのような行動は恐怖の記憶が欠損している証拠である。だがそれだけに商品としては申し分ない。人の操縦を素直に受け入れることだろう。それにこの機体――生物と見た場合『個体』と呼ぶべきか――は若い。黙々と捕獲作業に勤しむシェイラーは、純粋に職業としての誇りを追求できる喜びに満たされていた。

 ダイノ島に再び到着したのが、それから10日後。今度は10機のディマンティスを携え、トレーラーを3倍に伸ばしたマルダーを引き連れ山間の村に向かっていた。

 ディマンティスはたちまちの内に売り切れた。予約をしていた農業主はもとより、興味を抱いていたウェイクフィールドの周辺の農家も競って購入をした。それは、彼らにとって戦争による特需で蓄積していた資産を僅かに吐き出したに過ぎない。戦争が終わり若年層の都市部流出に悩むダイノ島農家にとって、汎用できる小型ゾイドは作業効率を上げるまさに救世主であった。

 シェイラーは再度空になったトレーラーと、直接手渡された現金の重みを味わっていた。

 このゾイドは商売になる。

 これ以降、ダイノ島では幾つものディマンティスを目にするようになっていった。

 

 その異変に最初に気付いたのは、やはり最初にディマンティスを購入したウェイクフィールドであった。購入して1か月が経ち、3機それぞれの機体のくせも理解した頃である。他の2機に比べ、多少作業の面で劣っていると思われた1機が、ある夜突然農場を脱走していた。強固な格納庫の柵が破壊され、道には点々とディマンティスの歩行した轍が刻まれていた。購入当初からおとなしく、激しい行動を一度もしなかったこの機体にウェイクフィールドは驚きつつその跡を追った。

 彼は4か月前のスパイカーの最期を思い出していた。

「まさか、おなじ原因で」

 長年乗りなれたゾイドを失うのは誰しも悲しいものであるが、その旧式ゾイドの最期は悲惨であった。同じカマキリ型ゾイドである以上、同じ病巣に蝕まれる可能性は高い。彼は不安と恐れを抱いたまま、地面に刻みつけられた轍を別のディマンティスに乗って辿って行った。

 逃げた機体は直ぐに見つかった。ダイノ島の中心線に沿って背骨の様に伸びる山地は、地球由来の果樹林と違いこの星特有の金属を含んだ樹木が自生する森林である。僅かに金属光沢を放つ木々の合間、違和感のある黄緑色の機体が2機で機体幅ぎりぎりの極小円を描きながら踊っていた。

 ウェイクフィールドは、改めて自分の農場から逃げ出したディマンティスは1機であることを思い返し、もう1機の姿を凝視した。機体の腹部横に見慣れた人名が記されているのを発見した。“アルヴァレズ・マイヤーズ”、彼の隣でやはり農場を営む者である。といっても、広大な果樹林では例え隣家の農場とはいえ頻繁に接触する機会などない。しかし、まるで呼応したように2機のディマンティスが同時刻に脱出していたのだ。森の向こう側に、彼と同様に足跡を追ってきたのであろうアルヴァレズの乗るガイサックの姿があった。

「何をやっていると思う」

「わからんよ!」

 声を張り上げ、捕獲の打ち合わせを交わす。合図とともに飛び出した2機のゾイドは、輪を描いて踊るそれぞれのディマンティスをすぐに捕えていた。

 結局、脱出の理由はわからないまま、ディマンティスは農場に戻って行く。 

 ウェイクフィールドらは、この時点で気付くべきであった。2機のディマンティスが輪を描いて踊っていた理由が、ある種の野生体に見られる特殊なディスプレイ行動であることを。

 島は相変わらず美しい景観を保ち、宝石のような果実を大陸に供給し続けていた。

 

 

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