『蟷螂の島』   作:城元太

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 当初、ダイノ島に持ち込まれたディマンティスは29機。需要の充足により、シェイラーの取引も一段落を迎えた。この間もディマンティスの脱走は断続的に起こり、その度に捕獲されることを繰り返していた。

 

 ナイルズ・ウィルバーフォースが、ダイノ島東部の軍港を兼ねた埠頭に上陸したのは、島で何機かの野良ゾイドと化したディマンティスが見受けられるようになった頃である。シェイラーが移送したディマンティスは簡易の自律機能を有するとされていた。1機を操縦して土起しや開拓作業を行うと、それを真似て2~3機のディマンティスも作業を行う。無人作業もこなすディマンティスと、相次ぎ脱走して野良化したいわゆる野良ゾイドとの判断に戸惑い、確認に時間差が出てしまっていた。ナイルズは、本来繁殖能力のない機獣化されたゾイドがなぜ独自に繁殖を開始しているのか、ニューヘリックシティーの共和国エウロペ自治政府環境局よりその繁殖状況を確認、研究する為派遣されてきたのだ。

「眩しいな」

 磨き抜かれた縁取りの無い眼鏡に、熱帯の陽射しが照り付ける。彼は乱雑に詰め込んだ着替えで膨れ上がったトランクを引き摺りながら、港湾に併設されている軍と共用の官舎に向かった。

 涼やかに微風が吹き抜ける。湿気が少ない為気温の割に官舎の中は快適である。ダイノ島駐屯部隊のカール・ワイツゼッカー中佐は、同島の代表者にあたるウォルター・ジェームズと共にナイルズの到着を迎え入れた。

「ナイルズさん、“ダイノ島における野良ゾイド大量発生対策委員会”発足にあたり、遠い所から遥々御足労頂きありがとうございました」

 差し出された二人の右手それぞれと握手を交わす。

「今回の事態については、私個人の研究テーマにも沿ったものです。研究局長のフィニアスには志願してここに派遣してもらいました。これまでの経過と島の地形についていろいろお伺いする事となりますので宜しくお願いします」

 氷が浮かんだコーヒーが差し入れられると、ナイルズはストローも使わず一気に飲み干した。

「長旅で喉が渇いていましたか。ルイ君、冷たいものをもう一杯頼む」

 ウォルターの呼びかけに応じ、若い女性が応接室の開かれたドアから島特産のオレンジジュースを運んで来た。黙礼をした後ナイルズの前に置かれた氷だけが残るグラスと交換する。ナイルズは柑橘類の爽やかな香りが漂うグラスを持ち上げ水滴を見つめた。

「先ほど個人的な研究テーマと言いましたが、御専門は」

 ワイツゼッカーの質問に一度グラスを置くと、今度はストローを取り出し、オレンジのグラスに差し込みながら(おもむろ)に答える。

「オーガノイドシステムです」

 ワイツゼッカーの手が止まる。二人はナイルズの顔を改めて見直した。

「あなたはあのディマンティスの自然繁殖に、やはり古代ゾイド文明のテクノロジーが関わっているとお考えなのですね」

「調査してからではないとお答えはし兼ねます。ただ、資料から判断した繁殖速度の異様さは、明らかに野生体の常軌を逸しているとだけは言えます」

 研究者の言葉は、島の代表である二人に不安を抱かせるには充分な重みを持っていた。

 

「ゾイドは機獣化が完了し戦闘ゾイドとして改造されると、摂食行動及び生殖活動を抑制されます。摂食行動については、戦闘により凶暴な野生の本能を呼び覚ました場合、養分が摂取できずとも相手に噛みつく事例が報告されています。改造の度合いによって、口からの養分を取り込む機能の残されているゾイドもありますが、概ね燃料を補給される方が効率は良いものです。

 一方の生殖活動については、戦闘ゾイドであれば繁殖は完全に不可能といわれています。理由は、種の保存という摂食行動以上に重要な本能を残していた場合、戦闘行動に支障がでる可能性があるからです。つまり去勢を施すようなもの。機獣化された場合、その体躯も機能も寿命も飛躍的に伸びますが、同時に生命体として失うものも多いのです」

 既にグラスは空になり、三度目のオレンジジュースが注がれていた。

「繁殖、摂食共にできないはずなのに、実際あのディマンティス達は行っている。あなたの研究と何か関わりがあるのですか」

 ウォルターが半身を乗り出しナイルズを見つめる。グラスに視線を落としながら、彼は話を続ける。

「写真資料を拝見しました。頭部コクピットが狭くなっていることに気が付きませんでしたか」

 彼はトランクの中からファイルに挟まれた数枚の写真を取り出し指し示す。

「これは野生化する前のディマンティスです。お判りになりますか、このゾイドは既に口吻を再生させている」

 覗き込んだ写真には、帝国ゾイドである制式のディマンティスと、島に持ち込まれたそれとの比較がされている。見比べると、明らかに島のディマンティスの口器は肥大化していた。

「説明を聞いた限り、ディマンティスは古代遺跡で繁殖をしていたと聞きました。その段階で繁殖は可能になっていたのです。食糧となるものがなかったことと、天敵となるガイサックやグランチュラに捕食され、繁殖数は抑制されていたようです。

 最初は所在不明だった古代遺跡ですが、マイヤーズという古物商を問い詰めようやくつきとめました。

 中佐、アーサー・ボーグマンというパイロットは御存知ですか」

「無論知っているとも。赤の紋章を持つレオマスターだ」

 ウォルターと顔を見合わせ互いに頷く。その様子をナイルズは黙って見つめる。

 ワイツゼッカーの顔がみるみる青ざめた。クレイジーアーサーの最期、派遣されたオーガノイド研究者、そして古代遺跡と自己増殖するゾイド。言葉と言葉の円環が、その佐官の中で音を立てて繋がっていた。

「まさか、その古代遺跡とは」

「デススティンガーの巣だった場所です」

 ナイルズの言葉に、ワイツゼッカーは室内の温度がいっきに下がったような錯覚に襲われていた。ふと俯くと、空になった透明なグラスの中で細長い氷が二つに割れていた。

 

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