『蟷螂の島』   作:城元太

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 デニスは島に上陸して以降、精力的に取材を継続する。ウォルター、ナイルズ、ワイツゼッカーなど最初にディマンティスの事件に関わった人物たちからの聞き取り調査と、何度も営巣地区に視察を行っているパイロットのアンドリュー、ディマンティスを購入した農場主のウェイクフィールドとアルヴァレズ、そして島に持ち込んだ古物商マイヤーズの元に足繁く通い、多くの情報を取集する。

 目新しい事実に巡り合うことは稀であった。だが大陸への避難直前のウェイクフィールドから、彼の経験からも気になる情報を入手した。

「スパイカーが死んだ理由か。あんたも嫌なことを聞くね」

 疎開準備真っ最中の喧騒の中、ウェイクフィールドは麦藁帽子を背中に負ったままだった。

「スパイカーは思うように操作出来なくなってきていた。

 あいつが死んだ日は、いつものように昼間の収穫作業をしていたが、突然勝手にゆっくりと動き出してね。何かに操られる様にふらつきながら進んで行くんだ。進路上の樹木もハイパーサーベルで切り裂きながら何かを探すように。

 やがて島に一つだけある湖に辿り着いた。すると防水処理もされていないのに、スパイカーの奴そのまま湖の中に入って行ったんだよ。まるでゾイドの入水自殺じゃないか。俺はずっとコクピットの中でなんとか操縦しようと悪戦苦闘していたが、さすがに寸前で脱出して、湖の畔で沈んで行くスパイカーを呆然と見ていたんだ。付き合いも長かったし使い慣れたゾイドだったから、悲しくなったよ。なんでこんなことが起きるのかと考えていた。暫くして、スパイカーの機体の半分が水に浸かったころ、腹の辺りから太さ70㎝ほどの赤い針金のような物がぬるってとび出してきたんだよ……」

 

 共和国軍の出動を促したのは、外部からの接触であった。

 現在は休戦状態であり、互いにその成立を容認し始めていたネオゼネバス帝国――ガイロス帝国内では未だ反乱部隊もしくは鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)と呼び続けている――が、かつて自軍が開発したディマンティスが共和国領で被害を与えていることに遺憾の意を示し、その駆除の為に帝国軍の派遣と協力を申し出てきたのである。

 提供されるのは、共和国首都侵攻作戦の要となった電子戦ゾイド、共和国軍にとっては悪夢を想起させる機体のダークスパイナーであった。帝国(=ネオゼネバス帝国、以下同様)の作戦は、ディマンティスをジャミングウェーブで誘導し、開けた場所に集めた上で荷電粒子砲などの強力な破壊兵器で焼却破壊するというものである。 

 ダイノ島の駆除委員会側では、いつまでたっても掃討に動き出さない共和国軍に愛想を尽かし、この提案を即座に受け入れた。泡を食ったのは首都に司令部を持つ共和国軍である。西エウロペの果ての島などに関心を払っていなかった政府では、突然の帝国進出に狼狽し、即刻正規軍の派遣を決定した。帝国では、最終焼却処分用に荷電粒子砲を装備するジェノザウラーの貸与も提案していたが、共和国軍は自軍の体面を保つため同様に荷電粒子砲を装備した凱龍輝の派遣と、ダークスパイナーの護衛という名目でライガータイプを、通信網の強化という理由でゴルヘックスを数機ずつ準備してダイノ島に派遣した。ゴルヘックスを投入したことで誰もが共和国軍の意図を透かし見ることができる。対ダークスパイナー用の電子戦ゾイドを派遣することにより、帝国が万一侵略を試みた場合の保険としているのだ。一方の帝国軍では、凱龍輝とゴルヘックスの派遣に異論を唱えることは無かった。帝国側はガイロスとの関係を考えた場合、少しでも共和国との友好関係を確立させることを望んでいたと思われる。そしてもう一つの思惑は後に示されることとなる。

 

 デニスは盛んにシャッターを切り続ける。

 ダイノ島の小さな軍港に、敷地面積目一杯の巨大な輸送艦ホエールキングが降下してくる。舷側にゼネバスの紋章を誇らしく描かれた赤い巨鯨は、降下制動の炎を噴きながら轟音と共に島の大地に着底した。

 既に到着していた共和国軍のゴルヘックスとシールドライガー部隊が5機ずつ隊列を組み、派兵された兵士とともに帝国の到着を歓迎した。

 数人の護衛兵を伴った将官がタラップを降りてくる。軍の代表がゆっくりと歩み寄る。

「お待ちしておりました、サムエル・ハーネマン少佐」

「お力になれれば光栄です、ワイツゼッカー中佐」

 握手を交わした後、ホエールキングの口蓋ハッチが軋みながら開いていく。

 スロープ状のハッチを踏み締め、身体の1/3を占める背鰭を揺らしながら、緑と紫の機体が現れる。

 撮影の最中、デニスは傍らに佇むウォルターの顔が露骨なまでに眉を顰めていることに気付く。横に立つ若い記者が訝しむ姿を見て彼は苦笑した。

「お恥ずかしい。だが、私達戦争を知る者にとって、ダークスパイナーって奴は今でも忌まわしいゾイドなんですよ」

 額の汗を拭い、その初老の男性は俯く。

「あいつの為にどれほど苦しめられたか。だが今はそのゾイドに今は頼らざるをえないとはなんという皮肉か。私が古い人間なのでしょうかね」

 彼が返答を求めていない事をデニスは知っていた。二人は無言のまま、次々と現れる背鰭の群れを見つめていた。

 

 ワイツゼッカーら島の駐屯軍と共和国派遣軍、そしてハーネマンら帝国軍は翌日以降の掃討作戦開始に向け検討を開始する。多くの軍関係者を一か所に収容できる施設が存在しない為、急遽東部の学校施設を借り上げ両軍を駐屯させた。機密を要する作戦ではなく、帝国側は友好関係を、共和国側は自軍の派遣をそれぞれ喧伝するために報道機関への情報公開を積極的に行う。ブリーフィングルームとして設定された校舎の教室で、入りきらないほどの報道に取り囲まれた。

「これより本作戦の遂行についての確認、及び説明を開始する。なお、今回このディマンティス掃討作戦に関し、ネオゼネバス帝国軍ダークスパイナー小隊の協力を得られる事となった。先刻より承知と思うが、帝国軍より派遣されたホエールキングによって4機のダークスパイナーが到着した。こちらが中隊指揮官のサムエル・ハーネマン少佐である。今回の御協力をヘリック共和国軍代表として感謝の意を表明したい」

 湧き上がる拍手。だが何処か空々しい。デニスは帝国軍人というものは厳めしく頑なという印象を抱いていたが、ハーネマンはその想像を具現化したままの人物であった。緊張気味に黙礼をすると、左に立つ補佐官らしき兵に作戦書の準備をさせる。両軍が同席するという異例の状況の中、作戦概要が語られ始めた。

「それでは戦力配置図を御覧頂きたい。各部隊はシールドライガー各機に加え、それぞれゴルヘックス、及びダークスパイナーを同行させる。行動開始予定地点に到着次第、一斉に作戦を開始する。

 金属成分を含む樹林帯の中ではジャミングウェーブの効果も低いため、まずライガーが徹底的にディマンティスを山林から炙り出す。追い出されたディマンティスの群れをダークスパイナーがジャミングウェーブによって誘導、その時ライガーまでジャミングの影響を受けないよう、ゴルヘックスのジャミングカウンターによって保護する。万が一ダークスパイナーにディマンティスの攻撃が及ぶ場合には、ライガーがこれを排除、防護することとする。

 東部に誘導されたディマンティスを、凱龍輝の集束荷電粒子砲にて随時破壊、これによりダイノ島に生息するディマンティスを九割まで漸減、本作戦の第一段階を終了させる。

 第二段階では、軍のステルスバイパーによって最後の一匹になるまで徹底した掃討を行う。詳細な作戦行動については各部隊に計画書を配布済みである。確認は各部隊で行うように。

 なお、現時点を以て本作戦の正式名を『ハーメルン作戦』と呼称する。これは古代地球のハーメルンという町に大量発生したネズミを駆除する為に、笛吹き男がネズミを誘導し、一斉に駆除を成功させたという伝承に由来する。帝国軍の笛吹き男(ラッテンフェンガー)の活躍に期待したい。以上だ」

 両軍独自の敬礼姿勢を取ると、一斉に部署に散開していく。互いの誇りをかけた協同作戦である以上、無様な姿は見せられないのであろう。張り詰めた空気の中『ハーメルン作戦』と銘打たれた掃討戦は翌日発動が宣言される。

 

 その夜、デニスは原稿をまとめつつ、ある懸念が拭い去れないでいた。本社へのデータを転送の後、同期入社の友人に連絡をとる。ダイノ島と首都との時差から時刻はまだ出社直後である。

〝こちら首都グローサー社、社会部ホーソンです。ああ、デニス。どうだい西の地の果てダイノ島は。美味いオレンジでも食えたかい〟

 電話口の向こう側から溌剌とした声が伝わってくる。深刻な状況は充分伝わっていない事に、安堵すると同時にデニスは自分の言葉に慎重にならざるを得ない。

〝ゾイドの入水自殺? なんだいそれは。農業用のディマンティスが取った謎の行動ねえ。調べてみるから時間をくれ。そっちでは「おやすみなさい」だよな。お前もがんばれよ〟

 受話器を通し出社直後の慌ただしさが伝わってくる。幼い日の記憶を頼りに資料をまとめ、社会部ホーソン・クローニン宛へのデータを転送した後彼は身を横たえた。

 山からは乾いた紙を擦り合わすような蟲たちの蠢く音が響いてくる。今宵も何処かの石垣を頻りに噛み砕く姿を思い描き、寝つけぬ夜を過ごしていた。

 

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