太陽のような君へ   作:こやひで

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退院

今日は胡桃の退院の日だ。

リハビリを毎日ずっとやっていたお陰で体の状態は事故の前とほぼ変わらないところまで復活した。

 

「なんか今週はずっと誰かの荷物をまとめてる気がするな」

「文句言わないの。男なんだから力仕事はお手の物でしょ?」

 

衣類やその他置物などを袋に入れていく。

 

「俺は周りの男子に比べたら細身な方だよ」

「私よりは大きいでしょ」

「当たり前だ。というより胡桃は仕方ないにしろ維織は痩せすぎなんだよ」

「確かにいーちゃんって昔から全然体型変わらないもんね」

 

胡桃は昔からの病気のせいで痩せているよりはやつれているという方があっているかもしれないが維織は昔からずっと細い。

 

「しょうが無いじゃない。食べても太らない体質なんだから」

「・・・全国のダイエットを頑張っている人にとったら何とも羨ましいセリフだな」

「夜食と言ってカロリーの高いものを食べずに、一日三食腹八分目野菜多めを心がければ大丈夫よ」

「簡単に言ってもできない人もいるんだよ」

「だいたいあなただってそうじゃない。食べても大きくならないじゃない。横も縦も」

 

その言葉に思わず顔が引きつる。

 

「・・・170cmあるから。高校生の標準平均ぴったりだよ」

「あらそうなの。良かったじゃない。中学の時は平均よりも低くて悩んでたから」

「・・・お前が何回も言うせいでな。俺に身長の話はタブーだよ」

「でもひーくんくらいの身長くらいのほうが私はいいな。大きい人ってちょっと怖い気がするから」

「ありがとな。やっぱり胡桃は優しいな。酷いこと言わないから話してて落ち着くよ」

 

少し維織に当てつけ気味に言う。

 

「うっ・・・。わ、悪かったわよ」

「反省してるなら良し。さあ作業再開だ」

 

と言っても衣類以外はほとんど何もないのでそんなに時間はかからない。

すると少し大きいノートを見つける。

 

「胡桃、これは?」

「えっ?ああ、絵を描いてたノートだよ」

「あれっ?こんな色だったっけ?」

「今使ってるのは二冊目だから」

「そんなに描いてたのか。見てもいいか?」

「うん、いいよ。あんまり上手くないけど」

 

ノートを開く。

空や木々、車が走る道路などほとんどがこの病室から見える風景画だ。

それが胡桃の独特のタッチで鮮やかに描かれている。

 

「やっぱり上手いな」

「そうね。私達には到底描けないわ」

「そんなことないよ。まだまだ練習しなくちゃ」

「俺にはこれで十分な気もするけどな」

「まあ向上心があることは大切なことよ」

「そりゃそうだな」

 

そのノートも紙袋に入れる。

これで病室はスッキリと片付いた。

 

「完了だな。じゃあ行こうか」

 

荷物を持って一階の受付に行くと祐子さんが出てきてくれる。

 

「部屋の片づけ終わった?」

「はい」

「今日までありがとうございました。またお世話になると思いますが」

「定期検査もあるからね。でも退院おめでとう」

「ありがとうございます」

 

祐子さんに見送られ病院から出る。

すると向こうから宮本先生が歩いてくるのが見える。

 

「おはよう。間に合って良かった。栗山、退院おめでとう」

「ありがとうございます、宮本先生」

「これを君達に届けに来たんだ」

 

そう言って先生は二つの封筒を取り出し、維織と胡桃に渡す。

 

「試験の結果だ。いつ見るかは君達次第だよ」

「ありがとうございます!!」

「ありがとうございます」

「さて私はまだ仕事が残っているからな早いがここらで退散させてもらうよ」

「先生、わざわざありがとうございます」

「大丈夫さ。また学校でな」

 

先生はまたUターンして学校まで帰っていく。

 

「これだけのためにわざわざ来てくれたのか」

「本当に先生には感謝してもしきれないわね」

「またちゃんとお礼言わなくちゃ」

「さてとりあえず荷物置きに行くか」

「そうね」

 

家に帰ろうと思い歩きかけるが胡桃が付いてこないのを不思議に思い振り向く。

 

「どうした?早く行こうぜ」

「あ、あの!!私行きたい場所があるんだけどいいかな?」

 

突然の胡桃の大きな声に驚く。

 

「ど、どうしたんだ大きい声出して」

「良いわよ。せっかく退院したのだし胡桃の好きな所に行きましょう」

「そうだな。荷物もそんなに多いわけじゃないし」

 

と言ってもどこに行くのか分からないので胡桃について行く。

方向的に維織の元アパートに行くのかと思ったが胡桃はその場所を知らない。

そのまま維織と首を傾げながらついて行くと昔よく見た場所に辿り着き、やっと胡桃がどこに向かっているのか理解できた。

維織も分かったようで胡桃のことをじっと見つめる。

 

「・・・着いた」

 

そう言って胡桃が立ち止まった前には一軒の家。

 

「全然変わってないな~」

 

昔俺達も何回も遊びに行ったことがある胡桃の家だ。

と言っても今はもう違う。

家の所有者であった胡桃の両親が亡くなり、唯一生き残った胡桃も病院で昏睡状態。

このまま放っておくわけにもいかなくなったので胡桃の親戚の人が家を売ることにしてそのお金を全部胡桃のために残したらしい。

ぼおっと見ていると扉が開き、今の住人であろう家族が出てくる。

こちらを少し気にしたような目線を向けてきたが時に気にすることもなく子供を手を繋ぎながら歩いて行く。

 

「・・・もう私の家じゃなくなっちゃったんだね」

 

俺も維織も何も言えず黙り込む。

しかし胡桃は笑顔でこちらを振り返る。

 

「しょうがないよね。あれからずっと経っちゃってるし」

「な、なんでそんな割り切ったように話せるんだよ!!」

 

その言葉に思わず胡桃に詰め寄るように言ってしまう。

維織の少し驚いたような顔が視界に入る。

胡桃も驚いたような顔をしたがまたすぐに笑顔に戻る。

 

「・・・だってここで私が何をしてももうしょうがないから。これが正しい選択なんだよ。それにこの家が無くなってもあの時の思い出はなくならない。ずっと私の中に残ってるから」

 

胡桃の顔を見つめる。

すると照れたような顔をして笑う。

 

「えへへ、この前ひーくんが貸してくれた本に書いてあったんだ。カッコいいセリフ。でも私もそう思うよ」

 

胡桃は少し小走りで先まで行き、クルリと振り返る。

 

「寄り道しちゃってごめんね。早くいーちゃんの家に行こう」

 

そのまま胡桃は先を歩いて行く。

それを俺と維織は慌てて追いかける。

その後の胡桃はいつもと変わらない様子で楽しそうに話している。

やっと維織の家に辿り着く。

 

「ここ来るの久しぶり!!やっぱりひーくんといーちゃんの家って近いね」

「そうだな。目と鼻の先だ」

「さあ。荷物を運んでしまいましょ」

 

実は胡桃は維織の家で一緒に暮らすことになったのだ。

理由は家がないというのと、万が一病気の影響で倒れても近くに人がいる方がいいということで決まった。

俺の家も候補には挙がったが維織のさりげない反対により却下された。

・・・自分はこの前泊まったくせに。

 

「ここも久しぶりだな。あっ、やっぱりクマさんもいる!!」

 

そう言って胡桃はベッドの上のクマのぬいぐるみと遊んでいる。

胡桃はこう見ると子供っぽくてさっきの言葉が嘘のようだ。

 

「博人その荷物はあっちの部屋に置いておいてちょうだい」

「えっ?あ、ああ分かった」

 

少しぼーっとしていた。

 

「あっ!!ごめん。私も手伝うね」

「大丈夫だよ。ゆっくりしてな」

 

維織が言った部屋に胡桃の服と絵を描く道具などをまとめた紙袋を置く。

 

「さてと、これからどうする?」

「そうね。そろそろ試験の結果でも見ようかしら」

 

そんなことを話しているとベッドに寝転んでクマと遊んでいた胡桃はまたがばっと起きる。

 

「ひーくんの家行きたいな。美由紀さんとお父さんにちゃんと挨拶しなくちゃ」

「お、おう。そうするか?」

「ええ。良いんじゃないかしら」

 

胡桃の希望で俺の家まで行く。

 

「ここも懐かしいな~。お邪魔します」

 

胡桃はトテトテと仏壇が置いてある和室まで歩いて行く。

維織もそれについて行き二人で手を合わせている。

その間に俺はお茶を用意しておく。

そして二人が戻ってくる。

 

「ありがとな。二人共」

「美由紀さんにはお世話になったから。当然だよ」

 

胡桃はお茶を飲む。

 

「それにしても今日の胡桃は何時にも増してテンション高めだな」

「うん!!やっと退院できたからなんだかワクワクしてるの!!」

「元気になった証拠よ。良かったじゃない」

「そうだな」

 

その後は少し雑談で盛り上がる。

その途中で胡桃がトイレに行ったところで維織が少し怖い顔で話しかけてくる。

 

「さっきなんであんなこと言ったのよ」

「さっき?なんのことだ?」

「胡桃の家に行った時のことよ」

「・・・。ああ、あれのことか」

 

どうやら維織はさっきの俺が胡桃に問い詰めるように言った時のことを言っているらしい。

 

「あんなことをわざわざ言う必要があったの?」

「・・・悪かったよ。あんなこと言うつもりなんてなかったんだ」

 

本当に思わず出てしまった言葉だった。

自分が考え付かなかった考えだったから。

 

「俺が両親が死んだ後いとこの伯母さんの誘いを断って今の家に居続けてる理由は言っただろ?この家から離れたら三人で過ごした思い出が消えると思ったからだよ。それなのにあんなこと言われちゃ聞きたくもなるさ。もちろん反省はしてるよ」

「しょうがないでしょ。博人と胡桃は違うんだから考え方だってそれぞれよ」

「分かってるって。それにしても胡桃って俺が思ってるよりもずっと強いんだな」

「胡桃は昔からそうよ。それにこの前だって、、、」

 

胡桃が起きてしばらくしてから胡桃の親戚の人が病院に来た。

家のことなどを話した後、自分の家で暮らさないかと言ったらしい。

その場に俺達はいなかったが俺達と一緒に居たいという理由で断ったらしい。

帰っていく親戚の人によろしくお願いしますと深々お辞儀をされた。

 

「そう言えば話は変わるんだけど、なんであの人俺達にあんな態度だったんだろな」

「それは曲がりなりにも自分の親戚が一人で暮らすと言ったのだから、心配するのは普通じゃないかしら」

「そうだよな。なんかえらく俺達のことを信用してたなと思って。もうちょっとあなた達で大丈夫かとか言われるのかと思ってたからさ」

「もう、話を誤魔化さないで。とにかくあんまり胡桃にああいうこと言わないように。分かった」

「はいはい、了解です」

「お待たせ~」

 

胡桃が戻ってくる。

 

「てかそろそろ結果見たらどうだ?」

「はっ!!すっかり忘れてた!!」

「なんでだよ・・・」

 

こういうところはやっぱり胡桃だ。

二人は封筒を取り出す。

 

「う~、ドキドキする!!」

 

緊張している胡桃と淡々と封筒を開ける維織。

その結果は・・・

 

「合格だ!!やったー!!」

「受かってるわね」

 

叫んだ胡桃が俺に飛びついてくる。

それを受け止めた衝撃で後ろに倒れる。

 

「おめでとう。ずっと頑張ってたからな」

 

頭をなでる。

 

「また三人で一緒の学校だね!!」

「そうだな。二人共よろしくな」

 

はしゃぐ胡桃ともじもじしながら俺に抱き着いている胡桃を見ている維織を見る。

 

『二学期からの学校が楽しみだな』

 

そう思い俺達は笑いあった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「私の家で一緒に暮らしましょ。一人でいる時に病気が酷くなったらどうするの?私は専業主婦だからずっと見ていてあげられるし」

「伯母さんには本当に感謝します。私のために色々してくださって。でも私はここに残ります」

「どうして?あの子達だってずっと見てくれる訳じゃないでしょ?子供同士じゃどうしようもないことだってあるじゃない」

「・・・私は二人と一緒に居たいんです」

 

自分の胸に手を当て、伯母さんの顔を見つめる。

 

「最期までずっと」

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