何故って?
実はもう、昨日の夜には出来ていたからだァ!
今日はお出掛けして映画を見てました。
泣けました。
「随分とご執心ですね、このえこひいきに。一体、いつになったら出来るんです?」
機体の整備をするヴィダールの下に、ジュリエッタはまた訪れていた。
『コイツは、システム周りが少し独特でね。--地球での紛争。地球外縁軌道統制統合艦隊は苦戦を強いられているようだな』
「当然です! 何と言っても、アーブラウ側は鉄華団を黙らせてヒゲのおじ様が直々に指揮しているのですから! おじ様はラスタル様の信任も厚い、天性の戦術家。組織戦でおじ様に勝てる者など…」
『果たして、それはどうかな』
羨望の眼差しでそう語るジュリエッタに、ヴィダールは釘を刺す。
「…おじ様に、勝てる者がいるとでも?」
『さあ。ただ、楽には行かないだろう。現在、ファリド司令が直々に戦場へ来ているそうじゃないか。加えて、鉄華団に全く動きが無いのが気になる。あの狡猾な鉄華団地球支部支部長の事だ、何か考えが有るのだろう』
「鉄華団…地球支部支部長? お知り合いで?」
『いや。幾度か顔を合わせた事が有るだけだが--底が知れない。下手すれば、その「ヒゲのおじ様」でも今回はしくじる可能性が有る』
ヴィダールは、よほど鉄華団の地球支部支部長を警戒しているようだ。
『とにかく、油断禁物と言う事だ。ファリド司令とて、今は苦しい所だ。経済圏同士の武力抗争は、今回が初めて。文字通り全世界が、その行方に注目している。戦争が長引けば長引く程、地球外縁軌道統制統合艦隊の権威は地に落ちる』
「それを考えると、ヒゲのおじ様の手腕は本当に凄いですね。戦力差は歴然であるにも関わらず、戦況を見事な膠着状態にするとは」
『ああ。そうだな』
ヴィダールも、そこは評価している。
しかし、戦力的に考えて真っ先に前線へ出るべきであるハズの鉄華団が後方支援に徹し、前線には全く進出していない事が引っかかっていた。
◇
ゲイレールに乗り込んだガラン率いる傭兵部隊は、単騎で出て来たマクギリス機を撃破すべく包囲網を展開する。
「奴をやれば、それで終わりだ! 包囲して、確実に殲滅する!」
『了k…え? ぐはァ!』
部下の1機が何者かにやられたらしく、通信が途切れる。
「!?」
ガランがそちらの方向を見ると、そこには。
二振りの黄金の剣を持ち、マクギリス機の方へ飛んで行く白青の機体がいた。
『ガランさん、あれ…!』
「--何だ、あの機体は。あれは、まるで…」
その機体…グリム・パウリナは、マクギリス機に近づいて止まった。
そのままマクギリスのグレイズ・リッターの肩部に剣を当て、接触回線を開く。
「オイ、貴様はここで何してる? ガラン・モッサを警戒させるな、と伝えておいたハズだぞ」
「--はっ、しまった! 貴方様が戦闘されると言う事で我を忘れ、部下の制止を無視して出て来てしまった! 申し訳有りません!!」
マクギリスの焦った声からして、本気で我を忘れていたようだ。
アラズはアグニ会が平常運転である事を確認してため息を尽き、ガラン・モッサのゲイレールとその周りに展開する傭兵部隊に向き直る。
『鉄華団地球支部支部長、アラズ・アフトルで間違い無いな? 一体何故、我々の邪魔をする?』
アラズに、ガランは通信する。
「何故、かだと? 貴様には、大体想像がついているだろう?」
『…俺を捕まえて、どうするつもりだ? 情報でも引き出すのか?』
「まさか。俺は別に、地球外縁軌道統制統合艦隊の味方ではない。俺はアーブラウの軍事顧問である鉄華団地球支部支部長として、この戦争を終わらせに来ただけだ」
戦争を終わらせる。
言葉にすれば短く簡潔なモノだが、実際成し遂げるには難しい。
『フッ、ハハハハハ! 貴様、正気か!? 戦争を終わらせる? 既に泥沼化し、終わりの見えないこの名前の無い戦争をか!?』
「当然だ。それと…戦況を膠着状態にしたのは貴様だろう、ガラン・モッサ。なれば--その死を以て償え。話は終わりだ」
パウリナはスラスターを吹かせて、ガランのゲイレールに吶喊する。
『全員散開!
『おう!』
10機程のMSが散開し、マクギリスを仕留めに掛かる。
「あくまで目的を果たすつもりとは…嘗められたモノだ」
パウリナはそれに構わず突撃し、後方でライフルを構えるガラン機に左の剣を振り下ろす。
『ぬう!?』
剣はライフルを破壊し、続いてパウリナは右の剣を突き出してガラン機の左肘に刺す。
『ぐ、ぬう!?』
一瞬でライフルと左腕を奪われたガランは、後ろに跳んで後退を始める。
『クソ、なんてデタラメな奴だ!』
「逃がさねェよ」
パウリナは相手を上回るスペックを利用し、ゲイレールの追撃を始めた。
「流石だ…ええい、邪魔だ退け! 貴様らに用は無い、俺はアグニカの戦いを目に焼き付けねばならんのだ!」
本人が肯定した訳でもないのにアラズをアグニカと呼びながら、マクギリスは立ちはだかる機体を次々に鉄くずへ変えて行く。
このザコ共を急いで片付けてパウリナの後を追わねば、戦闘が終わってしまう。
『や、やめr』
最後の1機のコクピットを剣で貫き、マクギリスは即座にパウリナの追尾を始めるのだった。
『ぐぬおおおおおおおお!!?』
ガランのゲイレールは、パウリナに追い付かれて蹴り飛ばされる。
ゲイレールは地面を転がり、廃棄された都市のビルにぶつかって止まった。
『ぐ…な!?』
そのゲイレールの直上には、左の剣を逆手に構えて降って来るパウリナの姿が有る。
左の剣はゲイレールの右肩を貫き、フレームごと右腕の基部を粉砕した。
『ぬがああああ!!』
ゲイレールは咄嗟に横へ行き、フラつきながら立ち上がる。
『この、悪魔めが…!』
「ああ。よく言われるよ」
パウリナは突撃しながら、右の剣を突き出す。
それはゲイレールのコクピットのすぐ横を貫通し、そのままゲイレールを押して背後の建物に叩き付けられた。
『があ、ぐ…! はあ、はあ…! これしか、無いか…!?』
パウリナは剣を刺したままゲイレールを持ち上げ、道路に叩き落とす。
『がああああああああ、づ…! 若造にしては、随分やりおる…だが、忘れるな! このロートルの姿は必ずや、貴様の未来の姿となるだろう!!』
「--だろうな。俺なんぞに、平穏な死など有り得ない。戦渦の中で、惨たらしく死んで逝くのがお似合いだ」
『ふ、はは…貴様、やはり面白いな…しかし、さらばだ!』
「!!」
そう言い残し、ガランはコクピットモニターに表示した自爆ボタンを押す。
感づいたアラズは剣をゲイレールから抜き、後方へ飛び去る。
(悪ィな、ラスタル…)
そして、ガランのゲイレールは自爆した。
「--見事だな。その執念は、賞賛しよう」
自爆を見届けたアラズは、それだけを呟いた。
◇
「--素晴らしい」
それを見ていたマクギリスは、コクピット内で震えていた。
圧倒的な、力。
アラズ・アフトルとグリム・パウリナは、マクギリスの信じるモノを実体化させた。
まさしく、マクギリスが信仰するに足りる存在だ。
「素晴らしい、素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい!!! 心が躍るようだ、脳が震えるようだ! あれが、厄祭戦を終わらせた力!! 数多の天使を、幾多の天使長を、四大天使さえ斬り伏せた絶対的な力!! 実に、実に実に実に実に素晴らしい!! 素晴らし過ぎる!! 決めたぞ、俺は必ずや追い付いて見せる!! アグニカ・カイエルに!! そして築いて見せる、真の力が成立させた真実の世界を!!! ああアグニカ・カイエル、おおアグニカ・カイエル!! 今こそ、我にその力を貸し与え賜えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
テンションが完全におかしくなったマクギリスは、両手を広げて高笑いを続ける。
それは部下が大声で呼び掛けるまで、決して途絶える事は無かったと言う。
◇
ガラン・モッサの戦死と経済圏同士の代表交渉が成立した事で、後に「バルフォー紛争」と呼ばれる戦争は終わった。
初の経済圏間の抗争は、無事地球外縁軌道統制統合艦隊によって鎮圧された--そう、世界には報道された。
そして、その1週間後。
火星からの増援部隊が、鉄華団地球支部に到着した。
「コイツら、何だったの?」
自爆したゲイレールの近くで、三日月はマクギリスにそう問う。
「ああ、君か。恐らくはアリアンロッド…ラスタル・エリオンの息が掛かった者だ。まあ、その証拠は見事に灰となってしまったがな。部下達を尋問したが、ニュース以上の情報は出て来ない」
ガラン・モッサは用心深い男だった。
部下達に一切の核心を伝えず、情報は自身の頭と機体のソフトウェアのみで管理していたのだ。
自爆によりソフトウェアが灰となった事で、全ての証拠は隠滅された。
「--しかし、鉄華団地球支部支部長の戦いは実に素晴らしかったよ。腕利きの傭兵であったガラン・モッサに一切の反撃を許さず、完封した」
そう言いながらマクギリスはチョコを取り出し、三日月はそれを受け取る。
そして、ラッピングを取って口に放り込む。
「ふん。はふはひょうはん(うん。流石教官)」
「あの戦い振りは、普通ではない--まるで、『アグニカ叙事詩』の主人公のようだった」
「? はふには?(? アグニカ?)」
「フフ…ギャラルホルンを創った、伝説の英雄さ。厄祭戦の時代、ガンダム・バエルに乗り込み世界を変えた男…それが、アグニカ・カイエルだ」
陶酔仕切った表情を浮かべながら、マクギリスはそう告げた。
◇
ラスタルは、ガラン・モッサ戦死の報を受けた。
「…そん、な……ヒゲのおじ様、が…」
「--言うな、ジュリエッタ。奴は死んだ、もう生きていない。そして、
ガラン・モッサは、戸籍上ではとっくの昔に死亡とされていた男だ。
ガラン・モッサと言う名も偽名であり、そのような人物は戸籍上にも存在しない。
(…さらばだ、友よ)
彼と過ごした若き日を思い出しつつ、ラスタルは奥歯を噛み締めた。
◇
鉄華団地球支部は支部長アラズの団長オルガへの提言も有って解体され、火星本部へ吸収される形となった。
いざと言う時に指揮を取れるのがアラズとチャドしかおらず、今回の戦争もアラズが働き詰めたからこそようやく収拾を付けられたのだ。
これからもしアラズとチャドがいなくなった場合、地球支部がバラバラになってしまうのは容易に想像がつく。
加えて、元々問題となっていた地球と火星の情報共有や物資の輸送、緊急時の増援部隊到着までの時間なども鑑みる必要がある。
それらの現状からアラズの出した結論が、地球支部の撤廃だっただけだ。
鉄華団が地球支部を設置したのは、アーブラウの軍事顧問を引き受けたから。
アーブラウ防衛軍が充分成長した事で、その存在が必要無くなった事も理由の1つとなっている。
鉄華団地球支部が使っていた施設は、そのままアーブラウ防衛軍へ譲られた。
そして、アラズは支部長と言う過労死職から解放された。
「ふう…疲れた疲れた。やっぱ、こう言う立場って疲れるんだよなあ」
グリム・パウリナのコクピットでくつろぎつつ、アラズは胸ポケットから1枚の写真を取り出した。
(--そろそろ、腹を括る頃か。さて、どうするかな…)
その写真を眺めつつ、アラズは今後の身の振り方について思案し始めるのだった。
アグニカポイント新規取得
アラズ・アフトル 500AP
マクギリス・ファリド 500AP
ガラン・モッサ 10AP
ガラン率いる傭兵部隊の皆様 10AP
地球支部編は今回で終わると言ったな。
あ れ は ウ ソ だ
と言う事で、もうちょっとだけ続きます。
次回、「火星の王」。