ヴィーンゴールヴを出発したバージニア級戦艦「ゲーティア」は、ヘイムダル日本基地へと進んでいた。
現在は、オーストラリアの湾岸都市トリントンへ向かっている。
俺とスヴァハは、艦内の遊戯室でくつろぎながら他愛も無い事を喋っている。
「オーストラリアのこの穴、何なの?」
「あー、この穴ね」
オーストラリア大陸には、巨大な穴が空いている。
しかも丸く、地形にも違和感が有るが。
「俺が読んだ怪しげな本によれば、宇宙世紀って時代にコロニーが地球に落下した跡だとか…何とか」
「コロニーって、あのコロニー!? あんな物が、地球に落とされたの!?」
「ああ。れっきとした作戦として、『コロニー落とし』ってのが実行されたらしいぞ。コロニーそのものを質量兵器にして、敵の本拠地を吹き飛ばそうってな。結論から言うと、作戦は失敗。コロニーは空中分解して、その一番大きい残骸がここ――かつてシドニーと呼ばれた、オーストラリア大陸の大都市に落着した」
タブレットの画面に映ったオーストラリア大陸の大穴の中心を指差して、俺はそう言った。
全て、読んだ本からの受け売りだ。
その本は何でも、宇宙世紀時代の敏腕ジャーナリストが書いた物らしいのだが…果たして、どこまでが本当なんだか。
「――人類って、そんな宇宙戦争してたんだね」
「ああ。まあ、下手したら全部創作かも知れん。宇宙世紀関連の本には、MSは核融合炉で動くとかコロニーがレーザー砲に転用されたとか外宇宙に進出したとか非現実的な事ばかり書かれてる。もしそれが真実だとするなら、現在の世界とは比べ物にならない技術力を人類が持っていた事になる。すると、現在の世界で技術力が何故ここまで衰退したのかの説明が付かないからな」
この世界でMSが登場したのは、エイハブ・リアクターが造られてからだ。
それまで人類は戦闘機やら海上戦艦やら空母やらで戦争していたし、有ってもせいぜいMWくらい。
そんな中で恒久的エネルギー源となるエイハブ・リアクターとMSが誕生すれば、世界の戦争と技術が一変するのも当然の結果と言えるだろう。
「――何らかの要因が有るハズだよね。一度進歩した技術水準は、簡単には下がらない。技術を持った人達の全員が、外宇宙へ進出しちゃったとか…?」
「だとしても理論は残るし、現在の世界で旧時代のMSが全く見つからないのもおかしい。旧時代に有ったMSが世界のどこからも見つからないのは、異常だと思うぞ。外宇宙に持って行かれたとしても、何機かは埋まってたりしそうなモンなんだが…」
スヴァハと2人で首を傾げるが、全く持って想像出来ない。
一体、何が起きたのだろうか?
「――まあ、分からないモンは分からん。推測するにせよ、あまりに情報が不足してるからな」
「…そうだね、うん。何か引っ掛かるけど、気にしない気にしない! さあ、あのスイーツを食べに行こうか!」
そう言って、スヴァハは立ち上がった。
せっかくなので、俺も立ち上がる。
「ハイハイ、お望みのままに」
◇
おやつを食べてからMSデッキに移動し、各ガンダムの点検を行っていた時。
艦に激震が走り、爆発音が鳴り響いた。
「な、何!?」
「MAだろ! マッドサイエンティスト、バエルとアガレスは出せるか!?」
「当たーり前さ!」
マッドサイエンティストが親指を立てて来たので、俺はスヴァハを連れてパイロットスーツを取りに行く。
『海中に、エイハブ・ウェーブ確認! 水中用MAだと推測! 全艦、第一戦闘配備!』
オペレーターの声の後、艦内に警報が鳴り響く。
「こんな海に、どうしてMAがいるの!?」
「――地球の7割は海なんだぞ? そこを押さえようと思うのは、当然だろうな」
スヴァハの問いにそう返しつつ、俺達はパイロットスーツを素早く着込んでMSデッキに戻る。
すると、また艦に激震が走った。
『敵MAより、ミサイル攻撃を確認!』
『応戦でしょ、何やってんの!?』
『やってますが、何ぶん水中だと…!』
苛立つ艦長の叫び声と、言い訳するブリッジクルーの声が艦内に流れる。
いや艦長、何やってんのは無いだろ。
そんな事をツッコミながら、俺とスヴァハはそれぞれガンダムに乗り込んで起動させる。
「艦長、発進シークエンスは省略して勝手に出る。カタパルトはいいから、ハッチだけ開いてくれ」
『了解した。ハッチだけ開いて…って、発進シークエンスは省略するって言っただろ! 通信はお前らにも聞こえてるんだから、命令はちゃんと聞いて実行しなさいよ!』
『――艦長、大変だね』
「まあ、まだ皆慣れてないからな…よし、ハッチが開いた」
◇
2つ有るハッチの両方が開いたので、バエルとアガレスはそこから飛び出して周囲を俯瞰する。
「チ、敵は水中か…!」
『どうする? 流石に水中戦は厳しいと思うけど』
「とりあえず、飛んで来る物は全部撃ち落とす。そうすりゃ、いつか出て来るだろ」
早速、水中からミサイルが飛んで来た。
バエルは剣を、アガレスは銃を抜いてミサイルを迎撃する。
「よし、第一陣は凌いだな。――次、来るぞ!」
続いてのミサイル攻撃も、バエルとアガレスは防ぎ切る。
すると。
巨大な機影が、海中に視認出来た。
どうやら、浮上して来ているらしい。
バエルはスラスターを吹かし、海への降下を開始した。
『アグニカ!?』
「ヤバくなったら、助けてくれ!」
そして、水しぶきを上げてバエルは海へ飛び込んだ。
バエルは宇宙戦、空中戦を想定した機体だが、それ以外で使えない訳では無い。
(敵は――!!)
バエルが右斜め後ろに振り向いたのと、敵MAが腕を突き出したのは同時だった。
「ッ!!」
バエルは咄嗟に剣を交差させ、その一撃を受け止める。
腕は続いて繰り出されるが、防御は間に合わない。
「浮上!」
バエルはスラスターを吹かし、海上へ浮上して攻撃をかわした。
――と、思われたが。
「しまッ――」
左足をMAに掴まれ、バエルは海中へ引きずり込まれた。
『 !!』
「コイツ…!」
バエルはもう1本の腕に右肩を掴まれ、拘束される。
MAはバエルを機体の正面に持って来ると、機体の正面を覆う装甲を開いて内蔵されたビーム砲を露わにする。
「!!」
バエルは電磁砲を発射して、右肩を掴む腕に攻撃。
腕が離れた瞬間、バエルは右手を振り上げて左足を掴む腕に剣を突き刺す。
腕が離れたのを確認してスラスターを全開にし、放たれたビームを回避して海上へと上がる。
『アグニカ!』
「ふう、危なかった。減衰するとは言え、あの距離でのビームはアウトだ」
アグニカは、改めて敵MAの機影を見る。
胴体が細長く背部にミサイル、魚雷発射管を備えており、機体の正面にはビーム砲。
胴体の側面には、2本の腕が生えている。
MA、サキエル。
水中戦のみに特化するようガブリエルによって建造された、天使の1機だ。
無論、この時のアグニカとスヴァハが知る事では無いが。
「…と言うか、ゲーティアは何してるんだ? 敵が来てるんだから、ミサイルの1発くらい撃てよ」
『――分からない。何か有ったのかも…』
「エイハブ・ウェーブが濃いな…クソ、通信は無理か」
舌打ちし、アグニカとスヴァハは下のサキエルに向き直る。
「よし、もう一度だ。あの速度なら、水中でも捉えきれる」
『わ、分かった。私も援護するよ!』
「ああ、出来る範囲d」
その時、艦の側面が爆発した。
煙が上がり、ゲーティアの姿勢が揺らぐ。
「今度は何だ!?」
『――まずいよ、アグニカ。別方向にもエイハブ・ウェーブ反応、
「マジか――クソ、スヴァハ! 向こう、何とかなるか!?」
『…うん、任せて!』
スヴァハが答えを言い切るより早く、バエルは海へ飛び込んだ。
『 !』
サキエルが口を開き、ビームを発射する。
それと同時に、背部の魚雷発射管から魚雷が発射された。
「フザケてんなよ、オイ!!」
バエルは電磁砲と剣で迎撃し、魚雷を撃ち落としてビームをかわす。
間髪入れずサキエルが加速し、腕による攻撃を仕掛けて来た。
それをギリギリでかわすバエルだったが、勢いを受け流せず回転する。
対するサキエルはすぐに反転して、再度魚雷攻撃と突進攻撃を仕掛ける。
「ッ――!!」
バエルは回転しながら電磁砲を放ってまぐれ当たりで魚雷の1発を落とし、下降してサキエルの突撃を回避。
通りすがりに左の剣を逆手に持ち替え、サキエルに突き刺して張り付く。
『 !!』
サキエルはおぞましい駆動音を響かせた後、
バエルの機体が軋み、装甲が圧迫される。
「ま、ずい!」
剣を抜いて上昇しようとしたが、サキエルは腕を180度後方へ回転させてバエルの右足を捕らえる。
そして、そのまま下降を続ける。
「全身に負荷、機体分解の可能性有り――!」
バエルは腰を曲げてサキエルの腕を斬ろうと考えたが、何分水圧と流れが大きく機体が言う事を聞かない。
と、その時。
横からの一撃が、サキエルの腕を木っ端微塵に破壊した。
「な!?」
驚きつつもアグニカは操縦桿を動かし、上昇する。
腕を壊されたサキエルは、攻撃された方角へ向かって魚雷を発射した。
だが、「それ」には当たらなかった。
「あれは、一体――」
それは、ツインアイを持つ人型の兵器。
即ちMSであり――バエルが捉えたエイハブ・リアクターの反応は、
ツインリアクターシステムを採用したMSは、この世界にたった1種類しか存在しない。
言うまでもなく、ガンダム・フレームだ。
それは左腕をサキエルに向け、アンカーを射出した。
アンカーがサキエルを捕らえると、それはアンカーに電撃を走らせる。
『 !!』
サキエルの動きが鈍った瞬間、それは全身のスラスターを全開にしてサキエルに急接近。
バックパックに懸架された長槍を右手で構え、サキエルに突き刺した。
『 !!』
ビーム砲を潰されたサキエルは、それを捕らえるべく右腕を振り回す。
それは突き刺した長槍を基軸に機体を回転させ、腕を回避。
サキエルの頭部…コンピューター部の真上に、背部に備えたレールガンを押し当てる。
そして、レールガンから発射された特殊弾頭がサキエルを貫く。
サキエルは沈黙し、アンカーを外されて暗い海の底へと沈んで行った。
「――アンタ、一体何者だ?」
唖然としながらも、アグニカはガンダム共通の通信回線で通信する。
『アマディス・クアーク。「ヘイムダル」の、「ガンダム・フォカロル」専属パイロットだ。よろしくな、天才科学者サンとやら』
簡潔に名乗った「ガンダム・フォカロル」のパイロット…アマディス・クアークに、アグニカは名乗り返す。
「――アグニカ・カイエル。平凡な科学者だ」
◇
もう片方のMA討伐を任せられたスヴァハだったが、ゲーティアと共に降り注ぐミサイルの雨を撃ち落とす事が限界だった。
それ程までに、敵のミサイルは多い。
敵MA、ガギエル。
高い火力と防御力を誇る、水中用MAだ。
『このままじゃ――ん? 水中のエイハブ・ウェーブ反応が消滅。ツインリアクター機の反応が、2つ有る?』
どう言う事? と、スヴァハは首を傾げる。
その時。
滞空するアガレスの真下から、バエルが浮上して来る。
『アグニカ!』
「無事みたいだな、スヴァハ。取り敢えず、あれシバくぞ!」
バエルは両手で剣を構え、正面から突撃する。
アガレスは飛来していたミサイルの残りを撃ち落とし、水中のミサイルポッドと頭のみを海上に出すガギエルを射撃する。
放たれた弾は、頭の装甲に当たって跳ね飛んだ。
『硬い――!』
「ああ、そうだな!」
バエルは右の剣を振り下ろし、ガギエルの頭を叩いてからミサイルポッドに左の剣を突き刺す。
そのままスラスターを吹かし、空中で横向きに5回転してミサイルポッドの全砲門を斬り裂く。
「ッ、バエル・ソードでもここまでか…! だが、下部はどうだ!?」
機体の両断が出来ない敵の硬さと自身の未熟さへ舌打ちしつつ、アグニカは海中の味方へ叫ぶ。
すると、底部で爆発が起こってガギエルが揺らいだ。
『 !』
ガギエルは駆動音を響かせつつ、回転しながら海中へ潜行して行く。
ゲーティアからもミサイルが発射されるが、そんなモノで足止め出来るハズも無い。
海中のフォカロルは回転するガギエルを受け流すが、その隙にガギエルは離脱して行った。
『チッ…まあ良い、あの損傷では修復までに時間が掛かるだろうしな』
アマディスはそう言ってから、海上へとフォカロルを浮上させる。
『――アグニカ、どちら様?』
「ああ、日本基地の奴らしいぞ。でもなあ…俺、初対面の人間を信用出来ない奴だからなあ」
『もう、アグニカの悪い癖だよ? せっかくかわいいのにそんなだから、研究所の皆と打ち解けるまでに8年も掛かったんだよ』
「あーあー、聞こえません聞こえません! たった5年で全員と打ち解けた方に言われると耳が痛い! と言うか、かわいいって何ですかね…とりあえず、海に飛び込んだり腕と足掴まれたりしたから俺戻りたいんだけど」
かわいいと言われて全く嬉しくならない男、アグニカ・カイエル。
当然ながら女装趣味とかも無いので、どうせならカッコいいとか言われたいお年頃なのだ。
◇
母艦に戻ったバエルには、除染作業が行われていた。
各経済圏の世界戦争で核爆弾が大量使用された事による海洋汚染は、かなり深刻なモノになっている。
ちょっと触るだけで影響こそ小さいものの被爆するレベルの為、海に浸かったバエルには除染が必須となる。
「そう言えば、マッドサイエンティスト。あのMAのデータ収集と解析は?」
「完了しーている! ヴァッサゴの兵ー装を使えーば、造ー作も無い! 1機ー目のMAが『サキエル』、2機ー目のMAが『ガギエル』だ!」
サキエルとガギエル。
そのどちらも、ガンダムならヘマしなければ1機で撃破可能なレベルだった。
「この前のザドキエルより、位階が低いって事かな…通常の『天使』クラスと考えて良さそうだね」
「そうなるだろうな。――スヴァハ、データまとめと整備はマッドサイエンティストに任せて休め。疲れてるみたいだしな」
「うん、分かった…ありがとう」
スヴァハが部屋へ向かった事を確認し、俺は除染作業が終わったバエルの整備を始めるのだった。
早速、アイデアとして出して頂いたMS、MAが暴れております。
やったぜ。
こんな感じで出して行きますので、よろしくお願いしますm(__)m
そんな訳で、オリジナル設定解説をしながら機体データを載せます。
頂いた案は設定に当たりちょっと変えていたりしますが、ご了承下さい。
オーストラリアの穴について。
この作品に於いて、宇宙世紀は過去の時代となります。
ので文献が残され、コロニー落としについても言及されていたり。
宇宙世紀時代の敏腕ジャーナリスト…一体、どこのガンキャノンのパイロットだったんだ…?
MA、サキエル。
エヴァでお馴染み、かませ犬役のサキエルたん。
バキシムさんより頂いた案を元に、設定しました。
イメージは「機動戦士ガンダムOO」の水中用MA「トリロバイト」だそうで。
水中用MAで細長い胴体の側面から2本の腕が生えており、胴体の正面にビーム砲を内蔵し背面にはミサイル、魚雷発射管が存在します。
水中以外では行動出来ず、プルーマは生産、随伴しません。
MA、ガギエル。
こちらも旧劇エヴァでお馴染み、アスカのかませ犬ガギエルさん。
お野菜さんより頂いた案を元に、設定しました。
サキエルと同じ水中用のMAで、分厚い装甲に覆われて魚雷やミサイルが充実しています。
ただしビーム砲は無く水中ではプルーマも作れず、機動力はサキエル程高く有りません。
ガンダム・フォカロル。
逸般Peopleさんより頂いた案を元に、設定致しました。
以下、機体データとなります。
ASW-G-41 ガンダム・フォカロル
全高:18.5m
本体重量:34.5t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:トライデント×1
ハープーン×2
ティザーアンカー×4
ネプチューン×1
概要
アマディス・クアークの専用機。
水中戦を想定して開発されたが、それ以外でもある程度の戦闘能力を発揮する。
水中でも高い機動力と運動性能、長時間運用を可能にすべく装備される専用装備「ネプチューン」が大きな特徴である。
専用武器「トライデント」と「ハープーン」、「ティザーアンカー」は、水中での使用が前提とされている。
トライデントは三叉の長槍であり、水の抵抗を受けにくいよう刃は極限まで薄く錬成されている。
ハープーンは、「水中用ダインスレイヴ」である。ダインスレイヴ専用弾頭を装填し、射出する事が可能。
水中でも高い破壊力が実現されているが、射程は大幅に短くなっている。
ティザーアンカーはティザーガンとアンカーガンを組み合わせた物であり、腰と両腕に装備されている。
相手を拘束して電撃を放てる他、様々な用途で活用される。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第四十一位の悪魔「フォカロル(フルカロルとも)」から。
フォカロルは30の軍団を率いる、地獄の大公爵だとされる。
アマディス・クアーク。
オリジナルキャラクターとなります。
ガンダム乗りなので、これからも登場します。
ヴァッサゴ。
正式名をガンダム・ヴァッサゴと言い、索敵に優位な特殊兵装を備えています。
機体データは、パイロットが決まったら載せます。
次回、いよいよトリントンへ。
0083の冒頭とUCのep4が思い出される…オラ、わくわくすっぞ!
ザメル、良いよね。
ゼー・ズール、良いよね。