まあ、禍根ってそう簡単に消えませんし…。
自粛せよ、マッキー。
P.D.0325年。
世界の命運を左右するセブンスターズ会議より、半月が経った頃。
セブンスターズ第二席「ファリド家」の現当主にして地球外縁軌道統制統合艦隊ことグウィディオン艦隊の司令官、そしてアグニ会――否、新アグニ会の会長であるマクギリス・ファリドは治療機から出て来た。
「もう、マッキーったら本当にバカなんだから。お兄様から聞きましたよ、アグニカさんにアグニ会解散を命じられてその場でアグニ会を解散。即座に『新アグニ会』の設立を宣言して布教を始めて、アグニカさんの依頼を受けた鉄華団の人に撃たれたって」
彼の許嫁であるアルミリアが、呆れ果てたようにマクギリスを諫める。
「バカとは何だバカとは、アグニカの素晴らしさを伝え広める事の何が悪いのだ!」と返したくなったマクギリスだったが、流石に10歳児相手にそう叫ぶ程、マクギリスは分別をわきまえていない訳では無い。
「これはまた、耳が痛いな。心配させてすまないね、アルミリア」
「心配なんかしてません。マッキーがアグニカさん関連で暴走するのは、もう日常茶飯事だもの。少しは自重しないと、今度は頭を撃ち抜かれますよ?」
「――強くなったな、アルミリア」
マクギリスは、そんなアルミリアを嬉しさ半分悲しさ半分で見る。
アルミリアの成長は喜ばしきコトなのだろうが、マクギリスに取っては残念なコトでもある。
後、5年――この月日が流れれば、アルミリアはマクギリスが溺愛出来る限界点を迎える。
アルミリアはもう既に、マクギリスのドストライクゾーンを通過してしまった。
これからアルミリアの身体はどんどんふくよかになり、脂肪が付いて行くのだ。
15歳まで達してしまえば、マクギリスはアルミリアに興味や劣情を抱けなくなるだろう。
故に、チョコレートの人にしてロリコンの鏡であるマクギリスは、女らしさが出て来たアルミリアの成長を頭ごなしに喜べない。
マクギリスが厄祭戦に憧れてアグニ会を率いてクーデターを起こしたのは、他の会員達同様アグニカを崇拝していたからだけではない。
力のみが絶対となる厄祭戦の再来=ロストテクノロジーの復活=アルミリアの成長を止める=アルミリアは永遠にロリ=一生愛でられる と言う方程式が、マクギリスの頭で組み上がったからに他ならない。
この方程式はマクギリスが合法ロリを是と出来るかが鍵となるが、マクギリスが重要視するのはあくまで「見た目」だ。
アルミリアは他の10歳児に比べて大人びているが、今現在マクギリスは問題無くアルミリアに興味と愛情と劣情を抱ける。
つまり――
何という、完璧かつ完全無欠の理論だろうか。
全く持って、非の打ち所が存在しない。
マクギリスは、この方程式を導き出した際に自身の頭脳を誇らしく思い――しばらくの間、部屋を尋ねて来た石動がドン引きしてすぐ出て行く程の高笑いをしたのだった。
自身が「永久
「それよりアルミリア。私が寝ている間、世界はどう変化したんだい?」
「え、えーっと…」
満面の笑顔で聞いてきたマクギリスに困惑しつつ、アルミリアは幾つかの事柄を伝えた。
バエルを動かし、伝えられていない厄祭戦の真実を語った鉄華団のアラズ・アフトルが、ギャラルホルン最高幕僚長アグニカ・カイエルと同一人物だと認められた事。
アグニカ・カイエルがギャラルホルンの改革案をセブンスターズ会議で提示し、承認された事。
コロニーと火星が、新しい経済圏として認められた事。
以上が、この半月で起きた世界情勢に関わる出来事だ。
続いてアルミリアは、アグニカ・カイエルがカルタ・イシュー、ディジェ・バクラザンを含めた使節団を結成し、新興を含めた各経済圏へ視察しに行った為に今ヴィーンゴールヴへいない事を伝えた。
この一団は現在アーブラウと交渉中であり、地球の四大経済圏との交渉が終わり次第コロニー、火星へと視察に赴く予定である。
使節団はバエル、パイモン、ヴィネを持って行っており、その道中の護衛役は鉄華団が担っている。
鉄華団はバルバトス、グシオン、フラウロスを持っている為、道中の襲撃は考えられない事も伝えられた。
「――む? 確か、カルタは下半身不随だったハズだが」
「うん…私も聞いたんだけど、カルタさんは義足らしいよ。本人は『禁忌に手を染めるなど』って思ったらしいけど、背に腹は変えられないって」
身体改造を禁止したのは、セブンスターズ初代当主達だ。
だが、それは主に「阿頼耶織」の施術を禁止する目的だったらしい。
時代が経つに連れてこの条約は拡大解釈され、いつしか医療目的の義手義足まで疎まれるようになった。
今回の改革を経て、この辺りも明確に定義すべきだとアグニカは考えているようだが。
「――ありがとう。助かったよ、アルミリア。君はもう、帰って休むと良い。私には、グウィディオン艦隊関連の仕事が有るからね。石動達がある程度は処理してくれているだろうが、司令官がいなければ艦隊の運営は難しい」
「うん。頑張ってね、マッキー」
アルミリアと別れ、マクギリスは広大なヴィーンゴールヴの廊下を歩く。
向かうは、ファリド家当主の為に用意された専用の執務室だ。
と、その時。
「あっ」
「ん?」
廊下のT字路で、マクギリス・ファリドとガエリオ・ボードウィンが遭遇した。
「――マクギリス」
「……ガエリオか」
バッタリ出くわしてしまった2人は、しばし互いに睨み合う。
だが、その緊張を解いたのはマクギリスでもガエリオでもなかった。
「ヴィダール、何をしてるんです? とっくに先に行ってると思いましたが…早くしないと、ラスタル様主催の焼き肉パーティーに遅れますよ」
ガエリオより少し遅れて歩いていたジュリエッタ・ジュリスが、無意識にマクギリスとガエリオの緊張を解いた。
ガエリオとジュリエッタは、ギャラルホルン士官の一部で「肉おじ」と呼ばれているアリアンロッド司令ラスタル・エリオン主催の焼き肉パーティーに呼ばれ、会場になっているエリオン邸の庭へと向かっていたのだ。
焼き肉パーティーの為に歴史的価値の有る自宅の庭を解放するラスタルは、剛毅なのかただの肉好きなのか…恐らくは後者である。
「この情勢の中で焼き肉パーティーとは、随分と呑気なモノだな。アリアンロッドは、いつから肉好きの無能集団になった?」
「全くだ。使節団が世界を回っていて各経済圏が厳戒体制を敷いているにも関わらず、ギャラルホルン最大戦力たるアリアンロッドの司令官は本部で肉を焼いている。緊張感が足りない」
「――何故、このいけ好かない男と共に頭を振っているのですか。さり気なくラスタル様をディスっていますし」
ラスタルの所業について、揃ってディスるマクギリスとガエリオ。
関係は以前より悪化しているが、コンビネーションに乱れは無いらしい。
「…マクギリス。俺はバエル宮殿で、お前を全否定すると言った。だが、あの時はアグニカ・カイエルの介入で有耶無耶になってしまった。そして、お前が撃たれて治療室行きになってから半月。その間、俺は気付いたんだ。俺はまだ、
「――ほう」
「だから、俺はお前と今一度語る機会が欲しい。腹の内を一切合切ぶちまけて、納得するまで語り合いたい。俺と――話をしてくれ」
マクギリスの目を見据えながら、ガエリオはそう申し出た。
対するマクギリスは、呆れ果てたかのような顔で「良いだろう」とだけ返し――エリオン邸へ向かって歩み始めた。
「…何故、俺と同じ方向へ向かっているんだ」
「決まっているだろう。ラスタル・エリオンが開くらしい焼き肉パーティーに加わってタダ飯を食らいつつ、お前と話す為だ。俺は昔から、面倒事は先に片付ける主義でな」
「確かに、士官学校時代からお前はそうだったな。出された課題は、提出日が数日後であってもその日に終わらせていた。――まあ、俺はいつもギリギリだったが」
「お前は毎度毎度、課題提出期限が迫る度に焦っていたな。俺が何度お前に終わらせた課題を見せ、貸しを積み上げた事か」
「…オイ、あれはその度に一番高い学食メニューを奢ってたからチャラになっただろ」
「そうだったか。――思えば、あの『アグニカランチ』は実に絶品だったな。オマケで付いて来る『アグニカード』と『アグニカシール』は、全48種のコンプリートまでに時間が掛かったモノだ。末恐ろしくなる程、レアが出ないからな」
「俺は、士官学校の学食にまで進出してるアグニ会に恐怖を禁じ得なかったんだが…」
「アグニカの偉大さを広める為だけに存在していたのがアグニ会なのだ、士官学校の学食メニュー界に君臨するのは至極当然のコトだろう?」
「その結果がメニューの高騰化か。アグニカランチ一人前で1,925ギャラーとか、どう考えても学食の値段じゃない。他のメニューは、最安価のモノで150ギャラーだったのに」
「何を言う、アグニカードとアグニカシールの為ならば安いモノだ」
「オマケ目当てかよ。あれ、飯も普通に美味かったハズだが…と言うか、ほぼ毎回俺が奢ってただろ。お前、ほとんど自分の金で食ってなかっただろ」
「ああ。あれは、とても美味かったぞ。少なくとも、2,000ギャラー近くを払うだけの価値は有ったさ。しかし、貸しが際限なく積まれたままになるよりはすぐ返した方が良いだろう? 貸しを作るのが嫌だったならば、余裕を持って課題をやるべきだったな」
「ぐぬ…」
以前と変わらないような話をしつつ、2人はエリオン邸へ向かう。
その光景を一歩引いた所で聞いていたジュリエッタは(…これが、男の友情と言う奴でしょうか? いまいちピンと来ませんが…)などと思いながら、ガエリオの後ろに付いて行くのだった。
―interlude―
「それ」は、その光景をただ静かに見据えていた。
『俺の名は、アグニカ・カイエル!! ガンダム・バエルのパイロットにして、かつて厄祭の天使を狩った者!! そして、ギャラルホルンの最高幕僚長である!!』
ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」上空に現れたガンダム・バエルのコクピットより、アグニカ・カイエルの発した声明を。
『じゃあとりあえず――エイハブ・リアクターが創られる所から始めようか』
ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」のセブンスターズ会議場でアグニカ・カイエルが語った、厄祭戦の真実を伝える中継を。
『最高幕僚長アグニカ・カイエル主導の下、ギャラルホルンでは組織再編を始める事を決定致しました。つきましては――』
ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」から発表された、ギャラルホルンの組織再編開始の宣言を。
アグニカ・カイエルの手で変わり行く世界を、ただ見つめていた。
――さて。そろそろ、私も動くとしよう。アグニカ・カイエル…いや、人間よ。私と言う脅威の前にどう動くか、見極めさせてもらおう。
「それ」は、自身が隠れていた月面より飛び立つ。
8枚もの翼を広げ、黄金の双眼を輝かせて。
「天使王」ルシフェルは、300年振りにその身体を動かした。
―interlude out―
「来たかジュリエッタ、そしてヴィダール。いや、もうガエリオ・ボードウィン卿と呼ぶべきかな」
「好きに呼んでくれ。しかしだ、ラスタル・エリオン。最高幕僚長アグニカ・カイエルの手でギャラルホルンの組織改革が始まり、その第一歩たる使節団が経済圏を回っていると言うのに――何故、このような事を敢行した? 豪遊と断ぜられても文句は言えないが」
ガエリオは、ラスタルの目的をいまいち掴めないらしい。
このタイミングで、このような焼き肉パーリィを行うのか…それも、エリオン邸の庭で。
「組織再編が本格化すれば、ゆっくり出来る時間はほぼ無くなるだろう。その前に、バカ騒ぎは済ませておこうとな。まあ、それは建て前だ」
「…と、言いますと? ただ肉を食うための会ではないと?」
「その通り。一番の目的は、お前を釣る為だ――マクギリス・ファリド」
そう言って、ラスタルは右手に持つ焼肉トングでマクギリスを指し示す。
「成る程――まんまと嵌められたと言う事か。そして、どうするのだ。私を暗殺でもするつもりか?」
「まさか。一番の目的として掲げはしたが、お前が来るかは完全なる賭けだった。運試しでも有ったのだが、本当に達成出来るとは。私がお前を招き寄せたいと思ったのは、恐らくヴィダールと同じ目的が有ってこそだ」
マクギリスは、半ば呆れたような声で問う。
「ラスタル。お前もガエリオと同じように、俺と話し合いたいとでも?」
「如何にも。いがみ合うより前に、まずは言葉を以てその意思を確認せねばな。では早速、その第一歩としてパーティーを始めよう。美味い肉に美味い酒…いや、昼間だから酒は無いがな。美味い肉と美味いジュースで腹を満たし、明日への活力としようではないか!」
『うおおおおおおおおおおおおおお!!』
ラスタルの号令で、あちこちの熱されたコンロに次々と肉が放り込まれた。
食欲をそそられる音が響き、周囲に肉の焼ける匂いが充満する。
「な!? マクギリス・ファリド、貴様何故ここにいる!?」
「たわけ…いや、イオク・クジャンか。ガエリオに呼ばれただけだ」
「誰がたわけだ誰が! クジャン家の当主たる私に対してのその暴言、看過出来るモノでは無いぞ!」
「イオク様うるさい」
「…イオク様、地球外縁軌道統制統合艦隊と更なる確執を生みかねない発言はお控え下さい。ほら、あちらでは肉が焼き上がりそうですよ」
「な、離せ! だが肉は貰おう、行くぞ!」
部下にあっさり懐柔され、イオクは焼き上がりかけた肉の有る方向へと去って行った。
「…チョロいですね、イオク様」
「ああ…俺は気味悪がられてたから、あまり話せてないがな。ジュリエッタ、この肉食うか?」
「全く、人を見た目で判断するとは――それはそれとして、その肉は頂きます」
ガエリオは、焼けたコトを確認しつつジュリエッタの皿に素早く肉を乗せる。
「じゃあこの肉とこの肉も。ああ、この野菜もな」
「 前 の 2 つ だ け 、頂きます」
「好き嫌いは感心しないな、ジュリエッタ。ほらほら遠慮するな、成長出来ないぞ?」
「な、何をするのですか! あああ、そんなモノ乗せないで下さい!」
肉だけでなく幾つかの野菜まで盛られたジュリエッタは、拗ねて遠くの席へ行ってしまった。
それをしばし見守ったガエリオに、マクギリスが近寄る。
なお、その手の皿には既に肉や野菜が盛られてタレまでかけられている。
「随分と仲睦まじい事だな、ガエリオ」
「仮面を着けていた時に、MS格納庫で何かと絡まれてな。さて、俺も食うとするか」
ガエリオは目の前のコンロの上に乗せてあった残りの肉と野菜を自分の皿に移し、タレをぶっかけてマクギリスと共に席へ移動する。
席に付き、マクギリスとガエリオは向かい合う。
「マクギリス。お前は、何を目指して生きて来たんだ?」
「――と言うと?」
「最終的に、お前が目指した…いや、目指している目標のコトだ。お前は何を成し遂げる為にアインを利用し、カルタを利用し、イズナリオ・ファリドを謀殺し、俺を利用しようとしたんだ?」
その質問に、マクギリスは「アグニカ叙事詩」と「新約 アグニカ叙事詩」を机に置いて答えた。
「純粋な『力』のみがまかり通り、全てが決定される世界。出自、思想、経歴に関わり無く、己の力を研ぎ澄まし振るえば変わる世界。あらゆる秩序が排斥され、あらゆる確執が破却された世界――この本に描かれる、厄祭戦のような『力』が頼りとなる世界を実現したい」
マクギリスの意見を、ガエリオはただ静かに聞く。
「その為にアイン・ダルトンを用い、ギャラルホルンの信用を地に落とした。カルタ・イシューを行動不能とし、その後見人であったイズナリオ・ファリドを謀殺して地球外縁軌道統制統合艦隊の実権を握った。アグニカ・カイエルの圧倒的な『力』に憧れる同志もいる。そして、アグニカ・カイエルの力を象徴する『ガンダム・バエル』を操ってみせれば、ギャラルホルンの実権をこの手に収められる。その上で邪魔者を排除し、ギャラルホルンの支配体制を根本から破壊する。そうすれば世界から秩序は消え失せ、民草が頼れるのは己が力のみ。力による抗争が世界各地で勃発するだろう。さすれば、力のみが全ての事象を左右する世界――即ち、俺の望む世界が完成するハズだった」
拳を強く握って、マクギリスはそう熱弁した。
それを聞いたガエリオは、マクギリスの狂気に戦慄する。
力のみが、全てを変革する世界。
そんな世界が実現すれば、間違い無く人類は全面戦争を開始する。
それも、厄祭戦のように倒すべき目標が有るわけでは無い。
その先にあるのは、厄祭戦を越える程の血と欲に塗れた戦い…人類の闘争本能による、最後の1人となるまで続くであろう凄惨な殺戮だ。
「だが――そんな俺の野望は、他ならぬアグニカ・カイエルの手で水泡へと帰した。現代まで生き残っていたアグニカ・カイエルは、数々の困難を乗り越えて己の機体であるガンダム・バエルを奪還して見せた。そうしてギャラルホルンの最高幕僚長として返り咲き、ギャラルホルンを俺の目指す世界とは絶対に相容れない、民主制を是とした組織へ作り替えようとしている」
その光景は、ガエリオの目にも焼き付いている。
アグニカ・カイエルの操るガンダム・バエルは、「阿頼耶織 TYPE-E」を発動させて「鉄華団の悪魔」とまで呼ばれるガンダム・バルバトスルプスレクスを翻弄したガンダム・ヴィダールを、いとも容易く「バエル宮殿」の外へと叩き出した。
リミッターを解除していないにも関わらず、バエルの速度はガンダム・ヴィダールを操っていたガエリオとアインの反応速度を上回ったのだ。
「アグニカ・カイエルが、そのような偉業を成し遂げられたのは何故か? アグニカ・カイエルが、圧倒的に格上のMAを破壊出来たのは何故か? その答えは、ただ一言で片づくだろう」
何者をも蹴散らす、ガンダム・バエルとアグニカ・カイエル。
それは、まさしく――
「
マクギリスの言う「力」、その体現ではないのか。
「MAにも劣らぬ意志力、数々の悲劇を乗り越える精神力、あらゆるモノを凌駕する戦闘力を、アグニカ・カイエルが持っていたからに他ならない!! 堂々と世界へ宣言するアグニカ・カイエルを見て、俺は確信した!!
「ッ、違う!!」
ガエリオは思わずマクギリスの意見を否定し、机に拳を叩き付ける。
そのまま立ち上がり、マクギリスに向かってガエリオは叫ぶ。
「その暴力的な世界は、弱者が淘汰され強者のみが生き延び覇権を得る弱肉強食の世界だ!! そんな世界が、今この時代で許されて良いハズが無い!! 例え弱者であるからと言って、その者を蔑ろにして良いなんて事は絶対に無い!! 今世界を変えられる俺達は、弱者も強者も出自も思想も経歴も関係なく平等を実現した世界を作るべきだ!! その為のギャラルホルンの民主化だろう!?」
対するマクギリスも立ち上がり、ガエリオに自らの意見をぶつける。
「そんな理想論が、この世界でまかり通るとでも思っているのか!? 例えアグニカ・カイエルの意向通り民主化に成功したとしても、格差や差別は絶対に無くならない!! 全人類を平等にし、問題無く世界を動かす方法など存在しない!! 資本主義であろうと社会主義であろうと絶対王政であろうと民主主義であろうと例外なく、必ず虐げられる者はいる!! 虐げられた者は憎しみを募らせ、新たな戦いを招く!! どう足掻こうと、人類は戦いを止められない!! ならば、初めから対話など捨てて、闘争を以てのみ世界を決定すれば良い!!」
マクギリスの胸ぐらを、ガエリオは掴む。
どちらがやったかは分からないが、机が倒されて皿が地面へとぶちまけられる。
「それでは虐げられる者を増やし、憎悪や悲哀を世界中に撒き散らすだけだ!! 力のみがまかり通る世界を是とする人類など、石器時代の人類以下だぞ!!」
「ではお前は、仮初めの平和の中で苦しむ一部の存在を容認するのか!? 大半が笑えるならばそれで良いと唱え、一部の者は切り捨てろと!?」
「――ッ、何億か何万かでは、何万を切り捨てるしか無いだろう! お前も言ったじゃないか、全人類を平等にして問題無く世界を動かす方法なんて無いと!」
「だからさ! 有りもしない答えを求め続けて、人類はこれまで何千年もの間失敗し続けて来た! だったら、もう秩序など捨て去るしか有るまい!!」
「そんな暴論、虐げられたお前の憎悪を押し付けているだけだろう!? 同じく虐げられた者の中で、お前は力が強かった! だが、お前にねじ伏せられた者達はどうなる!?」
「一部を切り捨てる事を是としたのはお前だろう、ガエリオ!!」
「お前の言う理想の世界が実現したならば、その一部と多数が逆転する! 一部が享受し、多数が虐げられる世界となる!」
「それの何が問題だと言うのだ!? 人類はいつだってそうしてきた! 学校1つを取ってもそうだ、好待遇を受けられるのは成績上位者のみで、大半の生徒は不満をかみ殺す! だが、成績などはその者の努力でどうとでもなるではないか! セブンスターズでない一般階級の者であろうと、努力を怠らなければ成績上位者となれる可能性が有る! 俺は、その可能性を世界全体へと広げたい!!」
「だからと言って、闘争による人類の格差など認められるハズが無い!!」
ガエリオはマクギリスを殴り、突き飛ばす。
「やめろ、ウチの庭を荒らすな!」
マクギリスとガエリオの舌戦を見守っていたラスタルだったが、暴力に発展した事で止めに入る。
流石のラスタルも、旧きエリオン邸の庭を荒らされたくはないようだ。
「そら見た事か! ガエリオ、お前も結局は暴力を振るっているではないか! 俺の思想が正しいと、お前の行動自体が証明している!」
「違う! 確かに、人類の闘争本能は消せないかも知れない。だが、俺はお前と話した! 初めから暴力のみに頼ろうとするお前とは、絶対に違う!」
「ほざけ、ガエリオォ!!」
マクギリスは、懐から拳銃を抜いてガエリオに照準を合わせる。
その拳銃を、ジュリエッタが横から蹴り飛ばす。
「ここはラスタル様の邸宅ですよ、マクギリス・ファリド。不作法は見過ごせません」
「数の暴力を行使するか! ならば、俺も同じ手段を取ってやろう! 現在、地球の衛星軌道上にあるアリアンロッドの全艦隊を地球外縁軌道統制統合艦隊の総力を以て血祭りに上げ、俺の正しさを世界に見せ付けてやる!!」
それだけを言い残し、マクギリスはエリオン邸から去って行った。
「――愚かな男だな、マクギリス・ファリド」
「…どうするのですか、ラスタル様。あのようにケンカを売って来た以上、荒事になりそうですが」
ジュリエッタに言われて、ラスタルはしばし考えたが。
「最高幕僚長を含めた視察団が各経済圏を回っている今、地球外縁軌道統制統合艦隊とアリアンロッドがぶつかるような大規模の内部抗争をしているヒマなど無いのだが――このまま、アリアンロッド艦隊の壊滅を許す訳にも行くまい。
「はい、ヤマジン・トーカ技術長にキマリスヴィダール共々整備をお願いしています。それも、数日後に完成するそうですが」
「明日には完成させろ、と伝えてくれ」
「すぐに」
ジュリエッタへの指示を出し終え、ラスタルはイオクに声をかける。
「イオク、今のやり取りは聞こえていたな? お前は、新しい機体を用意しろ」
「……………と、言いますと?」
「確か、お前のレギンレイズは大破して放棄されただろう? お前はセブンスターズの一角を担うクジャン家の当主なのだ、あれを使っても咎められはせんさ」
「………は! すぐに用意致します! 行くぞ!」
部下を引き連れ、イオクはエリオン邸を颯爽と去って行く。
最後に、ラスタルはガエリオと向き合う。
「――すまない、ラスタル。俺が熱くなって、周りが見えなくなったせいだ」
「気にする事は無い。お前達の会話は完全なる並行線だった、対話で解決する事ではなかったのさ。私から地球外縁軌道統制統合艦隊には伝達して、争いを避けられるよう努力するが――通じなかった場合には、お前がマクギリス・ファリドを止めてくれ」
「分かっている」
そして、各々がせわしなく動き始めた事で焼き肉パーティーはお開きとなった。
「――結局はこうなった、か。この内乱の知らせを受けたなら、アグニカ・カイエルはすぐさま止めに来るだろう。出来るだけ、早く来て欲しいモノだ」
ラスタル・エリオン。
肉大好きおじさん――もとい、セブンスターズ第四席エリオン家の当主――もとい、月外縁軌道統制統合艦隊「アリアンロッド」の総司令官。
前の2つはともかく、エリオン家はアリアンロッドの総司令官を歴任して来た訳ではない。
何故ラスタルが他の家を差し置いてアリアンロッドの司令官となり、絶大なる権力を手に入れられたのか。
それは、圧倒的な指揮力――以外にも、もう1つの要因があってこそだ。
「…私が、
空は暗雲に包まれ、雨が降り注ぎ始める。
それは、今後のギャラルホルンの行く末を示しているかのようだった――
内乱、勃発致しました。
ですよね、因縁がそんな簡単に消える訳無いよね。
ヴィーンゴールヴを留守にするのはともかく、カルタ様まで連れて行ってしまったアグニカにも責任有りです。
次回「開かれし戦端(予定)」。