ロクでなし魔術講師と無限の剣製   作:雪希絵

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どうも皆様

もうそろそろテストが終わる開放感に満ちている雪希絵です

時間を超過してしまい、申し訳ございません

調べたり、練り直したり、書き直したり……色々と手を加えていたら、時間がかかってしまいました

それでは、ごゆっくりどうぞ


代償

「はぁ……はぁ……」

 

呪文を唱えた直後、酷い脱力感と疲労感がグレンを襲う。

 

手先が震え、全身が凍えるように冷えていく。

 

俗に言う魔力切れ、マナ欠乏症の症状だ。

 

【イクスティンクション・レイ】は、ほぼセリカの固有魔術(オリジナル)だ。

 

グレンはセリカに習った裏技で、その力の片鱗をほんの少しだけ再現しているだけに過ぎない。

 

分不相応な魔術を使えば、当然魔力は枯渇する。

 

「御苦労だった、グレン」

「これは……?」

 

アルベルトに投げ寄越されたものを見ると、それはキラキラと光を乱反射していた。

 

魔晶石、予備魔力を溜め込む宝石だ。

 

「使え。俺とお前の魔力の相性は良くないが、少し休めばマシになる」

 

戦闘に生きる魔導師にとって、自らの魔力の詰まった魔晶石は命綱だ。

 

それをあっさり投げよこすアルベルトに、グレンは驚きと懐かしさを感じた。

 

「グレン、俺のも使え」

 

そんなグレンに、ルイスは自分の魔晶石も投げ渡す。

 

「いや、ルイスの分まで貰うわけには……」

「俺はアルベルトさんと違って、頻繁に魔力使うわけじゃないからな。その分、魔晶石の数はゆとりがあるんだ」

「そ、そうか……」

 

グッと魔晶石を握ると、流れ込んで来た魔力がマナ欠乏症の症状を和らげる。

 

「分かった、ありがたく使わせて貰うぜ」

「「使ってから言うな」」

 

揃ってそう言うルイスとアルベルトに、ジャンヌが吹き出す。

 

グレンも苦笑いしながら、ヨロヨロと立ち上がる。

 

「はぁ……はぁ……とりあえず、お敵さん、これで品切れか?」

「そのようだな」

「一応、軽く周囲を見回り済みです。敵はいませんでした」

「そうか。……急ぐぞ」

「ああ」

 

四人は扉を開き、奥へと進んでいく。

 

しばらく歩くと、不意に開けた空間に出た。

 

「ここは……?」

 

何かの保管室のようだ。

 

大広間のような室内薄暗い。

 

床や壁、高い天井の所々に設置された結晶型の光源……魔術の照明装置の光はかなり絞られており、足元がよく見えない。

 

そして、辺りには謎の液体で満たされたガラスの円筒が、無数に、延々と規則正しく立ち並んでいた。

 

「……なんだこりゃ」

「なんかの装置か……?」

 

疑問に思ったルイスとグレンが円筒の中身を覗き込む。

 

そして瞬時に、辞めておけばよかったと後悔した。

 

思わず込み上げた吐き気を抑えるため、必死で口元を抑える。

 

「どうされたんです……か………」

 

ジャンヌも近くに寄るが、口元を抑えて絶句する。

 

背筋に悪寒がはしる。

 

気持ちの悪い汗が全身から吹き出す。

 

「……ッ!」

 

アルベルトも、その表情をいつも以上に硬く険しくする。

 

ガラスの円筒の謎の液体の中に浮いていたのは……人間の脳髄だったのだ。

 

「な、な、なんなんだ、これは!?」

「うっ……っ……!」

「ジャンヌ!」

 

吐きかけるジャンヌに、ルイスは駆け寄る。

 

まるで標本のように並んだ脳髄には、脇に何か書かれていた。

 

「……『感応増幅者』……『生体発電能力者』……『発火能力者』……」

 

アルベルトはそれを、淡々と読み上げていく。

 

「……全ての円筒に能力名がラベルされているな。あとは被験体ナンバーと各種基礎能力値データが少々……つまり、これは『異能力者』達の成れの果てか。どうやら此処では想像以上におぞましい実験が繰り返されているようだ」

「なんてことを───!バークスの野郎、真っ黒くろじゃねぇか……!同じ人間にすることじゃねぇだろ……!」

 

腸が煮えくり返りそうになり、グレンはギリギリと拳を握り締める。

 

ルイスも、ジャンヌの背中を擦りながら、歯が砕けそうな程に食いしばっている。

 

「恐らく、やつは異能力者を人間だと思っていないんだろう。調査によれば、バークス・ブラウモンは『異能嫌い』……典型的な異能差別主義者だったはずだ」

「ふざけんな……!異能力も魔術も似たようなもんだろうが!」

 

『異能力』。

 

ごく稀に、人が持って生まれる異能の力。

 

魔力で現象を引き起こす魔術と違い、異能力はなんの対価もなしに大きな効果を巻き起こす。

 

故に、人々はその力を畏怖し、嫌悪することがある。

 

特に、アルザーノ帝国ではその傾向が強い。

 

女王の意識改革で若者はその傾向は薄れつつあるが、帝国民にとっては一般的な共通認識なのだ。

 

「……? な、なぁ、グレン。あれ……」

 

ルイスに指摘され、グレンは顔を上げて指さされた方を見る。

 

『それ』は、脳髄だらけのこの部屋の中で、唯一人の形を保っていた。

 

「お、おい!みんな!あいつまだ生きてるぞ、早く助け……」

 

反射的に『それ』に駆け寄るが、途中で速度を落としてしまった。

 

『それ』はグレンのクラスの生徒達、つまりルイスと同じくらいの年頃の少女だった。

 

『それ』はたしかに人の形を保っている。

 

だが、手足を切り落とされ、様々なチューブに繋がれ、無理やり魔術的に生かされている状態だった。

 

ガラスの円筒の外に出れば、恐らく数分で死亡する。

 

生命活動は続いていても、その少女はとっくの昔に『終わって』いた。

 

(ひでぇ……こんなことって……!)

 

生徒達と、ルイスとの日々で忘れていた。

 

魔術とは、時に血みどろで、残虐で、残酷なものでもあるのだ。

 

だからこそ、グレンは魔術に失望したのだった。

 

「……………」

 

こんな状態でも、少女には意識があるらしい。

 

少女の虚ろな瞳と、グレンの目が合う。

 

そして少女は、僅かに、ほんの僅かに唇を動かした。

 

コ、ロ、シ、テ。

 

読唇術に自信がないグレンでも、そう言っているのは分かった。

 

その時だ。

 

「"牢記されよ、我は大いなる主の意を代弁する者なり"」

 

アルベルトの朗々とした声が、静寂を破る。

 

「"汝は我が言の葉を借りし主の意を酌み、その御霊を主に委ねよ。さすれば汝、悠久の安らぎを得ん……"」

 

ゆっくりと歩み寄るアルベルトが、空中で聖印を切り、聖句を唱える。

 

「お、おい……アルベルト……?」

「"死を恐るるなかれ。死は終焉に非ず、初頭の生誕を告げる産声となるもの。現世は円環にたゆたう一時の夢なりて、只、主の御名を三度唱えよ。さすれば汝、重き荷の頸木から解き放たれ、その生が積んだ罪は主の御名の元に赦され、濯がれん──"」

 

ジャンヌはそんなアルベルトの聖句に合わせ、両手の指を組んで合わせ、祈りを捧げている。

 

「"いざ、其の御霊は自由の翼を得て輪廻の旅路につき、永遠の安寧へと続く扉は其の心の前に等しくその門扉を開かん───汝の魂に祝福あらんことを"」

 

アルベルトは魔導師でありながら、司祭の資格も持っている。

 

何をしようとしているかは明らかだ。

 

しかし、グレンにもジャンヌにも、止めることは出来なかった。

 

止めたところで、何か出来るわけがない。

 

どんなに努力しても、どんなに魔術を極めても、救えない命は手からこぼれていく。

 

どうしようもない、どうしようもないことなのだ。

 

だが、

 

「"真に、かくあ───"」

「待ってくれ」

 

少女に向けられたアルベルトの左手を、横から握る手があった。

 

「ルイス……?」

 

困惑した顔のグレン。

 

アルベルトは、黙ってルイスを見つめる。

 

「……どうするつもりだ」

「……俺が助ける」

「なんだと?」

「だから」

 

左手を握る手に力を込める。

 

「だから、俺が、この子を助ける」

 

アルベルトがルイスの目を見ると、その目は決意と覚悟に満ちていた。

 

「……好きにしろ」

 

鼻を鳴らしながら、左手を下ろす。

 

ルイスは少女に向き直り、右手と左手を両方前に突き出す。

 

「《体は剣で出来ている・血潮は鉄で心は硝子・幾たびの戦場を越えて不敗・ただの一度も敗走はなく・ただの一度も理解されない・彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う・故にその生涯に意味はなく・その体はきっと剣で出来ていた》──────!!!」

 

叫ぶように、まくし立てて詠唱する。

 

投影の証の光が、左右の手の平に現れる。

 

直後、両目に痛みが走る。

 

歯を噛み締めて耐えながら、ルイスは記憶の奥底からイメージを引きずり出す。

 

「────『投影(トレース)……!」

 

一際光が強くなり、

 

開始(オン)』────!!!」

 

収束する。

 

「ぐっ……ぅ……っ……!」

 

少なくない魔力の減少と共に、それぞれの手に現れたのは、歪な形の短剣。

 

「……ジャンヌ。この円筒、壊してくれ」

「……いいんですね?」

「頼む」

 

ジャンヌは力強く頷き、手に持った旗を、

 

「ふっ────!」

 

躊躇なく円筒に突き込んだ。

 

ガシャンッ────!

 

と派手な音を鳴らしながら、ガラスの円筒は木っ端微塵になる。

 

「お、おい!ルイス!」

 

当然のように、少女は苦しそうに、か細く息を繰り返す。

 

チューブもほとんどが外れていた。

 

ほんの瞬き程の間に、少女は虫の息になっていく。

 

(おいおいおいおいっ……!何する気だよ、ルイス……!)

 

グレンは不安気な表情で、ルイスと少女を交互に見る。

 

アルベルトも黙ってルイスを見守る。

 

虫の息の少女に向かって、ルイスは、

 

「……ごめん。少しだけ、我慢してくれ」

 

その右手に握った歪な短剣を、突き刺した。

 

飛び散る血しぶき。

 

反射的に、少女の身体がビクビクと震える。

 

驚愕するグレン達の顔が、やけにゆっくりに視界に映る。

 

(ごめん…ごめん…痛いよな。でも大丈夫)

 

間髪入れずに、

 

「───────頼む、効いてくれ……!」

 

左手の短剣も突き刺す。

 

紫色の光と、水色やピンクに輝く光が、少女の体から溢れ出す。

 

その眩しさに、ルイスですら目を閉じる。

 

しばらく止まなかった光は、唐突に途切れる。

 

ゆっくりと目を開くと、

 

「……や、やった……!」

 

両手も両足も、チューブに繋がれていた痕も全て綺麗に修復された少女が、ルイスに抱かれていた。

 

「なっ……!?んな馬鹿な!?」

「どけ、グレン」

 

驚愕に硬直するグレンを押し退け、アルベルトがしゃがんで少女の首筋や手首に触れ、顔の前に手をかざす。

 

ジャンヌも慌てて駆け寄り、少女の体温などを確認する。

 

「……脈も呼吸も問題ない。意識はないが、間違いなく治っている」

「……おいおい、ふざけるのも大概にしろよ」

「ならば自分で確かめるがいい」

 

そう言われ、グレンはアルベルトと同じ手順で生命活動を確認する。

 

何度も、何度も繰り返す。

 

そして、

 

「……信じられねぇ」

 

完全に治っているという現実を、どうにか理解した。

 

「ルイス、お前、一体どうやって……?」

「……わからない」

「はっ?いや、今目の前で……」

「まあ、そうなんだけど……」

 

(『助けたい』って思った時には、もう動いてた……。一体、なんだったんだ……?)

 

困ったように、ルイスは髪をかく。

 

冷静さを欠いていたグレンとジャンヌは、当の本人であるルイスは、気がつかなかった。

 

唯一分かっていたのは、アルベルトだけ。

 

掻いているルイスの髪のほんの一部が、不自然に、急激に。

 

白く、染まっていることに。




お読み頂きありがとうございました

お気づきの方もいらっしゃるとは思いますが、ルイスが使ったのは『破戒すべき全ての符』と『修補すべき全ての疵』です

破戒すべき全ての符で魔術的拘束をリセットし、修補すべき全ての疵で傷を治す……設定としてはそんな感じです

女の子の傷が魔術だけによって付けられたものとは限りませんし、そもそも修補すべき全ての疵の元が短剣じゃないことも理解しております

それでも、私はどうしても彼女を助けたかったんです

それでは、また来週お会いしましょう
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