やはり俺の受けた祝福はまちがっている   作: サキラ

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ずいぶん間の空いた投稿()だったのに沢山の方に評価してもらえてとても嬉しい限りです。
今回はちゃんとした投稿です。



しかし彼は嫌いになれない。

▼▼▼

 

 

 

「で、ここどこですのん?」

 

知らない天井だ。いや天井どころか思いっきり知らん部屋だわ。

とりあえず直前の記憶を思い出す。

 

確か上位悪魔と戦っていてそれで……!

あいつらは!?上位悪魔はどうなった!?

 

「ッッ――!!」

 

咄嗟に起き上がろうとするも、全身に激痛が走り言葉にならない声を上げる。

こんな時に!だけど体は当分動ける状態じゃないらしい。

それならばと回復魔法を自分にかけようとした時、

 

「ハチマンさん目を覚ましたんですか!?」

 

シャッとカーテンが開き、ゆんゆんが駆け寄ってきた。

なんだ……無事だったのか。

 

「痛つつ……えっと、とりあえず状況を説明してくれ。俺が倒れた後どうなったんだ?」

 

そう聞くとゆんゆんが気まずそうに目を逸らす。え、なに?俺もしかして気を失った後、恥ずかしいことになってたりしないよね?失禁とかやっちゃってないよね?

 

「えっと……かいつまんで言うと、私が囮になって、その隙にクリスさんとダクネスさんにハチマンさんをエリス教会に運んでもらったんです」

「なるほど。それじゃここは教会ってわけか」

 

となると俺が今寝てるのは、先日ミツルギを回復させたときの重傷者用ベッドスペースの一画なんだろう。

回復させた俺が今こうして回復してもらう立場とは、ゾンビからミイラに転職した方がいいかもな。

 

「……ごめんなさい。無茶しないようにって言ってたのに一人で戦うようなことして」

「いや、そもそもは俺が原因だろ。上位魔法を防いだ後も、結局気を緩めちまってあの様だ。ゆんゆんの気にすることじゃねえよ」

「ち、違います!上位魔法だって普通の紅魔族は使えるんです!だけど私は中級魔法で学校を卒業しちゃったから。だから上位魔法さえ覚えていれば……」

「仮定の話をしたところで仕方ねえだろ。それ言ったら、俺がレベル上げサボってなけりゃ浄化魔法で瞬殺だったんだ」

「いえいえそんな!私がもっとしっかりしてれば!」

「いやいや、だから俺がサボってなけりゃな」

 

なんだこれ。一向に話が平行線だぞ……。

というか責任の押し付け合いならまだしも、責任の被り合いってほんとになんだよ。

 

「ま、いいか……にしてもよくあの悪魔を倒せたな?」

 

とりあえず責任の被り合いは置いといて、ずっと気になっていた事をゆんゆんに尋ねる

すると、彼女の表情が苦虫を噛み潰したような気まずそうなものに変わる。

え?まさか倒せてないとか?

 

「えっと……実は上位悪魔を倒したのは、私じゃないんです」

 

実に言いづらそうにゆんゆんが告白する。

いや、別に盛大にかっこつけてもない限り恥じるような事でもないと思うんだけど?

 

「ってことはダクネスやクリスが増援を呼んで来たって事か?」

 

まぁそのあたりが無難なとこだろう。

しかし、ゆんゆんは首を横に振る。

 

「そうでもなくて、あっでも確かに増援は来てくれてですね……えーと……順を追って説明するとですね、こないだ最後に行った魔道具屋で買ったマジックポーションを使ったんですよ」

 

あー……そういや行ったな。

あのやたら爆発物を多くそろえている魔道具屋。なぜか店長さんにかなり親切にしてもらったからよく覚えている。あと何がとは言わないけどとてもデカかった。よく覚えている。

 

「そのポーションは麻痺魔法の威力と効果範囲を物凄く強化するもので」

 

ぬいぐるみに入れた爆発ポーションの他にも、そんなのが置いてあったのか。

もしかしたら、浄化魔法の威力が上がる聖水なんかも置いてあったのかも知れないな。

 

「その効果は聞いてた通り凄い強力でした。麻痺魔法が効かない悪魔を……私諸共麻痺させちゃうくらいに」

「……なにやってんの?」

「わ、私だってこうなるなんて思ってなかったんですから!!」

「まぁ……そりゃそうだよな。ていうかそれ結構ピンチだろ?よく無事だったな」

 

魔力を無駄にしただけならまだしも、アイツの方が先に動けるようになったりしたらそれこそ大惨事だ。

 

「あっはい。それで困ってた所に紅魔の里から来た子が来てくれて」

 

あぁ、それで協力して倒したってやつか。まぁ一緒に里から来るくらいだしやっぱり仲いいんだろう。

 

「……その子が一撃で倒してしまいました」

「……は?」

 

え?なにそれ。

 

「えっと……その子凄く強力な魔法を使えるんですよ。だからそれで」

「倒せちゃったのかぁー……」

 

そう言えばゆんゆんは、その子のことをライバルとも呼んでた気がする。引っ込み思案なゆんゆんが言うほどだ、かなり優秀な魔法使いなんだろう。

それでもなんか納得がいかない。

ならもう最初からそいつ一人で良かったんじゃね?なんて思ってしまう俺がいる。

なんかもう考えれば考えるほど気が滅入ってしまいそうだったので、とりあえずいいことの方を考えることにした。

 

「……ってことは、もう上位悪魔とは戦わなくていいってことだな」

 

退院したら早速再戦とかにならないでホント良かった。

あんなの一回きりで充分……てかもう二度と行きたくないレベルだし。

 

気が抜けたのか溜息を漏らすと、不意にゆんゆんが深く頭を下げてきた。

 

「あの、改めて協力してくれてありがとうございました」

 

……その礼を受け取る資格が、俺なんかにあるのだろうか?

そもそも俺の力なんて転生特典の紛い物だ。パーティー加入できなかったからという理由をつけて、レベル上げもしてこなかった。今回の怪我もそのツケだろう。

 

「……いや、俺は大してなんもしてないだろ。回復役のくせに真っ先にやられて気絶してたし、浄化魔法でも結局倒せなかったしな」

 

我ながら振り返ってみると酷い内容だ。

作戦も穴だらけだし結果も中途半端、死人が出なかったのはよほど運が良かったからだろう。

だとすると、日ごろの不幸もイーブンってところだな。

 

「えっと、そういうお礼じゃないんです。どれだけ活躍したとか、もっとレベルを上げてたらとか、そういうのじゃなくて。その……なんていうか、買い出しに行った日の事覚えてますか?」

 

ゆんゆんの言ってるのは、悪魔討伐の為の買い出しの事だろう。ほんの数日前の事だが、忙しかったからか随分と懐かしく思えてしまう。

 

「あの時、コンビになろうと言ってくれて嬉しかったんです。事情を知った後の時にも協力してくれるって言ってくれて嬉しかったんです。だからありがとうございました」

「……別にそれだって俺が勝手にやったことだぞ?気にすることでも、ましてや感謝するような事でもない。俺がやりたくてやっただけで、ゆんゆんを助けようと思って動いたわけじゃないからな」

 

そうだ。本気でコンビを組もうとした事だって、別にゆんゆんを同情して言った言葉ではない。

あくまで自分の為。彼女となら、あるかどうかも分からない本物を見つけられるかもしれないと思ったからだ。だからゆんゆんが礼を言う必要なんてどこにもない。

 

「だから――」

 

『気を使って礼なんか言うのは止めろ』と、続けて言おうとしたところで不意に口が止まった。

あの日の彼女の顔。夕焼けに染まる帰り道で、目に涙を浮かべて去っていった彼女の姿が脳裏を横切る。

 

「……いやだから俺の意思だし、ゆんゆんは気にしなくていいんだよ。ほんとマジで」

 

結局、出てきたのはそんな言葉だった。

上手く言葉に出来た気はしないが、言いたいことは言えた気がする。

すると、ゆんゆんはどこか嬉しそうに顔を赤らめた。

 

「……どした?」

「い、いえその……つまりハチマンさんは、純粋にコンビを組みたいと思ってくれたって事でいいんですよね……?」

「?……まぁそうなるな」

 

意図はよく分からないが間違ってはないので同意すると、ゆんゆんは「えへへへ……」と今度は照れたように笑いだした

…………まぁ気にしてないようならそれでいいか。

 

「あ、あのっハチマンさんは何か私にしてもらいたいこととかありませんか!?」

 

突然にゆんゆんが上機嫌で聞いてくる。

なんだろう。お礼とかのつもりならほんと気にしなくていいんだけど。

 

「いや、だからお礼とか考えてるならマジでいいって」

「そうじゃなくて、さっきのハチマンさんと一緒で、これは私がやりたいからやるんです。だから遠慮せずになんでも言ってください」

 

頑張るぞいポーズをして意気込むゆんゆん。

しかしどうしたものか……。

こうやる気を出されると断るのが却って申し訳なくなっちゃうし、素直に応じさせてもらうことにするつもりだが、正直これと言ってやってほしいことなんてない。

というかさっきなんでもと言いましたよね!?つまりそれは『なんでも』っていう事なんですよね!?

 

とはいえ本当に『なんでも』させるわけにもいかないので、うーん……うーん……と悩んでいると腹の方からぐぅ~と気の抜けた音が聞こえた。

 

「あっ!それじゃお見舞いに果物持ってきたんでリンゴ剥きますね!」

「お、おう。……頼むわ」

 

なにこれめっちゃ恥ずかしい!

そう言えば昨日から何も食ってないんだもんな!そりゃ腹減ってるよな!!だからって鳴るんじゃねえよ!!

今すぐ布団に潜って喚き散らしたいけど、怪我のせいで体が動かない!

しかも目の前にはゆんゆんがいる。なんの罰ゲームだよこれ……。

 

「お待たせしました。どうぞ食べてください」

 

しばらくやり場のない恥ずかしさに悶えていると、ゆんゆんが剥いたリンゴを差し出してきた。

皿の上に並べられたリンゴは綺麗にウサギの形に剥けている。

 

「へぇ器用なもんだな」

「そ、そうですか?友達がいつ訪ねてきてもいいようにおもてなしテクニックを磨いてきましたから、その成果ですかね!?」

「そ、そうかもな……」

 

素直に感心しているとこに、なにやら悲しげな情報が耳に入ってきた。

というかウサギリンゴっておもてなしテクなのか?

そして、そもそもそれを披露する機会が今まであったのか?

 

幾つか疑問が浮かんできたが、聞いてみると余計悲しくなりそうだったので、胸のうちに仕舞い込んで、剥いてくれたリンゴを頂くことにする。

 

「痛っ!」

「だ、大丈夫ですか!?」

 

しかし手を伸ばそうとした瞬間、激痛が腕に走った。

……そうだった。包帯で見えないけど大やけどしてたんだったな。

 

「あー……そういや腕動かせなかったわ。悪いゆんゆん」

 

せっかく剥いてもらったのに、これではあんまりだと思いゆんゆんに頭を下げる。

好意を無碍にしてしまって本当に申し訳ないが、食べ物を無駄にするのもどうかと思ったので、ゆんゆんに代わりに食べてもらおうと思い顔を上げると……

 

「……なにやってんの?」

「え?だって悪いけど食べさせてくれって意味じゃなかったんですか?」

 

そう。リンゴにつまようじを刺してこちらに差し出してくるゆんゆんがいた。

 

「いや。アレは悪いけど食べれないって意味のやつで、仕方ないからゆんゆんに食べてもらおうかと」

「そ、そんなダメです!これはハチマンさんへのお見舞いなんですから!」

「とは言ってもだな……」

 

このまま食べないと悪くなっちゃうし、捨てる事なんてさすがに出来ない。俺が自分で食べられないとなると、もうゆんゆんに食べてもらう以外選択肢なんてないだろ?

 

「わ、私は別にいいんですよ?その……食べさせてあげる事くらい」

 

顔を赤らめてゆんゆんが言う。

やめて!そんな風に言われると余計意識しちゃうから!

 

「い、いやだけどだな……」

「その……それにこのままだとせっかく剥いたのに悪くなっちゃいますし」

「それならゆんゆんが食べればいいだろ。気持ちだけ貰っとくから」

「でもハチマンさんお腹空いてるんですよね……?」

 

……それを言われると言い返せない。

正直、ゆんゆんが食べてるのを見ているだけで、また腹が鳴る気がする。

 

「……だけど食べさせるなんて、ゆんゆんもしたくないだろ?」

 

自分で言って悲しくなるが、俺に食べさせるのなんて罰ゲームもいいとこだろう。

むしろ罰ゲームの女の子が泣き出して罰ゲームすら成り立たないレベル。てか俺の方がもう泣きそうなんだけど……。

ともかくそんな行為を怪我を口実にやらせるわけにはいかない。あとが怖くなっちゃうし。

 

「……別に私、嫌じゃないです」

「…………はい?」

 

すごく変なことが聞こえた気がする。

嫌じゃないって?いやいや、そんなの小町でもやってくれないんだぞ?たぶん。

 

「たしかに恥ずかしいですけど、ここにはその……私達だけですし……大丈夫です」

 

……なにが大丈夫なんだろう?

いやむしろ、ゆんゆんは大丈夫でも俺は大丈夫じゃない。

というか正直ぼっちにはハードルが高過ぎる。ていうか、今時のラノベ主人公でも「あーん」なんてやらないぞ……

 

「あの、もしかして迷惑でしたか……?」

 

いや迷惑とかじゃなくてですね……。と返そうとして思わず口をつぐむ。

その顔はずるくないですかね……。

少なくとも、「嫌われたんじゃないか?」と言いたげな顔をされると断るわけにもいかないだろ……。

 

「……じゃあ頼むわ。」

 

短く答えると、ゆんゆんはほっと安心したような顔をしてリンゴをこちらに差し出してきた。

 

「は、はい……あーん」

 

いかん。ただでさえ小っ恥ずかしいのに、ゆんゆんの方も恥ずかしがりながらやってるもんだから余計に恥ずかしくなってくる。

だけど差し出されたままにしているわけにもいかないので、観念して口を開けてリンゴを咥える。

無心だ。無心で咀嚼しろ。もしもこの状況でゆんゆんと目があったりしたら恥ずかしさで死ねる。

 

ろくに味も分からぬまま一つ食べ終わると、今度は無言でゆんゆんはリンゴを差し出してきた。

その顔は爪楊枝の先のリンゴ以上に赤く染まっている。どうやら最初の一回でゆんゆんのキャパシティーでは限界だったらしい。

まぁこっちも何かリアクションを取れる余裕なんてあるわけないので、手早く無心でリンゴを咀嚼する。

 

10分ほどだっただろうか。ようやく皿の上のリンゴは綺麗さっぱり俺の腹の中に消えていったが、お互い無言の状態はなお続いてる。俺はまともにゆんゆんの顔が見れない状態だし、チラチラと様子を伺った限りだと、ゆんゆんの方は顔を真っ赤にさせたままプシュ~と湯気をあげていた。

 

沈黙が解かれたのはエリス教会のプリーストが面会時間の終了を告げに来た時だった。

まだ気恥ずかしさが残ってる中、短く言葉を交わしてゆんゆんが病室から出ていく。

 

「なんか……めっちゃ疲れた」

 

天井を仰いでポツリと言葉が漏れた。

そういえばこの世界に来てから、ぼっちらしく一人でゆっくりした時間なんて初めてじゃないんだろうか?

来たばかりは毎日生きていくことに精いっぱいだったし、セシリーやゆんゆんに出会ってからはかなり騒がしいかったからな。なんかそういうの全部含めて色々疲れた。

 

……けど意外な事に不思議と悪い気はしない。

 

勿論、今回みたいな騒ぎは二度とごめんだが、それでも何故かこの世界を嫌いになれない俺がいる。

……まぁどうでもいいか。

その理由付けを探したところで、俺には結局分からないんだろう。

だから俺は今抱いてる感情を否定しない。

理由は分からなくとも、そう思ってることは事実なんだ。

だったらこの場はそれでいいんだろう。

 

俺は疲れてる。けど悪い気はしない。

 

そして否定しないと決めた以上、疲れてる俺がこのままダラダラと眠りに落ちた所で何の問題もないはずだ。

やってくる睡魔を拒まない理由をつけた所で、俺は意識をまどろみの中に手放した。

 

 

▼▼▼

 

 

……寝苦しい。

 

あれからずっと眠っていた俺は、のしかかる様な重みに嫌気がさし目が覚めた。

既に陽は落ちているらしく、枕元に置いてあるランプが病室を優しく照らしている。

他の怪我人たちだろうか?周囲から寝息が聞こえてくるのを考えると、もうだいぶ遅い時間らしい。

 

こんな時間になんだってんだいったい……。

 

昼にはなかった体調不良に思わず溜息が出る。

夜になって症状が悪化するパターンかも知れない。

 

こういう場合はナースコールでよかったのか?でもここ教会だし、そもそもこの世界に呼び鈴みたいなのってあんのかな?

 

体を起こして周囲を探ってみるも、それらしいものはない。

それならいっそだいぶ楽になってるし、自分で回復魔法を使ってみるのもいいかも知れない。

 

……いや、ちょっと待て。

 

違和感を感じて火傷した腕や起こした上半身をゆっくりと曲げてみる。

……特に痛みは走らない。

 

「回復してんのか……?」

 

ポツリと言葉が漏れる。

昼間は激痛で起き上がることすら出来なかった身体は今では難なく動かせるし、心なしか普段より軽く感じられる。

にわかには信じられないが、どうやら間違いないらしい。

けれどなぜこんなに早く回復できたんだろう?

回復魔法を使おうにも俺は魔力が尽きてたし、こう言っちゃ悪いがこの教会のプリーストの回復魔法は大したことない。

あの女神の事だ。回復能力が上がるようなメリットがあれば絶対に言ってくるに違いないから、転生特典って線も薄い。

 

いくら考えてもそれらしい理由は見つからない。

もうとりあえず回復してるしいいや。と投げやりになっていると、ふと最初の疑問を思い出した。

 

そういや回復はしてるのに体が重いのはなんでだ?

 

最初は怪我のだるさかと思っていたが、意識がはっきりしてくるとそういった類のものではなく、なんというか物理的に重たい。

ちょうど下半身。腰から足にかけて何ががのしかかってる感触がある。

 

「……なにやってんだコイツ」

 

思わずそんな言葉が洩れた。

枕元にあるランプを手に取り確認すると、そこにはセシリーが俺の足を枕にして眠っていた。

……どうりで重たいわけだ。

すやすやと呑気に寝息を立てているセシリーを見ると、なんだか無性に腹が立ってくる。

とりあえず叩き起こしてやるかと、さらに体を起こして手を伸ばすとセシリーは寝苦しそうに身を捩り、

 

「んっ…うんんんっ…ル…ヒール……ヒー……」

 

…………。

 

伸ばしていた手をそっと彼女の頭にのせる。

ほんっと、なにやってんだよお前は……。

こんな夜中にエリス教会に侵入しやがって……バレたらどうするつもりだったんだ。

 

「……少しは後先考えて動けよ、お前は」

 

言いたいことは山ほどあるが、ひとまずそう悪態を言っておく。

まぁだけど、当のセシリーには聞こえてるわけもなく、相変らず呑気な寝息を立てているのだが。

 

それにしてもほんと人騒がせな奴である。

突然帰ってこなくなったと思ったら、いきなりこんなタイミングで現れやがって……。

思えばセシリーには今まで散々苦労をかけられた。

自分勝手で能天気で騒々しくて、いつも何らかのトラブル起こしてて……

 

……だけど、そんな彼女に俺はどこか救われていた。

 

コイツと出会ってなかったら、きっと俺はこの世界に耐えらなかっただろう。

すやすやと眠る彼女の頭を優しく撫でる。柔らかな感触が何とも心地いい。ほんと治って良かった。

頭を撫でてもセシリーは当分起きそうにない。

それなら、丁度いい機会かもしれない。

普段のコイツにそんな事を言ったら、絶対に調子に乗るから言わないけど、寝入ってるのならその心配もないだろう。

だから初めてセシリーにその言葉を口にする。

 

「……ありがとな、セシリー」

 

 

 




とりあえず一章エピローグ第一話的な。
次回の投稿でとりあえず一章終わりです。
二章始めるにあたって悩みが一つ、めぐみんとのやり取りどうしよう……
誤字脱字等あればご報告ください。それでは。

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