まばゆい光が収まり周囲を見渡すと、そこには中世風の街並みが広がっていた。
「おお……!ほんとだ。ほんとに異世界だ」
思わず声が漏れる。日本に住んでアスファルトの道と鉄筋コンクリートに慣れた身からすると、この光景は感動ものだ。
しばらく周囲を散策する。
道端では無邪気に子どもたちが遊び、大通りでは商売人達の威勢のいい声が上がり、車ではなく馬車が行き交っている。
恐らくここはゲームで言うところの始まりの町的な所だろう。
始まりの町は割と寂れてる印象があったのだが、そういう訳でもないらしい。
とても魔王軍が攻めてきていて世界の危機になってる風には見えない。
まぁ、なんにせよまずは当面の拠点を見つける事からだ。
始まりの町だ。駆け出し冒険者用の安い宿の一つや二つ……。
そこまで考えてピタッと動きを止め、おもむろにポケットの中を確認する。
……上着ポケット、空。
……ズボンポケット、空。
…………俺、一文無しじゃん。
それどころか現在俺は住居不定、身元不明の完全不審者である。
今は夕方。これは夜になる前になんとか最低限の寝床と身分証みたいなものを作らないと、今夜の寝床がブタ箱になるなんて笑えないことも起きかねない。
これはまずい。
周囲を見回し何とかできないかと考えていると、唐突に後ろから肩を叩かれる。
恐る恐る振り返ると、そこにはガタイのいい憲兵の様な格好のお兄さん2人が立っていた。
「もしもしそこの君、少しいいかな?よければ身分証になるようなものを提示してもらえると助かるんだけど」
……。
拝啓、小町ちゃん。お兄ちゃんは初めての異世界で無事、今夜の寝床を見つけることが出来たようです。
▼▼▼
「じゃあ君は冒険者になりに今日この町にやってきた、ということで間違いないんだね?」
「はい……。今日来たばっかりで一文無しなんです」
俺が答えると警官はチラリと小さいベルのようなものに目を向ける。
シンと静まった屋内にふう、と一息つくような溜息が漏れた。
「しかしチバって地名は聞いたことがないな?」
「おそらく遠い辺境の村かなにかだろう」
おい。それはグンマーだ。千葉は実の兄妹で恋愛できる未来都市だぞ?
千葉県民として口を挟んでやりたくなったが、下手に言葉を発して妙な疑いをかけられたくない。
俺は現在、異世界の留置所で二人の警官から事情聴取を受けていた。
身元不明の不審者の言うことがなぜにすんなり受け入れられてるかというと、この世界には超高性能な嘘を見破る魔道具があるらしく、それにより俺の言い分が少なくとも嘘ではないと証明されているからだろう。
なんとか疑惑を晴らしてくれた異世界の謎技術に感謝なのだが、正直こんなことで異世界らしさを体感したくなかった……。
「いや疑って悪かったよ。ゾンビのような目をした男が徘徊してるという通報を受けたのでね?」
「まあともかく、今日は遅いから泊まっていきなさい。それで明日冒険者ギルドに行くといい。そこで冒険者登録をしたら、それが君の身分証になるから」
「はい。いろいろお手間をかけさせて申し訳ありませんでした……」
ファンタジー系の世界のようだしゾンビも当然のようにいるんだろう。
そんな世界の人間にもゾンビ扱いされてるのか俺は……。
少し悲しい気持ちになりながら奥の部屋に案内されると、そこには小さくはあるがベッドが置かれていた。
警察署内とはいえ鉄格子がついていないだけだいぶマシだろう。
異世界に来ての初イベントが取調べだったのは悲しいが、冒険者ギルドの場所を知ることができ、なりゆきとはいえ心配だった今日の寝床まで手に入れたのだ。
この世界の法律は全く知らないが、取調べを受けて署内で一泊するだけで前科者扱いにはされないだろうと信じたい。
とりあえず明日こそは冒険者ギルドに行って身分証の確保と拠点を見つけなくては。
この世界に来て数時間しか経っていないのに既に心が折れそうなのだが、頼れる人、甘えられる環境がないぶん必死に生きていかねばならない。
どうか冒険に出る前に野垂れ死ぬなんて事になりませんように。
とりあえず、いるとだけ分かった神に祈り俺は眠りについた。
文字数って難しいですね。
自分の中の区切りで書こうとしたら足りなかったです。
もうちょっと文字数増やしたいですね。