別行動してぇなぁ……。
アクセルの町を汚れた格好で歩いてる俺は、周囲から寄せられる白い視線に晒されながらため息をついた。
それにしても酷い目にあった。
あのあと波に飲まれた俺達は、爆音を聞きつけて集まってきたモンスターの群れに襲われ、ボロボロの状態になっていた。
リザードランナーとかもう二度と見たくない。
まぁそれはいい。……いやよくないけど。
なんにせよ、ボロボロの冒険者なんてアクセルじゃ珍しくもないから、今更白い目で見られるようなことはないのだ。
問題は俺達の……いや、カズマのパーティーの積み荷だ。
あのアクアを入れていたデカい檻は馬車で運んで来たらしく、帰りも同じく馬車に積んで運んでいる。
……その檻の中にアクアとめぐみんを入れてだが。
めぐみんはどうやら爆裂魔法を放つと、魔力切れを起こして倒れて動けなくなるらしい。
普段は撃った後はカズマにおぶられて帰還するらしいのだが、今回は罰として檻の中に入れられたわけだ。
ちなみにアクアの方は檻の外の世界が怖いから出たくないらしい。
これが天岩戸というやつなんだろう。違うか?違うな。
なんにせよ精根尽き果てた美少女二人を檻に閉じ込めて進む姿は、事情を知ってる身からしても奴隷商人にしか見えない。
だからこそ別行動を取りたかったのだが……。
アクセルに着く直前、ゆんゆんと今後の事を話してる最中にダクネスからギルドに帰還報告をしなきゃならないと教えられ、それなら一緒に行かないかと誘われたのをゆんゆんが二つ返事で了承してしまったのだ。
さすがに人見知りのゆんゆんを一人残して別行動をとるわけにもいかなかったので、なし崩し的に俺はゆんゆんの隣を歩いているわけだ。
「出涸らし女神が運ばれてーくよー……きっとこのまま売られていーくよー……」
馬車の積み荷、もとい檻の中ではさっきからアクアがドナドナを思い出させるメロディーの哀しい歌を口ずさんでる。
そのせいで周囲からさらに危ない目で見られてるが正直、無理やり付き合わされてる俺もアクアと似たような心境だった。
なんでこいつらはこうも悪目立ちするんだろう?
「女神様!?女神様じゃありませんか!?」
相変わらず白い目を向けられながらアクセルの町中を進んでいると、ふいに聞き覚えのある声が響いた。
思わず足を止め目をやると、上位悪魔討伐の時に回復してやったのに結局なにも出来ずにやられて帰ってきたミツ……ミツナガ?ミツムラ……?うん。ミツなんとかさんが血相を変えてこちらに駆け寄ってきていた。
「一体どうしたのです!?なぜあなたのようなお方がここに!?そしてなんで檻の中に!?」
おぉ……俺が結局聞けず終いで引っかかっていたことを、ミツなんとかさんがそっくりそのまま代弁してくれている。
そういやこいつも転生者だったな。なんだったか剣か何か貰ってた気がする。忘れたけど。
しかし呼びかけもむなしく、檻の中のアクアは無表情のままあの悲しげな歌を口ずさんでいる。
唯一、事情を知っているだろうカズマらもいきなりの乱入者に呆気に取られたままだった。
「待っててください女神様!今から僕が助けますから!!」
痺れを切らしたのか、女神を救う勇者にでもなったつもりかは分からないが、ミツなんとかさんは檻の鉄格子を両手で掴み力を込め始める。
いや開くはずないだろ。モンスター用の檻だぞこれ……。
「……ぬんっ!!」
うっわ、マジかよ開けやがった。
なにこの人、バスター3枚のゴリラか何かなの?日中三倍でぬんぬんぬんぬん言っちゃうの?
ゴリラみたいなミツなんとかさん……あぁそうかゴリラギさんか。
「待て。私の仲間に馴れ馴れしく触るな。貴様何者だ?」
俺達が唖然としてる中、ただ一人ダクネスがゴリラギさんの肩を掴む。
肩を掴まれたゴリラギさんは払いのけようとするが、ダクネスはしっかりと掴んだまま離さない。
……どうやらダクネスの方もゴリラだったみたいだ。
驚いた様子のゴリラギさんに、ゴリネスは挑発するかのように勝ち誇った顔を浮かべる。
「……ぬんっ!」
「……ふんっ!」
そしてそのまま力比べを始めた。
そんな二匹のゴリラをよそに、カズマはアクアに近づいて声をかける。
「……おい、アレお前の知り合いなんだろ?女神様とか言ってたし、アレが前に言ってた先に送り出した敬虔な信徒とやらじゃないのか?」
「……女神?」
……女神?
くしくもアクアと同じ反応になってしまった。
それでも自分を見失ってるアクアと違って、俺が気になったのはカズマがアクアを女神と呼んだことだ。
カズマのパーティーの面々を見ると、アクアの事を女神と呼ぶゴリラギさんを可哀相な奴を見る目で見ている。
この反応を見る限り、アクアの正体を知っているのはカズマだけらしい。
ということはカズマも転生者か。よくよく考えれば名前や見た目も日本人っぽいもんな。
「そうだよ!お前女神なんだろ!アイツどうにかしてくれよ」
「……ああっ! 女神! そう、そうよ、女神よ私は。それで? よくわかんないけど女神の私にこの状況をどうにかして欲しい訳ね? しょうがないわね!」
自分を取り戻したアクアがもぞもぞとゴリラギさんの空けた隙間から這い出てくる。
そして目の前で相変わらずダクネスと力比べをしている男を見て……。
「え、あんた誰?」
お前も忘れてるのかよ。
「なにを言ってるんですか!?僕です、御剣響夜ですよ!あなたにこの魔剣グラムを頂いた!!」
あ、そうかミツルギか。
そういやこいつ自分の事をアクアに選ばれた勇者だとか思い込んでたな。
「…………?」
ミツルギの自己紹介に首を傾げるアクア。
どうやらアクアはそれでも思い出せないでいるらしい。
引きつった顔を浮かべているミツルギがさすがに不憫に思えてきた。
そんなミツルギを他所に、そもそもこれはどんな状況なの?とばかりにアクアはキョロキョロと周囲を見回しだす。
そして俺と目が合った瞬間、
「あーーーー!!!」
うおっビックリした!
突然アクアがこちらを指差して大声をあげた。
「こんなところに居たのね!こっちに来てからずっと探してたんだから!!」
馬車から飛び降りたアクアがそのままズカズカとこちらに迫ってくる。
なんかめっちゃ怒ってません?
「……ど、どなたですのん?」
なんとなく嫌な予感がしたので、詰め寄ってきたアクアから視線を逸らして苦し紛れに答える。
「なにすっとぼけてんのよ!私がアンタにどれだけ尽くしたか分かってんの!?」
「……え、なんの事?」
尽くされた?
そっちは本当に知らないんだけど?
「はぁぁぁ!?なに言ってんのよ!私の一番大切なものまで奪った癖に!」
いやマジで知らんのだが……。
もういっそ誰かと勘違いしてるんじゃないかと思っていると、ゆんゆんが未だに檻の中にいるめぐみんに近づいて声をかけた。
「ね、ねぇめぐみん。これってどういうことなのかな?」
「どうもこうも見たまんまでしょう?ハチマンはアクアの元カレか何かでアクアを捨てたんですよ」
めぐみんの一言に周囲の空気が一気に凍り付く。
……おいおい、お前氷結系の魔法まで使えたのかよ。
空気まで凍らすとかマジ半端ないって。そんなん出来ひんやん普通……。
「大切なものを奪ったということはアレか!?ハチマンはアクアを大人の女性にしておきながら『お前とは所詮遊びだ。酒飲ませたらチョロかったぜ』と言って捨てたのか!なんという鬼畜の所業だ……!」
なんだその頭のおかしい妄想は?
だけど不思議と簡単に想像できてしまう。
それだけアクアがチョロいんだろう。
「いやありえないから……」
「じゃあ二人はいったいどういう関係なんですか!?」
えっなんでそんなに怒ってるの?
いや怒ってるというか若干涙目というか、なんか『そんな事をする人だなんて!』みたいなニュアンスが視線に込められてる気がする。
ヤバい。何もしていないのに何故か俺の信用がどんどん落ちていってるのだが……。
だけどこういうとき責められている側がなにを言っても納得しないのだ。
ソースは俺。
小5の頃、クラスで人気者だった女の子のリコーダーが無くなり、結局、本人が忘れて来てるだけと分かるまで俺が犯人扱いされていた。しかも散々疑っておいてあいつら一言も謝りに来なかったし。
「『ターンアンデッド』!」
「……なにすんだよ?」
いきなりアクアが浄化魔法を撃ってくる。
アンデッドにしか効かない魔法なのでダメージこそないのだが、若干イラッとしたので聞いてみると、
「なんかいきなり目が腐り出したからついにアンデッドになっちゃったんじゃないかって」
……ほっとけマジで。
なんにせよ疑われてる側が何を言おうと周囲は納得しないのだ。
だから痴漢免罪はなくならないし、風評被害も収まらない。
こういう場合、ぼっちにはハードルが高いが事情を知ってる他人に誤解を解いてもらうのを期待するしかない。
つまり諦めてアクアに説明してもらうしかなさそうだ……。
「はぁ……てかなんでお前がここにいんの?」
「やっぱり覚えてたじゃない!返してよ!あんたが盗ってった私の宝物返してよ!」
俺の疑問を置き去りに、アクアは俺が盗ったらしい物を返せとせがんでくる。
あんまり言うものだから念のためもう一度頭の中で思い返してみるも、やっぱり心当たりはない。
「いやそもそも覚えがないんだが」
「はぁぁぁ!?宴会芸グッズよ!あんたをここに送り出したとき持ってったじゃない!アレ私の宝物だったんだから!!」
分かるかそんなもん。というかお前その宝物俺に投げつけてたよな?
「アレはお前が俺と一緒に送り付けたんだろうが。まぁいいや、ここにあるから勝手に持ってけよ」
ポーチの中に入ってあるガラクタをアクアに返す。
なぜわざわざ持ち運んでいるのかと思われるかも知れないが、俺の意志ではない。
このガラクタ、これまで何度も捨てたのに翌朝になると俺のポーチに入ってるんだよ……。
正直、かさばるし捨てたくとも捨てれない呪われた系のアイテムかとも思ってたほどだったから、引き取ってくれるというなら大歓迎だ。
「それで?どうしてお前はここにいるんだよ?左遷?」
俺からガラクタを取り返しホクホク顔のアクアに尋ねる。
「そ、そんなわけないじゃない!確かに勤務態度は悪かったかもしれないけど、原因はそこにいるヒキニートなわけで私が悪いわけじゃないわ!」
ヒキニート?
一瞬、俺の事かと思ってしまったが俺は専業主夫になるつもりだからきっと違う。
専業主夫は決してニートなんかじゃないんだ。どちらかと言えばヒm……でもない。うん、立派な職業だ。
「で、ヒキニートって誰?」
俺の事じゃないよな……?と不安になりつつ尋ねるとアクアは振り返ってビシっと指差し、
「カズマよ!カズマ!!あのヒキニートは身の程をわきまえず、特典にあろうことか高貴なる私を選んでここに連れてきたの!」
「「……はぁ!?」」
アクアの一言に俺とミツルギは揃って声を上げ、ヒキニート呼ばわりされたカズマはぷいっと俺達から顔を逸らした。
書いてるうちにミツルギさんが空気になってしまいました。
登場人物増えると会話が難しいです。
最近、他の作品を書いてる方とやり取りする機会があったのですが執筆速度早くて羨ましいです。
なんであんなに早く文章に起こせるんだ……
誤字報告等よろしくお願いします。