あれからパーティーリーダーで大事な話があると各メンバーから少し離れて、俺とミツルギは事の経緯を説明されていた。
そしてアクアがこの世界に来た理由をあらかた聞かされて、
「いったい何を考えてるんだ君は!?」
今、サトウはミツルギに詰め寄られていた。
胸倉を掴まれたカズマは気の毒だが、正直俺も似た想いである。
いやほんと何を考えてんだよコイツ。
「ちょちょ、ちょっと!? 確かに最初は土木工事のバイトしたりカエルに呑まれたり大変だったけど、それもいい思い出っていうか今となっては結構楽しい毎日送ってるし、ここに連れてこられた事はもう気にしてないから!馬小屋生活も悪くないものよ!」
……それフォローになってないだろ。
いや、アクアにしてみればフォローのつもりなんだろうが、当のミツルギは今にもサトウに殴りかかりそうになっている。
「おい落ち着け。だいたいの初心者冒険者は土木工事みたいなバイトしてるし、金のない冒険者は馬小屋で寝泊まりするのが普通らしいからあんま責めんなよ?」
喧嘩沙汰とか勘弁なので仕方なく仲裁に入る。
ただでさえ悪目立ちしてたのに続けざまに喧嘩とかほんとに止めて欲しい。
だけど馬鹿なアクアにフォローは期待できないし、事情も分からないままに胸ぐらを掴まれてるサトウを見て、ダクネスとめぐみんは敵意を持った目でミツルギを見ている。
ゆんゆんに至っては期待するのが酷だからな……。
「ッ!し、しかし君は納得がいくのか!?君はアクシズ教徒だろう!自分の崇拝してる神様がこんな仕打ちを受けてるんだぞ!?」
……あんまり大きい声で俺の宗派を言わないでほしいのだが。
けれどミツルギの言うことにも一理ある。仮にも女神なのだ。セシリーみたいな熱心な信者からしてみれば、アクアのこの状況は許しがたいものなのかもしれない。
そう考えてアクアに目をやる。
そしてうちの主神が汗水たらして土木作業したり、カエルに丸呑みされたり、馬小屋で腹出して寝てる姿を思い浮かべて……
「……フッ」
思わず鼻で笑ってしまった。
「ねぇなんで私みて笑ったの?私の顔になんかついてるの??」
「いや結構似合ってると思ってな」
「よく分かんないけど、その程度じゃ私の女神としての魅力は消えないって事ね!」
ん?まぁその解釈でいいんじゃない?
全然違うのだが本人がおめでたく受け取っているのでそのままにしておく。
「………バカな。君はそれでもアクア様の信者ですか!?」
そういうそちらは随分と熱心な信者な事で。
俺が言うのもなんなのだが、これだから宗教ってのは厄介なんだ。行き過ぎた信仰心は時に人を暴走させる。
そうなると人は教義なんて関係なしに動いてしまうものだ。
「いや別に、本人が気にしてないって言ってんだしいいだろ?」
「丸め込まれているだけだ!彼女はそんな扱いを受けていい存在じゃない!」
この通りだ。
というかなんで仲裁に入った俺が責められてんだよ。
やっぱ慣れない事なんてするもんじゃない。
強引にでも話題を変えないと俺が殴られてしまう。
「いや、その辺は特典に持ってきたサトウに言えよ。ていうか特典の件に関してはたぶん俺だって被害者だし」
「……どういうことだい?」
俺の言葉にミツルギの動きが止まる。
見ればサトウも特典の話には興味があるようだ。
やはり転生者なら気になる話題なんだろう。
「アクア。覚えてるなら俺の転生特典を二人に説明してやってくれ」
「え?なんで私が言わなきゃなんないの?自分で言いなさいよ」
「俺が言うよりお前が説明した方が伝わりやすいだろ?それに自分の祝福なんだし女神アピールするチャンスじゃねえか」
それに俺の口から言うと、説明してるうちにどんどん虚しくなってしまうだろうし。
それでもアクアは俺の言葉に納得したようで「それもそうね」と呟きながら口を開いた。
「じゃあ説明してあげるわ!ハチマンの特典は『女神の祝福』!一言でいうと祝福を授けた神、つまり私なんだけど、その私の特性を得られるのよ!!」
自信満々に言うアクア。
その言葉にサトウが訝しげに口を開く。
「ん?それってお前みたいなダメな奴になるって事か?」
「ハァ!?ダメな奴はあんたでしょ!このヒキニート!この特典は人の身では扱えないスキル以外、私がやれることは大抵出来るようになるわけ!しかも彼にかけた祝福は本気も本気。どんな呪いや蘇生だってお手の物、支援魔法の効果も絶大!普通のアークプリーストとは比べものにならないほどの実力を得れるのよ!!」
「アクア様からの祝福だって!?くそっ僕もそっちにしておけば……!」
アクアの説明を聞いて本気で羨ましがるミツルギ。
ていうかさっきも言われてたけどサトウは日本ではヒキニートだったのか。
まともな奴居ないなこいつのパーティー。
まぁそれはともかく、こうして聞くとかなり当たりな部類の特典なんだろう。
……本来はだが。
「……なぁ、比べものにならないほどの実力って、つまりお前より上って事なのか?」
ついにサトウが核心をつく事を聞いた。
その問いにアクアはパチクリと瞬きして……。
「アハハハハハ!そんなわけないじゃない!カズマさんったらボケてるの?女神と人間よ?対等になる事すら在りえないのにあろうことか上だなんて!プ―クスクス!!常識すら分かんないのー?」
と、めちゃくちゃ爆笑しながら俺の特典を全否定する事を言いやがった。
途端にサトウとミツルギが哀れみの視線を向けてくる。
「ま、まぁそれでも凄い特典じゃないか!アクア様に次ぐアークプリーストなんだろ?凄いことだよ!」
ミツルギの言う通りなのだが、普通こういった転生物では上位互換がいちゃいけないだろ。
俺いらない子になっちゃう。
まさか異世界でおめーの席ねぇから!をやられるとは思わなかった。
「その、悪かったな。俺が腹いせにこんなの連れてこなければ」
さすがに悪いと思ったのかサトウが頭を下げてくる。
とはいえサトウもある意味被害者だ。
元はと言えば、アクアが真面目に仕事をしていればこんな事にはならなかったはずだ。
サトウはまともな特典を選び異世界冒険を始め、ミツルギは勇者だと信じたまま主人公を続け、俺はカルト教団で飼い殺されてたはずなんだ。
……おかしい、なんか俺だけ悲惨なんだけど。
ともかくこうなった元凶はアクアだ。
しかし当の本人といえば、サトウの言葉がかなりツボだったらしく引きつけを起こしながら笑い転げている。
……ほんと腹立つなこの駄女神。
「えっと、つまりハチマンさんとアクアさんはどういった関係なんですか?」
俺達のやりとりを少し離れた所で見守っていたゆんゆんが尋ねてくる。
さてなんと説明したものだろう?
横目でチラッとアクアを見る。
ヒーヒー言いながら横腹を抑えてるこいつを神だと言っても誰も信じそうにない。
それどころか俺まで頭のおかしい奴だと思われる。
「簡単に言うと故郷で俺の先生をしてた人、みたいな感じだな」
平塚先生ごめんなさい。
さすがにアクアと一緒にするのは失礼なので心の中で平塚先生に謝っておく。
「つまりアクアはあなたの師匠という事ですか!?」
紅魔族的琴線に触れたのか、めぐみんが食い気味に尋ねてきた。
「まぁ俺の出来ることは全部アクアの受け売りだし、あながち間違っちゃないけど」
俺の言葉にめぐみんは、おおー!と感嘆の声を漏らす。
そして笑い疲れてピクピクと痙攣してるアクアに目を向け、
「……私が言うのもなんですが、アクアに弟子入りするなんて頭大丈夫ですか?」
「いやしてない。確かにアクアの受け売りだけど弟子入りも何もしてないからな」
危ないところだった。
色々と説明するのが億劫だったのでテキトーに流そうとしたらこれだ。
「とりあえずお互いの事情も分かったことだし、そろそろギルドに向かわないか?」
「……それもそうだな。いい加減ゆっくりしたい」
サトウの言葉に賛同して歩を進めようとする。
ミツルギの話はめんどくさそうだったからこの際、有耶無耶にしてしまおうって算段だろう。
さすが色物揃いなパーティーのリーダーなだけあって頭が回る
勿論俺も同行しよう。
「待てサトウカズマ!僕はまだ納得してないぞ!」
……マジめんどいん。
ミツルギがサトウの前に立ち塞がる。
やっぱり有耶無耶には出来なかったか。
おそらくミツルギの狙いはアクアの引き抜きだろう。
あいつはアクアの境遇に不満があるようだったし、そもそも物好きな事にアクシズ教のプリーストを探していたはずだ。
「あ、あのハチマンさんどうしましょう?」
目の前で口論をしているサトウとミツルギを見て、ゆんゆんがオドオドと聞いてくる。
だけど仲介なんて出来ないってさっき分かったばかりだしな。
あと俺に出来ることと言えば……。
「一応、穏便に場を収める方法はある」
「ほんとですか!?」
「ああ。もういっそのこと通報したらいい」
「最終手段じゃないですか!」
いやだってもう何言っても収まらないぞこれ。
それにさっきからまた徐々に人集りが増えてきている。
冒険者同士のトラブルなんて日常茶飯事の街だが、あまり目立ちたくない身としてはこれ以上の騒ぎは願い下げだ。
騒ぎの度合いを知るためにひとまず人集りの会話に耳を傾ける。
「おい、なんの騒ぎだよ?」
「冒険者同士の痴情のもつれっての?一人の女の子を取り合って喧嘩してんのよ」
「なんでもあの見るからに馬鹿っぽい女プリーストを、彼氏の駆け出し冒険者とストーカーしてるイケメン勇者候補が取り合ってんだと!」
「それだけじゃないぞ!あそこで腐った目をして見守ってるプリーストは女の元カレらしい!」
「キャー!修羅場じゃない!!」
……もうこいつら放っておいてギルドに向かいたいんだけど。
しかしそんな野次馬を他所に、サトウとミツルギはさらにヒートアップしてた。
なんかミツルギはアクアだけじゃなくカズマのパーティー全員を引き抜こうとしているし。
ミツルギが断られたのを見て、サトウはいよいよミツルギを置いて去ろうとする。
しかしミツルギはそれでもしつこく食い下がる。
もうこのあとの展開なんて予想するまでもない。
「どうする?アイツら放っておくと決闘とか始めちゃうぞ?」
ルールを守って楽しくデュエル!なんて雰囲気には既にない。
ミツルギは馬鹿だから真正面から戦おうとするだろうし、サトウは絡め手を使ってミツルギを出し抜くつもりだろう。
高ステータスで有利なミツルギと、出し抜く気満々のサトウ。どちらが勝ったとしても、今度は互いのパーティーメンバーが黙ってなさそうだ。
「ちなみに通報しちゃうとめぐ……パーティーメンバーは?」
「事情聴取の為、一緒に連行だろうな。いや下手に暴れるとまとめて逮捕だ」
「だ、ダメですよ!友達を通報なんて絶対ダメです!!」
……それは友達としてどうなのだろうか?
いや、友達の在り方とかはこの際どうでもいいとして、ゆんゆんの心配通りきっとアイツらは暴れるだろう。
そうしてる間にもミツルギは勝負をサトウに持ちかけていた。
そして条件を聞いたサトウは、了承と同時に剣を抜いてミツルギに斬りかかる。
一方、完全に不意を突かれたミツルギだったが、さすが高レベルのソードマスター。
咄嗟にサトウの剣を避け、不敵に笑って魔剣を抜いてサトウに向ける。
「『スティール』!!」
その瞬間、サトウが左手を突き出しスキルを唱えた。
「は?」
ミツルギが間抜けな声を上げる。
見るとミツルギの魔剣はいつの間にかサトウの左手に収められていた。
「ほいっ」
そのままサトウは手にした魔剣の腹の部分をミツルギの脳天目掛けて振り落とした。
ガィーンと鉄のしなる音が響き、ミツルギが白目を剥いて力なく倒れ込んだ。
おいおい瞬殺だよ。
最初はどうなるか心配だったが、蓋を開けてみれば意外とあっさり決着がついたものだ。
「なぁゆんゆん、さっきの『スティール』ってやつ任意の物を奪えるスキルなのか?」
「いえ……あれは確か相手の持ち物をランダムで奪うスキルだったはずです。運が良かったとしか」
「マジか、どんな幸運値してんだよアイツ」
幸運値が伸びない俺としては羨ましい限りだ。
旅の途中、山の麓にある薬草を取りに行く依頼を受けて山奥で遭難しかかった苦い思い出が蘇る。
「「卑怯者ーーー!!!」」
気づけばミツルギの取り巻き……もといパーティーメンバーがサトウを大声で非難していた。
高レベルのソードマスターが駆け出し冒険者に決闘を挑む方がよっぽど卑怯で大人げないと思うが、女性二人が大声で喚くにつれ徐々に野次馬にもその声が広がっていく。
思い出すのは文化祭後の相模グループの比企谷ネガティブキャンペーンだ。
別に今更あの時の事がどうという訳ではないのだが、膨れ上がった大衆の声というものは厄介で個人で対処するのは難しい。
「……おい」
そんな中、サトウが口を開いた。
「俺は真の男女平等主義者だ。文句があるようなら相手になってやるけど、手加減して貰えるなんて思うなよ?この公衆の前で俺の『スティール』が炸裂するぞ?」
何を言っているんだコイツは。
サトウの言葉の理解した二人が顔を青ざめて後ずさる。
「勿論泣いて謝っても許さない。まず下着を剥ぎ取ってから一枚一枚上から剥ぎ取ってやる」
ぐへへへ……と気味の悪い笑みを浮かべながら指をワキワキと動かし近寄っていくサトウ。
対するミツルギパーティーの二人は、もはや目に涙を浮かべてガクガク震えながら後ずさりし、仕舞いには逃げ出してしまった。
「ふっ……虚しい勝利だ」
女性にセクハラどころか公衆の面前で脱がすぞと脅し、ニヒルを気取って黄昏てる変質者の姿がそこにはあった。
とはいえ、あれだけ騒ぎ立ててた二人を一瞬で散らせたのだ。
俺には出来そうにない事を平然とやってのける手腕はある意味見事だろう。
……そこにシビれもしないし、憧れもしないけど。
そんなサトウに心底軽蔑するような視線を向けているアクアと、警戒するようにスカートを抑えるめぐみん、ダクネスに至っては何故か羨ましそうにしている。
そんな仲間の視線を受けてか、サトウは気まずそうに目を逸らした。
そして怯えてるゆんゆんとバッチリ目が合う。
「ヒッ!」
ちょっ!?ちょっと!?ゆんゆんさん!?怖いのは分かるけど、そんなしがみつかれるとたわわな部分がですね!なんというかですね!?
お待たせしました!相変わらずスローペースで進めています。
今回はミツルギとの決闘回でした。
相手は変わらずカズマさん。ルール展開ともに特に変更なし。
八幡視点で描写こそ省いてますが魔剣もしっかり頂いてます。
あと日本人って知ってからカズマの事を名字呼びにさせてます。
感想返信出来てなくてすみません!しっかり読ませてもらってます!
誤字報告等も待ってます。