読んでもらえてると思うととても嬉しくやる気を出させて貰ってます。
さて今回は原作未読者やスピンオフ未読者にはちょっと分かりづらい話になるかと思います。
というかプロット完成した状態でスピンオフ読んだから個人的にも手直しが必要でした。
タグに原作既読推奨ってつけたがいいかも……
よし、こんなもんか。
今日の依頼を終えた俺は一つ大きな伸びをする。
今日は特にいい調子だった。
もはや異世界に来たばかりとは雲泥の差だと実感する。
これも日頃の鍛錬の成果って奴だ。
成長が実感できるものほど面白い。適度な疲労感も、日毎に腕が上がってくのを見ると達成感となって心を満たしてくれる。そのうえ報酬まで出るのだ。
これが労働の喜びというものなのかもしれない。
この世界は日本のように、理不尽な業務で正当な報酬が支払われないということもない。
異世界に来て一ヶ月。
最初こそ不安しかなかったが、今の俺は充実した異世界ライフを満喫していた。
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造花の内職は本当に楽しい。
もともと器用値の高い俺は細かい作業が得意らしく、尚且つ誰にも会わずに済む内職はまさに天職とも言った具合だった。
その出来はもはや芸術品の域に達しており、一つあたりの単価も上げてもらえた程だ。
腕が上がり周囲に認められ報酬が増えていく。
なんと充実した異世界ライフだろう。
働くって青春だ!!
その日のノルマを終わらせて買出しのために外へ出る。
昨日の夕飯で肉を切らしていたので向かう先は肉屋だ。
「お、ハチマンか。今日はカエル肉が安いぞ。どうだ一つ買ってくか?」
「おいおい、先週もカエル肉が安かったろ。なに?この店にはカエルしか売ってないの?」
それともなに?お前みたいなヒキガエルはカエルでも食ってろ!ってこと?いやさすがに違うだろうけど。
「ガハハハ!言ってくれるじゃないか!つっても今はカエル肉くらいしか安いもんはねえぞ?なんでも近くの森に上位悪魔が出たらしくて、冒険者がカエル討伐か土木作業しかやりたがらないんだとよ」
マジか。普通そういうのを討伐するのが冒険者の仕事だろう?
「それでカエル肉ばかり出回ってんのね。冒険者の数だけは居る街なんだから、物量作戦でさっさと退治すりゃいいのに」
「いやお前さんも冒険者だろう?それに、こういうのは神に仕えるプリーストさんが率先して倒しに行くべきじゃねえか?」
「まだレベル1なもんで。それよりも他にサービスしてもらえる肉ないか?ロクでもない同居人がカエル肉は飽きた!って駄々こねてうるさいんだよ。悪魔よりタチの悪いそいつの方が俺的には問題だ」
ロクでもない同居人と口にすると、肉屋のおっちゃんも、あー……と遠い目をして頷いた。
どうやら来て一週間も経たないのに、あの女は相当有名になってるらしい。
「お前さんも大変だな。そういうことなら羊肉をサービスしてやるよ」
羊肉か。そういや日本じゃ食べたことがなかったな。
せっかくの異世界だ。いい機会かもしれない。
「ならそれで。今夜はジンギスカンだな」
「おう、毎度!ジンギスカンがなんのことか分からねえけどお前さんも頑張れよ!……その色々とな」
「お、おう」
……妙に案じられてるのが悲しい。
一通り買い物を済ませて商店街を抜け、アクセル中央区に向かう。
ここは役所や消防、警察のような行政機関が集まってる区画だ。
その中にある建物に慣れた足取りで向かう。
目的はろくでもない同居人の引き取りだ。
「すいません。うちのバカ引き取りに来ました」
受付の人に早く行ってあげてくださいと困り顔で通され、取調室へ向かう。
ごめんなさい。うちの変態が迷惑ばかりかけてごめんなさい。
取調室からは2人の女性の怒声が響いて来ていた。
……どうしよう、すごく帰りたい。
「私は何も悪いことはしてないじゃない!いつものように布教活動してただけよ!宗教の自由は認められてるはずだわ!!」
「なにが布教活動ですか!エリス教会の前で子ども相手に迫っていたって確認は取れています!反省しないのなら本当に逮捕してもいいんですよ!?」
部屋に入ると金髪のプリーストと眼鏡をかけた女性検察官が声を荒げて言い争っていた。
ちなみにどちらも俺の知り合いである。ほんと帰りたい。
「おいこらセシリー迎えに来たぞ。セナさん相変わらずうちの上司が迷惑かけてすみません。ほらお前もちゃんと謝れって。頭下げろ」
「嫌よ!私は偶然エリス教会周辺でいつもの布教活動に勤しんでただけなのに、『アクシズ教徒がいると教会に人が近づかなくなる』なんて言われたから、『差別用語だ!エリス教徒は差別主義者だ!』って反論したら『いい加減にしろ』とか言われて警察にここに連れて来られたの!私は悪くないわ!」
「俺からしてもマジでいい加減にしろよお前」
形だけでも反省する素振りすら見せないセシリーの頭を抑えつけ強引にでも謝らせようとするが、必死に抵抗してなかなか頭を下げようとしない。
レベル1で低ステな俺の問題点だ。
「ハチマン君聞いて!?お姉さんはね、本当に何もしていないの!それにこの眼鏡は色々やらかしてアクセルに異動になった前科持ちなの!こないだも我らがアクシズ教団の最高責任者を誤認逮捕とかしてくれちゃってるのよ!?こんな人間の言葉を鵜呑みにするっていうの!?」
「そ、それは事実ですが、そもそも日頃から問題ばかり起こしていて信用ゼロのアクシズ教団がそれを言いますか!」
セナさんの言う通りだ。少なくともアクシズ教徒にだけは信用とかそういうのを語られたくない。
どうしても謝ろうとしないで、どこ吹く風と言わんばかりに口笛を吹くセシリーに代わり俺から頭を下げる。
「すみませんセナさん。俺も教徒に会う度言っているんですが全く聞いてくれなくて」
「い、いえ!ハチマンさんの事は信用しております!アクシズ教徒でも貴方は例外ですから!」
おどおどとフォローしてくれるセナさん。
そう言ってもらえると素直に可愛い。間違えた嬉しい。
妹にダメ人間の烙印を押されつつあった俺も、さすがにこんな頭の狂った連中と同視されるのは嫌だからな。
「ちょっと?うちの新人教徒に変な色気使わないでもらえません?この淫乱眼鏡。ハチマン君にはこれから立派なアクシズ教徒になってもらって、お姉さんを養ってもらうの。ちょっと目が腐ってる所はポイント低いけど、よく見ればそこそこイケメンだし、立派なアクシズ教徒になれば目の腐れだってきっと治るから。このくらいで妥協しようかなって」
「張っ倒すぞお前」
養ってもらいたいとか言いつつ妥協とかよく言えたものだ。
そもそも俺の将来は養う側じゃない、養われる側だ。
「だ、誰が淫乱眼鏡ですか!自分はまだ異性とお付き合いしたこともないんですよ!」
「なんだ。行き遅れが焦ってるだけなのね」
「〜〜〜!!逮捕っ!侮辱罪で逮捕してやる!!」
「落ち着いてください!セナさん!アクシズ教徒のいつもの妄言ですよ!ほらセシリーも前科つきたくなきゃ謝れって!!」
激昂して手錠を取り出したセナさんをなんとか宥め、強引にセシリーの頭を下げさせる。
騒ぎを聞きつけた他の職員さん達も駆けつけてくれて、なんとかその場を収めることができた。
「す、すみません。お見苦しい所をお見せして……。あの……仕事も溜まってるので、今日のところはそろそろお引き取りしてもらって大丈夫ですよ」
恥ずかしそうに顔を紅くして謝ってくるセナさんを見てると、逆にこっちが申し訳なくなってくる。
というか悪いのは全面的にセシリーなんだし、やっぱりコイツが謝るべきなのだが……。
「ほら、早く帰りましょう?小さい子ども達は今が一番元気な時間だから活きのいいロリショタがいると思うわ!!」
「……すいません。こいつもう今日はここに一泊させてもらえませんか?明日の朝迎えに来るので」
反省の欠けらもないセシリーを見て半ば本気でお願いしてはみたが、セナさんも困った顔をするだけだった。
そうだよなぁ。絶対に仕事の邪魔にしかならないだろうしなぁ……。
仕方ないので諦めて大人しく持ち帰る事にする。
「ハチマンさんもお疲れ様です。なにかあれば連絡くださいね?いつも苦労されてますし、ご相談くらいには乗りますから」
「えっ。まあ、はい。いつかそのうち……」
優しく微笑まれ不覚にもドキッとしてしまう。
よし、落ち着こう。単なる大人の社交辞令だ。訓練されたぼっちは騙されない。
▼▼▼
夕暮れの街をセシリーと並んで教会に向かう。
となりのセシリーは小さい子がいないかキョロキョロと周囲を探していたが、俺らを見かけた町の人は出来るだけ目を合わせようとはしない。
俺一人だともうなんともないが、やっぱりアクシズ教徒が二人もいると関わり合いたくないのだろう。
アクシズ教徒。
この世界で魔王軍に並ぶほど恐れられ、迷惑さにかけては魔王軍ですら手を出したくないと言われている頭のイカれた集団だ。
教義はまさにダメ人間製造機。今をひたすら楽に生きたい。という姿勢は俺としても同意出来るのだが、実際に信者達の頭のイカれた生き様を見ると、流石に一緒にされたくない気持ちの方が強く湧いて来てしまうほどだ。
例えば子どもを叱るときに『そんなことばっかり言うとアクシズ教徒になってしまうぞ!』と言うと、途端に我儘をやめ素直に反省しだし、娘が『交際相手との結婚を認めないならアクシズ教徒になってやる!』と言えば親は泣きながら認めざるを得ないとまで言われるほど、評判の悪い宗教団体だ。
アクシズ教には関わるな。というのがこの世界の常識である。
そんな存在のアクシズ教徒に、俺は転生特典の効果とはいえなってしまったのだ。
寝床としているアクシズ教会に着くと、早速夕食を作り始める。
職業がアクシズ教のアークプリーストに決まってから、今後のことはアクシズ教会に行った方が手厚く歓迎してくれるだろうと
炊事、洗濯、掃除を行い家賃月々五万エリスを払うことで、なんとか教会に住まわせてもらえるようになったのだ。
まぁいいように使われてる気がしなくもないが、他の駆け出し冒険者は馬小屋で寝泊りしているのを聞くと、これでもはるかに高待遇なのかもしれない。
「「いただきまーす」」
俺の後ろで、料理が出来るのをまだかまだかと待ちわびていたセシリーに料理を運ぶのを手伝ってもらい、2人でテーブルにつく。
聖職者である俺達が食前の祈りとかしなくていいのかって話だが、生憎俺は立場上アクシズ教なだけで、あの女神を崇める気など微塵もない。
セシリーに至っては、教義第7項に飲みたい時に飲み、食べたい時に食べなさいと書かれてると主張し、美味しいものを前に祈りなど出来るか!と開き直ってかっ込んでいる。
それでいいのか聖職者。
「あら?今日はカエル肉じゃないのね?お姉さん嬉しいわ」
「あぁ。昨日お前も飽きてきたって言ってたからな。造花の単価も上がったし、ここからは色々とバリエーション増えてくと思うぞ」
「素晴らしい!素晴らしいわ!これもアクア様の祝福のおかげね!」
俺の努力をあの女神の手柄にすんな。
と言ってやりたい所だが、アクシズ教徒相手に抗議したところで、更に理不尽な事を言い出すに決まっているのだから、大人しく気のいいままにさせておく。
俺が一ヶ月で学んだアクシズ教徒への対処方法の一つだ。
「とはいえ、安い肉はカエルばっかなんだよなぁ。なんか近くの森に上位悪魔が出たとかで、冒険者の連中がカエル狩りばっかやってんだと」
「おへーはんほふぃふぃははふぉ」
「飲み込め。飲み込んでから喋れ」
「んぐっ……。お姉さんも聞いたわよ?なんでも魔王軍の幹部クラスなんですってね」
「そんなレベルなのか。駆け出しの町付近にそんなもんが出たんじゃ、そりゃカエルばっか狩るのも分かるな」
ジャイアント・トードは、主に家畜などを捕食すると言われる巨大カエルである。
俺はまだ見たことは無いのだが、繁殖期になると餌を求めて人里近くの草原などに現れ、ときには人までも丸呑みにするらしい。
その生態は恐ろしいのだが、牙も爪もなく鉄製の物を嫌う事から駆け出し冒険者パーティーには丁度いいくらいの相手なのだ。
肉も割と美味しく、そのこともあって冒険者ギルドでの買い取り額も悪くないらしい。
そんなカエルと魔王軍幹部クラスの上位悪魔。
生息域も違うし、そりゃみんなカエル狩りをするに決まってる。
「まぁ献立増やしていけばいいか。スキルポイントがちょっとでもありゃ料理スキルとか取得したいもんだけど」
「もう少しすると春キャベツの時期が来るから楽しみね!」
そう言ってセシリーがもう一口肉を頬張る。
キャベツかぁ。キャベツを使った料理なんてロールキャベツくらいしか知らない上に作り方は分からないんだよなぁ。
まあ旬が来るというのなら練習もできるだろう。将来の為に専業主夫スキルを上げていかなくては。
「内職の要領も掴めて来たし、本格的に家事覚えるか」
どうせゲームやネットなんかない世界だ。
コツコツ腕を磨けて、自己満足出来る実益も兼ねた趣味を身に着けるのもいいかも知れない。
そしてゆくゆくは資産家か貴族に婿入りし…………専業主夫に俺はなる!!
「けどハチマン君は冒険者よね?クエストに出なくていいの?」
…………はい?
「なに言ってんのお前?」
「いやだからハチマン君はレベル1とはいえアークプリーストじゃない?お姉さん的には早くレベル上げて、立派なアクシズ教のアークプリーストになってほしいんですけど」
……そうだ。ここ一ヶ月の間生きることに精一杯で忘れてしまっていたが、俺は冒険者になるためにわざわざ異世界まで来たのだった。
決して内職や教会の雑務、問題児の引き取りのためなんかではない。
「けどなぁ、アークプリーストつっても、ステータス普通でろくなスキルも取ってないレベル1の駆け出しにギルドはソロでクエスト受注させてくれないし。どうしようもないだろ」
「パーティー組めばいいじゃない?」
「…………」
確かにその通りだが、俺が周りから避けられぼっちになる原因となった教団の人間にそれを言われたくはない。
俺がアクシズ教徒というのは既にギルド内で浸透していて、なんの迷惑行為もしてないのにアクシズ教徒だからって誰も関わろうとしないんだぞ?
「……お前が付いてってくれればいいだろ?」
セシリーはプリーストとはいえ俺よりも高レベルだ。
使えるスキルも多く俺よりステータスも高い。
「え、嫌よ。お姉さんはろくに布教活動もしない誰かさんと違って忙しいの。これからあなたも布教活動をするというのなら考えてあげてもいいですけど?」
……というのにこいつときたら。
一応、アクシズ教団の本部から派遣されてきたセシリーの方が立場は上なのだが、俺はこいつの言うことをろくに聞いてない。
俺がアクシズ教徒なのはあくまで立場の上でだけだ。
「お前が昼間何してるかは知らないけど、布教とか言ってどうせまたエリス教会への嫌がらせか、小さい子どもに息荒くして声かけてるだけだろうが。アクシズ教の評判悪いのってお前らのこういうところだからな?この変態」
「なんですって!このっ!あんたなんて!このっ!」
「痛っ!殴んな!ステータスはお前のが高いんだからやめっ痛っ!痛ぇって!」
この後、俺は自らの転生特典を殴りかかってきた上司から受けた傷を癒すという用途で初使用することになった。
うん、このままじゃだめだ……。
【補足説明】
・セシリー
アクシズ教団に所属している金髪の女性プリースト。かなりスタイルがいい。好物はところてんスライムと少年少女。性格はアクシズ教徒らしく欲望に忠実で自由奔放、エリス教徒を目の敵にしている。
爆焔二巻に置いてめぐみん、ゆんゆんと出会っておりアクセルの町にはアクシズ教団から調査の為一時的に滞在中。