「律、起きれる?」
ベッドでもぞもぞとしている恋人にそう声をかけるけどもっともぞもぞと布団に包まって起きる気はないらしい。
起きてはいるけど起きないというデモンストレーションだな・・・。
羽毛の軽い上掛けをついっと吊り上げると中でミノムシになっていた恋人は蓑を取られまいと腕に力を入れて抱え込んむ。
「ほら、起きてんじゃん。」
呆れて顔を覗き込むと瞑ったままの目が更にギュッと閉められて、抱え込んでいる掛布に顔をうずめる。
「起きてない・・・。」
まあ、いろいろと文句を言いたい気持ちは・・・、気持ちだけは理解してやる。
でも布団も干したいしシーツも掛布のカバーも枕カバーも全部洗いたい。
せっかくの良いお天気の休日なのだから外にも出かけて太陽を浴びたい。
仕方ないな・・・。
寝起きの悪い恋人を起こすには最終兵器、胃袋を刺激するメニューしかない?
「あと10分で土鍋ごはんが炊ける。おかずは伊豆産のキンメダイの干物と菜の花の白和え、ノビルとイタドリのベーコンバター醤油炒め。明太子の入った玉子焼きと昨日つけておいた浅漬けは律の好きなミョウガ。味噌汁はたっぷりの青さを入れる予定。デザートは律の好きな壺プリンと低温殺菌牛乳のロイヤルミルクティにする。」
「はちみつは栃?」
「オレンジでもいいぞ。」
「でも腰が痛くて寝返りも打てない。」
そういう恋人にはいっと手を広げるとニコっというかにんまりと笑って恋人が俺の首に手を回した。
華奢でも男、それなりにずっしりするけど、まあリビングのソファーぐらいまでならどうってことはない。ソファーのひじ掛けの横にあるクッションが背になるようにおろしてチェストからシップを一枚出し、律のスエットのズボンを下着ごとずらすとペタリと貼ってやった。
冷たさに律がヒッとちょっと声を上げたけどすぐにジンワリと気持ちがよくなったようで特別に文句は言わなかった。
正常位は意外と身体に負担が大きいんだよな。男の場合・・・。
こう・・・、身体を折り曲げるみたいに腰を上げさせるからだろうけど後ろからだと顔が見れないし、松葉みたいなやつもいいんだけどやっぱり律が顔を隠してしまいがちだ。
対面が一番律には楽だろうけどくたくたの律を途中から俺もコントロールできなくなるし・・・。
結局毎度結構な頻度でシップのお世話になるんだよな。
そんな艶めかしいことを考えながらダイニングテーブルではなく、低い木のテーブルに料理を並べると律が目を輝かせた。
「わ、くるみごはんだ。」
さっきご飯のことを言わなかったのはこの顔をみたかったから。くるみご飯は律の大好物だ。別に何にも面倒なことはないのだけど毎日食べるってもんでもない。そう、好物は毎日食べればいいってもんじゃないんだ。
こうやってたまにサプライズで作ってあげるからこそこんなに可愛い笑顔を見ることができる。
「高野君ってスパダリだね。」
律がにっこにこして珍しいワードを使うので「最近知った言葉?」とククっと笑うと、律がちょっとだけむっとしたような顔をした。
「失礼な、羽鳥さんのことを木佐さんがそう呼んでたから教えてもらっただけで別に使いたかったわけでは・・・。もうイジワル・・・。」
だんだんと語尾が小さくなってきてツンとした顔だけになる。ほっぺたが少し赤くなったような気がする。
ホント可愛いな。
二歳年上の律は童顔だけどやり手の編集長だ。
強くグイグイ押すわけではないのにいつの間にかみんなうまく丸め込まれて、結局律の思うようにことが運ぶ。
まるでマジックを見ているようで敵わないといつも平服する。
なのにさ、なんだこの可愛らしさは。
ギャップ萌えとかいう奴だろうか?
いや違うか。皆は本当の律を知らないし、俺さえも忘れそうになるけど、本当の律は世界で一番おそろしいのだ。
次に怒らせたら俺は殺されてしまうのだから。
「律、あーん。」
口許に摘まんだおかずを運ぶと律は雛鳥のように口を開けて箸ごとそれをパクリとくわえた。
「ノビルがパツパツしてておいしい。」
「ベーコンの脂とあうよな。」
律が嬉しそうに笑っている。
なんにもないごく普通の休日に律と一緒に食事を食べる。
こんな当たり前の幸せが俺もうれしくて、心がこんなに震えてるなんて律は知らないだろ・・・。
好きな人が自分を好きになってくれる。
こんな奇跡が世界にあるって知ったのも律がいたからだ。
律、俺を捕まえておいてくれてありがとう。
律大好きだよ。
ずっとずっと一緒に居て欲しい。
俺を放さないで・・・。