ちょっ、ブタくんに転生とか   作:留年生

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 あ、♯07の続きです。


#08.夜襲×部族×逆襲

 

 夕食は会話をするか否か。

 会話をすることをマナー違反とする者も多く、しかしミルキの生家ゾルディック一家は食事中の会話は基本的に無かった。

 もちろん「ミルキと」ではない。目の上の瘤と誰が……というのはゾルディック家だけに留まらない意思だ。

 当主シルバ・ゾルディックは寡黙。その妻キキョウはキルアに執心して他を見ない。祖父母は訊かれれば答える程度。兄弟間での会話も殆ど無い。

 

 実につまらない。まるで機械。生まれる種族を間違えたに違いない。

 もっとも、ミルキは初めから無い物とされていたが。

 

 しかし、今は違う……と、ミルキはその差異をシュウジに見ていた。

 シュウジを崇敬しているミルキは彼に聞きたい事が山ほどある。

 修行中、修行後は疲労困憊して暇が無いため、この機を逃すわけにはいかないのだ。

 

 ……だが。

 

「……ミルキ。気付いておるか?」

 

「……はい。(無粋な……)」

 

 そんな重要な時間を阻害する、招かれざる客の存在……殺気を混ぜた視線を感じていた。

 獣とは違う人独特の視線。間違う事は無い。視線は殺気の他に警戒の意を示している者も多く、どうやら“賊”ではないようだとシュウジとミルキは考えた。

 

 以前この師弟は2度も同じような状況で賊徒と遣り合った事がある。

 修行のため、ワザと“餌”を撒いて戦闘状況を作り出したのだが、どうやらこの世界の賊徒は不清潔な悪臭(体臭・口臭etc)をさせるという共通の特徴があるらしく、それも無いことが今回の判断要因の一つ。

 

 だが、それよりも「解せない」と言いたげなシュウジの声音にミルキは同調する。

 修行は邪魔されぬよう、他者に危害を与えぬように周囲何km圏に人間の気配が無い場所を選んでいる。

 賊徒を呼び込んだ時とは違う。いきなり現れた。少なくとも1km先の気配も察知できるシュウジが100mも接近を許してようやく気付くなどあり得ない、と。

 

「念……か?」

 

「おそらく」

 

 だが、在り得ないと言う道理を覆す世の理を知っている。

 念能力、だ。

 例えば、念能力には“神字”という技術がある。決まったアイテムやテリトリーに刻み付ける事で個人の念能力を増長させる事を主な用法とするものだ。

 だがその術式を大がかりに地面に描いて……また特定の紙に神字を書き、四方八方を囲うように貼り付けるなどして用いれば、内外隔離の隠匿性の高い“結界”とすることもおそらく可能。

 

 直ぐ近くに結界があったと言うのなら、ミルキとシュウジがその存在に気付けなかったのも頷ける。

 また内外隔離した状態なら、内側に在った者達が今頃気付いたのも納得がいくのだ。

 

「成程。だがっ! 理由はどうあれ夕餉団欒をコソコソ見られるなど気に喰わん!!」

 

 クワッと目を見開いたシュウジは、視線の濃い方向に向かって気合いを飛ばす。

 

「そこに隠れている者共、こそこそせんで出て来んかぁッ!」

 

 シュウジが怒声に卒倒ものの気合いを乗せて飛ばした。

 もちろんミルキは慣れたもので、その程度では何とも思わなくなってしまったが……。

 

「「「っ!!!」」」

 

 だが隠れていた者達はそうもいかない。

 全員の【絶】は、かなり高い精度。相当の実力者が隠れている事はミルキにも判る。

 だが、相手が悪過ぎた。

 ミルキは兎も角としても、初見でシュウジの怒気を真面に当てられれば、一流の武闘家ですら震え上がる程に強烈なのだから。

 

 どうやら陰に居た面々も例外ではなかったらしい。

 勝てないと判断したようで、素直に姿を現した。

 現れたのは、4人の男。まだ陰に隠れている者が2人居るが、ミルキもシュウジも敢えて指摘しなかった。

 シュウジは驚異足り得ないと判断したから。そしてミルキは、それ以上に現れた面々を見て、一つ気になる事があったから。

 

(……ん? コイツら目が赤い……え、うそ……?)

 

 赤目とも違う。しかも全員が、キラキラと光沢を放つような瞳をしている事にミルキは顔が引き攣るのを感じた。

 ミルキはそんな“部族”に心当たりがあった。しかも原作に関わる一人として。

 まさか……とミルキが冷や汗混じりに思っていると、短刀を持った1人が前に出た。

 

「お前達は何者だ」

 

「旅の武闘家だ。そういうお前達は何者だ?」

 

 シュウジの問いに怪訝な顔をする者達は口をつぐむ。

 返答が無いのは、真偽の判断が出来ない事と、それ以上に自分達の名を知られる事への警戒だろう。

 ならば、部族の面々はこのまま無言を呈し続けるに違いないと、ミルキはシュウジに進言した。

 

「師匠。おそらく、あの者達はクルタ族の者です」

 

 ミルキが部族の面々を「クルタ」と呼称すると、顕著に反応を見せる者がチラホラ。

 目は口ほどに物を言うと言うが、これほど合致した部族も居ないだろう。

 

「くるた、とは何だ?……知っているのか?」

 

「有名な部族ですからね。俗世を離れ、各地を転々と隠れ住んでいると文献で見た事があります」

 

 文献と言っても『前世の~』との言葉を付与するのだが、気にすまい。

 

(しかし、未だに滅亡していない事が気になるな……)

 

 クルタ族は原作中盤より5年程前に滅ぼされたと生き残りが言っていた事は、原作では有名な時系列だ。ミルキも覚えている程に有名だ。

 部族の滅亡を喜ぶ程狂ってはいないつもりだが、しかし正史とは違う流れを進んでいると思わせるには十分な遭遇で、ミルキの眉間に皺が寄る。

 

(時系列が若干狂ってるな。……いや、それなら俺がキルアと一つ半違いという点も、十分に原作乖離だけど……)

 

 自身のこともあり、ミルキは少し時系列に変調があることをずっと疑問に思っていた。

 本来のミルキは原作開始頃で19歳。だが今のミルキはキルアと1~2歳の違いしかない。

 つまりクルタ族滅亡が起こり得ない可能性もある。または、もっと後になる可能性もあると言うことだ。

 

(もしくは……生き延びた者達という可能性も捨てきれないが)

 

 情報収集を怠ったツケだろうが、ミルキの最優先蒐集対象は流派東方不敗とシュウジ・クロスで容量を使い切っているため後悔も無ければ異論も挟ませるつもりもない。

 何より、例えどんな理由であれ、クルタ族に対するミルキの結論は変わらない。

 

(ここで関わり合いになるのは得策ではないな……)

 

 前世はどうだったか知らないが、この世界の部族は同族意識が強過ぎる傾向にある。

 特にクルタ族は緋の目が発動した状態で僅かに敵意や禁句を言えば激昂して自制心を失う事も少なくない。

 早めに切り上げ、立ち去る。行動方針は決まった。

 

「……お前達は我らを狙い、現れたのではないのか?」

 

「言うたであろう旅をしていると。……ミルキ。彼奴らは何か秘蔵を守護する部族なのか?」

 

「いいえ。師匠、彼らの目を見てください。クルタ族は特異体質で、興奮状態になると瞳があのように真紅に染まるのです。……緋の目と呼ばれ、緋の目が発動した状態で死ぬと褪せる事無く瞳に刻まれたままになります。その美しさから、世界七大美色という物の1つに数えられています」

 

「成程。故の警戒か」

 

 ミルキの説明の途中、幾人か遺憾から興奮状態となったらしく、瞳の赤が更に増した。

 極端に短気な部族。それがミルキがクルタ族に抱いた感想だ。

 クルタ族は、緋の目の輝きが増すと自制心を失うとのこと。どれだけ理性的で理屈的であっても、最後の最後は野獣よろしく肉体言語に移行する。

 これでは部族と他人との軋轢もだが、部族内での軋轢ですら大事になりそうな気がした。

 原作に関われば、その部族出身者と関わりをもつことになる……かもしれない。ミルキは今回の事も判断材料として強く記憶に留めて置こうと決める。

 同時に、そろそろ緋の目の色合いがヤバいくらいになっているので、早々に去る方がイイだろうと。

 

「師匠。ここは無駄なイザコザを避けるが得策かと」

 

 下手に原作に関わりそうである現状は回避するに限るとミルキが進言。

 丁度食事も終わった頃だったため、寝床を変える事に異論はないし、シュウジも武闘家でない者と戦う理由など無いため、首肯して返した。

 

「では、騒がせた。すまない」

 

「あ、ああ?」

 

 ミルキとシュウジのみで解決し、クルタ族側は置いてけぼり。

 怒気や殺気もあったクルタ族の面々も、ミルキとシュウジの対応に呆気にとられ、毒気を抜かれてしまったらしい。

 置き去りだろうと関係無い。さっさと立ち去ろうとしたミルキとシュウジ……だが。

 

パーアァン……!!

 

「っ? 銃声?」

 

 森に響き渡る1つの銃声。全員が一斉に1つの方角を向く。

 

「おい、今の集落の方角じゃ……!」

 

「はっ! まさかコイツらが搖動で俺達を引き付けて……!?」

 

 言いながらミルキとシュウジを睨みつけるクルタ族人。その目は再び興奮して赤くなっている。

 改めて、将来のクルタ族少年と関わり合いになろうか考えさせらえる短気さだ。

 

「戯けがっ! ワシらがいつ、お前達の目が欲しいと言ったっ!」

 

「「「っ……!?」」」

 

 シュウジは前世で弟子と対立した経緯から、他者の思い込みによる判断という物を心底嫌悪していることもあって、今度のシュウジの怒声には殺気も含まれていた。

 

 クルタ勢はいずれも【纏】を纏っていたが、そんなものでシュウジの殺気を防げるはずもない。

 結果、バタッ……バタッ……と陰で音がする。オーラを把握すると、どうやら隠れていた残りの2人が気絶したらしい。

 

「そっ、そそそそんなことより集落に戻るぞ!」

 

「あ、ああ……だ、だがこいつらは……!」

 

 今まで一度たりとも味わった事の無い恐怖に戦慄しているようだが、それでも向かって行こうとする気概は、確かに脅威だとミルキは思う。

 だがそれは「クルタ族が仲間だったら全滅を覚悟し、敵側だったら“死念”の逆襲を覚悟しなければならない」という複雑な脅威判定だったが……。

 

 程なくして相談が終わったのか、クルタ勢は気絶した2人を抱えて森の中へと駆けて行った。

 取り残されたシュウジとミルキは、その背を見送り……。

 

「追うぞ、ミルキ」

 

「え? は、はい?」

 

 また唐突に、シュウジは180度の意思転換を見せる。今度はミルキも置いてけぼりだ。

 

「あの、師匠? あの部族人達は他族人に対して非協力的です。今の絶対拒絶の目を見てもお判りかと思いますが……」

 

「で、あろうな。しかしミルキよ。例えそうであったとしても、ワシら一宿一飯の恩義を返す又とない機となるやもしれん」

 

「……御意」

 

 ミルキは流派東方不敗の精神を汲んでいる。

 そのため先程食したバンブローと、今日の寝床として使うこの土地に感謝の意を持っていた。

 ならば、この地で一時でも共同生活をする者達へ挨拶も無く、土足で居座るなど居心地が悪い……というシュウジの結論に同調するのも道理。

 

 クルタ族の集落で何があったかは分からないが、あの慌て様は害悪があったと見るのが妥当。無用な事かもしれないが、手を貸すのも吝かではない。

 

 しかし先ずは様子見。2人は気配を断って暗くなり始めた森を駆け、クルタ族人の後を追った。

 その途中、ダダダダダッ!と連続した銃声が木霊したのを耳にしたシュウジとミルキは、その速度を一気に上げ、集落を前に物見が出来る木の上に昇り、集落の中を見る。

 

 その先には――、

 

「大人しくしろ。でなければガキ共を殺す」

 

「うぇーん! おとーさーん!」

 

「くっ! 卑怯なっ!」

 

 100人程に集められた同衣装の老若男女。先程、リーダー格とみられた金髪の男性……その子と思われる同じく金髪の子達の額に銃口を宛がう男が淡々と感情が籠っていなさそうな声で通告する。

 更に、その仲間だろう周囲には12人、拳銃やマシンガンを手にした賊徒と思われる者達が居た。

 

(……先程の銃乱射は隠れていた奴らを炙り出したのか)

 

 全員が武器を捨てている現状。後から現場に到着したなら、気を窺って賊徒を殺す事もできただろうに……そうしなかったのは早々にバレたからだ。

 ――と視察したミルキは、その理由を遠目に確認した。

 

「キサマら、ハンターか! どうやって、この場所を……!?」

 

「質問に答える義理は無いが、教えてやる。我らの雇用主はマフィアンコミュニティー十頭老の1人」

 

「……っ!」

 

 十老頭。マフィアンコミュニティーの筆頭にして6大陸10地区を縄張りにしている裏社会、大組織の長10人を指す単語。

 隠遁しているクルタ族でも、大人達には警戒すべき者達の単語は把握している。その1つが出たとあって、顔が驚愕で強張ってしまう。

 

 さて。クルタ族と富豪に雇われた契約ハンターと思われる賊徒とが盛り上がっている傍ら、ミルキとシュウジも別な方向に視線を向けていた。

 

「ミルキ、敵が見えるか?」

 

「はい。集落を囲むように隠れる氣が……おそらく、念能力者が【絶】を使って潜んでいるのだと思います」

 

 伏兵が居る事を見取ったミルキとシュウジ。

 その数は、子供を人質にしている者達の倍は居た。

 子供の人質が居る現状も合わせ、隠れている事も伏兵によってバラされて仕方なく出て行ったのだろう。

 

「全体を見る限り、能力者としての実力は下位ですね」

 

 全員が念能力者だということは【絶】をして身を潜める者と、子供を人質にしている賊徒も【纏】を使っている様子から判る。

 だが子供を人質にしている賊徒が“普通の拳銃”を持っている時点で、実力の程が知れるというもの。

 確かに“分かり易い脅威”としては、銃器は万国共通の脅威。しかし念能力の中級者なら、銃器よりも纏うオーラの質で実力を悟らせる手法が道理。

 賊徒の揺らぎある【纏】と、完全でない【絶】の精度を見ても、実力の程は一目瞭然としか言いようがないのだ。

 

「確かに。程度の低さに呆れて物も言えん。……だが、面白い」

 

 シュウジは、これもまたとない好機であると考えた。

 今敵対するのは曲がりなりにも念能力者。ミルキもシュウジも、自分達以外の念の使い手とまみえたのはこれが初めてだ。

 傍観者(他人)故に、シュウジは一切関係のないこの修羅場を利用しようとミルキを見下ろし、命じる。

 

「ミルキ。お前に試練を課す。己の見解が正しいか否か、己が目と拳で確かめてくるのだ」

 

「御意」

 

 クルタ族の修羅場などシュウジもミルキも知ったこっちゃない。所詮は余所事だ。

 だが念能力者が居るということは、実践経験が詰めるということ。修行場として利用しない手は無い。

 念能力者との初戦闘。経験値を積む意味で避けては通れないと、ミルキは返答して音も無く駆け出したのだった。

 だが実際に戦闘する必要もない。要は今のミルキで鎮圧できるか否かを確かめればいい。相手の力量を図ったその洞察力が間違いでないと証明できればいいのだ。

 

 それは結果論、クルタ族を救済する事にも繋がる。

 

(だが……クルタ族に顔が割れるのはマズイな)

 

 しかし、クルタ族は後の原作にも大きく関わる部族。将来原作重要キャラの一人が居るか否かは分からないが気を付けるに越したことはない。

 

 原作主要キャラがクルタ族最後の生き残り……だとするなら、事件に巻き込まれる前に外の世界に行旅している可能性が高い。

 だが未来の大まかな流れを変えてしまわないように、ミルキは注意を払うよう腰に巻いていた手拭いを頭に巻いて顔を隠し、最初の標的に音も無く近づく。

 

(……速く、鋭く……!)

 

 因みにミルキが下の中と判断した理由は【絶】の熟練度。

 戦闘経験はあるかもしれないが、程度の低い【絶】では見つけるのも容易。

 もっとも、ミルキは暗殺者の教育を施されてきたため、例え気配が無くても殺気を感じること、また気配が無いという違和感として感じ取る事ができるため、余程の【絶】でなければ無意味であるが。

 

(……1人目)

 

 隠れている賊の背後に居り、トン……と首に手刀の一撃を入れた。

 

「う……」

 

(……見解は間違っていないか)

 

 この場合、殺すのが常套だろう。狩人は、同時に狩られる者でもあるのだから。

 だがミルキは、殺らない。そこまでやる必要もないと思いながら……。

 

(だが……何だ? 今の違和感は……?)

 

 男の首に手刀を入れた時、言い知れぬ違和感が手から伝わってきた。

 その違和感の正体を探ろうと、己に問い掛けたミルキに帰ってきた答えが……また珍妙。

 

(嫌悪感……なぜだ?)

 

 返ってきたのは、喉の奥にシコリができたと思わせるような嫌悪感。

 

 だが、はたして何に対しての嫌悪だろうか?

 

 武を振るうにも値しない愚人に対して? しかし武を振るう自分に対して?

 他にも考えれば切りがないが、理由は後でゆっくりと考えようとミルキは闇夜に紛れ、次々と賊徒を昏倒させていく。

 

「……こんなものか」

 

 それから幾人、隠れていた者達を次々と首に手刀を入れて倒し、全員を倒し終えた。

 どうやら隠れていた賊共は見た目通り大した事は無かったらしいが、まさか十老頭がこの程度の戦力しか送り出さないとも思えない。

 ミルキは警戒を怠らず、目にオーラを集中して隠れたオーラを見つけるよう【凝】を用いて目にオーラを集中させる。

 

(……地面の中、家屋の中には……居ない。……遠くにも………………居ないか)

 

 原作には狙撃者や、十老頭の手下には地中を自由に進める念能力者もいたため警戒したが……どうやら居ないと判断。

 

(俺の【凝】が上位者の【絶】や【隠】を見つけられると断言できないんだが……)

 

 ミルキは今まで念能力者との戦闘経験が無い。

 過去に一度、ゴトーが念を発動したっぽい威圧と相対した事はあるが……やはりその程度。

 ミルキは上位念能力者に相対する緊張と不安を隠せずにいた。

 

「……もっと、強くなる」

 

 だからこそ、ミルキは緊張をそのままに不安を払しょくできるよう、更なる高みを見上げ……この劇を終幕とさせようと疾駆する。

 

(残り6、捕まってる子供は3……)

 

 最後は、賊徒に捕らえられている子供の救助。

 だが手っ取り早く、自らの足で戻ってもらうのが一番と、ミルキは気配を透過させる。

 

「お前達」

 

「「「っ!」」」

 

「「「な、……!」」」

 

 賊徒達の目の前、クルタ勢を背にして現れる。

 驚愕から初動が警戒になる。それは、大きな隙。

 賊徒に隙ができたと同時に、ミルキが更に接近し……消えた。縮地だ。

 

「光輝唸掌!」

 

「ぐ……!?」

 

「い、イデェェ!! 俺の腕がァ!」

 

「あ……え?」

 

 一瞬、賊徒達の中心に姿を現したミルキは、光の尾を残す高速の掌撃を放ち、賊徒達の手足を砕いた。

 流派東方不敗が基本技の一つで、氣を肉体にブツけて破壊する掌技。

 相手の神経麻痺を起させるシャイニングフィンガーは、光輝唸掌の発展技に当たる。

 

 ミルキは技を繰り出した直後、捕まっていた子供達に向かって叫ぶ。

 

「今のウチだ! 走れ!」

 

「「「……!」」」

 

 自分達に言ったと気付いたのだろう。ミルキの叫声に弾かれたように子供達は仲間、親の元に駆け出した。

 

「うぇ~ん! おどーざぁん!!」

 

「ごわがったよぉ~!!」

 

 感情が昂ると緋色に染まるクルタ族。生誕と同時に受け継がれる緋の目だが、子供達の瞳を見るかぎりでは恐怖での変化は無いらしい。

 

(さて、それより俺はそろそろ退散し……)

 

 いつまでもこの場に居続ける意味も、挨拶して去る理由も無い。

 気配透過し、足早に立ち去ろうとした……その時だ。

 

「――へぇ」

 

「っ!」

 

 縮地。

 ミルキは直ぐ背後から現れた男の声に飛び退いた。

 得体のしれない、ミルキをしても背筋が凍り付いたと錯覚させられるような声だった。

 距離を取ったミルキは、改めて相手を睨みつける。

 

「緋の目より、君の目の方がイイな?」

 

(ッ、こいつ……!)

 

 日がとっぷり沈んで火の灯のみで鮮明な容姿までは判らないが、全体的に線が細く、髪は背中まである。

 更にその瞳、闇夜でもハッキリと判る程に陰湿な狂気を湛えていると判る。

 ミルキとしての浅い経験則でも、ああいう目をした者は決まって“狂人”しかいなかった。

 

「何者だ、お前」

 

「……ククッ。……蜘蛛……と言って、分かるかな?」

 

「っ……!」

 

 どうやら、ミルキの懸念は当たってしまったらしい。

 戦闘はここからが本番のようだ。

 

 




 前・中・後編です。

 やっちゃいましたクルタと遭遇w
 そして「こんな旅団員いたっけ?」と思われてる方ご安心を。オリキャラです。……いえ、正確には原作にもいるんですが……私ってば“見てない”んですよね。色々あって。
 よってオリキャラとお考えくださいませ。

 それと原作とのズレに関してですが、時系列的に言えば某年表ではクルタ族が襲われたのが1996年のことらしいです。
 ヨークシン編が2000年09月ですだいたい4年半前で、クラピカも「5年程前」って言ってますから、本当はミルキの言うズレは無いも等しいって設定なんですがね。
 ミルキは5年(以上)前って記憶してましたから……。

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