俺にとって学園生活は退屈なものでしかない。理由は多々ある。簡単な授業に何の面白みもないクラスメイト、それに頭の腐ったストーカー等だ。
だが、それは最大の理由ではない。最大の理由……それは妹がいないこと。正直な話、俺が毎日の学園生活で覚えているのは妹に作ってもらった弁当ぐらい。イベント事もほとんどうろ覚えで、唯一ちゃんと覚えているのは妹達が学園祭にやって来た時だけだ。
ただ学園生活がつまらない分、下校時間は幸せだった。理由は簡単、家に帰ったら可愛い過ぎる妹がいるのだから。……たまに変なのもいたが、そこは忘れよう。
もちろん俺が妹よりも先に帰ってきた場合もあるが、それはそれで待っている時間もかけがえのない時間だ。
だが、俺の学園生活も今年から色褪せたものになる。何故なら今年から妹達も俺と同じ総武高校の生徒になったのだから。
ああ、これからが楽しみだ。
「七瀬……これは何だ?」
俺を職員室に呼び出した……じゃなかった。無理やり連行してきた残念美人こと国語教師の平塚先生が俺を睨みながら一枚の紙を見せてくる。
それに対して俺は「何でこんなことを聞くのか分からない」といった感じで首を傾げながら先生の質問に答える。
「何って先生が授業で出した課題の作文ですよね?」
「……なるほど。では次の質問をしようか」
先生は俺が書いた作文を机の上に置いてから足を組み直す。
先生は中身はともかく見た目は美人なので、もしスカートでストッキングを穿いていたりしたら、見えそうで見えない艶かしい仕草だったのがスカートじゃないので、そんなことはない。
ふと、そんなどうでもいいことを考えてしまった。
俺が年上に欲情することはないので関係のないことなのに。
「作文のテーマはなんだった?」
「確か『学園生活を振り返って』だったと思いますが?」
「なるほど、ちゃんと先生の話を聞いていたのか。もしかすると寝ていたり他の事を考えて私の授業を聞いていないのかもと思ったが安心した」
俺の答えに満足したのか先生は笑みを浮かべながら頷く。ただし目は笑っていない。
何、その笑顔。メチャクチャ怖いんだが……。
次に先生は人差し指で机の上にある俺の作文に指差す。
「……じゃあ、もう一度聞こうか。これは何だ?」
「? だから作文ですよ? 『学園生活を振り返って』というテーマの」
ここで俺の脳裏にある考えが浮かぶ。
もしかして俺は間違えて別のものを提出してしまったのではないだろうか。例えば俺が将来のために書いている小説の原稿とか。
もしそうなら怒られても仕方ない。あれは十八禁とまではいかなくても、かなり過激な内容だからな。それで表現の不適切さを注意されたら俺には言い訳できない。
というか、それ以上に恥ずかしい。
不安になったので俺は思わず手を伸ばして机の上にある紙を取る。
「あれ、普通の作文だ……。良かった。先生が変な事を言うから間違えて別のものを提出したのかと思ちゃったじゃないですか」
「これのどこが普通の作文だ!? 学園生活を振り返るより妹のことを語っている量の方が多いじゃないか!? しかも最後は今後の事について書いているし!」
先生が我慢出来なくなったのか立ち上がって叫ぶ。
そのせいで他の先生や職員室に用事で来ていた生徒達の注目を集めてしまう。先生もすぐに周りの視線に気付いたらしく、若干顔を赤らめながら冷静になって椅子に座る。
「そう言われましても他に書くことがなかったんだから仕方ないじゃないですか。普通に学園生活を振り返ると白紙で提出することになりましたよ?」
「はぁー……」
頭に手を当てて溜息を吐き、どこか諦めたような表情をする先生。
「君は、その、アレ……なのか?」
「ええ、シスコンですよ」
先生が言いづらそうにしていたので俺が代わりに言う
。
別段、俺がシスコンというのは隠していない。とはいえ、特に言う必要がある内容でもないので知っている人間は少ないが。
「え~と……」
俺のハッキリ過ぎる返答に戸惑う先生。そして、どう会話を続けたらいいのか分からないらしく話を逸らしてきた。
「そういえば、前に女生徒が話しているのを聞いたことがあるんだが、君は結構モテるらしいな。まぁ、分からないでもない。今の会話だけで中身に問題があるのは分かったが、容姿は非常に整っているからな。その割りに誰かと付き合っているというような浮いた話は聞いたことがないが」
「……まさか結婚できないからって、生徒に手を出すつもりなんじゃ」
「そんなわけあるか! そろそろいい年だし早く結婚したいと思っているが、そこまで追い込まれてはいない!」
微妙な表情をしながら体の重心を後ろに向けていつでも逃げれる準備をする俺に、先生は焦った様子で否定する。
冗談のつもりで言ったんだが、ここまで必死だと逆に疑いたくなる。
「そうではなくてだな、ただ何となくその理由が分かっただけだ」
「そりゃ、誰かと付き合ったら妹と一緒に居られる時間が減りますからね。それに妹達も悲しみますし」
連行された仕返しに先生を弄っていたが、そろそろ飽きてきたので普通に答える。こんなところでアラフォー教師と会話している暇があったら早く帰った京香やいろはに会いたい。
あれ、そういやいろはって今日いるんだっけ? 部活を見に行くとか言っていたような。
「達? 君は妹が複数いるのか?」
「正確には一人は血が繋がってないですけどね。それでも俺の可愛い妹には違いありません」
むしろ本当の妹ではないからこその魅力がいろはにはある。もちろん実妹である京香も非常に魅力的だが。実妹と妹系幼馴染ではまた違った可愛さがある。
「そ、そうか……。ところで一つ聞きたいんだが」
「何ですか?」
「妹はそんなに可愛いのかね?」
「当然。妹のためなら世界だって敵に回す覚悟があります」
俺はハッキリと答える。そこに一点の迷いもない。
それから先生は二三どうでもいい質問してから言った。
「外で待っている比企谷を呼んできてくれ」
「比企谷?」
え~と、誰だっけ? 思いだそうとしても思い出せる気がしない。男か女かも分からない。
「…………」
「……?」
キョトンとしている俺を先生がジト目で見てきたので、とりあえず首を傾げる。
「君を連行……間違えた。連れてきた時、一緒に目が死んだ魚のような男も一緒にいただろ?」
「ああ……」
あれが比企谷とやらなのか。そういえば後ろからどこか怯えた目をしながらついてきていた奴がいたな。全く興味がないので完全に忘れていた。
「あのなぁ、まだクラス替えをしたばかりだし名前と顔を一致させろとはまでは言わない。それでもクラスメイトの名前だ。聞き覚えぐらいあってもいいだろ」
そう言われても覚えてないものは覚えてないんだから仕方ない。
とりあえず俺の用は終わったようだし、比企谷を呼んだらそのまま家に帰るか。一々待っている必要もないだろう。
「もちろん分かっていると思うが、勝手に帰るなよ。君達にはまだ用事があるんだから」
席を立つと先生が見透かしたような事を言ってきた。俺は思わず「ちっ……」と舌打ちする。
別に先生の言うことを聞く必要はないんだが、この暴力教師のことだ。帰ると何をされるか分かったものじゃない。一応、残っておいた方がいいか。
「交代だそうだ」
俺は職員室を出たところで比企谷らしき人物に話かける。こいつが本当に比企谷かは自信がないが、他に目の腐った男もいないし多分間違いないだろう。
「おう」
と、比企谷と思われる人物は素っ気なく返事をすると職員室に入る。
俺は職員室の扉が閉められたところで鞄からスマホを取り出す。京香といろはに遅れることを連絡しておいた方がいいだろ。
「ん?」
スマホの電源を入れたところで京香からLINEでメッセージがきている事に気付く。
何々、『お兄ちゃん、ごめん。いろはちゃんの部活見学に付き合うから遅れるね』か。
だったら別に急いで帰る必要もないし、暇潰しに先生の用事とやらに付き合うか。
メッセージに返信してからスマホをしまう。他にすることもないし適当に職員室の前にある掲示板でも見ながら時間を潰すか。
基本、不定期にのんびりと更新していく予定です。
タイトルに関しては由比ヶ浜の方が後から入ってくるので四人目というのはおかしいような気もしますがスルーの方向で。後で良いのが思い付いたら変更するかもしれません。
では感想待ってます。