響け!オーボエカップル   作:てこの原理こそ最強

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アンサンブルコンテスト 3

 

 

それから時が過ぎるのは意外に早く部員は各々メンバーを集め続々とチームが出来上がっていった

 

「また音が増えたか」

 

「うん」

 

いつも通り放課後練習を重ねていた春樹とみぞれはアンコンに向けた演奏数がまた増えたのにいち早く気がついた

 

「盛り上がってるみたいだな」

 

「そうだね」

 

窓の隙間から入ってくる少し肌寒くなり出してきて風と共に聴こえる新しい音に2人は耳を傾ける

 

「ハルも、やりたい?」

 

「そう見えるか?」

 

「ううん」

 

自分で聞いては見たものの春樹と同様一切そう思っていなかったみぞれは軽く首を横に振る

 

「俺は全国でやりきった。後はこれからもみぞれと一緒にいる。今考えることはそれだけだよ」

 

「...」

 

窓枠に手をかけ晴れた空を見上げながら言った春樹の言葉が相当嬉しかったのか、みぞれは手に持っていたオーボエを椅子に置いて後ろから春樹に抱きついた

 

「うん...私も」

 

みぞれも思うことは春樹と同じ。これからも一緒にいたい。そんな気持ちが溢れんばかりに春樹のことをぎゅっと力強く抱きしめた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

麗奈を筆頭に久美子も参加が決まったチームも最後のメンバーの勧誘が成功しようやくが全員が揃った

 

「なんかかしこまって挨拶するのもあれだけど、トロンボーン担当の塚本秀一です」

 

「チッ...」

 

「舌打ちしたのかお前...」

 

「はぁ...」

 

「しかもため息。なんて顔すんだよ...」

 

久美子は一切聞かされていなかった秀一のメンバー入りにとてつもない感情を抱いていた。もちろん悪い方の

 

「言ってなかったっけ?優良物件でしょ」

 

「そう〜?」

 

「おい...」

 

納得のいかない久美子は麗奈を睨みつけるが本人は参加に賛同的。ただやっぱり納得できないようす

 

「ト、トランペット担当の小日向夢です!私だけ1年で恐縮です...」

 

「大丈夫大丈夫、全然気にすことないよ!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「うん!パーカスの井上順菜です。よろしくお願いします」

 

メンバーで唯一の1年生で緊張で体を強張らせている夢に対して順菜がフォローを入れる

 

「同じく2年、パーカスの釜谷つばめです。よろしく」

 

「チューバ担当加藤葉月です!頑張ります!」

 

「ホルン、森本美千代です。実は幹部に囲まれて私も緊張してます...」

 

「えっ、同学年だよ?」

 

「いや、そうだけどさ〜」

 

「気持ちはわかる」

 

「でしょ?」

 

「え〜」

 

確かに集まったのは部長の久美子、副部長の秀一、ドラムメジャーの麗奈と幹部が勢揃いで同じ2年だとしても緊張してしまっていると言う美千代とそれに同意する順菜

 

「え〜っと、ユーフォ担当の黄前久美子です。よろしくお願いします」

 

「高坂麗奈、トランペット担当。よろしく」

 

同じ部活の仲間なのだから今更とは思うが一応全員が自己紹介を終える

 

「なんかワクワクしてきた!」

 

「これから忙しくなるね!」

 

「はい!」

 

「やるからには悔いのないようにやりたい。気を引き締めて全力でやりましょう」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

「もちろん!」

 

「おー!」

 

こうして麗奈をリーダーとした(?)この8人は"管打八重奏"でアンコン出場を目指すこととなった

 

ただ、全てが順調...そんなことは決してなかった。チームに入れない子。つまり()()()()()が出てきてしまったのだ

 

「仕方ないんじゃない?そんなにぴったりに部員全員が振り分けられるわけじゃないんだし」

 

「そうだけど...でもどうにかしてあげないと。やっぱり何人か2つの編成で兼任してもらわないとダメかも...」

 

「私は反対。その子の負担が大き過ぎる。演奏のレベル自体落ちちゃうし」

 

「それはわかるけど...」

 

想定してなかったわけじゃない。でもいざこういう状況になってどうしたら最善なのかわからなくなってします久美子

 

「やっぱり無理だよ」

 

「ん?」

 

頭を悩ましている久美子の耳につばめの声が聞こえてきた

 

「でもつばめキック無理でしょ?手と別々の動きできないし」

 

「それは...」

 

「演奏する曲はマリンバがすごく引き立つし、私はつばめがマリンバがいいと思うけど」

 

なにやら不安げなつばめを同じパーカス担当でもある順菜が慰めていた

 

「何事?」

 

「釜谷さん不安あるみたい。さっき合わせてた時もタイミングズレてたでしょ?」

 

「確かに」

 

「とりあえずチューバとマリンバが改善点ね。チューバはある程度想定してたけど」

 

麗奈も麗奈でアンコンに向けてチームの問題点解決に取り組んでいた

 

「10分経ったら再開でいい?」

 

「あ、うん!」

 

一度教室を出る麗奈に久美子もついていく

 

「でもつばめちゃんがいいって言ったのは麗奈なんでしょ?」

 

「それはね。実際上手いし。それに...」

 

「それに?」

 

「春樹先輩が一目置いてたから...」

 

「春樹先輩が!?」

 

少し悔しそうに話す麗奈。2人とも春樹の実力は身をもって理解しているため、そんな春樹が評価をしたということに久美子は驚き声を上げた

 

「春樹先輩が、珍しいね」

 

「うん。私もびっくりした」

 

「麗奈は?」

 

「ん?」

 

「麗奈のことは何も言ってなかったの?春樹先輩」

 

「...聞きたい?」

 

「あー何その顔。ちょっとムカつく」

 

さっきまで不貞腐れた子供のような表情をしていた麗奈だったが久美子から自分のことを春樹がどう評価してくれたのか聞かれると勝ち誇ったようなドヤ顔で久美子を見返した

 

「で?秀一は?」

 

「釜谷さんと同じ。上手だから」

 

「...」

 

「何?疑ってるの?」

 

まだ秀一の参加に納得できていないのかまた麗奈を睨む久美子

 

「小日向さんだけは私からじゃなくて向こうから誘われたんだけど」

 

「そうなの?」

 

「うん。彼女アンコンやるって決まった日に私のところに来たの」

 

「後輩から先輩誘うってすごい勇気だね。しかも麗奈をなんてねっ!」

 

「なんか中学の時からやってみたかった曲らしくって。だから一緒に出てみよって。ま、彼女も上手いっていうのもあったけど」

 

「じゃあ結局みんな上手さ優先?」

 

「まぁね。加藤さんもすごく上手くなってるし」

 

「あー。春樹先輩も言ってた。初心者から始めた子の中では一番伸びてるって。長瀬先輩のスパルタについて行った成果だなって」

 

「ふーん、春樹先輩が」

 

「あ...」

 

春樹が葉月のことも話していたことをポロッと口に出してしまいまた不機嫌な感じになる麗奈。それを見て久美子はやってしまったとばかりに口元を抑える

 

「はぁ。まぁ中には鈴木さんみたいに断られた子もいるけど、大体は実力があると思ったから誘った」

 

「私は...?」

 

「ん?」

 

「私を誘ったのも奏ちゃんに断られたから...?」

 

聞きたいけど聞きたくない話。久美子は恐る恐る質問してみた

 

「だったら嫌?」

 

「嫌っていうか...嫌だよそりゃ」

 

「なんで?」

 

ちゃんとした回答は得られなかったがもしそうだったとしたらやはり気分は良くないようすの久美子

 

「だって一番がいいでしょ。麗奈に選ばれるなら...」

 

「ふっ」

 

ちょっと拗ねたようすの久美子を見て不敵に笑う麗奈

 

「正直に言うと今回久石さんは最初から誘ってない。ユーフォで頼むなら久美子って決めてた」

 

「その話には誘われるのだいぶ遅かった気がするんですけど...?」

 

「久美子なら私以外と組まないって信じてたから」

 

「え〜嘘っぽい」

 

「前に聞いた時フォローに回るって言ってたし。それに中学の時も久美子って真っ先に選ばれてたし。だから...」

 

「ん?」

 

麗奈は少し不安げに、そして恥ずかしげな表情に変わる

 

「断られたら、嫌だし...」

 

「っ!私も麗奈と一緒にやりたなって思ってたよ!誘ってくれてありがとう!」

 

麗奈が信じてくれてたこと。自分を選んでくれたこと。認めてくれていること。嬉しさを隠しきれない久美子は勢いよく麗奈に抱きついた

 

「べ、別にお礼言われることじゃないし。大体ユーフォで一番上手いのは久美子だって前から...」

 

「はいはい全部嬉しいよ」

 

「離して」

 

揶揄われる感じとなったため麗奈は久美子を引き剥がした。でも上機嫌が治らない久美子は教室に戻るまで麗奈にちょっかいをかけまくった。一瞬もし自分より実力がある人が現れたら、麗奈の中での自分はどうなってしまうのだろうという考えをグッと押し殺して...

 

 

 

 

 

 

♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

「ふぅ。少し休憩するか」

 

「うん」

 

「調子はどうですか?」

 

自分達の演奏にさらに磨きをかけるため毎日精進を怠らない春樹とみぞれの下に滝先生が顔を出した

 

「ぼちぼちですかね」

 

「そうですか。それはよかった」

 

「先生の耳にはどう聴こえましたか?さっきから聴いていたんでしょ?」

 

「おや、バレていましたか」

 

実は少し前から2人の練習に耳を傾けていた滝先生。2人はそれに気づきつつも練習を中断せず、むしろ聴かせるように続けていたのだった

 

「急な来客にも乱されないのはさすがというところでしょうか」

 

「今更ですよ。ここ最近影から誰かに聴かれてるなんてしょっちゅうですから」

 

「そうですか。お2人の演奏にいろんな人が足を止めてしまうのでしょうね」

 

「それは当然ですよ。俺とみぞれなんですから」

 

「ちょっ、ハル...」

 

春樹は自分よりもみぞれの方がすごいんだぞとでも言いたいかのようにみぞれの頭を撫でる

 

「いい自信です。音楽は人の感情でその音色を変えます。お2人のその自信がその奏でる音に影響されているのでしょうね」

 

「先生にはそう聴こえましたか?」

 

「えぇ」

 

「そうですか。ならまだまだですね」

 

「おや?十分だと思わないんですね」

 

「わかってるくせに」

 

春樹は変わらず目の前で笑顔でいる滝先生、いや、その腹の底で"はあなた達はまだまだこんなものじゃないでしょう"と煽ってきている風に見えるその笑顔でいる滝に一言申した

 

「そんな世辞は今までももらっていました。でも俺達が目指すのはその先、そうでしょ?」

 

「安心しました。こんなところで満足してもらってはこちらも困りますので」

 

「相変わらずで何よりです」

 

「これでも期待しているんですよ。お2人には受験のためなんてもので立ち止まらず、もっとその先を目指してほしんです」

 

「言ってくれますね」

 

「おや?怖気付きましたか?」

 

「んなバカな」

 

滝先生にはこんな脅しをしても意味はないとはなからわかっていた。笑顔で見つめてくる春樹、そしていつもと変わらず無表情で見つめてくるみぞれ、そんな2人の目には何かを成し遂げようとする力強い何かが感じられた

 

「それでは練習の邪魔をして申し訳ありませんでした。頑張ってください」

 

「はい」

 

「はい」

 

遠ざかっていく滝先生の後ろ姿。ボサボサの髪、ズボンから飛び出しているシャツ、左右別の靴下。側から見ればなんとも尊敬できない先生。ただ春樹やみぞれにとってこれ以上のない恩師。そして、いつか認めさせてやりたいと思える人でもあった

 

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