3年の協力もあり全員が無事にどこかの編成に振り分けられた
そして11月が過ぎ部員はそれぞれ12月の演奏会に向けて練習を重ねていった
「ごめん遅れた!」
「遅い!」
部長の仕事で練習参加に遅れて急いでいた久美子が練習教室のドアを開けると同時に麗奈の叱責が飛んだ
「マリンバは先走りすぎでチューバは遅れすぎ。それとチューバはもっと音量差つけて。強調するポイントが分かりにくくなるから」
「はい!」
「はい...」
「じゃあもう一度最初から」
麗奈の叱責は遅れた久美子へのものではなかった。また最初から演奏を始める前に久美子に目配せをする麗奈。それを受けて久美子は急いで用意を済ませ位置についた
「またズレた」
「そうだな」
後輩達が練習している音を春樹とみぞれが自分達の練習の休憩中に聴いていた
「つばめだな。まだ自分の課題に気づいてないのか」
「残念?」
「そりゃな。もったいないだろ?実力はあるのに合奏になるとダメになるなんて」
「うん」
春樹は実力を評価しているつばめがなかなか頭角を表してくれないのを嘆いていた
「妙子のとこは面白いな。全員パーカスで構成か」
「楽しみ」
♪〜♪〜♪〜♪〜
「あ、のぞみ」
「グループに入れなかった後輩についてくれたらしいな。リボンと夏紀も」
「うん、聞いた」
聴こえてきたのはフルートの音。それを聴いてすぐさまのぞみのものと聴き分けたみぞれはさすがの一言に尽きる
「ちょっとイタズラしてみるか?」
「ダメだと思う」
「だよな」
ここまでいろんな音を聴いていると演奏をしたくなってしまう春樹は勝手にグループの音に混じってみようかと画策するがみぞれに優しく止められて断念した
学校が休みの日でも部活はある吹奏楽部。そんな部活が終わったあとはいつも通り演奏会に向けた練習をするのが常となった
そんな中麗奈達のグループでは少し問題が発生していた。注意を受けつつも着実に実力を伸ばしていく葉月に対してつばめはそうではなかったのだ
そんな状況を見兼ねた久美子はつばめに一緒に練習しないかと提案。そこへ葉月も参加し集まった
「すっかり足手まといになっちゃってるからな私」
「そんなことないと思うけどな」
「いや、ある。私が一番わかってる。高坂さんだって本当はみっちゃんを誘いたかったんだろうし」
自分のことを理解し自分の今置かれている立場をも理解して練習に励む葉月。久美子はそんな葉月を心配しつつも何か力になれないか模索していた
「葉月ちゃんって音をしっかり聞きすぎて遅れてるのかも」
「どういうこと?」
「ん〜。楽器って息吸って鳴るまでのタイムラグがあるでしょ?その計算が抜け落ちてる、気がする?」
「ほぇ〜。久美子はそんな計算いちいちしてるの?」
「いちいちっていうか体感かな〜。基礎練習の時から意識してると自分の意思と楽器の出る音がぴったり重なる時があるから」
「あ〜。そういえば後藤先輩にも言われたよ。基礎練習の意味を考えろって」
「じゃあ頑張るしかないね」
「頑張って武者修行するよ」
「ごめんなさい!待った?」
久美子が葉月へアドバイスをしてるところにつばめと順菜もやってきた
「ううん。じゃあ始めようか」
「その前に一度つばめの演奏を聴いてくれない?」
演奏前に順菜は用意したメトロノームの針を動かす。そしてそれに合わせてつばめはマリンバを叩いた
「ふぅ」
「「お〜」」
「どう?」
「いや、上手でびっくりした。つばめちゃんマリンバ上手だよ」
「だよね!でも、リズム感だけが致命的で...」
「えっ?」
楽器問わず何かを演奏するには致命的すぎる原因を吐露する順菜とその本人であるつばめは罰が悪い顔をする
「でも今は叩けてたよね?」
「それはテンポがきちっと決まってるから」
「リズムっていうかノリ?見たいのが合わなくて人と一緒だと全然...」
「しかもアンコンだと指揮者いないからなおさら...美代子先輩や春樹先輩にも気にかけてもらってたんだけどなかなか治らなくって...」
つばめは申し訳なさそうにスティックを握り締める
「わかった。じゃあとりあえず今のところもう一度やってみよっか。今度は私も入るから」
「うん...」
久美子はつばめに近づきつばめ自身もまたスティックを構えた
「じゃあいくよ?」
「うん」
♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜
♪〜 ♪〜 ♪〜 ♪〜 ♪〜 ♪〜
「あ〜」
「あっ...」
まだ初めて5秒も経たないところで久美子は吹くのをやめた。それにつられてつばめも演奏を止める
「なになに?どうしたの?」
「ダメだった、っていうことだよね...」
「つばめちゃん、"息"!」
「息?」
「息?」
「息?」
久美子がなにを言ってるのかわからずつばめ、順菜、葉月の順で復唱してしまった
「うん。マリンバって呼吸する必要ないから意識してないのかもだけど、私達はみんな息継ぎする必要があるから。今見てたらつばめちゃん全然息してなかったように見えたから」
「いや〜まさかそんな〜」
「考えたこともなかった」
「マジ!?」
まさかの展開に驚く順菜
「打楽器も同じように息継ぎしてくれないと合わないよ」
「今までどうやってたのよ...」
「耳でずっと聴いて...ここだって...」
「そんな...リズムゲームじゃあるまいし...」
音程を合わせる以前の問題だったとはさすがに思わなかった順菜は頭を抱える
「他の人見ないと合わないよ」
「でもそういうことってあると思うよ?私もたまに言われるもん。えっ、そんなことも知らなかったの?って」
「自分にとってあたりまえなことでも他の人にとってそうじゃないって意外と多いからな」
「あ...」
「ん?どうしたの?」
久美子が言ったことにつばめは目を見開いた
「あ、ごめんね。前には...やっぱりなんでもない」
「え〜?」
「そういうのよくないと思う!」
「ちょっ!」
不適に笑いその後の言葉を出すのをやめたのが気になりすぎてつばめの髪をぐしゃぐしゃにする順菜。その状態でつばめは全国大会のオーディション前の個人練習でのことを思い出していた
『つばめ。合奏がどういうことかよく考えろ』
『え...?』
『つばめがやってるのはずっと"演奏"なんだよ。演奏は1人でもできる』
先輩に言われたその言葉がつばめは理解できないでいた。でも今久美子から言われたことでようやくわかった。他を見ないでいた自分は確かに演奏しかしてなかったのだと
「じゃあみんなで合わせてみよっか」
「うん。今なら"合奏"できる気がする」
「よっしゃきた!」
「私も入る!」
その後のつばめの成長は凄まじかった。元々実力は買われていたため演奏自体は申し分なし。問題であった他の音に合わせることだったが久美子のアドバイスのおかげで次第にタイミングがズレることがなくなった。その影響もあってつばめ自身の自身にも繋がった
それは同時に他の者にも影響をもたらしみんなの演奏力も高まった。その相乗効果はつばめや葉月に顕著に現れ麗奈も驚くほどだった
「なんかちょっと悔しい...」
「なんで?」
「久美子が見てからみんな明らかに上手くなった」
「みんなが頑張っただけだよ」
「謙遜ね」
麗奈は自分の指導が間違っていたとは思っていない。ただ自分ではなく久美子の指導で見るからに上達したことに少し嫉妬感を覚えただけだった
「でも、だから久美子は部長に向いてるんだと思う」
「そうなのかな〜。でも、麗奈にそう言ってもらうのは素直に嬉しいよ」
久美子自身は今でも自分が部長の器ではないと卑下していた。ただ同級生下級生はもちろん現3年生から部長の素質ありと見出され託されたのも事実だった
そして演奏会本番当日
「そっち側大丈夫?」
「うん。もうすぐ段差あるからね」
久美子はつばめと一緒にマリンバを体育館へ運んでいる最中だった
「マリンバ高い楽器だから注意しないとね」
「うん」
「いくよ?せーっの!」
校舎から体育館へ続く通路。その中程にある段差で片側を2人持ち上げ慎重に移動させる
「「んっ!」」
少しズラしたところで今度は反対側を持ち上げ段差に下ろす
「黄前さん」
「ん?」
「黄前さんて1年からずっとコンクールメンバーだったでしょ?」
「うん」
「コンクールってやっぱり怖い?」
「えっ?ん〜。怖いっていうか緊張はするかな」
「そっか」
久美子はつばめが一体なにを聞きたいのかイマイチわからなかった
「よいしょーっ!」
「はいっ!」
マリンバを段差からまた体育館への通路に力を合わせて戻す2人
「ほーっい!」
ようやく段差を乗り越え後は体育館までの平坦な道を運ぶだけとなった
「あのね」
「ん?」
「私下手だし、今まで自分がコンクールメンバーに選ばれないのは当たり前だって思ってたんだけど...でも、私もコンクールに出たいって思ってもいいのかな...」
「...。ダメなんて言う人いないよ」
「そう、かな...」
「そうだよ」
「そう。そっか」
アンコンの練習で一気に頭角を表し、さらに合奏の楽しさを覚えたつばめは希望に満ちたような笑顔でマリンバを押した。そしてそんなつばめの変化にただ嬉しさを感じた久美子もすぐさま追いついて再び手を貸した
「ありがとね黄前さん」
「どうしたの急に」
「黄前さんのおかげでここ数日すごく楽しいんだ。前までは全然上手くいかない自分に嫌気が差してて、自信もなくて...」
「そんなことないよ。つばめちゃん元から上手かったんだし。私はちょっとお手伝いしただけで」
「それがきっかけで私でもちょっと自信が持てるようになったんだ」
「それならよかったよ」
久美子の言葉が最近の演奏に繋がっているとして感謝の言葉を向けるつばめ
「でもね、悔しくもあるんだ」
「悔しい?」
「うん。なんであんな簡単なこと今まで気づかなかったんだろうって」
「前にも言ったでしょ?自分にとって当たり前なことも他の人にはそうじゃないかもしれないって」
「でも、もしもっと早く気づいてれば先輩達に恩返しできたかもしれないって思って」
「あー」
久美子はつばめが言っているのはおそらく同じパートで手をかけてくれた美代子や他パートの子にも積極的にアドバイスをくれていた春樹達のことを言っているのだろうと察した
「じゃあこれから頑張ろうよ」
「えっ...?」
「確かに先輩達とはもう一緒に演奏はできないけどさ、あれから成長したつばめちゃんを見てもらおうよ」
「成長した私...」
「先輩達ならアンコンが終わっても地区大会だって県大会だって全国大会だって見に来てくれる。その時に生まれ変わったつばめちゃんを見てもらえばいいよ。多分、先輩達も期待してると思う」
「...。春樹先輩も、喜んでくれるかな」
「なんなら春樹先輩が一番喜んでくれるんじゃない?」
「そっか...そっか!」
若干マリンバを押すつばめの力が強くなる。久美子はそれを感じてか話を聞いてかつばめの中で春樹に先輩後輩の尊敬以上の気持ちがあることをなんとなく察してしまった