Fate/Grand Order―頽廃腐敗都市新宿―   作:ばるく品

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プロローグ

 可愛い後輩が呼ぶ声でも、愛くるしい動物が頬を舐める感触でもなく、ただ不愉快な頭痛で目を覚ました。

 

 

 目に映るのはいつものカルデアの自室……ではない。あの病室を思わせるようなシミ一つない真っ白な天井ではなく、むき出しの蛍光灯から痛いほどの青白い光が瞳を突き刺す。打ちっぱなしのコンクリート。ただでさえくすんだ灰色の天井に弾痕が作るひび割れが、さらに陰鬱な印象を付加している。

 おもむろに体を起こせば、いつのまにか強張っていた筋肉が悲鳴を上げた。痛みに顔を顰めつつあたりを見渡せば、自分が柔らかなベッドではなく、不自然なほどに固いソファの上で寝ていたことに気が付いた。

 

 

 ここが、窓一つないおそらくは地下室のような部屋であるということも。そして、なぜか自分がひらひらとした真っ赤なドレスを着ていることにも。ますます酷くなった気がする頭痛に苛立ちを感じつつ、彼はなんとなく予感していた。

――嗚呼、また面倒なイベントが始まったな――と。

 

 つっこみたいことは多々あるが、そんな場合でもなさそうだ。目を覚ましたら見知らぬ部屋いました、なんてシチュエーションは、経験上やっかいごとの導入部の可能性が極めて大だ。まずは現状を確認しなければならない。

 自分は?藤丸立香、カルデアの現状唯一のマスター。なぜここにいる?不明、記憶によれば昨日はなにごともなく自室のベッドに入ったはず。現在の状態は?鈍い頭痛、それ以外はおおむね正常......この見覚えのあるドレス以外は、だが。そう、ついこの間着たばかり。人理修復後に発生した亜種特異点で。

 不承不承で袖を通したのはあの時一度きりではあるが、未だに思い出すと羞恥心で頭を抱えて転げまわりそうだし、マシュから画像データを回収することには成功していない。

 ……ともかく、特に身体、精神ともに目立った異常はなさそうだ。体調管理はマスターの責務であるし、なんら特別な才能を待たない自分が生き残るためにこの慎重さと臆病は必要不可欠だった。

 

 

 ひとまず我が身の安全を確認したなら、次の段階へ移ろう。はたして、ここは?今度は一体、なにに呼ばれたのやら。今自分が着ているこの忌々しいドレスに目をやる。そしてこの、コンクリートの壁と、とても固いソファだけでこんなにも荒んだ雰囲気を醸し出す小部屋。絶対新宿がらみだ。

 あの特異点がさらに余波を生んだ、ということだろうか。あそこで出会った属性の偏った英霊たちを思い浮かべ、少しげんなりとした。

――仕方ない、とっととすまして帰ろう――

 そう考えてソファから立ち上がる。カルデアからサポートは期待できない。当然サーヴァントの召喚も。そう、現地で出会った野良英霊と交渉して自陣に引き入れなけれならない。

 で、あるからして……このいかにも胡散臭い女装姿をなんとかしなければならない。さすがにこの恰好では堂々としていられる自信がない。そしてこんな変態みたいな人物と、果たして英霊がまともに対話してくれるかどうかも。

 部屋を見渡すが、殺風景もいいところだ。この芸術的なまでに寝心地の悪いソファ以外は、なにもない。他には出口に繋がっていると思しき上り階段だけだ。反転した騎士王が使っていたねぐらとは大違いだ。

 

 

 衣服も食料もないのなら、これ以上の長居は無用だ。まるで寝過ぎた後のような頭痛を抱えながら、とりあえず外に出る覚悟を決めた。なるべく、いまの自分の外見については考えないようにしながら……。

 

 

 

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