―――奴良家
リクオSide
今日はみんなソワソワしてる
お父さんは立ったり座ったり 左右に動いたりを繰り返していて
爺ちゃんは冷静を保っているようだけど
何回もお茶をこぼしてる
ほかの妖怪たちも 自分の仕事があまり手に着いていないようだ
氷麗も いつも だったら 終わってるはずの洗濯物が
あと半分以上残ってる
そして それは 僕も例外じゃない
普通にしようと思っても じっとしていられなくて
試しにいつものように 庭で遊んでみようと思っても
無意識の内に お母さんのいる 部屋に視線がいってしまう
大人しく元の部屋に戻り お父さんに
「ねえ まだ 赤ちゃん 産まれないの?」
そう聞いた
そうなんだ 今日は ぼくの妹が生まれるんだ
だから みんな ソワソワして 落ち着かない
実は もうちょっと遅いはずでびっくりした
でも 早く妹に会いたいから そんなのは気にしない
でも お母さんすっごく お腹痛そうだったなあ
「ああ 多分 もう少し」
そう言って笑って頭を撫でてくれた
なんだかちょっとだけだけど ソワソワがなくなった気がした
早く産まれてきてね 僕の妹
「いいか リクオ
赤ちゃんが生まれてお母さんのとこに行ったら
「おつかれさま」って言ってやるんだぞ
お母さん すごく疲れてると思うから」
そっか
「うん 分かった」
そんな簡単な約束をしていた
そんな時だった
綺麗な心が和むようなそんな
声 いや 歌が聞こえたのは
「らららんらん らららんらん
大きな愛を
確かな幸せを
生をもらった私たちで
紡いでいく」
歌のする方へ 顔を向けると
黒い髪の女の子が 楽しそうに歌っていた
周りを見渡すと 女の子のほうを向いているのは
爺ちゃんとお父さんと僕だけ
ほかのみんなは気づいてないみたいだ
すると歌が終わったのか 一歩後ろに下がって
テレビで見た コンサートが終わった後やる歌手や役者
の人みたいに 綺麗に 頭を下げた
そして僕もなんでか 吊られるように頭を下げた
女の子は 頭をあげた後
呟いた
「黒アゲハの祝福を」
そう 呟いて黒い蝶々になって 飛んで行ってしまった
三人で ぼーっとしていると
「おぎゃぁああっ おああぁああ」
と大きくて赤ちゃんらしい 泣き声がした
お父さんは 目にも止まらぬ速さで
お母さんの所へ行ってしまった
僕もすぐ 行こうと思ったところだったけど
不意に 女の子が歌っていた場所を見た
あの子は妖怪だったのかな
そう疑問に思っていると
「あれは 黒アゲハという
とても 美しい蝶だ」
黒アゲハ?
聞いたことないなあ
頭の中に?が出た時
爺ちゃんが独り言のように言った言葉に
耳を傾けた
「あの蝶は 最後に黒アゲハの祝福と言っていた
・・・もしかしたら 産まれてきた孫に
祝福をしたのだろうか」
複雑な 困ったような顔をしている
だが 何かを決めたのか ふっきれたような顔をして
お母さんのいる部屋へ 歩み始めた
「爺ちゃん その 黒アゲハの祝福をもらったら
どうなるの」
そう聞いたら ホントに聞きたいかと
聞かれた こくとり頷くと
後悔するなよ と言った後 話し始めた
後悔するような 話 なの
「あのな 黒アゲハの祝福は 美しさじゃ
話によれば 全てを 美しいとしかえないような
そんな 祝福を くれるのじゃ
・・・じゃがな その代償として
祝福を受けた 人間は 生命力を吸い取られていく
産まれたその瞬間から 生命力は減って行く
育てば育つ分 孫の体は弱っていく」
そんなの そんなのって
「僕嫌だ!」
そうじゃな わしも嫌じゃ
そう言った爺ちゃんは 僕に 小指を出してきた
「わしと約束しよう
わしらは 奴良家に生まれた新しい命を
守り抜く と」
僕はその言葉に迷わず 爺ちゃんの小指に
僕の小指を巻きつけた
「僕も約束する
僕の大切な妹を絶対に守るって」
そう真剣に言ったのに なぜか笑われた
「ああ 約束じゃ」
この二人の約束は二人以外知らない
だがこの約束には 後から鯉伴も参加した
「絶対に 娘を 守る」
そのあと 僕たちは部屋に入った
僕の妹は寝ていた
大きいだろう目は 閉じられていて
ほっぺは ぷっくりで赤い
手なんか 僕の半分くらいしかない
じーっと 見ていた 僕に気付いたのか
お父さんが
「抱いてみるか」
そう言われ
でも怖くて いいって言ったのに
無理やり抱かせられた
抱きやすいなあって思ってたら
下からお父さんが支えてくれてた
そのあと 赤ちゃんを返し
しばらく 顔を眺めてた
だが 大事なことを思い出した
「お父さん そう言えば
名前きいてないよ」
そういうと
「名前はさっき若菜と決めた」
お父さんは 決めたと言っておきながら
焦らしてなかなか教えてくれない
「名前なんなの!」
そう大き目の声で言うと
にこりと笑って言った
「リンネ
瑠璃の璃に 乃木武将の乃に 鈴の音の音で璃乃音」
正直言って よく分からない
漢字なんて書けないし
すると 今度は お母さんが続けた
「瑠璃の宝石のように美しく
乃の意味のように 真っ直ぐに女性らしく
それで 音は 出産中
鈴の音のような美しい歌が聞こえたから
それで 璃乃音よ」
よく 意味は分からないけど
いい意味だって言うのは分かったよ
璃乃音に笑いかけて言った
「よろしくね 璃乃音」
僕たちが璃乃音のこと 守ってあげるからね