物語的にプロローグが終わったぐらいですかね。
目の前の敵は、少なくとも逃がしてくれるような雰囲気ではなかった。
明らかな敵意を示すセルリアンは、太く長い嘴を鳴らしながら、地面に降り立ち写真家たちへと近づく。
セルリアンは翼を畳んだ状態でも5メートル以上あるような巨大な体躯を持つ。
その巨大さだけで、戦意を削ぐには十分なほどだ。
「主人様っ!」
「わーってる! くそっ!」
早く打開策を考えなくてはいけない。然もなくばここで終わってしまう。
写真家は思考を巡らすが、打開策が思いつかない。
思いついたとしても、全員が無事で済む策は思いつかなかった。
相手は巨大な体格を持っているため、森に逃げ込めばその機動性を生かすこともできなくなるだろう。
しかし、あの機動性から逃げるためには、誰かが殿を務めなくてならなかった。
いわゆる囮がなくては逃げれる状況ではなくなっていた。
「写真家さんっ……。私が囮になります……! 森に逃げてくださいっ……!」
アドは何かを決意したようにセルリアンに向けて走り出す。
「まてっ! アドっ!!」
写真家の制止も聞かずにアドはセルリアンに飛びかかる。
アドの手が光ったかと思うと、そのままセルリアンに引っ掻くような攻撃を仕掛けた。
セルリアンもそれを素直に受けることはせず、身軽な動きでそれを躱す。
アドも避けられることはわかってたのか、間髪入れずにまた攻撃を行う。
「グギャーーーーーー!」
そしてまたセルリアンは大きく避ける。
叫び声をあげて、アドに威嚇をして見せた。
それは明らかにアドにセルリアンの注意が移ったことを意味していた。
「主人様っ!!」
「……レグ、逃げるぞ」
「でもアドちゃんがっ!」
「あいつは前回もセルリアンとやりあったんだろ? じゃあ大丈夫だ。きっと逃げられる!」
前回、写真家達を庇った時も、セルリアンの囮になったアドは逃げ切ることができた。
写真家は今回もその可能性にかけようと、レグを説得する。
しかし、レグは納得いかないといった表情で写真家を睨みつける。
「今度は大丈夫じゃないかもしれないんだよっ!? アドちゃん、ボロボロなんだよ!?」
「っ……」
写真家は戦い続けているアドの方を見つめた。
明らかに大きさも違う相手に、果敢に挑み続けるアド。その体はいつのまにか傷だらけになっている。
息も上がっており、長く持たないことは目に見えて明らかだった。
「だから逃げるんだよ! 俺たちがいても足手まといだ! とにかく逃げてアドの無事を待つんだよ!」
「そんなの……」
「だから逃げるぞ! レグ!」
「できないよっ!」
叫ぶように言い放つと、レグはアドの方へと走りだす。
写真家はそんなレグを止めようと手を伸ばすが、写真家の手を振り切ってそのままセルリアンへと向かっていく。
「あいつ俺には危ないことするなって言ったくせにっ!」
写真家も躊躇なくレグを追いかけていく。
「アドちゃん!」
セルリアンの後方より近くレグ。
そして自分の存在に気づかれるようにアドの名前を呼んだ。
その一瞬だった。
「レグさんっ……!? あっ、きゃああっ!?」
レグの声に気を取られたせいか、一瞬だけ回避が遅れてアドの体は宙を舞った。
そして、地面に転げ落ちる。
「っ! アドちゃんっ!!」
セルリアンの嘴で大きく叩かれたアドは、相当にダメージを負ったのか、震えてその場所にうずくまっている。
「アド……ちゃん……?」
その光景に呆然としているレグ。
セルリアンがとどめを刺すつもりなのか、アドへと近づいていく。
「レグッ! 何やってんだっ! あいつの注意を逸らせっ!!」
「あっ! うがあああああっ!」
やっと追いついた写真家の声に我を取り戻したのか、レグはセルリアンに飛びかかる。
彼女は戦い方を教わったわけじゃない。
しかし、野生の本能が戦い方を覚えているのか、爪がアドと同じような光をまとっている。
「はぁぁっ!」
金属のぶつかるような音がしたと思うと、レグの爪が弾かれる。
セルリアンの体表が若干削れるが、大きなダメージは負っていない。
セルリアンの目がレグを見つめる。
新たな脅威を排除しようと、注意が移ったようだった。
「こっちだよ! セルリアン!」
その隙に、写真家は倒れているアドに駆け寄って抱きかかえる。
「アドッ……!」
「……っさい」
ブルブルと体を体を震わせながら、アドの口から涙声で聞き取れないほど細い声が聞こえる。
それは無理もないことだった。
アドは言動からして臆病な性格であることは間違いなかった。
それでも、写真家達を守ろうと体を張って巨大な敵に挑んだのだ。
そんな彼女がこれだけ力の差を見せつけられたら、動けなくなることも当然と言えた。
「大丈夫か? 逃げるぞ!」
「ごめんなさい……ごめんっ……なさいっ……。守りたかっ……たのに……」
「今は謝るな。とにかく逃げるぞ」
「しゃしんか……さんっ……」
写真家は、未だに恐怖に震えているアドを抱きかかえると、セルリアンの様子を見た。
レグはうまく攻撃を交わしている。
しかし、セルリアンを圧倒できるほどの力は持っていない。
長期戦になればなるほどに不利だろう。
「レグッ! 森に逃げるぞ!」
写真家は森に向けて走り出し、叫び声をあげてレグに合図した。
「了解っ!」
レグは写真家が森に近づくのを確認すると、自分も撤退を始める。
レグのいきなりの全力疾走に、セルリアンも反応できなかったのか、遲れるように距離を詰めようと飛び立つ。
しかし、写真家やレグが森の中に入るのを確認すると、追うことを諦めたように地面に降り立った。
…………
……
森の中の背の高い草むらに身を隠すように一人と二匹は蹲っていた。
戦いで消耗しきっているアドを横にさせて、写真家とレグも全力疾走のせいか息を上げていた。
「あいつ、さすがに追ってこないね」
「あぁ、あの図体じゃ無理……と願いたいな」
「写真家さん……私……」
「アド、謝るのは無しな?」
写真家のその言葉に、アドは言葉を無くしたかのように黙り込んだ。
そして一拍おき、絞り出すように言葉を出す。
「……私、ハンターじゃないんです」
「そうか」
「怒らないんですか……?」
「ハンターがどれだけ強いかわからんが……。震えながらも守ろうと頑張ったお前は強いよ。俺は逃げることを選ぼうとしてた」
「そうそう、主人様は危ないことに首突っ込むくせに、すぐ逃げる臆病者だかr! 痛ったー!」
写真家の無言の手刀ががレグの頭に炸裂する。
「怒らない。いや、怒れないな。お前もハンターを偽ったって事は、それなりの理由があるんだろ?」
「写真家さん……」
「それに二回も俺たちを助けようとしてくれた。その勇気はハンターを超えてると思うぞ」
写真家は優しい声色で、アドを安心させるように声をかける。
しかし、それは上辺だけの言葉ではなく、アドの勇気に感心しての言葉だった。
「今は理由は言わなくていい。まぁ、気が向いたら理由を話してくれよ」
「そうそう、もうボクたちお友達だしね!」
綺麗に話をまとめようとレグが言葉を出したその時だった。
「グギャーーーーーー!」
森に響き渡る叫び声。
それは明らかにあのセルリアンの物だった。
そう遠くない場所で聞こえるその声は、写真家達を追ってきたとも受け取れた。
写真家は高い背の草むらから軽く体を起こしてあたりを確認する。
「いるな……」
写真家は木々の隙間にセルリアンを見つける。
再び姿勢を低くして、小さな声で二匹に伝えた。
「なんだあの執念は……。飛べない森の中まで追ってくるとは……」
「あのままじゃ地の果てまで追ってきそうだよね」
「ははは……。ん?」
レグの言葉に乾いた笑いを返す写真家だったが、思いついたようにそれを止めた。
「……逆に好機かもしれないな」
「えっ?」
「写真家さん……?」
何を言い出すのだ。二匹はそう言いたそうな言葉を写真家に向ける。
「ここは森の中だ。あいつの図体じゃ、ここでは自由に動けないだろ?」
「まぁ、確かに飛べないけど……」
「つまり、ここでなら奇襲をかけることも可能だ。説明するぞ」
何か策があると言わんばかりに、写真家は二匹に説明を始めた。
「ここはまだ若干ひらけてるだろ? 木が生い茂ってる場所にあいつを誘い込む」
「それなら……。この先は森が深くなってます……」
「好都合だ。相手がバックも振り返る事もできない場所に誘導して、そこで奇襲をかける」
勝てる自信があると踏んだのか、写真家はセルリアンを倒す気まんまんな口調で言う。
機動性があるセルリアンではあるが、大型であるため地上では動きが鈍い。
森の中となればさらにそれが顕著になるだろう。
だからこそ、この状況は『倒す』のには好機であると言える。
「主人様? 倒すつもり?」
「写真家さんっ……。危険ですよ……!」
「あのセルリアンを放っておいたら、また襲われるかもしれない。倒せるなら倒すべきだ」
「でも、それって誰かが囮にならないといけないんじゃ……」
何かを察したように、そして明言は避けるようにアドは質問する。
「囮は俺がやる」
「主人様っ!」
「写真家さんっ!」
二匹は当然のように猛反発だ。
レグに至っては、写真家を押さえつけそうな気迫で唸っている。
「レグ、これは必要なことだ聞いてくれ。アドは見ての通りボロボロだ。レグもさっきの戦闘で完全とは言えないだろ?」
「でもっ!」
「俺は今の所かすり傷一つない。だから囮に最適だ。それに、レグに囮をさせたら、誰が攻撃するんだ?」
「でもでもっ!」
「お前は、セルリアンを攻撃できる力があるんだろ?」
「うぅっ……」
そう言われてレグは言葉を詰まらせた。
さっきの戦闘を見ていた写真家は、フレンズにセルリアンに対抗できる何かしらの力があると思っていた。
手が光り、そして爪による攻撃はセルリアンを削っていた。
レグもその事には気づいていた。だからこそ言葉を詰まらせる。
「お前しかいない。お前を信頼してる」
写真家はいつもと変わらない笑顔を見せて、まだ納得いかない表情をしているレグの頭を撫でる。
「主人様……。怪我したらボク怒るよ?」
「あぁ、お前に怒られないように頑張んないとな」
「……わかった。主人様の命令だもんね」
渋々了承した。
レグは頷くと、それ以上反対することはしない。
「さて、アド? 一撃でなるべくダメージを与えたい。セルリアンの弱点ってあるのか?」
「えっ……はい……。1回目写真家さん達を逃す時に見たんですが……。背中に『石』があるんです」
「『石』?」
新たな単語に、興味津々と言わんばかりに写真家はその言葉を復唱した。
「あれを砕けば……。セルリアンはバラバラになります……」
「さしずめ『
写真家はニヤリと口角を持ち上げた。
アドの話が本当だとすると、一撃で相手を倒せる可能性があることを意味していたからだ。
「奇襲なんて何回も使える手段じゃない。一撃で決めないといけなかったから好都合だ」
「つまり主人様は囮、僕は背中側から石を狙う。ってことでいいのかな?」
「そう、レグは利口で助かる。さて、あまりあいつを放置すると寂しくて帰っちゃうかもしれないな」
写真家はもう一度体を持ち上げて、セルリアンがまだ近くにいることを確認した。
「アドは休んでてくれ。お前を傷つけた奴を懲らしめてくるからな」
「写真家さん……!」
アドはゆっくりと立ち上がろうとした写真家の足を掴んだ。
「ちゃんと戻ってくる。約束だ」
写真家は膝をつくと、アドの手を強く握って言葉をかける。
「お気をつけて……」
そしてアドの言葉に強く頷くと、足音を立てないようにセルリアンへと向かっていく。
「さぁ、あいつを狩るぞ。ここで別れよう。お前は後方からつけて来てくれ。合図をしたら一気に仕掛ける」
「わかった……。主人様、気をつけてね……?」
…………
……
そこに巨大な敵はいた。
森の中まで追ってくる執念を見せるそれは、執拗なまでに首を振り、辺りを見回している。
獲物を捕らえられなかったことが悔しかったのか……。
そういった感情の類があるかもわからないが、写真家達を追っていることは間違いなかった。
「やっぱりでかいな……」
写真家は巨大に見えるセルリアンに思わす声を漏らした。
実際巨大ではあるのだが、あたりの環境がさらにその巨大さを強調しているようだった。
「……よし」
写真家はバッグから一つのものを取り出す。
円盤状のそれは、レグが出発前にこっそりと入れたフリスビーだった。
写真家は、セルリアンから少し離れ、高まる鼓動を抑えるように深く深呼吸をすると、相手が見ていないことを確認し。
「っ!!」
息を潜めていた木陰から飛び出すと、セルリアンにフリスビーを投げつけた。
「グァ……?」
吸い込まれるようにセルリアンの頭部に命中する。
効くとなんて思ってはいなかったが、写真家は少しでも距離をとって気づかせるために、その策をとった。
「こっちだ薄鈍!!」
「グギャーーーーーー!」
写真家は精一杯の虚勢を見せると、相手がこっちに気づいたことを確認し、一目散に逃げ出す。
セルリアンのついに見つけた獲物を逃すまいと精一杯の歩みで写真家を追う。
「くそっ! でかいだけあって一歩がデケェ!」
セルリアンは翼の爪部分を地面につけるような形で走ってくるため、安定性が写真家よりも高かった。
それに加えて大きさもあるため、徐々にその差は詰まっていく。
「早くっ! 森の深いところに!」
「グギャーーーーーー!」
セルリアン嘴を鳴らしながら、猛獣そのものな動きで写真家を追い詰めていく。
あたりの小木は軽々と蹴散らされていく。
そして、獲物を捕らえることに必死なのか、自身の体がボロボロになることさえ厭わない。
「くそぉぉ! あそこまでっ! あそこまでぇ!」
走っていくうちに、徐々にその視界は狭くなっていく。
木々が生い茂るエリアに近づいていっている事を示していた。
写真家は必死に走る。
まるで猛獣に追われる小動物そのものだ。
彼は軽く後ろを振り返ると、セルリアンとの差は3メートルほどに迫っている事を確認した。
「もうすこしっ!」
目の前には巨大な木が二本。人間がすり抜けられるほどの大きさに並んで立っている。
写真家はそこに飛び込もうとしていた。
飛びかかれば捕食される可能性があるギリギリの距離。
セルリアンも確実に写真家を捕らえられるように、ギリギリまで距離を詰めて、飛びかかるつもりだ。
「間に合えぇぇぇ!」
祈りにも近いような叫び。
その瞬間セルリアンは写真家に飛びかかる。
写真家は体を宙に投げ出すようにジャンプする。
「グギャーーーーーー!」
セルリアンの体は頭から二本の木に突っ込んだと思うと、凄まじい衝突音。
写真家は地面に転げるように受け身をとってすぐさま立ち上がる。
二本の木に阻まれて、セルリアンは身動きが取れなくなっいる。
「レグッ! 今だっ! 石を! 石を狙ええええ!」
「はぁぁぁぁっ!」
その声に呼応するように草むらからレグが飛び出す。
大きく跳躍しセルリアンの真上に差し掛かると、落下する力を使って強力な一撃を与えようとしていた。
それに気づいたセルリアンは、木から抜け出そうと、踠き始める。
「いっけぇええええ!!」
写真家が叫んだ一瞬後––
レグの光り輝いた爪がセルリアンに直撃する。
「っ!」
レグは体勢を立て直すと、そのまま写真家の近くに跳躍して着地する。
「やったか!?」
「ダメッ! 浅かったっ……!」
レグの言葉に写真家の表情は凍りつく。
その言葉と同時に、木の拘束から抜け出したセルリアンは、写真家達の前にまた対峙した。
表情こそ変わらないが、その姿はまるで勝ち誇ったようにも見える。
「絶体絶命かよ……」
背見せて逃げようとすれば、一瞬で捕食される距離。
セルリアンもそれをわかってか、どちらから喰らってやろうかと吟味するように二人を見ている。
「主人さまっ!」
レグは最後まで守るつもりなのか、写真家の前に立つ。
「レグ、お前なら逃げられる。逃げろ!」
「いやだっ!」
当然の反応を見せる。
レグにとって写真家は一番大事な存在。
しかし写真家にとっても、それは同じ事だった。
「グギャーーーーーー!」
セルリアンは最期の会話すら許す気は無く、まずはレグを捕食しようと飛びかかる。
写真家はレグを守ろうと、とっさに抱きしめて庇う。
––––
写真家は次に来るであろう衝撃に耐えようと歯を食いしばった。
肩を大きく揺らして呼吸する。
汗が頬を伝って落ちる。
「……?」
しかしその瞬間は訪れない。
あまりにも遅かった。
セルリアンが飛びかかろうとして、もうすでに5秒以上が経過していた。
写真家は恐る恐るセルリアンを見る。
「グギャ、ギャ……、ギャ……」
小刻みに震えながら、その場所に佇んでいるセルリアン。
写真家は目を疑った。
セルリアンの胸部付近から黒い針。
いや槍のように鋭い何かが突き出し、貫いていた。
「なっ、なにが……?」
あまりの出来事にレグを抱きしめたまま固まる写真家。
セルリアンの体から色が失われていく。
初めは叫び声をあげていたセルリアンも、もうすでに声を上げることはない。
そして徐々に体の末端から形を失っていく。
「死……んだ……?」
色のないブロック状に崩れるセルリアン。
しかし刺さった槍はそのまま宙に浮いている。
「え?」
そしてまた驚きの声を上げる。
黒い槍はかなり長く、その基部を見ようと目を凝らす。
そこには。
「フレ……ンズ……」
黒い。
それは影で黒く見えるわけではない。
体は黒く、二本のツノを持ったフレンズ型の何か。
そうしているうちに、伸びた槍らしきものは縮小してそのフレンズに戻っていく。
「手……なのか!?」
それは槍ではなかった。
縮んだかと思うと、黒いフレンズ?の右手に変形していた。
獲物を捕らえるために伸ばした、タコの触腕に近い形状をしていることがわかる。
「誰なんだお前は! セルリアンなのかっ!?」
写真家はその存在に向かって声をかける。
「タリナイ……」
無機質な声が森に響き渡る。
写真家の希望した返答は帰ってこない。
「だから誰なんだ! フレンズなの––!?」
そして写真家は気づいた。
フレンズ型の首に、ネックレス状にかかっている物を。
「記憶媒体……! お前が盗ったのか!?」
「救イタイ。救ワナケレバ……」
フレンズ型は、そのまま振り返ると、写真家達に興味も示さずに森の中へと消えていく。
「まてっ! それを返せっ! っ!」
「主人まさっ……!いやっ、いやっ……!」
写真家はそれを追って立ち上がろうとするが、レグが必死にしがみつく。
「レグ……?」
「あるじさまっ、しんじゃいやっ!」
レグは震えていた。
それはあの大型のセルリアンへの恐怖では無く、自分の近しい人がいなくなるのかもしれない恐怖でだった。
「……」
写真家は再びあのフレンズ型の存在がいた場所を見るが、気配すらも確認できなかった。
彼はレグをしっかりと抱きしめて、落ち着かせるように頭を撫で続ける。
「もう大丈夫だ。レグ、大丈夫……」
写真家は昔のことを思い出してた。
レグは子犬の頃に捨てられて、拾われたところを、友人の頼みで貰い受けた子だった。
レグは出会った直後はよく噛み付いたり震えて夜泣きをしていた。
その度に写真家は、こうやってレグを抱きしめて撫でていたのである。
「主人様……?」
「よくわからんが助かったらしい……」
しばらくするとレグも落ち着いたのか、泣いたせいの鼻声であるが、写真家に声をかける。
「おっきいのは……?」
「なんて説明すればいいか……。あのな……」
「写真家さんっ……! レグさんっ……!」
写真家がレグに説明しようとしたその時だった。
「アド! 体は大丈夫なのか?」
写真家達に届いた声はアドのものだった。
アドは木陰から姿を現し、写真家達に駆け寄る。
「大丈夫です……。セルリアンは……?」
「あぁ、それなんだが、ちょうど良かった。説明するよ」
写真家は黒いフレンズ型の存在、そして記憶媒体を持っていたことを二匹に説明する。
「その、フレンズが主人様の『
「黒いフレンズ……っていうのも気になります……。今度の噴火で生まれた子でしょうか……?」
「今は何もわからんな……。どうしたものか……。」
悩み込む写真家達。
「アドも黒いフレンズについては知らないみたいだな」
「はい……。あっ、でも……」
アドは何かを思い出したように表情を変える。
「『としょかん』に行けば何かわかるかもです……。オサも居ますし……」
「そういえば『パークセントラル』についても知ってるかもしれないって言ってたな」
「この島を出る方法も知ってるかもね!」
写真家達は顔を見合わせて頷く。次の目的地が決まった。
「アド、引き続き案内頼むよ。俺たちは新参者だからさ」
「はいっ……。任せてください……!」
写真家は、ジャパリパークへ向かい、ただパークセントラルに向かえばいいと思っていた。
しかし、事はどんどんと大きくなっていく。
パークセントラルの位置。
黒いフレンズの存在と記憶媒体。
そして、この島の脱出方法。
それらすべてを知っているかもしれない人物?の元へ向かう事を決めた。
「目指すは図書館だな」
写真家達は図書館へと向かい歩み始めた。
セルリアンのいなくなった森には、写真家達だけの声が響いていた。
––––
写真家の日記
ジャパリパークへと上陸した初日。
すべての食料と、様々な物資を失ってしまった。
大型のセルリアンの脅威はなんとか退けた……?が、謎も増えた。
記憶媒体を盗んだ黒いフレンズの存在。
そして、帰る足を失った俺は、その方法も探さなくてはいけなくなった。
衝撃はそれだけには止まらず、愛犬のレグがアニマルガール化した。
そして、現地『けもの』であるアードウルフとも出会うことになった。
彼女は臆病な性格だが、強い意志を持っているように見える。
実際、一度救われもした。
セルリアンはフレンズを襲うらしい。
そして、俺も襲われたから、人間も襲うことがわかった。
これからは脅威になっていくことだろう。
今回のようなラッキーも続くはずがない。
対策は考えなくてはいけなくなった。
……アニマルガールの存在は本当に謎だが、これだけは言える。
動物と話せるのは、本当に奇妙な話だが新鮮だ。
そして、動物の特徴を色濃く残している彼女達は……。
すごくかわいい。
特にあの尻尾が……。
誤解を招く発言かもしれないが、他意はない。
でもやっぱり尻尾や耳がぴょこぴょこ動くと……。
いやこれ以上はやめておこう。
とにかく、アドは信頼できる子だ。
真っ直ぐで純粋で。
もちろんレグも心配症を除けばかわいいし、いい子だ。
あの子達とこの島の謎を追えるかと思うと、不謹慎だがワクワクしている。
何か忘れていたことを思い出した感覚だ。
少年の時のような……。
とにかく、今は謎を解明して、このレポートを完成させたいと思う。
この『ジャパリレポート』を。
この物語は、漫画版のことを考慮に入れてません
アプリ版ーアニメ版ーこの物語。みたいな感じです。
あと、人類は絶滅していない前提で物語を作っています。
それを前提で、パラレルワールド的な感じで楽しんでいただければ幸いです。
毎回コメント、感想、本当に感謝しています。
書く気力が湧いてきます。