妖精の羽   作:ささみ紗々

11 / 24
シャルロットとの出会い

「さて、と」

里の離れには丘がある。セツナはそこに向かっていた。できるだけ、空に近いところへ。そうやって探しているうちに丘を見つけた。

母がいる家やムッシュさんがいる池が一望できる。

眼下には里の真っ白な景色が広がっている。もう春真っ盛りだというのに、ここは一年中冬だ。

空を見上げて呟く。頭に思い浮かぶのは、たった数日前に別れたばかりの男性の顔。

「待っててね、柊二君」

強気な笑みを浮かべて、羽をはためかせる。息を吸いこんで、空へと飛び立った。

何度も何度も、振り返った。もしかしたら、もうここには来れないかもしれないから。手を振る母の姿が、見えた気がした。

高度が高くなってくると、上昇気流の流れを見つけた。まるで追い風のよう。誰もが私を応援してくれている、そう思った。

不安なんて何も無かった。里から見る空はいつも灰色だったのに、今の空はこんなに青々と輝いて、私を照らしてくれている。

 

すでに雲は近くて、目的の場所が目前に迫っている、その時だった。

目を細めると、大きな黒い塊が遠くに見えた。いや、遠くにっていうか……だんだん、だんだんそれは近づいてきていて……

「鷹だ、」

黒い塊の正体がわかった時には、もう鷹は近かった。

山にいた時に1度鷹に出会ったことがある。その時鷹が目をつけたのは、ちょうど餌を食べている途中だった狐。私は木の影に隠れてその様子を見ていたのだが、無残にも狐は食べられてしまった。

羽を、さっきまでよりもずっと早く動かす。しかし思うように飛べない。そうこうしているうちにも鷹は近づいてきていて、ますます焦る。

待って、ちょっと待ってよ……息が苦しくなる。一生懸命羽を動かしているのに上には上がらず、下から物凄い風を感じる。

私は下降していた。近づいた雲が遠くなる。羽は動かない。あぁ死ぬな、と思った。目の前にはもう鷹がいた。ぎゅっと目を瞑る。落ちるままに、体を風に乗せる。

鷹が翼を広げる音が聞こえた。ごめんね柊二君……会いに行けそうにない……

 

「ぎぃぃ!キッ!キッ!」

遠くで何かが鳴いている。

目を開けると、そこは絨毯の上だった。

「あら、起きたの」

美しい声が耳を揺する。

体を起こすと、前に乗っているひとりの女性の後ろ姿が見えた。

「全く、世話の焼けるお嬢ちゃんだこと」

振り返りながら言う女性は、今まで見た誰よりも美しかった。真っ白な肌に真っ赤な唇、整った鼻筋に綺麗な二重の目、ふわふわと風になびく真っ赤な髪……

「あなたは……?」

聞くと、彼女は答えた。

「シャルロットよ。あなた、私を探していたでしょう?」

コクリと頷く。

その時、目の前に鷹がいた、あの光景が頭に浮かんだ。

「たっ、鷹は!?」

「逃げたわよ?あなたが食べられちゃいそうだったから、ちょうど通りがかった私があなたを乗せたの。これ、そんじょそこらの鳥さんたちとはスピードが違うから」

ホッとして、胸をなで下ろす。

サラさんが「シャルロット様」と呼んでいた、魔法使い……その人が今目の前にいて、2人きりでそりの上。何が何だか、分からなくなってきた。

感じる風が、自分の羽で空を飛ぶ時とは全然違う。頬が微かに撫でられる。思わず目を閉じると、甘い香りに包まれて、私は眠くなった。しかし、前にいる美しい魔法使いに遮られる。

「でもねお嬢ちゃん、あなた見当違いよ」

後ろを向いて座り直した彼女は、美しい顔を台無しにしてもっしゃもっしゃと何かを食べながら、私に言った。

「見当違い?」

「ええ。あなた空へと飛んできたのはいいけど、私がどこに住んでいるか知らないでしょう?」

「……空の上でしょう?」

「……あなた、空がどれだけ広いか知ってる?」

「えっ」

そんなこと考えてなかったとは言えず、頬を掻く。

「あは、あはは……」

「お嬢ちゃん、あなた私が通らなかったら死んでたわよ」

「うっ……ありがとうございます」

いたたまれなくなって顔を下げる。

「さて……もうすぐ着くわよ」

顔を上げると、目の前には城……と言うよりは館に近い建物がそびえ立っていた。見た目によっては城にも見えるのだろう。サラさんは城だと言っていたようだから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。