妖精の羽   作:ささみ紗々

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七島芳樹 岡野陸人 山部潤の呟き

目の前にいるイケイケくんたちをチラリと見て、すぐに視線を本に戻す。あの頃の俺は眼鏡をかけていていつも本を読んでいた、なんというか、「大人しいやつ」だった。クラスでの立ち位置的なのもモブキャラって感じで、なんとなく毎日過ごしてた、そんな高校生活。

 

そんな俺に声をかけてきたのがあいつだった─春山柊二、今じゃ俺の親友。柊二はいつもは自分から人に話しかけたりなんてしなくて、人との関わりは深く狭くって感じだった。そんなやつがなんで俺に話しかけたのか疑問だったから、あとから聞いてみたところ、「なんとなく、気が合いそうだったから」。

あいつもスポットライトを浴びるような存在じゃなかったけれど、人に溶け込み調和することが誰よりもうまかった。だから俺は柊二といると居心地がよかった。少し冷めたような目も、それでいて見守るような笑顔も、全部が好きだった。

 

そんなやつが、いなくなった。突然、俺達の前から。山部と岡野と、俺と柊二、4人で卒業旅行に来た山で、遭難してしまった。突然の雪に見舞われて、あいつだけ……柊二だけ。

(なんで…)

ずっと呆然としていた。あの時──

 

「雪だ!はぐれるなよ!」

俺は3人に呼びかけた。少し荒い息が聞こえて、少しホッとする。近くに誰かがいるという、ほんの小さな安心感。

振り返って見ると、

「……柊二?」

いない。いないんだ。さっきまで、ついさっきまでそこに居たはずの柊二が。前を向く。右、左、後ろ。360°回転して見るけれど、どこにもいない。汗が流れる。悪寒がする。どうしよう、どうしようどうしよう。あいつがいなくなったら……!

 

それから俺達は雪が収まるまで待って、旅館に戻った。戻るとすぐに警察やら消防やらに電話して、助けを呼んだ。

(お願い、助かってくれ……)

祈る俺達を横目に、太陽がもう顔を出しかけていた……。

 

△▽△▽△▽

 

七島は頼れるやつだ。出会った時からずっとそう思ってきた。でも今日わかった。七島は春山ありきの頼れるやつなのだ、と。

七島と春山は高校の時からの友人だったらしく、大学に入って、その2人に俺、岡野陸人ともう1人、山部潤が加わって、グループができた。2人はあまり話さない方だった。……少なくとも俺と潤よりは。でも二人とも凄くいいやつで、俺達はすぐ仲良くなった。出会った頃よりは二人も明るくなったんじゃないだろうかと思う。

 

旅館についた時、七島は普段通りを装っていたつもりだと思う。けれど……そうだな、弱っているのは目に見えてわかったし、いつもうるさい潤も、そんな七島を見て、元気づけるということさえしなかった。話しかけちゃいけない雰囲気だったからな。

「必ず、見つかるさ」

俺は独り言のように言った。誰も何も言わなかったから、結局独り言になったんだが。

 

二日目は曇っていた。俺達はずっと祈り続けた。

寝た方がいい、そう七島には言ったが「でも」と頑なに拒み続けて、結局起きていたのだろう。

 

俺は布団の上で考えた。あいつは……春山は無事だろうか、と。根拠はないが、無事なんだろうな、と思ってくる。……根拠はないが。

一昨日の夜、みんなで鍋を囲んだ時に、春山が言っていたことを思い出す。

「芳樹はァ、元々こんなんじゃなかったんだよなぁ!」

「髪の毛もモサくて、眼鏡かけてていーっつもうつむいててよぉ」

「気が合いそうらと思って話しかけたけど、結構勇気いったんだぜ??ははぁ」

なんだか前にも似たようなことを言っていた気がするが、すっかり忘れていた。

今の七島は髪を遊ばせていて、キリッと整った目鼻立ち、きっと一般に言う、大学デビュー……?でも七島は真面目で、俺らのグループのまとめ役って感じの役回りだから、春山がいうことも納得できる。そんな七島をそんなふうに変えたのも春山なんだろうな、きっと。あいつは、影響力があるやつだった。

「教師、なるんだろ……?」

ふぅ、とため息をついて、

「お前ならなれるわ。人の人生を変える力があるからな。」

伸びをする。

「だから早く戻ってこいよ」

 

△▽△▽△▽

 

(うーん)

俺はひとり顔をしかめる。そんなにやばいのかな、やっぱ。俺は春山生きてると思うんだけど。まぁこんな状況に置かれたことなんて初めてだし、きっと混乱してるのかもしれないよな、俺の頭が。

「ふぅ、」

軽く息を吐いて俺は寝そべる。大丈夫、すぐ帰ってくる。そうやって言葉をかけたいけど、なんだか話しかけちゃいけない雰囲気の七島と陸人。チラッと横目で見ると、七島は今にも倒れそうな顔で手を組んでいた。まじでやばい。助けるべき相手はここにもいるんじゃないかってくらい。

 

「助かった、らしい」

旅館のエントランスから帰ってきた陸人が、息を切らせながら言った。

「今、電話かかってきた」

「それで今、柊二は!?」

七島は目を見開いて言った……というより叫んだ、に近い。

「ヘリに乗ってる」

ヘナヘナと力が抜けたように座り込む七島。

「良かった……」

小声でつぶやき、そのまま横になって、寝た。

「全くよぉ」

俺は笑いながら七島に近づく。

「七島もよく頑張ったよなぁ」

陸人もやって来た。ふと隣を見ると、陸人の目には涙がこれでもかってほどいっぱい溜まっていた。今にも溢れだしそうだった。

(なんだよ、泣くなよ)

俺は俯いて七島の冷えた体に毛布をかける。ゆっくり休めよ、そう心の中で唱えながら。

「良かった、良かった……」

震える声で呟く陸人。やめてくれよ、ほんとに。あぁもう……

「早く会いてえな、春山になぁ」

ほらきた。視界が滲んでくる。なにか、なにか面白いこと考えなきゃ。なぁ、泣くなって。

 

ポタ。七島の枕のシーツが濡れた。あぁ、だからやめてほしかったのに。俺は泣きたくなんてないのに。

「堪えなくていいよ」

隣を見る。陸人はずっと俺の顔を見つめていたようだ。恥ずかしい。

「いつも皆を笑わせようとして」

陸人が俺の頭に手を乗せる。

「こんな時くらい無理すんな」

涙が溢れる。

「お前も不安だったんだろ?」

……そうか。俺は不安だったんだ。

「よ、良がっだ……春山、生きででよかっだぁ、」

「ほら拭け」

笑いながらティッシュを差し出してくる陸人。俺はそのまま甘えて、鼻からも目からもダラダラ水を流した。陸人も泣いていた。春山は大事なやつだから。大事な、仲間だから。

「心配してくれる友達もいて、あいつは幸せなやつだなぁ」

と言って、陸人は涙を拭いた。すっかり赤くなった目を見る。優しい顔をしていた。

 

さあ、あいつに会いに行こう。

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