真・恋姫で地味ヒロインの妹してます   作:千仭

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お待たせしました。

今回は普通ぐらいの長さです。

誤字脱字が多い作者なのであったら教えてくれると助かります。

ではお楽しみ下さい。


閑話1
平日(1)


 あの戦の後からもう一週間ぐらい時が経っている。私たちはすぐさま啄郡へと戻り、負傷者の手当てや物資の確認などを行った。そして次に溜まっていた政務をこなすために姉さんは自分の執務室に籠り、私も姉さんと同じで軍務関係の報告書や新兵の調練など様々なことが溜まっていたので自分の執務室に缶詰状態であった。

 そして現在私は消耗した兵糧や武器などを備蓄から補充したので、消費した備蓄を補充するために内政担当の姉さんのところへとまるなg……交渉しに来ているのであった。かなりの量の武器や道具が消耗したので、今ある備蓄ではこの後のことを考えると残りが心もとないことになるからだ。

 

「姉さん、このぐらいなんだがどうにかならないか?」

 

「無理だ」

 

 私が姉さんにそう問うと姉さんは目の下に大きなクマを作り、死んだような目でそう答えた。少し青白くなった顔が姉さんの状態をはっきりと表しているが、私は軍務担当の最高位みたいなものだから妥協はできないので悪いなと思いつつも容赦なく食い下がった。

 

「そこを何とかできないか?」

 

「無理なものは無理だ!!」

 

 姉さんが少し投げやり的にそう言うと泣きそうな目でこちらを見てくる。その目がこれ以上仕事を増やさないでくれと切実に訴えているが私は気にせずに続ける。

 

「ほら、そこを何とかするのが敏腕太守の務めだろ?」

 

「でも…仕事…増える」

 

 私がそう言うと姉さんは目に大粒の涙を浮かべながら雨に打たれている子犬のように少し震えながら答えた。若干寝不足で姉さんが幼児退行しているような気もするがこれも無視だ。

 

「増えたならとっとと終わらせばいいんじゃないか。ほら、簡単だろう?」

 

確か昔の偉い人がそう言っていた……はず。

 

「もう…一週間…ろくに…寝てない(泣)」

 

「私もそうだが?」

 

「……………………(うるうる)」

 

 姉さんの目がじゃあ、休もうよ!!と必死な目で訴えてくるが内氣功で身体能力を高めた身体なら一週間近く寝ていなくても大丈夫なはずだからこれも無視だ。

 事実私も啄郡に帰ってきてからろくに寝ていない。死者や負傷者の対応や補充した新兵の調練、各種地方への細作からの報告書に工房からの試作品の報告書etc、そして最後にやってきました今回の戦費報告書。

 

「妹ができるのに姉ができないなんてことはないよな?」

 

 さらに私が姉さんに追撃をするともう姉さんは泣きそうだったというよりも半分泣き始めていた。見栄とか姉の尊厳とかはありえないほどの激務により吹っ飛んだらしい。

 

「……………………でも(うるうるうるうる!)」

 

「口答えするな、いいからやれ」

 

「うがあああああああああああ!!!!」

 

 姉さんがついに私の言葉にキレた。かつてないほどの激務と妹からの容赦ない言葉についに耐えきれなくなり、資料や報告書である竹簡の乗った盆を盛大にひっくり返した。これぞまさにちゃぶ台返しならぬ盆返し!!投げ出された竹簡が綺麗な弧を描いて私に飛んでくるが優しい私はそれを全部強化された身体能力で掴み取り、姉さんの机に追加の竹簡と共に置いてやる。

「なあ!?そんなに!!お前は!!私を!!殺したいのか!?」

 

 それを見た姉さんが信じたくないような現実から目を離し、私に猛抗議してくる。そして再び竹簡が乗った盆をひっくり返そうというか窓から投げ捨てようとし始めるが投げ捨てる前に私がその手から取りあげて再度机の上に戻す。

 

「失敬な、姉妹愛から来る愛のムチと言ってくれ」

 

「それで私は死にそうなんだがっ!?」

 

「大丈夫、私は姉さんを信じてるっ!!」

 

 今度は竹簡をまとめてではなく、一つ一つ手に取って私に投げてくるが全てをその場でキャッチして姉さんに投げ返す。文字通りこれが姉妹のキャッチボール、最後にはめんどくさいのでアンダースローからの全力とは行かないが結構力をいれた竹簡が姉さんの腹に直撃し、撃沈した。

 

「ぐふっ!?……そ、そこは信じるなよ!?」

 

 竹簡が腹部にクリティカルヒットした姉さんは腹部を抑えながら脂汗をだらだらと流している。そして私はというとちょうど近くにあった竹簡を拾い上げ、無造作に姉さんに向かって投げて止めを刺した。

 

「ごふっ!?」

 

 そうしたら姉さんはあっけなく机の上に崩れ落ちた。近くにあった筆で姉さんの頭を突いてみても声をかけてみてもまったく反応がない。

 

「返事がない、ただの屍のようだ」

 

「……………………」

 

 一週間の疲れと妹の愛のムチからの激痛で強制的に意識を失った姉さんを私は抱き上げ、すぐ近くにあった扉を開く。この隣の部屋は姉さんの部屋であり、政務が溜まりやすい姉さんのためにそう作った。ちなみに姉さんの執務室の逆側は私の執務室であり、そして同じようにその隣も私の部屋になっている。これは何かと同じ案件を扱う時に合理性を追求した結果、連絡が取りやすい様に隣部屋にしてある。

 そして姉さんをベットに寝かせる。そうすると姉さんは微かな寝息をしながら本当に死んでいるかのように眠り始めた。よほど疲れていたのだろう、恐らく今何かしら悪戯をしたとしても絶対に気が付かないと思う。

 

「倒れるまでやるなって何時も言っているのに」

 

※倒れたのではありません。この人が武力によって眠らせました。

 

 本当に太守である姉さんがが倒れたら全員の士気に影響し、民に不安が広がってしまう。さらにそれに加えて賊や他の豪族などに付け入るスキを与えてしまう。それに回復するまでには余計に時間がかかるのでこうした方が手っ取り早い。

 

ほら、私って優しいだろ?

 

※優しい人は休ませるのに武力は使いません。

 

 そして私は姉さんの頭を軽く撫でると自分の執務室に戻るために姉さんの執務室を通り、私の執務室の扉を開ける。そうするとなぜかもっとも会いたくない桃色の髪をした女の子と黒髪の男子がそこにいた。

 なぜかこいつらは最近何かと私に絡んでくる。見回りにはかならずついてくるし、私の調練にもなぜか全員で参加する。他にも何かと文官の仕事を手伝おうとしたり、終いには忙しすぎるので女官に夕食を頼むのだがなぜか夕食なども持ってくるのだ。

 

はて?私はこいつらに好かれるようなことをしたか?逆ならば思いつくことはいっぱいあるけど。

 

「……何か用か?」

 

 私がそう問うと彼女は少しだけ困ったような目でこちらを見てくる。北郷はというと私のことは苦手だって言うことがはっきりと顔に出ている。

 

単純な男だな。

 

「えっと、何かお手伝いできるようなことないk」

 

「ない、あるとしたら町の見回りや新兵の調練でもしておけ」

 

 そして劉備が勇気を持ってそう答えるが私は彼女が言う終わる前にその言葉を切り裂く。そうすると彼女はうっとしながら涙ぐみ始めた。しかしそれでも諦めきれないのかなおも食い下がって来る。今度は北郷も口を開いた。

 

「白蓮の方は大丈夫だって言ってたからさ」

 

「それに愛紗ちゃんと鈴々ちゃん、星ちゃんがそっちに行ってるし、白蓮ちゃん達が忙しそうだったから」

 

「その気持ちだけはありがたく受け取っておくがお前らにできることは何もない」

 

 客将のこいつらに文官、特に重要案件を取り扱っている姉さんや私の仕事を手伝うなんてことをさせるわけにはいかない。姉さんが扱ってる内政の仕事は啄郡の問題点が明らかに載っているし、私の仕事にも最重要機密である軍の情報が詳細に載っているからだ。姉さんもそのことが分かっているので決して劉備たちや信用のおけない者たちには仕事を手伝わせていない。だからこそ姉さんしか解決できない案件が山ほどあるんだが。

 

それをこいつらはわかっているのか?

 

 そう思いつつ私はすぐさま山積みの竹簡を手に取って仕事を始める。今は朝廷から黄巾賊本隊討伐の勅令が出る前に少しでもやっておかないとやばいので時間が惜しい。

 

「……………………(ジー)」

 

「……………………」

 

 しかし私が仕事をし始めても一向に劉備たち二人は私の執務室から出て行こうとしない。それどころか私の仕事ぶりをまるで監視するかのようにじっと見ている。

 

これじゃ仕事に集中できん。それに機密情報も出せない。

 

 そう思った私は筆や重要な竹簡を鍵のついた戸棚にしまい、壁にかかっていた戦斧を手に取るとある用事のために町へと行くための準備を始める。戦斧を背中に背負い、剣を腰に差して最後に黒い腰布をつける。

 

「どこか行くの?」

 

 私が出ていく準備していると劉備がそう問いかけてきた。どうやら今回もこの二人は私に追いてくるらしい。二人ともそんな雰囲気を隠し切れずに如実に醸し出している。

 

「ああ、商人ところに買い付けに行く」

 

「私たちもついて行っていい?」

 

はい、予想通りの答えが来ました。

 

「好きにしろ」

 

 私は投げやりにそう言うと劉備は「うん!」と元気よく頷いた。その隣にいる北郷も私に拒絶されなかったのでホッとしている。そして私は準備ができると執務室から出て町へと向かった。後ろに子犬のようについてくる女の子と馬鹿野郎の2人を連れながら。

 

†††††††††††††††††

 

 町に出て私が向かった場所は華北を中心に活動している大商人、奏の館だった。この奏という大商人は私たちが長年贔屓にしている商人であり、ある契約をしている間柄だ。もちろん他の商人よりもかなり優遇しており、同時に信頼できる相手でもあった。

 

「お久しぶりネ~、黒蓮さん」

 

「久しぶりだな、奏」

 

 私が奏の館を訪れるとめったにここにはいない館の主である奏が出迎えてくれた。何時もなら洛陽など大都市で仕入れや売買をしているはず何だが。

 

「珍しいな、お前がここにいるなんて」

 

「どこかの誰かさんがもうすぐここに来ると思ってネ、いい商売したくて戻って来たヨ」

 

 どうやら私がここを訪れることが分かっていたらしい。黄巾賊を討伐したことを他の州に流布したのは先週からなんだが、それを聞きつけてきたようだ。こういう大商人は大取引相手である私たちや曹孟徳、朝廷の十常侍などの情報は割とよく知っているため、儲けがある所には絶対に現れる。今回も消費した物資や武器などを大量に注文するために私が来るのを待っていたようだ。

 

「なら話は早い、すぐにでも始めるか」

 

「その前にその後ろの方々は誰ネ?」

 

 私がとっとと商談に入るために奥の部屋に進もうとしたら肩を叩かれて振り向くと彼女は劉備たちを指さしていた。この二人を商談に入れていいのかを聞いているのだろう。もちろん入れるはずはないが。

 

「私の付き添いだ」

 

「なら紹介しないといけないヨ。私は商人の奏と言うネ」

 

「私は仲珪さんのところで客将をさせてもらっている名は劉備、字は玄徳と言います」

 

「俺の名前は北郷一刀って言います。よろしくお願いします」

 

「はい、二人ともよろしくネ。なにかお求めならこっちに来てヨ?少しくらいならおまけするネ」

 

 そう言って奏は二人に向かってほほ笑んだ。どうやらこの二人を新たなかm……取引相手にしそうだがそこは黙っておく。この笑顔に騙された奴は一体何人いることやら。

 コイツはちゃんとした取引相手じゃないと容赦しないほどに値を上げる。以前なぜかと聞くとどうやら歯ごたえのある商談がしたいということだそうだ。金儲けのためだけに商人は動くと思ったが商人魂だとかなんとかそこらへんはよくわからなかった。

 

「二人は適当にしておけ。何なら城へ帰ってもかまわない」

 

「えっ?私たちも参加しちゃいけないの?」

 

 そう劉備が言った瞬間に私はあまりの馬鹿さ加減に頭が痛くなってきた。思わず素で「お前は馬鹿か?」言いそうになったほどだった。そして私が何か言おうと少し考えていると奏が劉備にその理由を説明し始めた。

 

「劉備さん、個人的な商談なら本人が同意すれば別に参加してもいいネ。でも今回の黒蓮さんの商談はこの町の太守代理としての商談ネ。そこにただの客将が参加できるわけないヨ」

 

「どうして?」

 

 そう素で奏に聞く劉備をみて私は内心驚いた。こいつは私塾でいったい何を習ってきたんだ?太守代理としての商談はこの啄郡にかかわる場合が多い。城壁の石や武器、防具など町の防衛や軍にかかわることも多々あるのでそれを知られる訳にはいかない。

 

「黒蓮さんはこの啄郡の軍隊を白蓮様に任せられているネ。その商談に参加するということは啄郡の動きを知ることに繋がるヨ。それを公孫家の士官でもないお二人に知られるわけにはいかんのですネ」

 

 奏の言うとおりだ。商談の中身を知ればその豪族や領主がこれから何をしようとしているのかが大まかにわかってしまうからだ。たとえば兵糧や武器の原材料を集めていれば戦の準備をしていることになり、また注文している量を見れば普段貯蓄している量やどれくらい籠城できるかなど様々なことがわかり、それによってどこが攻めやすいかなども分かってしまう。

 

「そう言うわけだ。客将のお前らが参加できる話じゃない」

 

「その通りネ、だから今回は帰るといいヨ」

 

 そう言って私たち二人は奥の部屋へと入っていった。部屋に入るとそこには大きめの机があり、その上には竹簡がいくらか並んでいた。どういうわけかすでに商談の準備ができているらしい。

 

コイツ…魔術師かなにかなのか?

 

「そんなことないヨ?」

 

本当だろうな!?

 

†††††††††††††††††

 

「ふむ、今回は鉄の値段が高いな」

 

「それはしかたないヨ、他のところでも戦の準備しているからネ」

 

 なるほど、どうやら黄巾の乱が着実に中華全体に害をもたらしているらしい。官軍が敗れるのも時間の問題だろう、今回は何時もよりも多め注文しておくか。

 

「まあ、仕方がないがその値段で良しとしよう」

 

「毎度ありネ♪」

 

 その後具体的な量や支払いなども行って今回の商談を終わらせた。そして次に奏と交わしたある契約についての話に移った。

 

「で、他のところの動きは?」

 

 そう、そのある契約とは商人である奏の他の豪族や朝廷への販売の内容、そこで手に入れた情報などを金を払って買うという内容だ。さきほども言ったように何を相手が買ったのかで大まかな相手の動きが分かる。

 そしてこれは商人との契約(・・)なので信頼がおける。なぜなら商人は契約を順守(・・)するからだ。下手な細作よりもずっと細かな情報なども手に入れられるし、疑われることなく相手の懐に入ることができる。それに大商人である奏ならなおさら大きな商談を受け持つのでその情報も大変役立つものばかりだ。

 

「今回は結構良い情報(モノ)ネ、高くつくヨ?」

 

「それはわかってるから金のことは気にするな」

 

 そして私たちの細作は幽州、主に啄郡近郊とその他郡までしか配備してはおらず、その他の洛陽などの情報はこの奏からしか仕入れていない。なぜならそこまでできるほど資金も人員も何もかもが足りないからだ。細作を一から育てるのにも金と時間がかかるし、それを大量に育てるのに膨大な資金と時間がかかる。ならば少し高いが正確な情報をもたらす奏を利用した方が効率がいい。

 

「ならばよしヨ。官軍と曹孟徳が大量の物資を注文してきたネ。どうやら黄巾賊本隊討伐を霊帝が命じたみたいヨ。戦の準備してたネ」

 

「やはりか、しかし曹孟徳もか?」

 

「それは少し違うヨ、曹孟徳は自分の治める陳留を守護するためらしいネ。官軍とは関係ないヨ」

 

 ということは官軍の大将軍は何進か、ならば董卓が敗北するのも時間の問題だ。より一層新兵の調練と備蓄の貯蓄をしなければならないな、帰ったら早速手配しよう。

 

「いい情報だ、感謝する。料金はいつもの倍でいいな」

 

「わーお、結構奮発したネ、そんなに使って大丈夫カ?」

 

 私がいつもの契約料金よりも倍出すと言ったら奏は珍しく声を上げて驚いていた。そんなにこの情報が良いものだとは思ってなかったらしい。

 

未来を知っている私だからこそこれがいい情報になるんだ。

 

「なら値引きしようか?」

 

「それは遠慮するネ」

 

 そう言って今回の商談が終わり、部屋を二人で部屋をでた。いい情報が手に入ったし、収穫は十分すぎるほどにあったので私はすぐさま頭の中でこれからの予定を立てはじめる。

 

戦の準備を念入りしなければな。

 


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