真・恋姫で地味ヒロインの妹してます   作:千仭

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随分と投稿が遅くなってしまいました。

今回は前よりも長くなっています。

それと誤字脱字がありました教えて下さると助かります。

ではお楽しみください。


平日(2)

 突然だがみんなは頭が痛いことがあった場合がないだろうが?たとえば売り上げが上がらないとか、あなたが教師でクラスの中に問題児がいるとか、知り合いが問題というか厄介事しか持ち込んでこないとか。

 今の私はまさしくその状態である。黄巾の乱鎮圧のために私は富国強兵の強兵に忙しい。はっきり言ってどこのブラック企業と同じくらい忙しい。遠征のための物資調達やら黄巾賊討伐軍の戦況収集とか、それに新兵の調練に古参兵の稽古。さらには町の治安改善に賊討伐、他の郡や豪族なんかとの外交交渉、その他いろんなetcのことをここ数週簡続けている。

 

 そして今最も頭が痛い状況とは……星との手合せであった。星がここに客将として来てからもうすでに何十回と手合せし続けてきた。そのおかげで今の私はあの超子龍の神槍と互角に戦りあえるまで成長したと実際に感じることができるようにまでなった。それにはすごく感謝している。

 そして今日、いつも通りに星に誘われて手合せしようと練兵場に来た私はなぜか関羽と張飛の2人を相手取っている。私と関羽、張飛は互いに向かい合って刃に鞘をかぶせた本物の武器を持って構えている。周りから見ればどこぞの修羅場や戦場だと言うだろう。それほどまでに実践に近い闘気が練兵場を満たしていた。

 

だがここで私ははっきりと言おう。

 

 

なぜこうなった……と

 

 

まあ、これは私が悪かったんだ。身から出た錆ってやつ?いや、自業自得ってところか。

 

 こうなるまでの経緯を説明しよう。私は朝、いつも通りに星に誘われて手合せしようと練兵場に来たんだ。しかしそこにはすでに先客がいて関羽と張飛が朝稽古を行っている最中だった。その二人の手には愛用している矛と槍はなく、代わりに木の棒が握られており、朝から練兵場には気合の入った声が響いていた。

 

私や星ほどに実戦さながらの激しさと勢いはないが。

 

 そして私たちも始めようとすると星が「いつも同じ相手ではつまらぬでしょう?」と言って関羽や張飛を手合せに誘った。張飛は何も考えずにOKをすぐに出すが関羽は少し迷っており、最終的には星の口車に乗せられて手合せに参加することになった。

 星の提案で2対2の手合せをすることになり、私と星タッグと関羽と張飛タッグでチームを組むことになった。私としてもあの軍神と謳われる関羽や怪力無双の張飛と手合せできるのは嬉しい経験であり、やって損はないとこの時は思った。

 

ここまではいいだろう。

 

 しかしこの後がまずかった。星に何を言われたかわからんが関羽がいきなり爆弾発言を繰り出してきた。手合せで食らう一撃よりも遥かに重く、衝撃力があった。

 

その問題発言とは………。

 

「私たちが勝ったら少しの間でいい、貴方の副官にしてはもらえないだろうか?」

 

と言ったのだ。

 

………………

 

…………………

 

……………………あれぇ?

 

機密やら何やらはとりあえず置いといて、私ってなんでこんなにこいつらに懐かれてるんだ?

 

こいつらからしてみれば私は物語でいうライバルと言うか踏み台みt………踏み台!?

 

私がいつの間にかこいつらの踏み台になっていただと!?

 

 最近の出来事の中で一番ショックを受けた瞬間だったとだけ言っておこう。気が付かない内に私は劉備たちの踏み台になっていたのだ。そしてその原因と言うのはいうまでもなく私の隣でこの状況を楽しんでいる星であることに今になって気が付いたのだった。

 

ハメられた!!

 

 そう星の方を睨むと彼女は素知らぬふりをしながら遠い空を見ている。決してこちらを見ようとせずに私には顔すら向けてこない。私の頭の中でコイツの顔に一発ぶち込んでやろうと一瞬過ったがそれでは今回の問題の解決にはならないのでやめておこう。

 

まあ、コイツを〆るのは後にして。

 

 今はこいつらに踏み台にされない様にするのが先決だ。どうやって回避しようか、これを断ったらおそらく星にまた何か言われるだろう。そして何だかんだ言って最終的には要求を飲まされることになる。ならば元からこの要求を飲もうと思う、それでいてこの要求を回避するのにはもはや勝つ以外に道はない。

 しかしここで問題となるのは私とタッグを組む星のことだ。私を劉備たちの踏み台にするためには私がこいつらに負けて副官として扱わなければならない。そうなると星は手を抜いてわざと関羽たちに負けるだろう、いや絶対にわざと負ける。というか下手したら私の邪魔しに来るかもしれない。私の勘がそう告げている。

 

 

ならば私が取る最善の道とは……。

 

 

最初っから2人同時に相手にすること。

 

 

 星という足手まといというか仕掛け人が味方にいたら勝てるものも勝てなくなるのは絶対だ。それに関羽は手ごわいが張飛はただの脳筋バカで力を主体にして戦ってくる武人だ、倒すとか関係なくあしらう程度はたやすい。それにこれからは私一人で複数相手にする場合も多々あるだろう。魏の夏候姉妹とか孫呉の連中、蜀の連中だって闘える武将は数多く存在する。ならば今の内に経験することもいいだろう。

 

「いいだろう」

 

「それは感謝する」

 

 私がそう答えると関羽は心底嬉しそうな笑みを浮かべた。それほどまでに兵を率いたいのだろう。確かに兵を率いたことのない武将などには絶対の信頼を置けるはずはない。特に短慮で浅はかな今の関羽では簡単に相手の策に引っかかるだろう。

 

「だがこちらにも条件がある」

 

「それはなんなのだ?」

 

 私がそう言うと関羽は訝しそうな目で私を見てくる。張飛はというとさっきから頭の上に?がいくつも飛んでいるようだった。首を傾げてほへ~というまぬけな顔をしている。

 

「私一人で貴様ら二人を相手することだ」

 

「「なっ!?」」

 

「ほう」

 

 そして私はそう答えると関羽と張飛は揃って絶句し、次に怒りが湧いてきたのか顔を赤くして肩が震えている。星の方はというと私は言った言葉がかなり意外だったらしく、興味津々のようだ。

 

「貴様!我等をバカにしているのか!?」

 

「鈴々たちはそんなに弱くはないのだ!」

 

「すまん、しかしそういう意味ではない」

 

「ではなぜ我等二人を相手にする!?」

 

 やはりさっきも思ったが今の関羽はかなり短慮な武人であり、軍師としてはかなり扱いやすい部類に入るだろう。少しでも挑発すると簡単に怒って誘導しやすい。

 

「そこの馬鹿が信用できんのでな。ならあいつはいらん、最初から2人を相手しても問題なかろう」

 

「おやおや、私を信用できないとおっしゃるのですか?」

 

 特に悪びれもなくクスクスと笑いながら星は私の言ったことに反論した。またしてもこの状況を唯一楽しんでいる星は笑いがこらえきれないのだろうかさっきからずっと笑い続けている。

 

いい顔してるしな。

 

「ああ、こと悪巧みをする時のお前は特にな」

 

「これはこれは酷いことをおっしゃる」

 

「そうなのか?」

 

 星が芝居かかったように手を顔に当てて泣いたふりをし、一方の関羽は真顔で私に聞いてくる。お前も巻き込まれてるんだよと言いたくなったがそれを言ったら星が何をし出すかわからないので黙っておく。面白い状況を壊されるとこいつは本気で暴走しかねないと実際会ってみて思ったからだ。

 

はてしなくめんどくさい奴だ、まったく。

 

「というわけだ。コイツはどうせ役に立たんからな。いてもいなくても変わりあるまい。それに私に勝ちやすくなるのだ、お前たちとしては損はないだろう?」

 

「それはそうだが……」

 

 その条件に納得がいかなかったのか関羽は難渋を示していた。張飛はというと話に加わるのが面倒になったのか一人ですでに素振りを始めている。

 

ふむ、仕方がない。

 

 私はこのままじゃ埒が明かないと判断し、仕事も多く残っているので手っ取り早く関羽を挑発することにした。

 

「貴様はまさか私に2対1で負けるのが怖いのか?」

 

「何だとっ!?」

 

 私が挑発すると関羽はすぐさまその挑発に素で乗ってきた。これほどまでに扱いやすいと私は思っていなかったので内心少しだけ驚いている。

 

「違うのなら別によかろう」

 

「くっ!わかった。私たちは二人でお前を倒す!」

 

 そう言って彼女は木の棒を構えた始めるがそこで星が1つ提案をしてきた。というよりも私と星は普段から木の棒でしか手合せをしていない。鞘に納めた本物を使ってしている。なぜなら毎回毎回練兵場の木の棒でやると一日数本、多いときは十数本折れるからだ。それを姉さんに話したら「あれはお前らか!?」と言いながら思いっきり殴られた。

 というわけで彼女たちにには自分の武器と鞘を持ってくるように星が言い、彼女たちはすぐさま練兵場を後にしていった。

 

「まったく、お前はいったい何がしたいんだ?」

 

 関羽たちが練兵場から出ていくことを確認した後に星に問うと彼女はまるで面白いものを見つけた子供のような無邪気な笑顔を浮かべて答える。

 

「あの方々がどこまで行くのか、その行く末を見たいのですよ私は」

 

「あいつらがか?」

 

「ええ、この残酷な世の中でもあんな馬鹿げたことを本気でおっしゃるあの方々が最後にはどこにたどり着くのかを」

 

「はぁ~、まったく理解できんな」

 

 私がそう言うと彼女は少しだけ寂しそうな目で私のことを見る。私もそっちの道に引きずり込もうとしているのかはたまた理解してもらえないのが残念なのか、その真意はわからなかった。

 そしてその後すぐに関羽たちが自分の武器を持って戻ってきた。張飛はさておいて関羽の方は準備万端と言うような感じで闘気に満ち溢れている。

 

「さあ、やりましょう!私たちの武、その身で感じるがいい!!」

 

「早くするのだ!!」

 

 そう言って2人は私のことを呼ぶ。私は自分の戦斧を肩に担いで練兵場の中央までいき、左右に軽く振って構える。そして私はじっくりと彼女たち二人を観察し始める。二人ともどうやらかなり興奮しているらしく、十分に練られた氣が身体から漏れて練兵場を包み込んでいる。私も同じように氣を十分に練って彼女たちに対抗するように出す。

 

「いざ、尋常に」

 

「「勝負!!」」

 

 そう言って手合せは始まり、まずは張飛がまっすくとその手に持った矛を突き出してくる。私はそれを最小限の動きで交わすと次は関羽が横から偃月刀を振るってきた。とりあえず二人の技量が見たい私は戦斧で受け止める。思っていたほど重くはない衝撃に少し戸惑うが彼女は技術タイプの武人なので油断なく次の攻撃に備える。

 

「ハッ!」

 

 そうするとそのまま関羽は弾かれた偃月刀を流れるように次の袈裟切りへと変化させる。私は反撃せずにそれを戦斧の柄で下へ受け流すと上から張飛の矛が迫ってきた。

 

下に注意がいったところですぐに死角からの攻撃、うまい連携だ。

 

 慌てることなく私は戦斧の石突きを足で蹴り上げて下から上へと回転させる。回転した石突が矛の側面を弾くのと同時に身体を入れ替えて関羽の偃月刀をギリギリでやり過ごす。

そして身体を入れ替えたスピードを殺さずに左足を軸にして一回転し、内氣功だけではなく遠心力も乗せた一撃をすぐに次の攻撃を仕掛けてきた彼女の偃月刀に加減なくぶち当ててはじき返す。

そうすると彼女はその衝撃に逆らわずに一旦距離をとった。その距離をとった先には矛を再び構えた張飛がいる。

 

「………………………………」

 

「………………………………」

 

 そして2人と無言で対峙している現在に至るわけだ。とりあえず2人の力量はそこそこ把握した。今までのやり取りで彼女2人の情報を頭の中で整理する。「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」孫子に書かれている現代まで有名なことわざだ。私はこれを星との手合せの日々で勝負事に対して常に大切な事だと理解したからだった。

 

 まず関羽は思った通りの技術特化型タイプの武人だ。一撃と次の一撃との間が恐ろしいほどに短く、それでいて継ぎ目が洗練され、無駄な動きがない。そして力がないのかと思えば私の一撃をはじくだけの膂力を持っている。技術特化型の彼女は力特化型の私にとってやりずらい部類に入るだろう。

 

 次に張飛だがこいつは私と同じ力特化型の猛将タイプだ。技術もそこそこ持っているが何より一番凄いのはその強力な膂力から繰り出される一撃。普通の技術型ならその一撃をさばききれずに恐らく武器ごと持ってかれるだろう。それほどまでに強力な一撃を持っている。しかし私と若干攻撃の仕方が違う。私は攻撃をし続けて入ると思った瞬間に強力な一撃を振るう。それに対して彼女の一撃は全てが大振りともいえる必殺の一撃であり、それで危険だと思ったらすぐに離脱する一撃離脱タイプだ。一撃さえ注意していれば何とかなると思ったがこの二人が連携を組んだらかなりやりずらい。

 

まったく、よくもこんな都合の良い2人が揃ったな。

 

 そう内心焦っていたがそれを顔に出すわけにはいかない。それが顔に出てしまえば関羽ほどの武人ではすぐに付け込まれてしまう。それほどまでの強敵に出会えたことにより、私は自然と高揚していた。

 

「さて、次はこちらから行くぞ!」

 

 私はそう叫ぶと関羽に向かって一直線に踏み込み、関羽の身体に向かって突きを入れる。内氣功で強化されて脚力が私自身の身体を急加速させ、視界の景色が一瞬で変わる。普通の人間から見れば私の姿はブレて見えているだろう。そこまで早くなった私の突きを関羽はほぼ同じスピードで横に躱す。

 

「セイ!」

 

 突きを繰り出した私はそのままさらに踏み込んで関羽との距離を詰めると手を軸にして石突きを振り下ろし、関羽の頭を狙う。そうすると彼女は偃月刀の反り返った切っ先で柔らかく受け止めて逸らした。そして今度は彼女の石突きが私に向かって来るので腰を捻って顔面スレスレでやり過ごす。身体中から冷や汗が出て一瞬の気の迷いが敗北につながることを本能的に理解した。

 

うお!?危ないな。

 

 関羽の一撃を避けるとすぐさま側面から張飛が強烈な横なぎを繰り出してきてそれを今度は思いっきりはじこうとする。だが彼女の一撃はかなり重く、思っていたよりもはじき飛ばすことができずに逆に押し返される。そして体勢を直すとすぐさま再び関羽の連撃が再開される。

 しばらくそれが続くとやはりなのか徐々に私は押され始めるがそれと同時に関羽の動きが酷く乱れ始めた。最初のころとは違う明らかに洗練されていない動きに加え、彼女の偃月刀は怒りが感じられるような荒々しい氣を纏い始めていたからだ。

 私はそのことを気になり一旦彼女たちから大きく距離を開いて対峙すると彼女たちも一旦攻撃をやめた。

 

「おい関雲長、貴様一体何を考えている。いや、何をそんなに怒っている(・・・・・)のだ?」

 

「何?」

 

「?」

 

 訳が分からないような顔で私に聞いてくる彼女は恐らく自分の氣がそんなに乱れているとは思ってもいない。今もなお彼女の氣が乱れているが彼女はそのことを一切気にしていないというよりも気がついていないため、無造作で練ってもいない氣が『意志』も意味もなく無残にただただ虚空へと消えていく。

 

「気がついていなかったのか?貴様の氣が乱れているぞ?」

 

「くっ!」

 

「??」

 

 そして私がそう彼女の指摘してやると今頃気が付いたのか自らの氣をなだめ始める。そうすると彼女の氣が徐々に洗練されていくが最初の頃のような相手を倒すという明白な『意志』は感じられず、なにかに動揺している氣に代わっていた。もはや今の彼女の中では私を倒すことよりも重要なことがあるのだろう。だからこそこの場において何も集中できなくなり、私を倒すという『意志』がなくなってしまった。それどころか何かに怒り、焦っているのではないかと先ほどの手合せからは感じられたほどだ。

 

 氣とはこのような『意志』に反映されやすい。なぜなら氣はその者の一部であるからだ。昔から氣は色々とその者との間に密接な関係がある。闘気や熱気、殺気に怒気、悲しい気がするなど感情が揺れ動いたときによく使われるのがいい例だ。このように氣には感情や『意志』が宿りやすく、それをぶつけ合うことによって分かり合うことができる。特にそれは氣を扱う武人どうしや熱い『想い』を持つ男どうしが多い。

 

 そしてそれを見た瞬間に私の中から熱い高揚感が一気に冷めてしまい、もはや今の彼女との手合せをする必要性さえもない様に感じた。あまりにもその温度差が激しいので私はさっきまで本当に彼女と手合せをしていたのかと錯覚するほどだった。

 

「ハア!!」

 

 氣を練り直した彼女が再び私に偃月刀を振りかぶってくるが私はそれを無造作に横に薙ぎ張らうと偃月刀はいとも簡単に吹き飛ばされ、彼女もまた同じで再び距離をとる。最初の方と比べると彼女の偃月刀はまるで新兵の攻撃みたいに軽く、重みがまったくなかった。

 

「………これ以上は時間の無駄か」

 

 そして冷めてしまった私にはもう彼女と手合せをする必要性が感じられず、そのため構えていた戦斧をおろし、構えを解く。

 

「どういうつもりだ?なぜ構えをとく?」

 

「???」

 

 私の行動の意味もわからないまま彼女は私にそのことを問う。

 

「……『想い』なき者には『意志』は宿らず、か」

 

 『想い』がなければ必然的に『意志』は存在しなくなる。これは私の持論だが『想い』がなければ何をするのにも意味がなく、困難や壁などに立ち向かうための『意志』も生まれない。『想い』こそがその人を揺り動かす原点であり、それを阻もうとするものを排除することやそこを目指すための『意志』が生まれると思っている。たとえば私の場合啄郡を守る『想い』が原点であり、それを邪魔するものはどんな手を使っても排除するという『意志』が生まれた。姉さんの場合だと同じく啄郡を守る『想い』が原点であり、なるべく温厚な手段でその困難な壁を排除する『意志』が生まれたのだと思う。そして劉備の場合は苦しむ人を全て救う『理想』という『想い』が原点であり、話し合って皆で分かり合おうとする『意志』がそこには存在するのだろう。

 

だが今の関羽からはその原点となる『想い』も『意志』も感じられない。

 

 それらのものは彼女の氣からはまったく感じられない。むしろ感じられるには何かに怒り、さらにそこに焦燥感があるという事だけだ。

 

「何だ?」

 

「????」

 

 私の呟いた言葉の意味がわからなかった関羽はさっきからわからずにいる張飛と一緒に首を傾げている。

 

「興ざめだ、終わりしよう」

 

「何だと!?」

 

「?????」

 

 そう言って私は彼女に一礼してから練兵場の入り口に向かう。いきなりの私の行動に関羽も張飛も驚いて何も言えずにいたが、そこでなぜか星が私を呼び止めた。

 

「どこに行くのです?まだ勝負は終わっておりませんよ?」

 

「時間の無駄だ、今のこいつはどうやったって私に勝てはしない」

 

「そんなことはないっ!!」

 

 私がそう言うと関羽は私に向かって吠える。どうやら彼女は自分がどうなっているのかがまったく理解できていないらしい。それと同時に私は思う。

 

何でそんなに怒ってるんだ?

 

「ならば貴様に一つ聞こう」

 

「……何をだ?」

 

「貴様はその刃に何を込める?――――それがわからぬのなら私には一生勝てんぞ?」

 

 そう言って私は関羽に背を向けるが彼女は往生際が悪かった。私が歩き出す前に彼女の手が私の腕をつかみ、私を力づくで振り向かせた。そして振り向いた先には顔を真っ赤にし、肩を震わせて怒っている関羽がいた。

 

「まだ勝負は終わってないぞ!!」

 

「勝負はもうついている。貴様が私の問いに答えられなかった時点でな」

 

「ならばその証拠に私を倒してみよ!」

 

 そう言って再び偃月刀を構えなおした関羽が私の前に立ちはだかった。その身には闘気というよりもただの怒気を纏っている様に見える。そこには明白な『意志』はなく、無暗にただ怒って暴れている子供の様だった。

 

はぁ、私の言葉は意味がなかったか。

 

 落胆にも似たため息をこれ見よがしに関羽に見せつけると彼女の眦がさらに吊り上り、彼女を包む怒気が濃く密度を増す。

 

「時間がもったいないのでな。一撃で終わらせよう」

 

そして私も戦斧を構えて瞑想を始める。

 

 

――――――――『想い』は強く、揺るぎ無く

 

 

 私から生み出される莫大な氣に明白な『想い』を乗せる。そうすると私の氣は徐々に無駄な感情が取り除かれていき、一つの『想い』のみが残される。

 

 

――――――――その『想い』をさらに昇華させ、明白な『意志』をこの場に示せ

 

 

 さらに『想い』を乗せた気が研ぎ澄まされ、強靭な『意志』となってこの練兵場を支配する。関羽の怒気など物ともにせず、彼女の氣を無理やり押さえつけると彼女の氣はまったく抵抗できずに跡形もなく散っていく。

 

 

――――――――その『意志』を刃に乗せ、困難を砕く唯一無二の一撃となせ

 

 

 その研ぎ澄まされた氣を無駄なく戦斧へと集めると風を生み出しながら私を中心に渦を巻き始めた。そうすると氣を纏った刃がまるで宝石の如く薄桃色に光り輝き、何人にも阻むことのできないものとなる。そして辺りを圧していた高密度の氣は一切この場からなくなり、嵐の後のような静寂をこの場に生み出した。

 

「「「ッ!?」」」

 

 私のその様子を見た関羽と張飛、さらには星さえも私のやったことに黙って驚いている。

 

これぞ私の師が教えてくれた最強の技。この技の名はなく、誰もができる可能性を持つが誰にでもきるようなものではない技。

 

 その氣を纏いはっきりとした『意志』を乗せた刃を見て私は師が何時も言っていた口癖を鮮明に思い出していた。私の師はことあるごとにこう言っていたのだ。

 

 

――――――――「己の『意志』を示せ」と

 

 

 今がその時であると私の直感がそう告げる。そして私は半身なって腰を落とし、前足に体重を乗せて一気に床を踏み込んだ。

 

小細工はいらない、ただ私の『意志』を示すのみ!!

 

 ただ愚直に真っ直ぐ関羽に突っ込んでいく。そこには一切の迷いもなく、また一切の後悔もない。あるのはただ私の『意志』を乗せた刃だけ。

 

「くっ!」

 

 関羽が真っ直ぐに突っ込んでくる私を見て顔を苦しそうに歪ませる。そして彼女は向かってくる私を迎撃するために氣を纏った偃月刀を私のがらあきの腹へと振るった。ズドンといういかにも強烈である音が練兵場に響き渡り、彼女の偃月刀は突っ込んだ私の腹に当たったがただそれだけだった。

 

 

一瞬の静寂が辺りを支配した中、私は彼女に向かって口を開く。

 

 

「覚えておけ」

 

 

私の『意志』を乗せた戦斧を大きく振りかぶり―――――

 

 

「戦場で雌雄を決するのは―――己が示す『意志』の強さであるということを」

 

 

唯一無二の私だけの『意志』を振り下ろした。

 

 

 その一撃は無意識に関羽が防御した偃月刀を巻き込みながら大きな氣の爆発を起こし、関羽の後ろの壁ごと吹き飛ばした。地面には大きなクレーターができ、私の正面にあった練兵場の壁はすべて吹き飛んで無骨な壁だけが見える。私の一撃をくらった彼女も瓦礫とともにまるで大型トラックにでも轢かれた様にあっというまに練兵場外まで飛んでいき、城壁にそのままのスピードでぶつかって地面に崩れ落ちた。倒れた彼女にはもはや意識はなく、見てみればあちこちからは結構な量の血が出ていた。見た感じでは骨は折れてはいないがそれでもかなりのダメージがある。

 

これは一週間ぐらい寝込みそうだな。

 

 そしてその場にいた張飛と星も巻き込まれてその場で尻餅をついて茫然としている。何が起こったのかわからない城の警邏達も急いでこの場に来て、私が作りだした惨状を目の当たりし、言葉をなくして唖然としていた。

 

「誰かある!!」

 

「は、はい!」

 

 私がそう呼ぶと近くにいた警邏が何人かすぐさま集まってきた。今だ何が起こったのかわからない彼らの顔を見ると随分と慌てている。

 

「関雲長殿が負傷しているから適当に手当して部屋にでも寝かせておけ。それと練兵場の報告も姉さんにしておいてくれ。それでは後のことは任せる、いいな?」

 

「ハッ!お任せを!!」

 

 そう警邏に指示を出してから私は練兵場を後にした。そして自分の部屋に戻るとすぐさまその場で片足をついて蹲った。その理由は関羽から受けた腹への一撃のせいだ。上着をめくって腹の様子を見るとそこには青々とした大きな痣が残っており、少しだけ触れてみると激痛が走る。

 

「ッ~~~~~~!!」

 

 私のように研ぎ澄まされた一撃ではないにしろ、ただの氣を込めた一撃がここまでの威力を生んだことにかなり驚いた。それと同時に彼女が本当の『意志』を持った時にはどうなるのだろうか、とも思っていた。

 

「くっ、……さすがは軍神と呼ばれるだけはあるか」

 

 そう呟いた後、すぐそばにあった薬箱から薬草を取り出して煎じ、水に混ぜて痣に当てる。かなり痣にしみたが次第に少しだけ痛みが和らいできた。そして私は布団に倒れ込み、そのまま静かに意識を手放した。

 


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