まあ、そのおかげでいろんなことを試すことができたのですが、あまり書き方が変わったとは言えません。
でも、私なりに変えてみたので、何か感想や批評なんかあれば気軽に書いてくれると非常に助かります。
それではお楽しみください。
桃香side
まず始めに空気を切り裂いて矢が飛んできた。初めの場所は隊の前方にいた鈴々ちゃんのところだった。
「はあっ!!」
それにいち早く気が付いた鈴々ちゃんは手に持っていた矛で、左右同時に迫ってくる矢を旋風と供に叩き落とす。
「敵襲なのだ!!」
そう鈴々ちゃんが叫んだ瞬間に森の中から数えきれないほどの矢が私たちを襲う。それによって大盾を構えていなかった兵たちに少なくない犠牲が出始める。
そして隊に兵士さんたちが突如として襲い掛かってきた矢に俄かに浮足立ち、例えどう対応すると決まっていても混乱に陥った。
「全員、盾を構えよ!!弓から身を守れ!!」
そう愛紗ちゃんが指示を出すと、隊の兵士さんたちが持っていた大盾を頭上に構え、飛んでくる矢から自分の身を守り始める。
「桃香様たちを中心にして円陣を組んでください!!」
「「「はっ!!」」」
さらに朱里ちゃんの指示によってすぐさま私とご主人様を中心とした円陣が組まれる。そして四方八方から飛んでくる矢を兵士たちの大盾が数多く受けとめるが、盾と盾の隙間に何本か入り込み、兵士たちを傷つけていく。
「うっ!?力が……」
「体が……」
「く、苦しい」
「どうしたんですか!?」
飛んでくる矢にかすった兵士たちが次々に倒れ込む。致命傷でも何でもないのに急に倒れ込んだ兵士たちに向かって無情にも多くの矢が突き刺さり、その命を確実に奪っていった。
「矢に毒が塗ってあります!!盾と盾の間をなるべく開けない様にしてください!!」
なぜ兵士さんたちが倒れたのか、その理由をすぐさま看破した朱里ちゃんが対応するために指示を出していく。
さすがは仲珪さんが育てた兵士さんたち、朱里ちゃん指示を聞いた兵士さんたちが徐々に混乱から立ち直り始め、陣形を立て直していく。
「大丈夫ですか!?」
目の前で倒れた一人の兵士さんに私が駆け寄ろうとしたところで愛紗ちゃんの背が突如目の前に現れ、無理やり押し返される。
そして私の目の前に突如割り込んできた愛紗ちゃんに向かって狙い澄まされた数十本の矢が飛んできた。
「セアッ!!」
それを全て偃月刀ではじいた愛紗ちゃんだが続けざまに矢が迫ってくる。それも一本や二本ではなく、数十本単位でだ。
「桃香様っ!お下がり下さい!!」
「狙いは桃香様とご主人様です!!」
そう言われて初めて私が狙われていることに気が付いた。
しかし、それに気が付いたとしても今の私にできることは何もなく、ただ目の前で兵士さんたちが倒れていくのを見ていることしかできなかった。
愛紗side
油断していたとは言わないが明らかにこれは私たちが来ることを賊は知っているようだった。それに伏兵も用意していたらしく、今も桃香様に向かって飛んでくる矢を払い落したがまだ続きそうだ。
「桃香様!ご主人様!お怪我はありませんか!?」
「俺と桃香は無事だ。どこも怪我してない」
「でも兵士さんたちが」
そう話している間にも未だにに矢は兵たちに降り注いでいる。
このままでは桃香様たちが危ない。
「桃香様、私たちの後ろにお下がりください」
「けど愛紗ちゃんたちが」
「心配無用です。これぐらいの矢なら簡単に凌げま……」
そう私が桃香様に言おうとした瞬間に微かに遠くから、空気を切り裂いて何かが迫ってくる音が耳に届いた。
その音を聞いた瞬間に私の中の生存本能が危険だとしきりに頭の中で警鐘を鳴らし始める。私はその生存本能にしたがってとっさに手に持っていた偃月刀を私の後頭部に向かって振り上げた。
「ぐっ!?」
それと同時に私の腕にまるで大きな鈍器で殴られたような衝撃が走り、偃月刀に弾かれた矢が大きく逸れて反対側の森の彼方へと消えていく。
氣を纏った矢だと!?
「全員気を付けよ!!
敵の中に手だれが混ざっているぞ!!」
「そちらは大丈夫ですかな?」
私がそう叫ぶといつの間にか桃香様たちを中心とした円陣の中に星が来ていた。
どうやら敵襲があったと聞いた瞬間に桃香様たちのところへ駆けつけてきたようだ。
「ああ、だが完全に囲まれている。
前か後ろを突破はせねばこのまま挟撃されるぞ?」
「それは私たちの軍師殿たちが理解しているようです。
ならば、後のことはあの2人に任せればよい。
私たちはただ目の前の敵に集中するだけですぞ!」
そう言って星は賊に向かって直槍を構えて突貫していった。そして無数の突きの雨を降らし、賊を一人残らず刈り取っていく。
それを視界の隅でとらえていた私は、そのまま後ろの桃香様たちをちらりと振り返って大丈夫かどうかを確認する。今の私の後ろには桃香様たちがいて、その一番奥には星がおり、逆側から飛んでくる矢と賊からご主人様たちを守っていた。
少なくともこの場で桃香様たちが安全であることを確認できただけでも、私の胸の中に少しだけ余裕ができる。
このままいけば耐えれれる。
そしてその後、しばらくの間は矢の雨が続いたが、地面に隙間なく矢が敷き詰められる頃には一本も飛んでこなくなっていた。
だが、そのすぐ後に森の中から完全武装をした賊が現れ、毒で動けなくなった者を見て薄ら笑いを浮かべて迫ってきた。そして動けなくなった兵たちに剣を無造作に振り上げる。
「やめろおお!!」
私の声がむなしく響き渡り、態勢を崩していた一部の兵たちに向かって、賊は奇声にも似た笑い声を挙げながらその手に持っている剣を躊躇なく振り下ろす。
「貴様らああ!!」
私は怒りの衝動のままに陣形の前に飛び出して、数人の賊に偃月刀を振り下ろし、その刃を真っ赤な血で濡らす。
しかし、森のいたるところから出てきた賊は陣形を整える前の兵たちに突撃、至るどころで白兵戦が繰り広げられ始めていた。
すぐさま私たちのあたり一帯が悲鳴と怒号に支配され、空に血の嵐が吹き荒れた。そして再び私たちの前に賊が数十と現れ、陣形を組んでいる兵たちに突撃していく。
それに対して私は退くのでなく、逆にその賊たちの懐に飛び込み、偃月刀を縦横無尽に振るう。私の刃を受けた賊どもは、一瞬のうちに身体を弾き飛ばされ、切り刻まれながら地面にのた打ち回り、死んでいく。
そんな乱戦の中で男たちとは違う、明らかに少女の声が響き渡る。そしてその声はどうやら賊ではなく、私たちに向かっての指示であった。
「急いでこの森から脱出を!!星さんは後方から来る敵を突き破って退路を確保してください!!」
「任されよ!」
しかし、その指示はどうやら賊を殲滅するものではなく、私たちが逃げ出すためのものであるらしい。
だがそれは動けぬ負傷者をこの場に見捨てるという意味であった。
私は自分の無力さゆえに、欠けそうになるほど歯をかみしめる。ガリッと何かが削れたような音がしたが、それでも私の怒りは収まらなかった。
だがここで桃香様たちを失うわけにはいかない!
やむを得ない犠牲、そう私は判断し、賊を斬り飛ばして桃香様たちのところへ駆け戻る。
「前衛の兵士たちは鈴々ちゃんとともに殿をお願いします!!」
「わかったのだ!!みんな、ついてくるのだ!!」
「「「応!!」」」
私が桃香様たちのところへ再び戻ってきた時には、陣形を組み直した鈴々の前衛が追撃に来た賊をその場で受け止める。一方の後衛である星は、兵たちの陣形を魚鱗にし、賊に向かって突っ込んでいった。
「朱里、私はどうすればいい!?」
「愛紗さんはここで桃香様たちの護衛をお願いします!」
「承知した!」
そして私は周囲を警戒しながら、桃香さまたちの護衛に専念する。
そうすると森の中から再び、数本の矢が桃香様たちに向かって放たれた。それも無造作にではなく、全てが桃香様たちのいる場所に集中していた。
「くっ!」
私はそれらを偃月刀で弾き飛ばしていくが、森から飛んでくる四方八方の矢に対して明らかに手数が足りない。
どうやっても桃香様とご主人様を含め、軍師である朱里たちを守りきれるものではなかった。特に身長が高い桃香様とご主人様の二人は、偃月刀を振るうには邪魔であり、立ったままでは守れ切れるわけがなかった。
そう判断した私は悩むことなく、二人に向かって動き出す。
「すみません、桃香様!!ご主人様」
「へっ?」
「あっ?」
そう謝りながら私は桃香様と主人様をを足蹴にして、無理やり地面に倒す。そしてその倒れた桃香様たちの頭上に向かって迫ってくる矢を、身体を軸にして全てを弾き飛ばす。
そんなギリギリの中で再び私はあの空気を切り裂く音を聞く。しかもその音は一本でなく、二本であった。
「ちっ!」
四肢と偃月刀に膨大な氣を纏わせ、迫ってくる2本の矢と私の一撃がぶぶつかり合う。2本ともまとめて弾き飛ばしはしたが、私の体制が少しだけ崩れる。
そしてそれを待っていたかのように、森の中から先ほどの倍の矢が一斉射された。どうやら狙いは桃香様とご主人様のようで、私に向かっては一本も飛んでこない。態勢の崩れた私は無理やり偃月刀を振るい、迫ってくる矢を連撃で弾き飛ばす。
一本、二本、三本………くっ、これでは!
私は途中で矢の本数を数えることをやめ、桃香様たちに当たりそうな必要最低限の矢だけを弾くことに集中する。
弾けなかった矢が桃香様たちの身体スレスレで外れ、地面に突き刺さる。そしてそれを見た朱里たちは悲鳴を上げて頭を抱えてしゃがみこんだ。
「動くな!!」
その場から逃げ出そうとして桃香様たちにそう叫ぶ。そうするとご主人様が桃香様を腕に抱え込み、朱里たちの近くで蹲った。
そして結果的に朱里たちの近くでご主人様が蹲ってくれたおかげで、守る範囲がさっきよりも小さく、一点に集中したため、守れる確率が増えた。
「ハァァァァアアアアアッッッ!!!!」
私は桃香様たち守るために全神経をかけて矢を弾き続ける。その矢を弾いている時間が、まるで数時間にも及ぶとても長い時間に感じられた。
早く終われ!!終わってくれ!!
そう私は祈りながらも、無我夢中で矢を弾き続け、ついに全ての矢から桃香様たちを防ぎきることに成功した。そして今はもう矢が飛んでくる気配はない。ちらりと振り返って桃香様たちの無事を確認し、私は心の中で胸を撫でおろし、安堵する。
桃香様たちに怪我はない、本当に良かった。
そしてそう思っていた瞬間に、この戦場で最も忘れてはいけないことを私は忘れてしまった。
あの空気を切り裂く音が私の耳に届く。
それはこの戦場で幾度なく聞こえ、私が弾き飛ばしたもの。
氣を纏えない者には必殺の一撃。
私がそれに気が付き、慌てて振り向いた先には――――――桃香様に向かっている一本の矢があった。
「しまっ……!」
なぜ私は油断してしまったのか。
なぜ私はそのことを忘れてしまったのか。
忘れてはならないものだと理解していたのに。
この身で実際に感じ、肌に染みて理解したはずなのに。
そんな後悔が私の中を一瞬で駆け抜け、肌身で感じる世界がまるで止まっているかのように停滞する。
それは桃香様に迫っている矢もしかり、そしてそれを黙って見ているしかできない私さえもそうであった。
そんな何もかもが止まっている世界の中で。
私は私自身の全てをかけてでも守るべき
やめてくれ。
やっと出会えたんだ。
何もない私に。
生きる意味を与えてくれた人なんだ。
たとえこの手が届くはずのないことだと頭の中で理解しても、私はこの手を必死に伸ばした。
届け!
届けっ!
「届けぇぇぇえええええええええええっっっっっ!!!!!!」
そう吠えた瞬間に、停滞する世界の中でまるで閃光の様に私は駆け抜けた。
そして私の腕は―――――――
――――――――守るべき
――――――――その身体を弾き飛ばした。
桃香side
私はすぐさま愛紗ちゃんに駆け寄り、その身を泣きながら起こす。
「愛紗ちゃん!愛紗ちゃん!」
そうすると愛紗ちゃんがかすかにうめき声をあげながら少しだけ目を開いた。
「……桃香……様、ご無事っ、ですか?」
「うん、愛紗ちゃんのおかげで大丈夫だよっ!」
「よかった」
そう静かにつぶやいた愛紗ちゃんはゆっくりと目を閉じていく。私は彼女が死んでしまうのではないかと心配するがまだ彼女は荒く、苦しげな息をしている。
「朱理ちゃん、雛里ちゃんっ!どうにかできないの?助けられないの?」
「と、とりあえずここではなにもできません!今はこの包囲を突破しないと」
「……星さんに伝令、早急に敵陣を突破してくださいと」
そうみんなが慌てている中、ご主人様が細長い布をもって愛紗ちゃんに駆け寄った。
「我慢しろよっ!愛紗!」
そう大声で語りかけると、脇に近い二の腕あたりにその長い布をきつく縛りあげ、刺さったままの矢を握りしめた。
「いくぞっ!」
「うっ!」
そう言って一気に刺さっていた矢を引き抜いた。さっきまで矢が刺さっていた傷から止めどなく血が流れていたが、次第にその血は止まっていく。そしてご主人様の懐から出した小さな白い布を傷口に当てて、その上からさらに縛った。
「ご主人様っ!愛紗ちゃんは大丈夫なの?」
「わからない!とりあえず止血はしたけど体に入った毒をどうにかしないと」
そう私たちが戦場で話し合っている間に先陣の星ちゃんが敵陣を突破したらしい。伝令さんが大急ぎでそのことを教えてくれた。
「早く愛紗ちゃんをっ!」
愛紗ちゃんの命がかかっている、そう考えると私はすぐさま兵隊さんたちに指示をだした。
「はあ!!」
「「ッ!?」」
だが私が指示を出すのと、星ちゃんが私の前に突如現れるのは同時だった。そして彼女は私に向かってくる何かをその直槍で大きく弾き飛ばした。
「懲りない奴らですな!」
うんざりしながらも星ちゃんはどんどん飛んでくる毒矢を蒼い氣を纏わせた直槍で弾き飛ばしていく。しだいに彼女の周りには渦を巻くように蒼い氣が舞い、飛んでくるもの全てを薙ぎ払った。
それを見た相手は、星ちゃんに攻撃するのをやめ、仲間に合図をするとすぐさま撤退していった。
そして私たちは星ちゃんを先頭に兵士さんたちに囲まれながら離脱、その後に鈴々ちゃんが続いた。
やっとここから出れた。
そう思っていたところで再び悲劇が私たちを襲ったことを私たちは知らなかった。
+
桃香様をかばって愛紗が矢に撃たれたことを知ったのは鈴々が敵を受け止めている時であった。
「いやぁぁぁぁぁああああああ!!」
すぐにわかったのは桃香様のこの悲鳴であり、そしていやな予感が鈴々の胸いっぱいに広がる。
鈴々がその直感のまま後ろを振り向くと愛紗が地面に倒れ、桃香がそこに駆け寄っているところだった。
愛紗!
鈴々も桃香と同じように愛紗の元へと駆け寄りたかったが、ここから離れる訳にはいかなかった。
それはここが敵をくい止めている殿の場所であったからだ。
初めて黒蓮から教わったことはしっかりと戦場で自分の役割を認識し、それを全力で行うことであった。
そしてそれを理解していなかった愛紗や鈴々の二人に対して黒蓮は口酸っぱく同じことを繰り返し注意してきた。
「自分の役割を忘れるな」
「指揮官ならば自分に与えられた役割のことを理解しろ」
「自分の役割を、責任を絶対に放棄するな」
「いいか?おまえがその役割を放棄したら次に死ぬのはおまえを信じた仲間たちだ。だからこそ役割を果たすようになれ」
なぜ黒蓮が何度もそのことを言っていたか、それを守るべきものが後ろにいることで初めて理解した鈴々は殿という役割を、責任を果たすために歯を食いしばりながらその場で敵をくい止め続けることに集中する。
そしてすぐにも伝令がきた。その内容は敵陣を突破したということで急いでこの場から撤退するということであった。
鈴々が伝令を受け取っている頃、星の部隊を先頭に徐々に部隊が離脱し始める。負傷した愛紗をつれて桃香達も同じようにこの場からゆっくりと離脱し始めている。
鈴々もゆっくりとその場から後退し、桃香達が挟撃から離脱しかけたところで賊の頭領が最後の攻撃を仕掛けてきた。
「逃がすかよ!おまえ等っ、突撃だ!」
「「「おっしゃああ!!」」」
そして殿の鈴々達と賊が共に最後の戦闘に入った。
「耐えるのだ!ここを凌げば生き残れるのだっ!」
「「「応っ!!」」」
賊の突撃に対して、流れるように盾を構えた鈴々の殿部隊が、敵の攻撃をしっかりと受け止める。
普通の兵ならば、この危機的状況でここまで落ち着いた動きをとれる訳がない。
だがここにいる兵は普通ではなかった。なぜならここの兵は心底桃香たちに心酔し、少しでもその力になりたいと思って黒蓮の地獄のような訓練に耐えてきた猛者たちであるからだ。
それに加え、ここ数ヶ月の間ずっと彼らは愛紗と鈴々と共に苦楽を共にしており、もはや仲間意識すら芽生えていた。
彼らはもう愛紗たちの精鋭部隊となっており、経験不足は否めないがそれでも新兵や賊とは比べ物にならないくらいに精強であった。
乱れることなく敵の猛攻を凌ぎ続けていた殿部隊だが、賊の頭領が攻撃に参加したことで中央の兵が押され始める。
「おらぁあ!正規兵ってーのはこんなものか!!」
そう叫びながら頭領は手に持った大きな朴刀をふるう。一部の兵がその頭領の攻撃で倒れ始めた。
このままでは持たない、そう鈴々の直感が告げる。それになによりも鈴々は武人であり、強き者に勝負を挑まないことも、兵達を見捨てるようなこともできなかった。
そのことが鈴々の足を自然と前に進ませた。
そして大きく振り落とした朴刀を矛で受け止め、逆に反撃を繰り出す。それを紙一重で受け止めた頭領は冷や汗をかきながらその一撃を放った鈴々を見据えた。
「ちぃっ!やるな!ちび!!」
「ちびじゃないのだ!張翼徳なのだ!」
互いに距離をとって得物を構え直す。
そして再びぶつかりあおうとした瞬間にそれはやってきた。
愛紗に致命傷を負わせ、数多くの兵達の命を奪ったそれが再び鈴々達に牙を向く。
まさか鈴々達は誘い込まれた!?
そう感じてチラリと賊の方を見るとなぜか賊にも同じように矢の雨が降り注ぎ、賊の頭が一本の強烈な矢によって頭を貫かれていた。
「これは一体どうゆうことなのだ!?」
すぐに賊も兵たちも混乱に陥り、戦場が敵味方問わず混沌の坩堝と化すとかす。
そこにはさっきまでの敵味方が戦っている光景はなく、ただ矢に射ぬかれ、苦しんだうえに死んでいった賊と兵の死体が無造作に転がっていた。
「なっ……!?」
その光景に思わず鈴々は言葉をなくす。この矢を射てるのは賊の味方のはずなのに。しかもここには賊の頭領さえもいたのに全くそのことを考慮していない攻撃。
そのありえないことに半ば呆然としていた鈴々の後ろから一つの影が忍び寄っていた。そしてその一瞬の隙が背後から音もなく近づいてきた一人の鴉に攻撃の好機を与えてしまった。
「ぐっ!?」
鴉の短剣が微かな反応しかできなかった鈴々の足にかする。
その鴉は刃がかすったことを確認すると一目さんに戦線から離脱し、森の中へと消えていく。
その後、すぐさま桃香達討伐隊は敵を突破し、近くの邑へと身を寄せることにした。
そしてその移動の途中、鈴々はさっきのことを思い出していた。
「あれはなんなんだったのだ?」
そう鈴々がつぶやいた矢先に彼女の視界がわずかにぶれる。戦場から時間が経つにつれてその頻度が多くなっていたが彼女は気にはしていなかった。なぜなら愛紗が毒で苦しんでいたからだ。
だが次に体が徐々に重くなっていき、まるで自分の体が自分の体ではない用に感じた。
「隊長?」
その様子に気がついた生き残り兵がそう聞くが鈴々はなにも答えない。
否、答えられなかった。
そしてそのまま鈴々はその場に崩れ落ちる。
「隊長っ!!」
倒れ込んだ鈴々を近くにいた兵が抱き起こす。しかし、彼女の腕や足には力がなく、顔も青白くなって息も乱れていた。
「誰かっ!!このことを劉備様へ!!」
集まっていた兵の一人がすぐに劉備たちの元へと走っていく。
そのことが撤退していた桃香達の届いた時にはもう鈴々の意識は途切れ途切れになっていた。
+
桃香side
私たちが愛紗ちゃんを運び出して近くの邑に向かっていた。
「愛紗ちゃん!大丈夫だから、もうすぐつくからね」
そう言うと愛紗ちゃんは苦しげに頷いた。しかしその顔色は悪く、息もかなり乱れていた。
「朱里ちゃん、愛紗ちゃんは大丈夫なの?」
「わかりません。解毒の草は一応飲んでもらいましたが効くかどうかは……」
「そう……なんだ」
そう苦しむ愛紗ちゃんを見ながら私はつぶやく。
そして心配そうに私達が愛紗ちゃんのことを見ているとにわかに後ろの方が騒がしくなってきた。
何かあったのかな?
私や朱里ちゃんが後ろの様子を伺ってると一人の兵が大急ぎで私のもとまでやってきた。
「た、大変です!」
「どうしたの?なにかあった?」
「た、隊長が、翼徳隊長が倒れました!!」
そう私達に告げた瞬間、私は鈴々ちゃんの所へと無意識に走り出していた。
鈴々ちゃん。
鈴々ちゃんっ!!
焦る気持ちが私の足を自然と早くする。そうしている間にも私の心の中では後悔と罪悪感でいっぱいになり、今にもあふれ出しそうだった。
私の選択が愛紗ちゃんを苦しめた。
私が選択しなければ愛紗ちゃんが傷つくことはなかった。
鈴々ちゃんも巻き込まれなかったはず。
そして多くの兵たちを殺してしまった。
そのことが私のことを責め立てる。私の浅はかな行動がみんなを殺した、と。
そして私が鈴々ちゃんが倒れた所まで到達する。鈴々ちゃんは愛紗ちゃんと同じように顔を真っ青にして苦しそうにしていた。
「鈴々ちゃんっ!鈴々ちゃんっ!!」
私がそう叫んでも鈴々ちゃんは苦しそうにうめくだけで、いつものように元気に返事を返してくれはしなかった。
「「「鈴々っ!」」」
倒れている鈴々の姿を見た朱里ちゃんは、すぐさま同じような症状の愛紗ちゃんに飲ませた解毒薬を鈴々ちゃんに飲ませ始める。
「こんなものしかないです、けど……なにもしないよりは、いいと思います」
「そうだね、雛里ちゃん。後は愛紗ちゃんたちの生きる力を私は信じるよ」
「そうだな、俺も信じる」
「私もです」
そうしてる間に近くの村に到着し、愛紗ちゃん達を無理に借りた家に運びこんだ。
+
???
「ここの邑にはやけに兵士たちがいるな」
「そうねぇ~、いい男が沢山るわ」
「そうだぞ!選び放題だな」
「「はっはっはっ」」
見知らぬ男たち三人が桃香たちのいる小さな邑へとやってきていた。
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あと誤字脱字や語彙の少ない作者なので教えて下さったら非常に助かります。