真・恋姫で地味ヒロインの妹してます   作:千仭

18 / 28
リアルが片付いて最近執筆を再開させました。

何かよく道筋が違うような気もしないようでするようで……。

まあ、気にせずに楽しんでくれたらいいと思います。


現状把握

朱里side

 

討伐の件で謹慎を言い渡された私と雛里ちゃんは大きな書庫に入り浸り、この啄郡のことを調べていた。私たちは部屋の隅に置かれた大きな机で様々な資料の書物を読み漁って、この啄郡の内情などを探っている最中である。

 

「今回の暗殺……やっぱり公孫家の誰かが行ったと思う」

 

その言葉を聞いた雛里ちゃんも同様に思ったのか、コクと頷いて私の意見を肯定した。

 

「……白蓮様は、たぶん今回の件に関わってない、と思う」

 

真っ先に頭に浮かんだのが白蓮ちゃんの妹である仲珪様であった。確かに白蓮様はこのような汚く、暗殺のような卑怯なやり方は好まないはず。それは長年の付き合いの桃香様の話から確信できる。ならばそのような手段を平気で使うのは誰であろうか。今のところ仲珪様しか考えられない。あの人なら公孫家に仇為す者をどんな手を使っても排除しようとするだろう。

 

「それって仲珪様のこと?」

 

「……うん」

 

もしくはその地位に近い公孫家の上層部だ。会う機会なかったことから今のところ疑うべきなのは仲珪様だが、何も証拠がないため、確信はできない。

 

「そうなると残るは公孫家の中心である仲珪様とその同僚の方々が怪しいね」

 

「……あれだけの暗殺者と物資を集められるのは、限られる」

 

今回の賊の物資の量から推測すると、賊は普通の賊よりも装備も物資もありえないほど整っていた。それに加え、あの数の暗殺者を雇えるほどの資金力のある人は必然的にこの啄郡では限られる。

 

つまりそれは啄郡太守、公孫伯珪が率いる幽州最大の軍団を持っている公孫家に他ならない。

 

思い返してみれば、矢の本数も賊が身につけていた装備も賊とは思えないほど整っていた。あれほどの矢の本数、装備となるとそれなりの資金も必要だし、それらを見つからずに動かすことのできるのは権力者しかいない。さらにそこに腕利きの暗殺者をも雇える伝手を持っているのだ、かなりの地位の者だろう。例えばその公孫家の中でも仲珪様なんてその役職柄、色んなことに重宝していそうだ。

 

「だけどもしかしたら外部勢力からの介入かもしれないし……」

 

最近では公孫家の名は幽州でよく聞くようになった。それは白蓮様たちが黄巾賊を完膚なきまでに殲滅したからであり、仲珪様自身も大きな武名を上げたからだ。そのため、白蓮様たちを妬む者、台頭してきた公孫家が邪魔だと判断した者、仲珪様の武名を恐れる者など、考えればきりがない。

 

「……でもそれはない、と思うけど」

 

そう、だけど今回の件に関してはその可能性は低い。

 

外部の勢力が白蓮様のことを恐れて今回の事を起こしたのであれば、公孫家の勢力を削りにきたのに私たちが巻き込まれただけで、公孫家は全くとは言わないけれど関係はない。

 

ではなぜ今回はその可能性が低いのか、その理由はいくつかある。

 

まずは賊の規模と本拠地の場所だ、私たちが今回討伐に赴いた賊はその規模、練度、装備、本拠地の場所と本来ではありえないぐらいに整っていた。どう判断しても討伐軍を迎え討つために準備していたのは確実だったと思う。

 

また仲珪様から渡された竹簡の情報とも全く異なり、実際はその数の倍以上いた。普段から賊の討伐を行っている仲珪様がそんな初歩的な間違いするわけはないし、第一にこの場所は啄県から少ししか離れていない。だから仲珪様がこの賊をこの規模にまで大きくなるのを黙って見逃すわけはない。

 

ならば考えられることは……

 

1.他勢力の間者が偽りの情報を公孫家に流したのか

2.仲珪様と上層部がわざとその規模になるまで放っておいたか

3.上層部の人がその情報を偽らせ、仲珪様に報告したのか

 

の三つだ。

 

一つ目は公孫家と敵対している間者が途中で伝令や斥候を襲い、本当の情報とすり替えて誘き出し、公孫家の戦力を削りにきた場合である。そのため、本来討伐に向かうはずであった仲珪様やその他の将兵たちを討伐で森にまで誘い出し、暗殺する予定であったと考えられる。これならば地方の豪族や外部勢力の力を借りて賊は全てを整えられる。しかし、それほどの物資や賊の移動、ましてや軍部に他勢力の間者の侵入を許すなど、あの仲珪様が見逃すはずがない。ということは今回のことは外部の可能性という線はないだろう。

 

残る二つは明らかに私たちを暗殺するためにわざと仲珪様や上層部が賊を放っておいた場合である。今回の賊が伏兵を使ってきたのも、装備や物資が整っていた理由もわかる。しかも有利になる地形と戦術を教えるだけではなく、装備を渡し、物資を整え、私たちの情報までも流しておき、さらには暗殺者を雇って露骨に桃香様のことを狙うという用意周到ぶり。こちらの線の方がよほど可能性は高い。

 

そしてなぜ桃香様が狙われたのかだがそれは現在の啄郡の内情がそのことに関係していると思う。

 

現在の啄郡の内情は大雑把にいうと、三種類に分けられる。第一の勢力は言わずもがな、公孫家よりの商人や民、一部の豪族たちだ。彼らは公孫家を支持していて、公孫家も彼らを優遇している。そのため、ほとんどの人たちがこの勢力になっており、公孫家に権力が集まって安定している。

 

第二の勢力は中立派の人たちでこの勢力はあまりいない。公孫家の統治になじめなかったり、単に公孫家を支持していなかったりという人たちだが、今のところ反旗を翻す予兆も何もないので白蓮様たちに放っておかれている。

 

そして第三の勢力は桃香様たちの勢力だ。最近になって人気が出てきた新興勢力でこの動きはおそらく公孫家の上層部も警戒し始めているのだろう。また、表向きは公孫家に従っているが反公孫家の感情を持つ地方の豪族たちがこの勢力に合流したため、それなりの大きさになっている。

 

「……桃香様の勢力が、最近増え始めてる、よね」

 

「うん、商人さんたちや地方の豪族さんたちも私たちを支持してくれるし」

 

そう、この桃香様の勢力の大きさが問題であった。特に合流してきた啄郡の豪族たちがその問題の原因である。先日も桃香様の思想が素晴らしいといって話し合った豪族もいた。でもあの豪族たちの狙いは違うだろう。あの眼は素直に桃香様の『理想』を称賛してはいなかった。むしろ目の奥では馬鹿にさえしていたように思える。桃香様はそれがわかっていたのかは知らないけれど、愛紗さんにご主人様は彼らが桃香様を利用しようとしていることに気が付いて顔をしかめていた。

 

「……でも、あの人たちの目的は違う」

 

「うん、わかってるよ、雛里ちゃん。豪族たちの狙いはおそらく公孫勢力を少しでも削って、桃香様を祀り上げること」

 

「……うん、そしてあわよくば白蓮様たちと内部分裂をさせて、啄郡を乗っ取ること、だと思う」

 

豪族たちの狙いはそういうことだった。仮にも桃香様は劉姓を持っている自称劉氏の血筋である。それを彼らが利用しない手はないし、今の幽州牧は宗室の劉虞様である。もしかしたら同族として支援や大きな権限を与えられるかもしれないし、自称だとしても劉氏の血筋は知らない人ならば権力の象徴になる。そのため、既得権益を守ろうとする豪族には願ってもない権力だろう。

 

桃香様を反公孫家の筆頭として祀り上げる、それは公孫家に喧嘩を売っていることと同じだ。しかも本拠地であるここ啄県ですれば公孫家に矛を向けているのと同じで、十分に狙われる理由にもなる

 

ではなぜこんなにも地方の豪族が反公孫家であるのだろうか、それは公孫家が数年前に取ったある政策が豪族たちの既得権益を侵したからであった。彼らの話を聞いたところ、数年前にここ啄郡では白蓮様を筆頭に彼らの既得権益である大土地所有を禁止したそうだ。そのため、大規模な豪族たちの反乱が起こったのだが、それらの全てを仲珪様が軍を率いて鎮圧。反乱を起こした豪族たちは公孫家が後の禍根を恐れ、徹底的に追撃し、一族を全て根絶やしにしたらしい。

 

そして豪族のいなくなった土地を啄郡が管理するとして没収、今では豪族の荘園にいた農奴や逃げてきた難民に貸し与えているというが、実質それは嘘で重税などで私腹を肥やしていると言う。

 

前半はさておき、後半の内容は全くのでたらめだろう。そんな馬鹿な話があるか。豪族たちの話を聞いた瞬間、私はそう思った。

なぜなら白蓮様が、なにより仲珪様がそんなことをする訳がなく、むしろ私腹を肥やしていたのは反乱を起こした豪族たちだろと反論したかったほどだ。

 

そして彼らの屋敷を調査した結果は城下の噂になるほど豪族たちの賄賂や汚職の証拠がこれでもか、というほど出てきたらしい。今ではその汚職などがほとんどなく、それは新しい太守様が法を厳しくし、罪を犯した者は必ず罰すると公表してそれを厳守させているからだと女官さんや文官さんたちに聞いた。

 

話の聞く限りでは公孫家の勢力は盤石だ。それを内部から切り崩そうとするなんてバカのやることだと思うし、捨て駒なのは目に見えてる。

 

「そんなことは絶対にさせない」

 

「……うん、桃香様に言っておかないと」

 

だからこそ、私は桃香様に豪族たちの手を取ってはいけないと言わなければならない。

 

利用されるだけされて捨てられるなんてことを許してはいけない。桃香様の『理想』をこんなことで終わらせるわけには絶対にいかない。

 

そう決心しながら雛里ちゃんを見ると、彼女も同じことを思っていたのか、私の眼を見て力強く頷いた。

 

「とりあえず接触してきた豪族を仲珪様に報告しなくちゃね」

 

「……うん、そうだね」

 

後は仲珪様が勝手に片づけてくれるだろう。そしてそのことで恩を売っておけば、少なくとも今後は桃香様が暗殺されるようなことは起きないはず。なぜなら、公孫家側は反抗勢力の炙りだしと殲滅のために私たちを利用しようとするからだ。

 

利用価値があるうちは桃香様たちを殺すようなことはしないはず、仲珪様なら特にそう考えるだろう。あの人は目的のためならとりうる手段は全部取るし、使えるものは何でも使うように思える。

 

それが正しいとか間違っているとかなんてわからない、だけど……それよりも私は仲珪様がその手段をためらいなく使うことがよくわかる。

 

非道だとか間違っているとか桃香様たちに言われるかもしれない。そんなことをしなくてもちゃんとわかってもらえる、とか言って私たちに手を汚させないようにしてくれると思う。

 

それは正直とてもうれしいし、そんな手段を取る必要がないなら私は取りたくはない。

 

でも私もそうしなければいけないのならためらいなくその手を使うだろう。特に大切な人が傷つくのならばなおさらためらう必要はない。特にこれから桃香様が功をいくつも上げ、活躍すればするほどその必要が出てくるだろう。

 

なぜなら権力者には表にも裏にも常に敵が存在するからだ。

 

しかも味方だと思っていた人が裏切るかもしれないし、敵も真正面から仕掛けてくるとは限らない。色んな人を利用してくるかもしれない、私たちも利用するかもしれない。そこに感情は必要なく、そうした方が効率的だから、正規のやり方では不可能だからやる。今の桃香様が公孫家に利用されるように。

 

 

政治とは感情的になってはいけなく、理性的に判断しなければならない。

 

 

そう水鏡先生に教えられた。そのことを私は理解した気がしていた。でもそれは間違っていたと思う。知識として知っていただけで、本当に理解していなかった。

 

善悪など関係ない、それが必要だからやる。

 

自分の周りに初めて影響が出た時、そのことを本当に理解できた瞬間だったかもしれない。公孫家もそれが必要だからやった、ただそれだけの事なのだろう。そして私も公孫家の手段を否定はしない、むしろ肯定する。

 

だけどそれを桃香様たちにやらせるわけにはいかない。あんな綺麗な『理想』を持っている桃香様は特に、だ。桃香様が成長してそれを割り切れるようになったら話は別だが。

 

でも今のままでは絶対にさせてはいけない。

 

だからそれらのことは代わりに私たちがする。

 

それが今できることだから。

 




誤字脱字等ありましたらお気軽に書いてください。

よろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。