真・恋姫で地味ヒロインの妹してます   作:千仭

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忙しい中、少しづつ書いていたのがやっと終わりました。

まだまだ新米の私の作品を読んでいただき、ありがとうございます。

誤字脱字の多い作者の作品ですが、楽しんでいただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。


黄巾討伐遠征前

目の前の机には前と同じように姉さんを中央とした啄郡の上層部が集まっていた。

 

どうしてここに集まったか、それを知るものは私と姉さんしかいない。だがここにいる誰もが薄々ただ事ではないことを気づいており、堅苦しい重い空気がこの部屋を覆っていた。

 

その重々しい空気の中で私の口があることを告げる。

 

黄巾賊本隊の討伐命令が下った、と。

 

「ついに来たか……」

 

「そのようね」

 

姉さんと青怜が私の言葉についに来たと言わんばかりに頷いた。

 

「張角を筆頭にした張三兄弟が翼州に黄巾賊全隊を召集、その数は十万以上に上るらしい」

 

私がその情報を出すと、姉さんを含めた首脳陣はうひゃ~、と言うような声でその数に驚いていた。

 

「これに対し、何大将軍は各諸侯に馳せ参じよ、と命令。その中には私たちも入っている」

 

「他の参戦諸侯は?」

 

「中央で名高い曹孟徳、四世三公の名門袁本初とその親縁の袁公路、江東の孫伯符、その他大勢だな」

 

私は心の中で黄巾賊討伐で集まる諸侯の名を思い出しながら、その勢力の充実っぷりに驚きを隠せはできなかった。

 

まずは曹孟徳率いる精強な軍団。その配下には猛将の夏侯惇に弓の達人の夏侯淵、軍師の荀彧に干禁、李典、楽進のトリオ等なども今の感じじゃ合流しているだろう。魏軍は戦力、武将、軍師ともに充実しているといえるだろう。

 

次に四世三公の袁本初の陣営。この集まった諸侯の中でも一位、二位を争う大兵力を持ち、資金も充実している軍団。ただ曹孟徳と比べると将軍が文醜と顔良しかいないので指揮面での穴が目立つ。

 

同じ名門の袁公路は雑魚の寄せ集まりだが大兵力を持つ軍団。数だけは多いが、それを指揮する人間は普通と言われている張勲だけしかいない。数だけが取り柄の黄巾賊に似ている軍隊だ。

 

そして最後に江東の孫家である孫伯符が率いる軍団である。今は袁公路の下についてはいるが、その配下には曹孟徳に劣らない者たちが集まっている。老将の黄蓋に知略の周瑜、妹の孫権、元水賊の甘寧、護衛の周泰、軍師たる陸遜などこれもまた精強な兵と将軍に軍師が揃っている。

 

その顔ぶれを聞いただけで黄巾賊に対し、哀れと思ってもしかたがないだろう。後の英雄たちが挙って今回の黄巾賊討伐に乗り出しているのだ、即死に近いとだけ言っておきたい。

 

「これだけの顔ぶれが集まるなんてなんて豪華なのかしら」

 

と郁が姉さんを見る。

 

「だな、うちもこれぐらい充実していればどれだけ楽なのか」

 

そして私も同じように姉さんを見た。

 

「早く優秀な文官も入れてほしいですね。切実に」

 

文官頭の小依も姉さんを見る。

 

「武官もほしいな」

 

北の守りの青玲もじぃと見た。

 

「………………」

 

姉さんの副将である絃央でさえも無言で自分の主人を見ていた。

 

「「「「………………」」」」

 

全員の意味ありげな視線が姉さんに集まる。

 

「……何だよ」

 

「「「「いえ、なにも」」」」

 

姉さんが少し憤然とした顔でそう言うと、私を含めた全員が視線を逸らす。

 

「でも、この兵力はな……」

 

「ああ、袁公路の兵を除けば、今の官軍に揃えられまい」

 

「そのようね」

 

「小勢力とは言えど資金や人材が私たちよりも充実しているところがいくつかありますね」

 

文官頭である小依の意味ありげな発言により、再び姉さんに視線が集まる。

 

「…………だから何だよ」

 

「「「「いえいえ、なにも」」」」

 

またもや姉さんは憤然とした様子で答える。

 

「小依、遠征費はどうにかなるか?」

 

「ええ、大丈夫です」

 

「黒蓮、兵たちの準備は?」

 

「いつでもいける」

 

「青怜、北はどうだ?」

 

「問題はないわ」

 

姉さんが一人一人に確認をとりながら一つずつうんうんと頷いていく。

 

「ふむ……」

 

どうやら遠征にあたってなにかがあるわけではないらしく、問題なく遠征にいけそうだ。

 

「それじゃ、すぐにでも出兵準備を」

 

「わかった」

 

姉さんの命令に私は頷き、武官を呼び出して遠征準備をさせることを指示し、それを聞いた武官が急ぎ足で部屋を出ていった。

 

「それにしても今回は戦費が大きいですね」

 

部屋の中がきりよく小休止のような雰囲気になったところで、小依が愚痴のようにその場の全員に聞こえるように呟いた。

 

「世も世だ、防衛のために戦費が重なるのは仕方がないだろう」

 

「北の動きも監視しなくちゃならないしね」

 

「困ったものね(にこにこ)」

 

それに続くように私や青怜、郁が談話を始める。

 

その他愛もない雑談の中でふと小依があることを口にしたことで、部屋の中の空気が一変し、再び重々しい空気になった。

 

「そう言えば例の件ですが……武官の様子はどうなのですか?黒蓮様」

 

「前よりは悪くはない、兵も武官もそのことよりも黄巾との戦準備に忙しいからな」

 

「では何も問題はないと?」

 

「問題が無いわけではない。ただ、あいつ等のことが今は眼にも入らないだけだ。だが、遠征が終わればまた再燃する可能性は高い」

 

そう、今はそんなに衝突が起こっているわけではない。なぜなら私たちが大規模な戦の準備しているからであった。

 

本来なら任務についている兵たちが、その任務を放り投げてこの啄県に集まっているのだ。何かあることを気がつかない訳がない。

 

特に北の守りについている青怜直属の軍団までもがここにいるのだから、将兵たちも簡単に予想ができる。ましてや他の軍団との連携演習や訓練が何回も繰り返されているから戦が近いことに将兵たちは戦意と練度を上げている最中なのだ。

 

「文官の方はどうなんだ?小依。まさか問題でもあったのか?」

 

この話題を出してきたからには文官には問題が起こっているのだろう。でなければ遠征前に指揮をを下げるようなこの話題は出すはずはない。

 

「はい、それほど深刻なことは起こってはいませんが……。ただこの忙しい時期に彼女らが好き勝手書庫にいるのが邪魔だと文官たちから苦情が出てきているのです」

 

「なに!?それは禁忌書庫か!?」

 

「いえ、白蓮様が許可を出した書庫ですが、資料を探すのに邪魔であり、かなりの量の書物を持ち出しているらしいのです」

 

「それが文官の邪魔になっていると」

 

まあ、仕事しているすぐ近くで有意義に本を読まれてちゃ頭にくるものな。それに加えて仕事の資料探しでかぶってるんじゃ邪魔だな。

 

おそらくこの啄郡の内情を探っているんだろう。劉備の馬鹿に接触している者も何人かいたし、ちびっ子二人からも報告が何件か来ている。それで見逃してほしいとかなんとか……まぁ、すぐにここからいなくなるんだし、どうでもいいがな。

 

「まあ、それはいいとして……今はまだ私の命令で衝突は起こっていませんが……。ただの謹慎もできない小娘たちはこの際おいておきましょう、我が主は一体あの愚か者共を如何にするのでしょうか?」

 

そのことを小依の低く抑揚のない声が姉さんを容赦なく問い始める。顔はそんなに変わっていないのになんかとても怖い。むしろ無表情なのが彼女の綺麗さに合わさって余計にその怖さに拍車をかけている。

 

その証拠に質問された姉さんは顔を青くしながら大量の冷や汗を額に浮かべている。

 

南無~。

 

と心の中で合掌しているとしどろもに答えだした姉さんに全員の視線が集まった。

 

「えっとな、そのな、その……。桃香たちに一応義勇軍を任せるって伝えてあるから、それと一緒に出ていってもらうことにな、したんだけど……。いいよな?」

 

な、と周りに念押しする姉さんにそこにいた全員が安堵のために胸をなで下ろした。だがその中で小依だけは違う心配もしていたらしい。若干嬉しさの中にため息が出ているという混ざりあった複雑な表情を浮かべていた。

 

というかかなりおこでいらっしゃっている。ここは何も言わない方が得策であろう。私以外の外野も何も口を挟まず、その成り行きを見守ることにする。おこな小依ほど怖いものはないんだ。

 

「百歩譲ってそれはいいでしょう。ですが、義勇軍の兵糧、武器、防具、その他物資は一体誰が負担するのでしょうか?」

 

そして重々しくその口を開いた小依の辛辣な問いに姉さんがまたもやうっ、と気まずそうにうめく。

 

さっきよりも重々しい空気にさらに肌を刺すような寒さが加わった。

 

「まさかそこまで私たちが支援するとおっしゃるつもりでは……ないでしょうね?」

 

「でもな、でもな!桃香たちにはまだ支援してくれる人はいなくてな?私しかいないんだ。頼む」

 

申し訳なさそうに小依に頼み込む姉さんだがどうやら彼女はその頼みを聞いてやる気はないらしい、頑なに首を縦に振らなかった。

 

「それはそれでいいのですが、そういう要望や要請ならばちゃんと私たちに筋を通して本人たちが頼みに来るのが鉄則。

それを白蓮様の友人というだけで用意してもらえるのが当たり前だと思っている彼女らに私は怒っているのです」

 

なるほど、確かにそれはそうだな。だいたいどれくらいの量の兵糧や物資を用意するのかもわからないし、それを用意するのも楽じゃない。義勇軍を任せると姉さんから伝わっているのに何も、感謝しにさえも来ない劉備たちに小依が怒るのも頷ける。

 

「ましてや我が主のご友人という地位に甘え、何でもかんでも用意してもらえるという考えに加えて、感謝しに頭を下げようとしない彼女らに文官の怒りが爆発することも考えられます。第一、そのような礼儀知らずの小娘に私を含めたほとんどの文官は彼女らのために物資などを用意したくはありません!」

 

ごもっとも、劉備の馬鹿は姉さんに感謝すればいいと思っているだけの愚か者だな。ちゃんとその下にいる者に感謝するどころか、会いにすらいってないなんて……あまりの常識のなさに脱帽した。まあ、ただの貧しい暮らしから出てきた彼女の非常識さは今に始まったことではないが。

 

小さい手のひらをパシパシッ!と机に叩きつけながら姉さんに不満をぶちまける小依に、私たちは口を挟まず、戦々恐々しながらその成り行きを見守った。なぜなら特に軍備で多大なる負担を強いている小依がいつ私たちに怒りの矛先を変えるわからないからだ、藪の蛇はつつかない方が身のためである。

 

「それに何ですか!あの使途不明金は!必要ならちゃんと私におっしゃってくれとあれほど注意したのにも関わらず、勝手に財源をお使いになって(パシパシパシッ!)」

 

「あ、うん、その、あの………すいませんでした」

 

「謝ればいいってものではありませんっ!!(パシパシパシパシッ!)」

 

馬鹿たちのことから今度は財源のことに話が移り変わる。小依は啄郡のありとあらゆる財政を管理している。だからこそ、私たちに倹約させ、一切の無駄金を使わせないように要求もとい、命令してくる。

 

そして無駄に使ったことがばれれば今の姉さんのように長々と説教された後、山のような仕事が待っていることになるのだ。

 

あれはこの世の地獄だと思った、とだけ言っておこう。

 

「そもそも削れる箇所はできるだけ削るというお約束はどうしたのですか!?どうしてあんなに遠回りなことをするのですか!!(パシパシパシパシパシッ!!)」

 

「それはだな、いや……それが私なりのやり方でな」

 

「言い訳は聞きませんよ?(バシッ!!)」

 

「……はい」

 

端からみればただの小さい女の子が怒っているだけだが、その内容は常人には理解できないものである。

 

そして小依の机をたたく音が軽い音から重い音へと変わった。

 

すなわち、完全にブチ切れ状態に移行した訳である。こうなると小依を止められる者は私を含めて啄郡には存在しない。しかも、こうなった彼女は狙いを一人に絞るのではなく、目に入った者すべてを標的にし、床に正座させて説教し始める。…………身分や役職など関係なく、地位が高い者ほどその説教時間は長い。

 

そして、気がついたら辺り一面に高官たちが有無も言わさず正座にさせられ、まるで悪夢のような光景が出来上がっているのである。さらにその説教時間は朝から夜まで一日中行われるようになるのだ。

 

これを啄郡では少なからずある苦行の内の一つとされており、これを経験した者は文官、武官問わず小依に逆らわないことを心の中で誓う。

 

さて、そんなことよりも……。

 

(おい、小依が爆発したぞ)

 

(わかってるわよ!)

 

(どうしましょうか?)

 

(私は速やかな撤退を進言する)

 

((賛成))

 

この間わずか1秒に満たないアイコンタクト緊急会議で速やかなる撤退が決まり、私たちは小依と姉さんを後目に静かに、ゆっくりと扉へ向かう。

 

一歩、二歩、後もう少し……!?

 

そう私が思った瞬間、目の前に茶が入った湯呑みが猛スピードで飛んできて、壁に当たり、無惨にも粉々に砕け散った。

 

その砕け散った湯呑みが少し先の自分と重なって見えたのは気のせいだったのだろうか。

 

「……どこに行くのですか?お三方」

 

どこまでも低く、冷たく凍った声が私たちの耳に聞こえてくる。もちろん目線は一切姉さんから離すことなく、睨み付けたままであった。

 

どうやら全く持って気のせいではないらしい。

 

「いや、私は出陣の準備を」

 

「私も同じく」

 

「私はまだ仕事が残っているので」

 

それを聞いた小依の目が細くこれでもかというほど鋭くなっていく。

 

「……それは部下の方にお任せすればよいのでは?」

 

「あの、その、だかな」

 

私が逃れるための言葉を口にしようとしたところ、有無を言わさない氷結の目が私のことを容赦なく貫いた。

 

「………………(ジロ)」

 

「おっしゃる通りで」

 

私が屈したことに罪はないはずだ。これならば私だけではなく、この場にいる誰もがそうするだろう。

 

怒った小依は逆鱗に触れた龍のごとく怖いんだから。

 

「そ、それじゃ、私は行くわね」

 

「ええ、私も」

 

そう言って私を残して出ていこうとする二人を再びブリザードの目が貫き、青怜とふみの身体をその視線だけで凍らせた。

 

「……もう一度、言いましょうか?」

 

「「申し訳ございませんでした」」

 

すぐさま謝った二人は、私のすぐ隣で土下座を決めている。

 

そして残った姉さんを私たちの隣に移動させると、長々と説教を始めたのだった。

 

++++

 

劉備Side

 

私たちがいつものように練兵場で義勇軍の鍛錬をしている愛紗ちゃんと鈴々ちゃん、星ちゃんのことをご主人様、朱里ちゃん、雛里ちゃんと近くで見学していたら、城内が急に慌ただしくなり始めた。

 

「どうかしたのかな?」

 

私がそう呟くと、鍛錬をしていた三人がこちらにくると同時に朱里ちゃんたちが情報を得るために近くの衛兵に話を聞きに行っていた。

 

そしてすぐさま朱里ちゃんたちが大慌てでこちらに走ってやってくる。

 

「何かあったの?」

 

「伯珪様たちから義勇軍の遠征準備をしろ、とのことです!!」

 

「えっ!?」

 

私はそのこと聞いた瞬間に声を上げて驚いてしまった。

 

「どうして?啄郡一帯にはもう賊はいないはずなのに……」

 

とりあえず白蓮ちゃんからは大きな戦があるかもしれないから、前集めた義勇軍はそのまま桃香たちが管理しろと言われた。さらに何かあるかもしれないから戦力の増強しろとも言われていたので、今は義勇軍の兵たちを募集している最中でもあり、日に日にその数は増えている。詳しく二人から聞くと、募集を取りやめ、出陣準備をさせろとことだった。

 

「わかりません、ですが義勇軍だけではなく、全軍とのことです。そうなるとこの啄県にいるのは公孫家の中心部隊のはず。それを全て遠征準備をさせるとなるとただ事ではありません」

 

「確かにただ事ではありませんな、公孫家の精鋭部隊の全てを、北の守りをしているはずの子則殿の部隊まで連れていくことになるとは……。白蓮殿たちも本気でしょう」

 

白蓮ちゃんの本気と星ちゃんから聞かされた瞬間、再びあの黄巾賊討伐戦の光景が思い浮かんでくる。

 

あの最悪な光景が再び……。

 

そう思った瞬間、私の心の中では、まず白蓮ちゃんと話し合わなければとその足を執務室に向けていた。

 

「白蓮ちゃんと話してくる」

 

「俺たちも行くよ、桃香」

 

そう言って私と一緒にご主人様たちが白蓮ちゃんのところへと向かってくれる。

 

そう思ったら段々心強くなり、ご主人様たちがいれば何とかなるような気がしてきた。

 

そして心強い仲間とともに白蓮ちゃんたちのいる本殿へと入ろうと入り口の扉まできた瞬間、衛兵たち槍を交差させ、私たちの前へと立ちふさがった。

 

「どいてください」

 

「それは許可できません」

 

「なぜですか?」

 

「仲珪様が劉備殿たちは邪魔だから入れるなとの御命令です」

 

劉備たちがこのことを聞いて白蓮のところにくるのは明白であったため、黒蓮が先んじて本殿の立ち入りを禁止したのである。

 

それは劉備のめんどうくさい理想とやらの話を聞くのは時間の無駄であり、出陣が遅れる訳にはいかなかったからであった。

 

「それは私も?」

 

「はい、子龍殿も同様です」

 

それを聞いた星ちゃんだが、やはり妹さんによって立ち入りが禁止されていた。

 

「これは仕方ありませんな、白蓮殿が呼びにくるまで大人しく待っていたほうが良さそうです」

 

「でも……」

 

なおも私が食い下がろうとしたところで朱里ちゃんが私の袖をクイと引いてきた。そして耳を指さしていたので耳を傾けると、小声で話し始めた。

 

(ここは大人しくした方がいいです)

 

(どうして?)

 

(下手をしたら私たちは全員牢屋に入れられるか、今回の出陣に参加できなくなります)

 

(そこまでするかな?)

 

(仲珪様なら恐らく)

 

妹さんのことを考えた朱里ちゃんの言葉を私は一度だけ疑ったが、想像するとやりそうであった。というよりもこういう場合の妹さんは容赦がないので、段々やるという確信が出てきていた。

 

「それじゃあ、私たちは自分の部屋で待機しているので、何かあったら呼んでください」

 

「わかりました、そう仲珪様にお伝えします」

 

そうして私たちは踵を返して自分たちの部屋で待機していたが、結局、夜遅くになっても誰も呼びにはこなかった。

 

+++

 

同時刻

 

「もう少し戦費をなくすことはできないのですか?」

 

「すまんが、できそうにない」

 

「本当ですか?私の計算によるとまだまだ削れるところがいくつか存在するのですが」

 

「すいませんでした」

 

昼近くになってもまだ小依の説教から逃れていなかった。

 

私の隣では姉さんと青怜がうなだれており、郁も微笑みながら微動だにしていない。

 

(なぁ、青怜)

 

(……なによ)

 

(本当に朝まで続くのだろうか?)

 

(……諦めなさい)

 

(はぁ~)

 

「聞いているのですかっ!!(バシンッ!)」

 

「「「「はい」」」」

 

そんな風に話していると小依の矛先が私たちに向いた。

 

「そもそもどうしてこんなことになったのですか!」

 

「「「「申し訳ありませんでした」」」」

 

「本当にそう思っていらっしゃるのですか!?」

 

「「「「はい、申し訳ありませんでした!」」」」

 

「謝ればいいってものではありません!!」

 

「「「「はい、申し訳ありませんでした!!」」」」

 

「そもそもあなたたちは私が大きいと思っているんですか?」

 

「「はい」」

「「いいえ」」

 

((((…………………え?))))

 

あり得ないだろ、と私と郁は思わずいいえ、と答えてしまった。それに対して青怜と姉さんはそのままの流れではい、と答えた。とりあえずこの場にいた全員の頭に疑問符が浮かび上がる。どうしてこうなった、かと。

 

「白蓮と青怜!!あなたたちはちゃん私のお話を聞いてらっしゃないでしょう!!」

 

「「すみませんでした!!」」

 

と怒られている姉さんたちを見て私は横で静かにざまぁと思っていた。隣の郁も同じような笑みを浮かべている。

 

「黒蓮たちも笑っているのではありません!!あなた方も私が小さいと!未成熟だとおっしゃるのですか!!」

 

((えーーーーーーーーー!?))

 

だが思ってもみなかったことに私と郁に小依の矛先が向いた。どうやら自分がちみっこという現実を認められないらしい。

 

どっちにしろ怒られるとは思っていなかった私と郁はあまりの理不尽さに心の中で絶叫する。それを今度は青怜が私たちを見て私たちと同様に笑った。

 

「そんなのだから青怜だけが胸が平らなのです!!」

 

(((そこでそれいっちゃうの!?)))

 

しかしそれが気に入らなかったのだろう、類は友を呼ぶように、対象がぺったんこの青怜になる。自慢ではないがまな板のような彼女らの胸と比べるとここにいる皆の胸は大きい。数倍はありそうなほどにだ。郁なんかに至ってはナイスバディと言われんばかりの見事なボン、キュ、ボンというプロポーション。それが余計に青怜のことを際ださせていた。

 

小依の言刃(ことば)で青怜がその場にパタリと倒れ込んだ。どうやら即死だったらしい、すぐそばで姉さんが突いても反応はなかった。

 

「それに何で郁たちはそんなに大きいのですか!?喧嘩売ってるですか!?売ってるですね!?売ってるんでしょう!!」

 

まさかの三段活用、だんだんこの場がカオスになってくる。だがそれを止められる者などここに誰一人存在しない。

 

「「「いえいえまったく」」」

 

とりあえず喧嘩は売ってない、というか一方的に売られている私たちは小依の言葉に揃って首を振り、それを否定する。だがそれは火に油を注いだだけであった。

 

「くっ!それが持つ者の、持たざる者に対しての余裕ですか!?」

 

悔しげに唇を噛む小依。どないすればええねんと私たちは困ったように頭を悩ませる。

 

「そうよそうよ!!何で私だけ白蓮たちのようにボインボインにならないのよ!?」

 

いつの間にか青怜が立ち直り、あっち側に行っていた。そして二人は崩れ落ちるように地面に膝を付き、悔しそうにぶつぶつと呟きながら地面を何度も叩いている。

 

あんなもの、あんなものなんて…………なくなればいいのにぃぃぃぃいいい!!!、とかなんとか聞こえてくるが、今の私たちではどうしようもなく、ただそれを見守ることしかできなかった。

 

 

 

 

そしてしばらくすると二人は立ち直ったのか、キッと私たち三人に向かって睨み付けてくる。

 

「青怜、こうなったら今日はとことん飲みましょう!」

 

「「「え、ちょ、それは…………」」」

 

まさか自分の仕事を放り投げてやけ酒をしようとする小依の言葉に私たちは戦慄する。彼女が担当している仕事は多岐多様で、そのためにその量は半端がない。私たちがそれをしようとなると確実に彼女の倍は時間がかかるはずだ。しかも今は遠征前、さらにその量は膨れ上がっていることだろう。そんなものをやるわけにはいかない。

 

そうなってはだめだ、と焦る私たち持つ者が慌てて止めようとするが……

 

「ええ、賛成よ!明日の朝まで飲んでやるんだから!!」

 

私たちの言葉などなんのその、遮るように叫んで二人は会議室から足早に出ていく。そしてその場に残った私たち三人は呆然とその後ろ姿を見送ることしかできなかった。

 

しばらくその場で固まっていた私たちの元になぜかいつの間に居なくなっていた絃央が大量の竹簡を乗せたお盆をおもむろに目の前にドスンと置いた。

 

まさか!?と思いながらその様子を見ていると目の前に次々に竹簡の束が積み重なっていく。

 

その光景に私たちがひっ、と悲鳴を上げると今度は扉から竹簡セットを持った文官が現れてさらにどんどん積み上げていった。

 

そしてあらかた部屋が竹簡で埋まると最後に絃央はこちらを向き―――――

 

「今日中にお願いします」

 

と言った。。

 

「「「…………これ全部、今日中に?」」」

 

「はい、その通りです」

 

とだけ言い残して彼女は部屋から出て行った。そして姉さんが私たちの顔を見てぼそりと呟く。

 

「………………本当に?冗談、だよね?」

 

「「……………………」」

 

しかし、私も郁もその問いに答えられなかった。

 

 

 




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