真・恋姫で地味ヒロインの妹してます   作:千仭

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テストとかレポートとかで少ししか時間が取れずにいたら、一か月経っていた。

投稿が遅れましたが楽しんでくれると幸いです。


出陣

私たちは現在、啄郡から出陣し、少しだけ南下した途中である。

 

今回の遠征軍は、義勇軍を入れるとその数は2万以上にも上り、その編成はこうだ。

 

公孫軍 総兵17000人

 

第一軍

 

軍団長 公孫賛(総大将兼任)

 

副軍団長 厳綱

 

総兵6000人

 

歩兵部隊 3000人

 

白馬義従 2000人

 

騎兵部隊 1000人

 

第二軍団 

 

軍団長 公孫越(副総大将兼任)

 

総兵5000人

 

歩兵・弓兵部隊 2000人

 

黒馬義従 1500人

 

騎兵部隊 1500人

 

第三軍団 

 

軍団長 公孫範(軍師兼任)

 

副軍団長 田楷

 

総兵6000人

 

重装歩兵 4000人

 

歩兵部隊 1000人

 

長弓兵部隊 1000人

 

 

義勇軍 

 

総大将 劉備

 

指揮官 関羽・張飛・趙雲

 

軍師 諸葛亮・鳳統

 

総兵4000人

 

歩兵4000人

 

義勇軍なのに私たちよりも将と軍師がそろっている劉備たちに軽く殺意を覚えたが、兵の練度は私たちに全くと言っていいほど及ばない。

 

そして今回の編成を見るとわかるように公孫家本来の戦い方が見えてくるはずである。

 

私たち公孫家の基本的戦い方は、中央で敵を受け止め、その側面と背後から騎兵の機動力を活かした攻撃で相手を倒すというもの。つまり、青怜が全軍楯となり、私と姉さんが矛の役割を担っているのだ。

 

今回の遠征の布陣は中央に青怜をおくことで、私と姉さんは騎兵部隊のみを率いるものだ。一応は第一軍、第二軍に歩兵部隊は存在しているが、実際の戦いでは全て青怜のいる中央軍、すなわち第三軍に吸収される予定である。

 

暗黙の了解で連合軍が主体ならば、歩兵の数はあまり考慮に入れる必要はない。むしろ歩兵ではない機動力のある騎兵の数が問題であった。公孫家に優秀な騎兵部隊あり、と周知に認識させ、他の勢力とのパイプ作りこそが、今回の遠征の私の中の第一目的である。

 

そのため、生半可な騎兵戦力では意味がなく、価値のある戦力として公孫家が持つ全騎兵戦力を集めるしかなかった。

 

一方の姉さんは姉さんなりに今回のことでそれなりの地位を幽州で築きたいのはわかるが、果たしてこの戦力でそこまでいけるかは疑問に残る。

 

未だに姿さえ見たことのない曹孟徳や孫伯符などの戦力がどうなっているのかわからないし、劉備たちを見ていると恐らくだがゲームの頃よりも強化されているのではないかと思う。

 

油断や慢心がなくても圧倒されるかもしれない。少なくとも騎兵以外の部分や将としての場数など、様々な部分で劣っていること確かだろう。

 

そんなことを考えて行軍していた私だが、すぐ後ろにいる義勇軍が視界に入ると、たまらずにはぁとため息をもらす。

 

そして、私は劉備たちとのさっきまでの言い争いを思い出した。

 

 

出陣する少し前

 

 

「なんで集まってくれた人たちを帰さなくちゃいけないの!?」

 

劉備がところかまわず私にそう叫んだ。そのため、私の近くにいた部隊の兵たちが一気に殺気立ち、彼女のことをにらんでいる。

 

「だから何度も言っただろう、こんな人数の兵糧を用意できない」

 

そして私は何度も同じことを劉備たち言い聞かす。それは義勇軍を集めた時に起こった問題。あまりの人数の多さに、当初用意していた兵糧が足りなくなったのだ。

 

「でも皆、私たちのために集まってきてくれたんだよ!?」

 

「それがどうした。命を賭ける者たちなど、お前等の目の前にごまんと存在するが?」

 

彼女はどうやら自分自身のために集まってくれた義勇軍の人たちの思いを、無碍にできないらしい。

 

それに自分自身に力なければ、仲間に頼り、協力すれば何でもできると思っているらしい。少しは成長したと思っていたが、線引きの区別ができないようだ。彼女は自身が願う「理想」さえもそうやって力を合わせれば、仲間さえいれば、達成できると考えいるのだろう。

 

みんなでやれば願いが叶うと?反吐がでるほどの甘さだな。

 

「それでも……」

 

そしてなおも私に反論しようとする劉備に向かっていい加減、堪忍袋の緒が切れた。

 

「いい加減しろ、三度目は言わんぞ」

 

低く、怒気を込めた声で静かに私は言い、思わず本気の殺気をあたりにまき散らした。

 

それをすぐさま感じた関羽たちが劉備の前に出て矛を構え、私たちも後ろにいた兵たちが揃って剣を抜く。

 

「貴様も対外にしろよ?誰のおかげで義勇軍を組織できていると思ってるんだ」

 

「そ、それは……白蓮ちゃんたちのおかげだけど」

 

段々尻すぼみに声が小さくなっていく劉備にいらいらしながらも私は声を荒げずにゆっくりと話す。

 

「なら、黙って姉さんや私たちに従え。こちらとてそれほど余裕がある訳じゃない」

 

「……っ!?」

 

もはやこれ以上の会話は必要ないと言わんばかりに私は劉備たちを睨み、黙らせる。そしてそのまま目もくれず、用事がある為、鳳統を呼び寄せた。

 

「それと鳳統!こっちにこい」

 

「ひゃいっ!?」

 

私の怒気に当てられた鳳統はまさか私に呼ばれるとは思っていなかったのだろう、小さい体を震わせながらゆっくりとこちらに歩いてくる。

 

「な、なん、ですきゃ?」

 

「事務的な話だ、そこまで怯えることはない。ここに孔明はいないからな、お前に必要なことは話す。ついてこい」

 

「はわわわわ!?わ、わか、わかりまち……た」

 

そう視線で近くの天幕を指すと彼女はさらに震えながら私の後をついてきた。

 

すぐさま私と鳳統が天幕へと入り、彼女を机を挟んで座らせ、今後のための打ち合わせを始める。

 

「いいか、あの馬鹿に渡せる物資は案外多いが、兵糧だけはどうやっても少なくなる。それは理解できるな?」

 

「はい」

 

「なら、たとえ今以上に義勇兵が集まったとしてもこちらから兵糧の提供はできないし、資金も渡せない」

 

「そ、それは……」

 

今回の遠征にかなりマジな私たちに劉備の声で集まった義勇軍を世話するだけの余裕は存在しない。

 

北の砦には大規模な軍団、といっても劉虞の軍に出兵してもらったが、その要請にいくらか資金を投入した。他にも物資の補充や啄郡に駐屯中の膨大な兵士たちの食料、衣服、防具の修理など様々な面で金がかかっている。

 

ただでさえ、それらで金を使っているのだ。それに加えて4000人以上の兵糧を遠征終了時まで賄うことは無理に近い。

 

「理解しろ、わかっているんだろう?だからあの馬鹿どもじゃなく、お前に話してるんだ」

 

あの馬鹿女なら恐らく後先考えなく、集まった兵を連れていこうとするだろう。ご主人様とか言われている種馬もそれを煽るだろうしな。

 

あいつらは底なし甘ちゃんだ。特に人間として間違っていることは許すことはできない。それは人としては尊敬もするし、間違ったことではない。

 

だが指揮官として、軍を統率し、戦わせる者としてはどうだろうか。それは甘さであり、感情で物事を判断する愚かな行為だろう。それに全体のことを考えてみればその判断は間違っていると断言できる。

 

そのことを少なくとも理解している目の前の少女は俯きながらはい、と頷いた。

 

そして私は今回義勇軍に提供する兵糧など物資の内容をまとめた竹簡を渡す。

 

彼女はそれを開き、問題がないかその内容を確認した後、大事そうに懐にしまった。

 

そして彼女に渡した竹簡の内容が問題なさそうなことを確認した私は、すぐにその場を後にしようとしたが、天幕をでる前に袖をちょんと引かれた。

 

「……あ、ありがとう、ございました」

 

振り向いたすぐ先では大きな帽子を両手に待った鳳統が私に深く頭を下げていた。それを見下ろす形になった私は、この天幕の外にいる馬鹿のことをあきれたように思い返す。

 

まったく……本当に誰かと違ってよくできる奴だな。

 

「お前が気にすることじゃない」

 

「でも……」

 

私が振り返ってそう言うと彼女は申し訳なさそうな顔をしながら私のことを見上げていた。

 

おそらく啄郡の、私たちの現状をよく理解しているのだろう。かなり財政を切り詰めて今回の義勇軍の物資を賄ったことを。

 

「姉さんの命令に従ったまでだ。お前みたいなちっこいのが心配するようなことじゃない」

 

「はわわっ!?」

 

そう言いながら私は目の前にある小さな頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でる。綺麗に整っていた水色の髪の毛が乱れ、ぼさぼさ頭に変わる。

 

「ひ、ひどい……ですぅ」

 

そう頭を両手で抱え、目に涙を浮かべながら言う彼女を見ていると、何だが随分と古く、懐かしい頃の記憶が蘇ってくる。

 

それはまだ私が小さかった頃の、公孫仲珪としてまだ生まれてわずかばかり経った頃の、そこまで大きくない家での年の離れた父との記憶。

 

父はよく娘の姉さんと妹の私の頭を同じように乱暴の撫でていた。

 

でも姉さんも私もそれに文句を言いながらもその大きな手から逃げはしなかった。

 

父の手のことを鮮明に思い出す。槍や剣の鍛錬でできたまめだらけの堅い手のひら。

 

繰り返しと実践を経験したごつごつとしたまるで石みたいな拳。

 

武人特有の手であり、幾多の傷が手だけではなく、腕や体中に刻まれていた。

 

その全てが私たちは誇らしかった。

 

そしてこの手が、その身が私たちや多くの人を守ってきた。

 

そんな人間になりたかった。

 

自分の手を見る。

 

子供の頃から一日も休まずに鍛錬してきた。手のひらの皮が何度も剥けて、治り、また剥ける。それを何度も繰り返してきた。

 

人を殺してしかいない私は少しは父のような手になっただろうか。

 

誰かを殺すだけではなく、守れるような手に。

 

「仲珪様?」

 

そんなことを考えていたら、鳳統が心配そうに私の顔をのぞき込んでいた。

 

「はわわわわわっ!?」

 

私はすぐさま誤魔化す様に彼女の頭をさっきと同じように乱暴に撫で回し、彼女は悲鳴を上げる。

 

こんな小さい子に心配をかけるなんて……らしくない。

 

「まだ仕事があるんでな、失礼する」

 

そう言い残し、彼女の頭から手を離すと、私はそのまま天幕の出口へと向かった。

 

++++

 

「あの頃のことを懐かしく思うなんて……私も、もうそんなに年をとったか」

 

「そんな馬鹿なことある訳あるか」

 

私が一人でに呟いた言葉に、姉さんが横やりを入れるように答える。いつのまにか私の横に馬をつけていた。

 

「お前はまだ私よりも生きてないだろ?」

 

「まあ、そうだが……」

 

「なぁ~に?もう黒ちゃんは老け込んだじゃったの?」

 

曖昧に頷いた私の後ろから今度は青怜が話に割り込んできた。その声からはすぐに顔が笑っていることがわかる。

 

「おまえほどでもないさ」

 

「ちょっと、それって一体どーいう意味かしら?」

 

「そういう意味だ。なぁ、姉さん?」

 

「まぁ、確かにこの中で一番年食ってるのは青怜なのは事実だからな」

 

「そういう黒蓮こそ、爺臭いようになってるくせに」

 

「庭でゆっくりと茶を飲んでる感じなんてまさにそれだよな」

 

茶を飲みながら、のんびりして何が悪い。私はもう前世を入れると50代位なんだぞ?事実、爺なんだよ。文句あっか?

 

「でも私よりも無駄に年食ってるのは青怜の方だよな」

 

とりあえずハンムラビ法典主義の私は青怜の胸を見ながらそう言ってやった。ついでに腕を組んで胸を強調しながら。

 

「………………(ギリッ)」

 

「そうなのか?」

 

そう言う姉さんは気がつかないのか、胸の下に腕をおき、もう一方の手を顎につけて考え込む。そうすると自然に腕が大きな胸を強調する形となった。

 

「そうなんだ、姉さん。それといい援護だ」

 

「………………(ギリギリッ)」

 

サムズアップで姉さんを笑顔で誉めたが、姉さんは何のことだがわからず、今もしきりに頭を傾げている。

 

端から見ればいい笑顔をした私と目元を暗くして歯ぎしりする青怜。どちらが勝者と敗者のかが明白に分かれていた。

 

「………………それがどうしたって言うのよ」

 

「妬むなよ?妬んだところで何も変わらないんだから…………そこは」

 

「………………」

 

「まぁ、それでも一部には需要があるんだから気にすることはないと思うぞ?」

 

「誰に、何の需要があるんだ?」

 

変態紳士にまな板の需要がな。

 

そう得意げな顔で私は青怜に言った。

 

※以降は第三者視点

 

俺はしがないただの兵士だ。

 

昔から公孫家の兵士として戦ってきた。

 

今更どこかに行こうとも思わないし、このまま公孫家の為に死んでもいいと思っている。

 

さて、俺のことはこのくらいでいいだろう。

 

それよりも今、重要なことは…………

 

 

 

 

 

 

 

公孫家の中心の三人が修羅場なことについてだ。

 

 

 

 

 

 

「………………これだから脳筋が」

 

そう静かに呟いた声は俺たち兵にもはっきりと聞こえた。どう聞いてもそのことは間違いなく仲珪様のことだろう。

 

「脳筋の、頭でっかちの……この武力馬鹿がああぁぁ!!」

 

と、勢いよく扇子を地面に叩きつけた。その鉄扇は拾って、綺麗にし、後で返却しよう。俺は近くで砂まみれになった鉄扇を拾う。

 

「何だと、悪知恵しか働かない自称軍師が!!」

 

仲珪様が即座に大声で言い返えす。

 

自称だったのか、長年仕えてきたけど自称だったのか。ある意味驚愕の事実である。

 

「どっちも啄郡には必要だぞ?」

 

公孫家の当主である伯珪様が二人にのんきな風に言う。そんな風に言ったら言い返えされるのに。

 

「「黙れ!中途半端!!」」

 

「ああっ!?」

 

言わんこっちゃない。いや、実際には口にしてないが。

 

「いつもいつもこれ見よがしにその胸を強調して!」

 

「はっ、別に強調してる訳ではない。自然とそうなるんだ。

 ああ、すまんな。ない奴にはわからないな」

 

ああ、そんなにはっきりと言わなくても。多少なくてもきっといい人は来ますよ。だからがんばって。

 

「ないなんてことないわよ!これでも少しづつ成長してるんだから!!」

 

「「え?」」

  え?

 

伯珪様たちだけでなく、その場にいる俺たちも驚きのあまり、固まった。

 

「何よ!その成長してたんだ、みたいな顔は!?」

 

だって、その、数年前から変わってない気がすると思うんだけど。

 

俺は隣にいる同期の奴らに目を向ける。

 

子則様は全く成長していないよな?

 

うん。

 

しっかりと全員頷いた。

 

「「だって、その、なぁ?」」

 

二人も周りにいる俺たちに視線を向ける。正直こちらに同意を求めないでほしい。同意はすで周りとしたけど。

 

「なぁ?じゃない!!」

 

「じゃあ、どれくらい成長してるんだ?」

 

それは少し気になる。見た目変わってなから割と切実に。

 

「それは、その、………………ぐらいよ」

 

大事なところを誰にも聞こえないように言葉を濁す。

 

「濁したな」

 

「ああ、濁した」

 

思いっきり濁した。

 

「あー、もううるっさいわね!!そーいうあんたたちは大きくなりすぎなのよ!なんなの!?どーして私だけがこうなのよ!!」

 

自虐入ったな。これ、収拾できるのか。

 

「いらん場所に色々と使ってんだろ」

 

「ああ、頭の方にか」

 

そうなんだ。というか、冷静にそのことを分析してないで子則様をどうにかしろよ。

 

「あんたたちが馬鹿ばっかなのがいけないのよ!もっと頭使いなさい!この脳筋どもが!」

 

「「私は違うぞ!!」」

 

今度は伯珪様と仲珪様が互いを指さしながら主張する。

 

「「あん?」」

 

ああ、また新たな火種が……。

 

「ちょっと待て、私はともかくお前は軍務担当だから脳筋だろ!」

 

「軍務担当だからって頭を使わない訳じゃないぞ!そういう姉さんだって単純作業だけで頭使ってないだろ!」

 

「どっちも私よりも頭使ってないのは事 実でしょ!!」

 

「「うるせぇ!頭しか使わないもやしが!!」」

 

「もやしって何よ!!」

 

まあ、あまり外の活動が少なく、運動能力は通常の兵よりもないし。二人からしたもやしみたいなものだろう。

 

「だいたい黒蓮は前に出て戦うことしかできないでしょ!あんたが脳筋筆頭なのよ!」

 

「ああ?お前だって普段後ろからしか指揮しないもやし筆頭だろうが!」

 

「私はどっちもじゃないから脳筋でももやしでもないな」

 

それを中途半端って言うのですよ、または中間の普通。。

 

「「黙れ!この地味担当!!」」

 

「地味担当!?」

 

図星をついたな。見ろ、伯珪様が真っ白になってるぞ。どうするんだよ、これから戦なのに。大守様がこうなのって不安でしかないのだが。

 

「なぁ、私ってなんなんだ?」

 

ほら、こっちにきた伯珪が虚ろの目をしながら、自分のことを聞いてきたよ。

 

「大守様ですよ」

 

「だよな」

 

私ってこの二人よりも偉いんだよなぁ、と呟きながら伯珪様が膝を抱えて地面いじり始めたぞ。

 

「地味……地味担当なのか、私は」

 

どーすんだよ、段々絶望に染まり始めたよ。

 

「まぁ、元気だして下さい。あの二人の性格が濃過ぎるだけですから」

 

「つまり私は普通の性格で地味だと」

 

否定はできない。

 

「いいんだ、事実だからな」

 

はぁ~、と重いため息をした伯珪様の存在感がどんどん薄れていってる。もはやあの二人からしたら、視界に入っていないのだろう。

二人は頭突きをしながら激しく、言い争っている。

 

しょうがない、あの人を呼ぶか……。

 

俺はその場から、子鑑様を呼び行くために離れる。そしていくらか進むと部下と打ち合わせをしながら、こっちに向かっていた。

 

「子鑑様、どうにかして下さい。大守様と仲珪様、子則様がまた始めました」

 

「はぁ、困ったものね。またなの?」

 

「はい、もうすでに伯珪様が戦線離脱しました」

 

「そこまでいってるの?」

 

「ええ、もう収拾がつきませんよ」

 

「わかったわ、知らせてくれてありがとう」

 

にっこりと俺に微笑んだ子鑑様、まさに俺たちの癒しである。

 

「いえいえ、いつものことですから」

 

「あの子たちももう少し自重してくれないかしら。…………ねぇ?」

 

無理だと思いますよ、たぶん絶対。

 

そう子鑑様も思ったのか、俺と無言で目が合う。苦笑いしかできなかった。

 

ですよね~。

 

そして二人して大きなため息をついた。

 

「それじゃ、いってくるわ」

 

「はい、自分もお供しますよ」

 

「本当に悪いわね」

 

「いえ、これでも仲珪様の副官ですから」

 

え、ただの副官だよ。そこらにいる兵士と同じの。

 

俺は子鑑様の数歩後ろをついていくと、その現場にたどり着いた。

 

頭でどつきあいしている二人に、静かに地面をいじっている我らの大守様、まさに場は混沌としている。

 

「もう、二人ともやめなさい。公孫家の兵たちがいる前なのよ。上に立つものならそんなみっともないことはしない」

 

まさに正論である。これならぐうの音もでま……。

 

「「うるさい!年増!!」

 

「………………ピシッ!!」

 

言った……言いやがったよ、こいつら。

 

やばい、やばいよ、その言葉は。

 

「は、早く謝って下さい」

 

「何でよ」

 

「本当のことだろう」

 

それを言うなああああ!!!!

 

慌てて子鑑様の方を見るといつもの笑顔のまま石像の様に固まっている。

 

「あのですね、子鑑様はあの二人よりもお綺麗ですよ!あの二人なんて目もくれないほどに!!なあ、皆!?」

 

「「「「はい、子鑑様は俺たちの癒しです」」」」

 

俺の同期や部下たちが揃って同意の声を上げた。

 

よし!よしよーし!!

 

これで勝つる!!

 

「ですから自分たちは子鑑様のお味方です!」

 

「「おい!お前等(あなたたち)は私の部下だろう(でしょう)!?」」

 

俺たち一般兵が揃って子鑑様に頭を下げると、さっきまで喧嘩していた二人がこっちを見て反論してきた。

 

うるせぇ!!こっちはただの一般人なんだよ!!巻き込むんじゃねえ!!

 

「………………クスクス。そう、あなたたちは私の味方なのですね?」

 

「「「「はい!!」」」」

 

「……では私に言うことは当然聞いてくれますよね?」

 

「「「「「はい、その通りです!!」」」」

 

「……もちろん、あの二人の指示なんて聞かないのでしょう?」

 

「「「「「もちろんです!!」」」」

 

「連れてきなさい。今すぐ、ここに、二人を」

 

「全員行くぞ!!!」

 

「「「「応!!!」」」

 

その場にいた兵の全員が呆然としている二人に襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

※ただ今捕縛中、しばらくお待ち下さい。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、二人とも。私に何か言うことはないのかしら?」

 

そう言いながら子鑑様は両手の指を二人の顎をつーと撫でる。

 

あの後俺たちは二人を捕縛して子鑑様のところを連れていったら、なんか女王様が光臨していた。

 

「「………………フンッ」」

 

拗ねたように二人は子鑑様から顔を背ける。

 

「そう、二人とも反省はしないのね。お姉さんは悲しいわ」

 

(お姉さんって年じゃないだろ)

(年増の若作りが)

 

「へぇ~……そう・いう・こと・言うの?」

 

そして、隣に立っている俺の腰からさっき拾った鉄扇を無造作に引き抜いて、二人に向ける。空気を切り裂いて二人の顔の横にピタリと止まった。

 

周りの兵たちがそれを見た瞬間、ひぃ!とわずかに悲鳴を上げた。

 

もちろん俺もその一人である。

 

おい、このままじゃ二人とも死ぬんじゃね?

 

そう思って俺たちはお互いに目を合わせ、そして黙って頷いた。

 

うん、見て見ぬふりをしよう。巻き込まれたら命がいくらあっても足りないし。それにあの二人はいつものことだから死にはしないと思う。

 

そう決めた俺たちは上を見上げると、二人の悲鳴が青い空に響きわたった。

 

今日も変わらない一日になりそうである。

 

++++

 

鳳統side

 

私たちのすぐ前では白蓮様たちがなにやら騒いでいる。それを遠くから見ながら私はさっきの仲珪様とのやりとりを思い出していた。

 

いつもは堅く、それでいて刃物のような冷たさと圧迫感を醸し出している仲珪様が、私の頭を撫でる時には、今まで見たことにない感情が浮かんでいたことを。

 

あの時の感情が一体何だったのかはよくわからなかったけど……。

 

今まで見てきた中でも初めて見た顔だった。

 

それはとても……。

 

とても人間らしく、そして何かを懐かしんでいた。

 

それと同時に彼女の石のような固い手のひらがとても心地よかった。まるでお父さんにでも撫でられているように。

 

乱暴な撫で方だったけど、いつまでもずっとそのままでいたかった。

 

いつもは氷の様に冷たく、容赦なく残酷であるから血まで冷たいかと思っていた。

 

だけどそんな人があんな顔も、こんな撫で心地もするわけがない。

 

だけどそんな姿をみんなに見せないから誤解されやすいだけでとても難儀な性格の人だと思った。

 

自分にとても厳しい人なんだと思う。

 

そんなことを一切誰にも見せようとしないから。

 

そして、優しい人なんだとも思う。

 

乱暴な撫で方だったけど、私には心地良かったのだから。

 

私は彼女のそんな一瞬の表情を垣間見ることができてとても嬉しかった。

 

「どうしたの?雛里ちゃん」

 

「え……?」

 

それが顔にでていたのだろうか。ううん、少し顔にでていたのだろう。私の顔をのぞき込んだ桃香様がそのままの体勢で質問してくる。

 

「……あの……何でも、ないです」

 

「本当?とても楽しそうな顔してたけど……何か嬉しいことでもあったのかな?」

 

「……本当に何でも、ないですよ?」

 

そう言われて桃香様には悪いかな、と思ったけど、そのことが私だけが知っている仲珪様の秘密の様に思えて嬉しかった。そして堪えきれずにクスクスと小さく笑ってしまった。

 

「……本当に」

 

小首を傾げながら私のことを見ている桃香様であったけど、私は気にせずそのまま馬を進めた。

 

今日はいつもよりもいい日になりそうだ。

 

 




誤字脱字等ありましたら気軽の教えて下さると助かります。

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