真・恋姫で地味ヒロインの妹してます   作:千仭

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やっと投稿することができました。

今回は非常に長くなりました。

拙い文章ですが楽しんでくれると幸いです。

それではどうぞ。


黄巾賊 前哨戦(1)

黒蓮side

 

あれから数日が経ち、私たちは官軍との合流を目指していた。恐らく翼州の黄巾賊討伐の総大将は皇甫嵩だろう。文にもそう書いてあったが、恋姫ではモブどころか存在もしていなかったけど。

 

しかし今回の黄巾の乱はかなり正史とは異なっている。

 

第一に黄巾の乱の主力が翼州だけであるということだ。そのため、宦官の争いに巻き込まれた盧植が左遷され、その後の後続として任に就いたのは董卓であり、簡単に敗北したのでそのまま皇甫嵩に変わったところまでは正史通りだ。だが正史であった潁川の黄巾賊は本隊でもなく、ただの反乱であったため、朱儁は出兵されていない。

 

その影響だろうか、翼州の黄巾賊の数は10万から20万人以上とまで膨れ上がっており、今もなおその数を増やしているという。さらに張三兄弟に加えて波才や彭脱、張曼成なども翼州の黄巾賊にいるらしい。しかもその三人は張角から軍を一つ任されているらしく、翼州で他の豪族と戦っているとのことだ。それにより組織した官軍がいくらか負けており、形勢はこちらの方が不利とのことだ。

 

つまり簡単に言えば正史では翼州と潁川などの黄巾賊本隊が合併して翼州にいると言うことである。今の状況はおそらく曹操が波才とか孫策が彭脱とかと戦っているはずだ。まあ、北から南下している私たちと洛陽に進軍しようとする黄巾賊なら鉢合わせすることはないだろう。

 

だからあまり私たちには関係ないはずだ。曹操たちが戦っている間に私たちは戦力を保持しながら官軍本隊と合流するだけである。しかも私たちは洛陽であまり有名ではないし、北からも進軍している…………から、そしてただの地方の一諸侯だと…………思うから敵にマークされる心配ないはず…………だ。

 

 

 

 

 

 

……そう思っていた私は自分自身が恨めしい。

 

「前方に黄巾の旗を確認!字は張、張曼成の軍だと思われます!その数最低3万以上!!」

 

つい先ほど進軍先に斥候として送りだした部隊からの報告である。

 

なぜ何どうしてこうなった!?

 

なんで張曼成がここにいるの!?なんで曹操とかと戦ってないの!?と言うかなんでこっちにきたの!?私たちは敵本拠地に通じる要所を落としたとは言え、まだ官軍本隊とは距離があるんだけど!?それも敵と会わないように少し迂回して、斥候ちまちま出して前確認してまでしたんだけど!?

 

どうしてこうなったのか誰か教えてくれませんかね!?いえ、本当に!!

 

私はそのことを聞いて内心焦っていた。我が公孫軍の総兵力は17000。そのうちの6000は騎兵でできている。つまり歩兵との比率はおおよそ2:1である。機動力を活かした雑魚相手の戦闘ならおそらく勝てるだろうが、相手はただの名もない黄巾賊ではなく、張曼成が率いている軍である。

 

正史では南陽太守褚貢を殺している。そして宛県城を拠点として官軍と渡り合った将である。最後は捕縛され、処刑されたが一太守を殺しているのだ。そこら辺の有象無象の黄巾賊とは一味違う。

 

さらにこの世界では黄巾賊の主力を担う3人の中でもかなり武闘派かつ官軍と渡り合っている。董卓も彼ら3人にやられたらしいから能力はそこそこあるだろう。とんだ誤算であった。

 

「この先の平野に陣を構える!中央に第三軍を主力として置き、第一、第二軍団の歩兵は第三軍の指揮下へ入れ!!」

 

「「御意!!」」

 

公孫軍の行軍陣形は縦陣である。中央に青怜たち第三軍団を置き、その前を打撃力と機動力のある私の第二軍団を配置する。そして第三軍の後方にはもっとも機動力が一番ある姉さんの第一軍で最も難しいとされる後方の警戒を行うのである。

 

姉さんの指示に従い、第二軍に指示を出すと歩兵部隊が後ろへと下がり始め、すぐさま第三軍と合流、その指揮下へと入り、残った黒馬義従と騎兵の混合部隊3000がすぐさま前方へ警戒と斥候のために踊り出る。次に姉さんの第一軍が後ろから第三軍に合流して同じように青怜の指揮下に入った。残った姉さんたちの白馬義従と騎兵の混合3000も私たち前方に来ており、第三軍は横陣を構え、その前に私と姉さんの騎兵6000が陣取った。

 

陣を構えた後、すぐさま青怜と私は姉さんにいる場所まで馬を進め、簡易ではあるが馬上で軍議を始める。

 

「どうする?斥候の見立てでは敵は最低3万以上、敵大将は張曼成だ」

 

私がそう姉さんたちに言うと、すぐにこの場所の地図を部下に広げさせた。

 

「この辺は何もない平野だ。私たちの機動戦にはもってこいなんだが……物資の方がなぁ」

 

「物資……特に矢の問題か」

 

「ええ、その通りよ。前の戦闘で大分使ってしまったからかなりその本数は心もとないわ」

 

やはりか、と私は頷く。

 

先の衢地での戦闘で私たち公孫軍は戦力を温存するためにかなりの本数の矢を使ってしまったのだ。少数の兵を囮に使い、敵兵を誘きだしたところで弓兵を伏兵と重装歩兵の援護に置いて射させ、さらに両側面に回り込んだ第一軍と第二軍の騎兵部隊も馬上から弓を射たのだ。そして戦線が混乱し、第三軍が正面から突撃して前線を崩壊させ、敗走した敵兵を私の黒馬義従が追撃をしたのである。だからほとんど兵に被害はなかったが、その代わりに矢を多く使ってしまったのである。

 

しかし、その使ってしまった矢が問題であった。それは普通の官軍のような弓兵が使うような短い矢ではなく、私たち公孫軍の弓兵は殺傷能力を高くした長弓を使っており、専用の長い矢が必要なのだ。そのため、簡単に補充できるものでもないし、馬上用の複合弓の矢もそれと同様である。今回の遠征のためにかなりの量を両方用意したが、ここまでに戦力を温存しながら進軍してくるのに半分以上を使っている。

 

黄巾賊の主力と戦うまで貴重な矢を残しておきたいが、だからと言ってこの状況で温存するのも難しい。敵は私たちの約二倍に上る3万人以上、いくら精兵だが正面からぶつかればかなりの戦力を削られる。

 

「だからと言ってここで真正面にぶつかり合うのも好ましくない。いくらお前の重装歩兵でも消耗戦になったらそれなりの被害がでるぞ」

 

「それはそうだけど……。なら散発的に機動力を活かした奇襲をかけてみる?それとも夜にでも夜襲をかける?」

 

「相手はこちらに気が付いていないし、まだ少し距離があるからできないことはないが時間がかかる」

 

「でも物資と戦力を温存するなら取れる手は少ないわよ」

 

戦力と物資を温存するゲリラ戦、もしくは一気にかたをつける夜襲か、それとも物資を温存せずに遠くからまたちまちまやるか、会戦で一気に決めるか。まぁ、他にも色々と手はあるが相手は今まで戦ってきた相手とは一線を越えるちゃんとした軍である。武将張曼成に率いられた黄巾賊はもはや賊ではなく、黄巾軍として扱った方がいい。

 

「また少数の囮でも使おうかしら?」

 

「それは無理だろう、相手は張曼成だ。今まで通りにいくはずがない」

 

「第三軍でやればできるかもしれないな。それには多少被害が出るぞ、特に足を止めて戦うならなおさらだ」

 

姉さんがそう注意するが、青怜はそれをむしろ好機と捉えたように口を開く。

 

「いいえ、やるわ。私に策があるからそれでいけるはずよ」

 

その顔には自身満々の笑みが浮かんでいた。

 

黄巾side

 

張曼成は少し先にいる軍を真っ直ぐと見る。整然とならんだ横陣であり、その練度は見るからにただの官軍ではないことに気が付いた。そしてその軍の旗を見るとそこには「公」という文字が書かれ、風に揺れている。

 

「北の雄、公孫賛か」

 

「そのようですね。あの陣を見れば、私たちが戦ってきたそこいらの官軍ではないことは明らかですよ」

 

そう答えたのは彼の副官である趙弘であった。将軍張曼成とその副官趙弘が率いるこの黄巾賊はその辺の黄巾賊とは違う。時間が足りなかったがそれなりの訓練をしてきており、決起してからずっと官軍相手に戦い続けてきたのだ。黄巾賊全体でもそれなりの戦闘経験を積んでいる。

 

官軍と戦った幾度かは彼の手堅い采配と物量で敵を敗走させたこともある。だが、それは討伐に来た官軍の将も兵も自分たちに毛が生えた程度の強さであり、真正面から物量作戦を行えば勝てる相手であったからだ。

 

だからと言って彼らの黄巾賊が弱いと言うわけではない。むしろ、最近では少数とは言えど官軍を返り討ちにしてきたため、その士気は高く、兵に勢いがある。同じ程度の相手なら物量と勢いで押し切れるはずだと彼と趙弘は考えていた。

 

「さて、どうするか」

 

「いつも通りでよろしいのでは?確かに練度は高いようですが兵数は我らの方が倍はいます」

 

「確かにあちらは寡兵に、こちらの方が多勢だ」

 

これなら被害はでるだろうが、物量で攻めれば相手を崩すことはできるはずだ、と官軍本隊と戦ったことのある彼は頭の中で判断する。結局、いつもと同じで勢いに任せた集団突撃と物量作戦で相手をそのまま飲み込むのだ。

 

「よし!全軍いつものように陣を構えよ!我らが敵を討ち果たすのだ!!」

 

「「「応!!」」」

 

自分たちの将軍、張曼成の声に彼の配下の兵が呼応するように答えた。その数万の声には力があり、戦意に満ちていた。

 

(士気も高いし、勢いもある。どうやらこの戦い、勝ちが見えて来たな)

 

そう頭の中で考えていた彼の目の前で数万の兵たちが横陣にばらばらに並び始める。そして全軍の準備が整う頃には、眼前にいる公孫軍と対陣して、互いににらみ合いを始めた。

 

◆◇◆◇

 

「第一陣、突撃ぃぃぃぃいいいいッ!!」

 

「「「「「「おおおおおおお!!!!!」」」」」」」

 

張曼成の副官、趙弘が高らかに叫ぶ。最初に動き始めたのは公孫軍ではなく、趙弘率いる黄巾賊であった。張曼成は自軍を二つに分けていた。第一陣の趙弘率いる10000の歩兵を先方に、そしてその後衛に彼自身率いる本隊の20000である。その第一陣が怒声を上げて趙弘を筆頭に突撃し始めたのだ。

 

対する公孫軍は第三軍を中心として、第一、第二軍の歩兵を吸収した11000の歩兵であり、その総指揮は第三軍を率いる青怜であった。そして白蓮と黒蓮はそれぞれ配下の3000の騎兵を連れて一旦戦場から遠ざかり、青怜たちがいる戦場を迂回していた。

 

公孫軍の陣形は重装歩兵の前に5000歩兵が中央を凸にした弓型に布陣する。そしてそのさらに前方に弓兵がもうすぐ射程距離に入る敵に向かって弓を構えていた。

 

「………………弓兵、放てぇ!!!」

 

弓兵から放たれた矢が遠く弧を描くように飛び、突撃してくる第一陣の黄巾賊を打ち取っていく。だが相手は10000もの軍勢、矢による被害はでるがその足の勢いを止めるまでには至らない。せいぜい少しだけ怯ませた程度であった。

 

「全軍立ち止まるな!前に駆け抜けろッ!!」

 

そう趙弘の檄が戦場に響く。そしてその声に押された黄巾の兵は野に倒れた仲間を踏み越えて突撃を続ける。

 

「弓兵はそのままぎりぎりまで射続けなさいッ!!」

 

それに対して弓兵と第一陣である歩兵の指揮官である郁も弓兵に指示を出す。そうすると数えきれないような矢が休まずに放たれ続け、黄巾賊に文字通りの矢の雨を降らせてその足を鈍くしていく。

 

戦場に多くの血が流され、幾多の命が散り、その速さは加速していく。

 

被害を出しつつ突撃を続ける黄巾賊第一陣は矢によりかなりの犠牲者がでるも、少し勢いを削がれた状態で公孫軍の懐に接近していた。

 

「弓兵は下がりなさい!!第一陣前へ!!」

 

接近してきた黄巾賊から、弓兵の被害を出ないよう彼らを後へと後退させ、第一陣である歩兵5000を最前線へと押し上げる。

 

「第一陣構え!!」

 

弓兵が後退した後、中央が前に出てくる凸型の陣形で黄巾賊を待ち受ける。そして中央がまず戦闘に入り、次に陣形の中央から端に向かって徐々に戦いに突入する。両軍がぶつかり合い、共に血を流し始めた。

 

長槍で陣形を構えていた公孫軍歩兵はその武器のリーチを活かし、次々に突撃していく黄巾賊を討ち取っていく。しかし、黄巾賊も劣らずに勢いと物量に任せた戦闘によって公孫軍に少なくない出血を伴わせる。

 

戦闘はしばらくそのまま続き、数で勝る黄巾賊が優勢になりつつ、公孫軍の前線を徐々に後退させていった。

 

黄巾side

 

張曼成は徐々に下がりつつある敵の前線を見て、趙弘率いる10000の先陣がかなりの被害を出しつつも優勢だと考えた。そしてもうすぐ敵の中央を突破できそうなので、自分も動くべきだと判断する。

 

だからこそ彼は眼前にいる20000もの兵の前へ出て、声を張り上げて檄を飛ばした。

 

「本隊はこれから敵陣へと向かい、先陣と共に我ら黄巾の敵である者共を討つ!」

 

『応ッ!』

 

その声に今まで共に戦ってきた馴染の古参兵たちが、自らの大将である張曼成を仰ぎ見て、ためらいなく答えた。それを馬上の上から見渡した張曼成は満足そうに頷いて笑う。

 

これから戦場で血を流す彼らとそれを率いる張曼成との間には乱が始まってから共に戦ってきたという切っても切れない深い絆があった。

 

乱の始めはこんな腐った世に呆れ、疲れた果てた末に黄巾賊となった。始めは50000以上もいた兵はすでに幾度の戦いで今はもうこの20000へとその数を減らしている。

 

その死んでいった中には昔からの友人がいる、共に生きてきた家族も、そして共に戦った戦友がいる。

 

数えきれないほど嘆き、悲しみ、怒り、傷つき、死にかけ、それでも戦ってきた。

 

それを自分たちの大将である張曼成と共に経験し、幾度の悲しみを超え、彼らはここに立っている。

 

戦場で散った数多なる戦友たちの嘆きに報いるために、憎き敵である官軍を討ち滅ぼすために。

 

そして何よりもこんな世を作った奴らに自分たちの苦しみを、悲しみを、嘆きを、怒りをぶつけるために

 

その気持ちは嘘ではない、嘘だとは彼らとそれを率いる張曼成が言わせない。

 

「さあ、我らの敵を討ち滅ぼしに行くぞッ!!」

 

『応ッ!』

 

「蒼天すでに死す、黄天まさに立つべしッ!!」

 

『蒼天すでに死す、黄天まさに立つべしッ!!!』

 

「全軍突撃ぃぃいいいいいい!!!!!」

 

『おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』

 

その声は遠く戦っていた趙弘や郁、青怜にまで聞こえた。そして張曼成率いる本隊20000が青怜の指揮する第三軍に向かって激流の如く、突撃を開始したのだった。

 

青怜side

 

先陣の指揮を郁に任せ、私はその成り行きを後方でしばらく見守っていた。前線では今も私たちの兵と黄巾賊が絡み合い、突き刺し合い、激しい戦闘を繰り返している。

 

全く、今までのような楽な戦闘なりそうにないわね。

 

「さすがは張曼成、そこら辺の黄巾賊とは違うわ。こっちの犠牲も少なくないわね」

 

そう呟いた瞬間に、少し遠い敵本隊から声が聞こえてきた。

 

「全軍突撃ぃぃいいいいいい!!!!!」

 

『おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』

 

そして張曼成率いる本隊が先陣である歩兵部隊に向かって突き進んできたのだ。

 

「やっと食らいついたわね」

 

手に持った扇で顔半分隠しながら私はそのことを冷静に確認する。

 

ここまでは予想通り。

 

「白蓮たちに伝令を」

 

「はっ」

 

「それと郁にも『時間よ』と」

 

「御意」

 

近くいた伝令にそう伝えると私は後陣の第三軍の前に進み、大きく息を吸う。

 

「もうすぐ敵がくるわ!でもあなたたちならやれるはずよ!!誰であろうと容赦はするなッ!!」

 

『応ッ!!!』

 

「よろしい、第一陣構えッ!!!」

 

先頭の兵が身体を覆うような大きな盾を構え、それが横陣一列に並んだ。そしてその間から長槍を構え、槍衾を敷いた。

 

「前進なさいッ!!」

 

◆◇◆◇

 

第三軍の重装歩兵が持つ剣の名は「グラディウス・ヒスパニエンシス」、かつてあのハンニバルをザマの戦いで破った共和政ローマの英雄、スキピオ・アフリカヌスがスペインで導入し、以後正式なローマ軍の装備となったものだ。

 

そしてこの身体を覆うような大きな盾を構えさせ、それが前中後の三段階に続く陣形に重装歩兵に長槍にしては少し短い槍。もうわかるだろうが歴史上前面に驚異的な強さを持ったあのファランクスの発展系であるローマ軍のレギオン、それも戦況に柔軟に対応できる歩兵中隊を中心としたマニプルス式だ。

 

これらの武装に戦術が合わさるとき、個々の兵士はまさしく一つの生き物の様な軍と化す。

 

郁のいた先陣の中央が割れ、そこから激流のような黄巾賊が青怜の第三軍に向かってきた。

 

「前進なさいッ!!」

 

青怜の檄が彼女の配下である重装歩兵の軍団、レギオンに響く。そして銅鑼が鳴り響き、戦列を整えた第一陣が揃って前進し、黄巾賊を迎え討つ。

 

「敵を蹴散らしなさいっっ!!!」

 

彼女が叫ぶと同時に黄巾賊がそのままの勢いで公孫軍4000の重装歩兵にぶつかった。しかし、そこで流される血はあまりにも一方的であった。

 

始めの方は槍で一方的に刺し、突撃してきた黄巾の兵を無残にも殺していく。何度もそれを繰り返すと槍は消耗し、折れたり曲がったりした。そこで重装歩兵はその槍をすぐに捨て、グラディウス・ヒスパニエンシスを抜く。

 

重装歩兵に大盾、槍、そして「グラディウス・ヒスパニエンシス」とマニプルス式レギオンのこれらが合わさったこの戦場の最前線では軍団同士がぶつかり合い、混雑とした白兵戦に突入した。

 

当初長槍で一方的に攻撃してきた重装歩兵はグラディウス・ヒスパニエンシスを抜くと、容赦なく振るう。

 

普通の剣よりも短いグラディウス・ヒスパニエンシス、通称グラディウスは混雑した白兵戦の時にその武器としての性能を十分に発揮する。狭く混雑した前線では従来の剣は長すぎてうまく振るうことができない。しかし、この混雑した前線ではそのグラディウスが十全にその性能を発揮し、多くの黄巾賊の腹に突き刺さり、大地を血で染めていく。

 

それはそうだろう。そのために従来の剣より長さを短く、両刃にした。混雑した狭い状況でも相手を刺しやすく、切りやすいようにした。そして耐久力を高めるために肉厚にし、長時間の戦闘に耐えられるようにしたのだ。

 

そして身体を覆うような大きな盾が相手の剣を防ぎ、さらに黄巾賊の剣がチェインメイルのような重装歩兵の鎧に弾かれるか、少しだけ傷を与えるにとどまる。そのために身体を覆うような大盾を用意し、戦存率を高めるための重装備なのだ。

 

また彼らの後方からは第一波の射で後退した弓兵からの矢が再び黄巾賊に襲い掛かり、さらに被害を拡大させていく。そのためのマニプルス式である。

 

それらに加え、長槍等も郁のいた先陣と戦ったおかげでほとんどが失われており、相手は勢いだけで進む黄巾賊だ。戦列の交代もなしにそのまま第三軍とぶつかり、黄巾賊の先陣のほとんどは疲弊し、ただ討ち取られていく。

 

戦端は開かれたが、その被害は何も装備していない剣だけを持っただけの黄巾賊の方が圧倒的に多く、瞬く間に死体の山が築き上げられる。

 

そしてすぐさま敵の後衛との戦闘に突入したのであった。

 

趙弘side

 

俺たちが先陣となり、大将が合流するとほぼ同時に敵の先陣が割れた。そう自分たちが相手の前衛を勢いと物量で中央突破したのだ。

 

「そのまま進めッ!!敵大将の頸、我らがとるのだッ!!!」

 

『おおおおおおおおおおおッ!!!!!!!!』

 

俺たちはいつも通りに先陣を抜いた勢いのまま後ろにいる敵本陣に突撃しようとした。そして敵先陣を抜いたところにそれが現れたのだ。

 

大きな盾を持った敵兵たちが横一列に並び、まるで俺たちの前に小さな壁ができたように感じた。それを見た兵が動揺し、自然と進む速さ緩む。

 

「立ち止まるなッ!!突き進めッ!!!」

 

俺は足を止めそうになった兵に向かって叫んだ。どのみち前に進まなければならないし、ここで止まっていても大将の兵に後ろから押されるのだ。進むしかないし、今までそうであったので迷わなかった。

 

だが俺たちが敵の本隊とぶつかった瞬間に兵の前進が止まる。前線のあちこちでの槍による長柄を活かした一方な刺殺が始まった。

 

頭の中が真っ白になる。

 

なぜなら今まで俺たちの数と勢いに任せた突撃を止めた相手などいなかったからだ。そこら辺のいつもの官軍だったら数と勢いに負けて後退し、最後には敗走するはずだった。

 

だが目の前の軍は官軍ではないことに俺は今になって気がついた。

 

目の前に風に揺れる大きな旗が目に入る。

 

 

相手はただの官軍ではない。

 

 

その旗は「公」を掲げている。

 

 

目の前にいる相手は常に前線で戦っている強者たち。

 

 

幾度と異民族からこの地を守ってきた幽州の守護者。

 

 

そう、それは北の雄―――――

 

 

公孫賛。

 

◆◇◆◇

 

青怜率いる第三軍が趙弘率いる黄巾賊とぶつかる前、第三軍は見慣れぬ戦列によって足が鈍った相手に前進することで敵が勢いをつける前に距離を詰めた。元々先陣である歩兵からほとんど離れていない距離だったのに、足を止めそうになった黄巾賊との距離をさらに詰めることによってそのスペースをなくし、敵の勢いを殺したのだ。

 

そうして敵の勢いを殺し、敵先陣を立ち止まらせることによって後方から合流した張曼成の黄巾賊本隊も完全に足を止めることになった。そうしている間に郁が率いる先陣は中央をから分かれたまま、敵の両側面に回って再び攻撃開始したのだ。

 

 

黄巾side

 

張曼成は焦っていた。いつもならここで相手が後退を始め、最後には敗走する予定だった。しかし、敵の本隊とこちらが戦い始めるとその予定が崩れ始めたのだ。

 

自分たちは激流だと彼は思っている。数と勢いに任せた激流で相手を飲み込むのだ。しかし、その激流であるはずの自分たちが塞き止められた。敵の本隊という激流の先に現れた大きな壁に。

 

彼は前線を見る。趙弘が奮戦しているが一向にその壁を突破することは難しそうだった。だが、前に進まなければ相手は倒せない。そして何より相手より多く、まだ勢いが衰えていない自分たち本隊がいる。彼と共に戦ってきた仲間たちが。

 

そのことが彼の判断を誤らせた。

 

「趙弘と共に前へ出るぞ」

 

仲間がいるからこそ自分自身が前に出て、混乱している前線を立て直し、士気を上げ、敵の壁を穿つ。

 

「俺に続け!」

 

『応ッ!!』

 

混乱している前線を立て直すために、張曼成は前に出た。

 

そうすると前線の混乱少しは収まり、そして自分たちの大将が前に出てきたことで黄巾の士気が上がり、いくらかは持ちなおす。

 

「進めッ!!」

 

その号令と共に今まで温存されていた張曼成子飼いの20000が遂に先陣へと立った。

 

青怜side

 

「抜かれるな!押し返せッ!!」

 

第一陣にそう檄を飛ばしながら私は前線で指揮をしばらくしていると、敵前線に混乱が生まれ始めた。それは相手の無防備な横腹に中央から分離した歩兵を率いる郁が戦力を立て直して攻撃を加え始めたのだろう。慌てふためく敵に向かって重装歩兵の短剣と弓兵の援護射撃が容赦なく敵の命を加速的に奪っている。

 

兵の士気は上々、敵は混乱中。さらに敵部隊は交代せず、休息はしていない。前線を押し上げるなら今ね。

 

「今よッ!前線を押し上げなさいッ!!」

 

私の声とほぼ同時に第一陣が前進し、前線を押し上げていく。これで前線ではこちらの有利にことが運ぶはずだ。

 

前線を押し上げたことで私は敵本隊を見ると徐々に迫ってきているのが見えた。どうやら敵軍大将の張曼成がなかなか抜けない私たちに、ついに出張ってくるようだ。

 

私は第一陣の兵を見る。中央が抜かれてから大分戦っているがまだまだ耐えきれると感じる。しかしそれでもいくらかは疲弊はしていた。倍の数の敵をずっと相手にしているのだ、精神的にも体力的にも消耗しない方がおかしい。

 

……戦列は交代した方がよさそうね。

 

そうしなければこのまま無傷の敵本隊とやり合うことになるだろう。こちらから見ても敵は10000の倍はいそうだ。それをこのまま戦い続けると戦列交代させる機を逃すことになりかねない。

 

「第二陣用意!戦列を変えるわッ!!」

 

そう指示を出すと第二陣の左端から順番に動きだし始めた。

 

「矢は気にせずに弓兵は援護を密にしなさいッ!!」

 

私がそう言うと今まで矢をいつもより少しだけ温存していた弓兵からの矢が先ほどより多く戦列交代をしている第一陣前方へと密集して飛んでいく。

 

そして左から順に第一陣と戦列を交代し始め、第二陣が先陣となって戦闘に入る。後退していく第一陣の百人長にしばしの休息と隊の立て直しを命じ、私は第二陣の指揮に戻る。

 

そろそろかしら?あの本隊が来るのは。

 

第一陣と第二陣の交代が間もなく終わる。そして第二陣が完全に先陣となるとすぐに敵本隊を率いる張曼成の軍団がやってきた。

 

はてさて、敵将張曼成。私子飼いの兵にあなたは一体どれだけやるのかしら?

 

そう思案している間にも第二陣と敵本隊がそのまま戦闘に入った。

 

◆◇◆◇

 

第二陣と敵本隊の戦いは苛烈を極めた。重装歩兵のほとんどは防具をつけていない敵兵を容赦なくその手に持った短剣で突き刺し、夥しい量の出血を敵に与える。だが、その出血を恐れることなく張曼成の古参兵たちは第二陣にその身ごと突撃し,至るところでは盾を挟んで押し合いのようになり始めたのだ。

 

その自分の命さえ顧みない黄巾賊の文字通り捨て身の突撃は交代したばかりの第二陣に少なくない損害を与えたのであった。

 

「どけッ!!!」

「押し返せッ!!」

 

互いの怒声が雄叫びが響き合い、前線ではこの戦いで一番激しくなった。

 

「おら、死ねッ!!!」

 

自らの大将である張曼成のために、古参兵は身を投げ出すように第二陣を一心不乱に攻撃する。

 

「賊が、調子に乗るなッ!!!」

 

対して第二陣も負けず劣らずに突っ込んできた古参兵の胸に剣を突き刺し、地に沈め、黄巾賊本隊の前進を阻み、逆に反撃に出る。

 

激しい激流がそれを阻む壁に襲い掛かる。一瞬でも張りつめている気を抜けばそこから崩壊しそうなほど強烈だった。

 

それを北の大地で戦ってきた青怜とその子飼いの重装歩兵第二陣は理解していた。だからこそ、彼らは反撃の手を緩めなかった。一度でもこの反撃の手を緩めれば、そこから一気に黄巾賊の激流に飲みこまれるからだ。

 

一進一退の攻防が続く。まるで命を燃やしつくような激しい古参兵の攻撃は苛烈を極め、それを阻む第二陣もよく調練され、戦場で培った経験と技術で対抗し、前線では均衡が生みだされた。

 

しかし、その均衡はいつまでも続くことはなかった。

 

なぜなら公孫軍には第三軍以外にも勇猛果敢な最強の騎兵戦力がまだこの戦場に現れていなかったからだ。

 

黒蓮side

 

戦端が開かれてから随分と時間が過ぎた。もうすでに太陽が真上を越えて西に傾きつつある。そんな風に私を照らす太陽を見ていると青怜から突撃の合図である鏑矢が大空に響いた。

 

このように私たち公孫軍騎兵隊の合図は鏑矢で行われる。それによって突撃の方向や合図を支持するのである。そのことを理解した兵たちがゆっくりと動き出す。

 

「子則様の策がなったようですね」

 

「ああ、そのようだ」

 

どうやら青怜はうまくやったらしい。今頃は敵本隊と張曼成を引きずり出し、第三軍で足止めしているのだろう。

 

「よし、我らも動くぞ!」

 

『応ッ!!』

 

そして戦場から少し離れていた私たち黒馬義従を先頭にした騎兵3000は敵陣の後方に向かって進軍を開始した。今ごろ姉さんも同じように動きだしているころだろう。私たちが敵の右後方から突撃し、姉さんが逆の左後方から突撃するのが今回の戦のシナリオだ。

 

そうしている間に敵の本隊の後ろが見えてきた。敵の足が完全に止まり、最前線の方では激しい白兵戦が繰り広げられていた。そしてわざと中央突破を許した郁率いる先陣が敵の側面に回っており、そこから敵の横腹に槍を突き刺している。

 

今のところ戦況は私たちに有利に動いている。後は私と姉さんが後ろから突撃すれば完全なる包囲陣が出来上がるだろう。

 

「全員突撃準備!」

 

私がそう叫ぶと、私を先頭に騎兵3000が馬上で長槍、コルセスカに似た騎槍を構えた。

 

このコルセスカに似た騎槍は独自に公孫の騎兵部隊に使っている物である。槍の先端は鋭く尖っており、その横に垂直に反り返った刃がついている。この刃は騎兵の突撃により、相手を深く突き刺さらないようにする役割を持つ。そしてこの横の刃が深く敵の身を貫くことを防止し、その突撃の持久力を通常よりも高めている。

 

「襲歩(ギャロップ)ッ!!」

 

私を先頭にした魚鱗の陣で徐々に加速していく。馬術である襲歩、つまり全速力にあたる突撃速度である。

 

「敵中へ突入する、私に続けぇぇぇえええ!!!!」

 

『おおおおおおおおおッ!!!!』

 

そして無防備な敵の背後から騎兵3000が全速力で襲いかかった。

 

黄巾side

 

前線で戦っていた張曼成も趙弘も背後から接近してきた騎兵部隊に気が付いたのは、後方に襲いかかられた瞬間だった。

 

「て、敵襲だぁぁああああ!!!!」

 

背後にいる兵たちから悲鳴が上がる。それと同時に二人は声のした方を向くと鮮血が空高く舞っていたのだ。

 

「こっちも来たぞぉぉおおお!!!!」

 

そして反対側の方からも悲鳴が上がった。突っ込んできたのは黒馬の集団に率いられた部隊と白馬の集団に率いられた部隊の二つ。前者は本体の右後方から、後者は左後方から黄巾賊にそれぞれ突撃してきた。

 

どちらの突撃も今まで相手にしてきたどの騎兵部隊の攻撃よりも一線を越えていた。特に黒馬に乗った部隊は目の前にいる黄巾の兵たちをまるで雑草のように薙ぎ払い、鮮血の嵐が吹き荒れる。それはまるで天災ようであり、それほどまでに突き進んでいる者たちの攻撃は苛烈を極めていた。

 

恐らく黒馬の方が妹の公孫越、そして白馬の方が公孫賛のはずだ。それは彼女らが乗っている馬を見て張曼成はすぐさま理解する。

 

後ろから攻撃を受けた部隊が次々にその命を狩られていき、混乱しながら押され、前線へと黄巾の兵たちが慌てて殺到する。しかし、前方には今まで抜けなかった青怜率いる第三軍がおり、こちらも抜けられそうにない。すでに側面には相手の歩兵がいることに気が付いていた張曼成はこの戦の敗北を悟った。自分たち激流が背後から塞き止められたのである。勢いがなくなった激流は穏やかな清流になるのみ。今はまだ勢いが止まっていないが、そのうち士気も前線も崩壊するだろう。

 

「俺はここで死ぬ……か」

 

そう呟き、彼は天を仰ぎ見る。いつかは来ると思っていたが、それが今日だとは彼もその子飼いの古参兵も思ってもみなかった。自分の死期を悟ったが、それをたやすく認められるほど彼は往生際がいいわけでもなかった。

 

彼は今も混乱する自分の兵たちを見渡した。

 

共に笑い、共に泣き、共に怒り、共に戦ってきた者たちだ。

 

彼にとってまぎれもなく戦友であり、家族であり、そして喜んで自分の命を投げ出せる者たちだった。だからこそここで無駄死にさせるわけにはいかない、そう彼は胸の奥で誓う。

 

「諦めるのはまだ早い、一人でも多くこの死地から生き残らせなきゃならない」

 

張曼成はそう自分に言い聞かせながら手に持っていた直槍を再度握り直し、戦場を見渡した。

 

(左側面には不自然に空いた穴があるが、あれはわざと残した逃げ道だろう。あそこを通るのは敵の罠に自分から足を突っ込むことになるはずだ)

 

冷静にそう判断し、今度は逆を見る。右側面の前は確かにふさがれているが、そこからの攻撃は左と比べると少しと劣って見えた。ちょっとした左右の攻撃から指揮が左と比べると拙いことに彼は気が付いたのだ。

 

その通りである。左側面の歩兵部隊の指揮は郁がとっており、逆の右側面の指揮は郁の副官であったのだ。そのため左では正確な指揮がなされていたが、右は拙くなってしまったのであった。

 

「あそこを抜ければいけるか?」

 

だが問題はそれより後方の公孫越の部隊である。あいつらに横腹を刺されれば、たちまち足止めされ、そこでなぶり殺しになる。誰かがあれを止めなければならない。

 

そう判断した彼の行動は早かった。前線から戻ってきた副官である趙弘を呼ぶ。

 

そうすると彼は混乱している味方を少しでも収めようと奮闘していたところであった。

 

「大将!どうするんですか!?」

 

張曼成の前に着くと同時に彼は自分の大将に質問した。彼自身も相当焦っているのだろう、その顔には冷や汗がはっきりと浮かんでいる。

 

「お前はあそこから抜けろ」

 

そう張曼成は自分たちの右側面前方を指差して言った。それを瞬時に理解した趙弘は自分たちの大将に問う。

 

「大将はいかがなさるのですか?」

 

「あれを止める、そのうちにお前たちは抜けろ」

 

つまり自分という大将頸を囮としてあの騎兵部隊を足止めしている間に、まだ無事な兵を連れてこの包囲網から脱出しろ、と言ったのだ。その瞬間、周りにいた古参兵たちが揃って自分たちの大将の方を向いた。

 

「それには従えません」

 

だが趙弘はそれを拒否した。

 

「これは命令だ、従え!!」

 

「いいえ、従いません」

 

彼は手に握っていた直槍の切っ先を趙弘の頸へと突きつけた。

 

「従わないのなら、大将の命令に背いた罰として処罰するぞ」

 

「どうぞ、ご勝手に。すでに私の死は見えています、遅いか早いかの問題ですよ」

 

張曼成は趙弘の眼を見る。固くなにその命令には従わないという明白な意思を感じ取った彼はため息をついて槍を降ろした。

 

「お前、馬鹿だな」

 

「よく言われます」

 

そう呆れながら言った自らの大将である張曼成に向かって、趙弘は笑いながら答えた。

 

「自分たちの大将はあなたです。ならばあなたと共に生き、あなたと共に死にますよ」

 

「そうだぜ、大将」

「大将、俺たちを置いてくんじゃないっすよ」

「どこまでもついていきますぜ、大将」

 

そう言った趙弘の周りにいた古参兵たちが揃いも揃って「大将についていく」と言う。

 

自分たちの大将を、家族を、そして戦友おいて逃げるなんてことはできない、と。

 

「本当に馬鹿な奴ばっかだな」

 

張曼成は泣きそうになりながら自分の戦友たちに言うと、彼らは当たり前だ、と笑っていた。自分たちは偉い人でも、役人でもねぇ、ただの農民なんだからよ。馬鹿しかいねぇ、と。

 

「ほんと馬鹿な奴らだよ、お前らは」

 

張曼成は今にも溢れそうな激情の中で、彼らに感謝した。こんな自分に最後まで自分の命を預けてくれるなんて。

 

「なら俺があいつを、お前があっちを倒すしかないな」

 

指差したのは騎兵部隊の先頭で今もなお、この戦場で最も兵たちの命を狩っている黒い鎧を着た公孫越と敵の総大将で白馬に乗った公孫賛の二人だ。前者の彼女からは武人特有の鋭く、そして何よりも強い意志を感じられ、後者からも同じように強い意思を感じた。

 

そして張曼成と趙弘は自分の武力を確認し、自らの相手を見据えた。張曼成は武力で秀でている公孫越を、趙弘はそれよりも低い武力の総大将公孫賛を。

 

「あれですか?」

 

「ああ、あれだ」

 

心底嫌そうな顔をした趙弘に彼は辞めるなら今だぞ、と目で聞くと彼は仕方がないですね、とため息をついて頷いた。

 

「わかりました、私が戻るまで死なないでくださいよ」

 

「誰に言ってんだ、馬鹿野郎」

 

「あなたにですよ」

 

そう言って二人は戦友と共にそれぞれの敵へと向かって行った。

 




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