真・恋姫で地味ヒロインの妹してます   作:千仭

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あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

更新頻度は一か月ぐらいになると思います。

拙い文章ですが、楽しんでいただけると幸いです。

よろしくお願いします。


根回し

日が暮れ、あたり一面が真っ暗になったころに私たち公孫家の面子は曹孟徳のいる天幕にいた。

 

とりあえず会ってみた曹孟徳の印象はただ一つ、カリスマだ。某吸血鬼のカリスマ(笑)と違い、ガチである。なんかあのツインテールとかなんとか言えないレベルのカリスマでだ、生まれ持った才能が溢れんばかりの覇気として自然と出ている。

 

既に互いの自己紹介は終わり、両陣営9人が向かい合っている。曹操陣営が曹操、従妹の曹洪、夏候姉妹、あとはネコ耳フードのあの軍師である荀彧である。対してこちらの陣営は姉さんに私、郁に絃央である。

 

「さて、自己紹介が済んだところで一体何のための会談なのかしら?」

 

「何のためか……」

 

姉さんもったいぶってそう言うと、彼女の後ろにいた姉妹の圧力が増す。どうやら主導権を取りたいらしく、まずは圧力で攻めてくる。だがこれぐらいの圧力なんかは戦場の空気に比べればたいしたこともない、そして私らも圧力を増させる。

 

それに功でいえば私たちは対等、中央寄りの彼女たちだが態度を変える必要はない。まぁ、並みの人間なら彼女のカリスマともいえる覇気に屈するか、それとも心酔するかもしれんが。

 

「それはあなたも分かっているのではないのか?かの高名な曹孟徳ともあろうものが」

 

「さて、私にはさっぱり分からないわ。わざわざ黄巾賊討伐の前に話すことなんてあるのかしら」

 

まどろっこしい問答が続く。中々本題に入らない様子に姉の夏候惇がイライラし始めている。主人である曹操の許可がないために発言はしないが、それでも何かを言いたそうに眉をピクピクとしている。さらにさっきから彼女に向かって鋭い視線を私が向けているため、手出しさせないようにしている。

 

「そうだな……率直に聞く。この黄巾賊の反乱……どう見る?」

 

姉さんも面倒なことが嫌いな性格なのですぐさま本題に入った。今のところ主導権はまだこちら、でも一気にひっくり返りそうで怖いな。

 

「……どう、とは?」

 

「わかっているのだろう……いや、分からないはずがない」

 

そんな無能であるはずがない。そう態度で示した姉さんに相手の陣営は激しく怒りの空気を醸し出す。先程よりもピンと張りつめた空気が天幕内を支配する。

 

「そうね、分からない方が愚かだわ」

 

「だろう、それでだ。袁本初をどう見る?同じ学び舎で学んだあなたに聞きたい」

 

「ああ、彼女ね……。強いて言えば噂通りよ」

 

「…………」

 

それを聞いた姉さんが驚きを隠さずに素で驚く。巷の噂では袁紹とはとりあえず馬鹿で、高笑いが好きな典型的な自信家のような奴だと。思いつき何かをやらかし、なのに名門袁家ということで朝廷に近く、伝手も多く持っている、とのことだ。

 

まさか噂通りとは思わなかった、というか曹操が話してくれるとは思わなかった姉さんは驚きを隠せないでいる。どうでもいいが。

 

「それがどうしたのかしら?」

 

曹操が面白そうにこちらを見てくる、どうやら私たちの狙いが薄々感づかれ始めたようだが恐らく確信には至ってないだろう。いや、彼女のことだから気が付いている可能性もある。

 

「そ、そうだな。それで貴殿は彼女と組めるか?」

 

「いえ、無理でしょうね。麗羽が私と組むことはありえないわ」

 

「そうか、なら我ら公孫家は袁紹と組む。だから貴殿らは官軍と、それでいいか?」

 

「ええ、大丈夫よ。というよりも私たちの目的も同じようなものだから。今回の会談はこれが目的?」

 

「ああ、それと幾つかな」

 

一番権力と規模がある官軍がいるこの陣地で、まだ漢の影響があるこの地で今のような話が出るのはおかしい。この話は暗に漢よりも袁紹や何大将軍と組むか、それとも朝廷と関わり合いたくない、はたまた両方と言っていることでもある。

 

一番目は貿易などでつながりがあるが、そもそも何大将軍の官軍から離れることということ潜在的敵対勢力であるから曹操も思わないだろう。なら答えは後者の二択が正しい。どちらにしろ中央の争いに加担しないことを意味する。

 

それも既に確固たる幽州での地位、漢にとってはなくてはならない場所の砦、最前線にして中華の門を守っている公孫家がだ。朝廷とて下手な手を出せば一気に異民族が華北を略奪しに進軍し、そして洛陽近くまで来るだろう、実際に史実では冀州まで入り込まれており、略奪を繰り返している。

 

その最後の砦でもある幽州の私たち公孫家にこれ以上負担や地位を下げるようなことがあればそれは現実になる。今は朝廷が、というより十常侍が生かさず殺さずの予算や権限で私たちを飼っているが、今回の乱でそれも崩れそうだ。十常侍と官軍、それも袁家と仲の良い何大将軍との争いを避けるために私らは今から動き出している。

 

それでもその関係にある仲臣たる公孫家が朝廷との争いに巻き込まれないように、わざわざ官軍からも手を引くような真似を事前に根回しをするとは驚くべきことだ。

 

「傍観する気なの?朝廷に忠心とも言われるあなたが?」

 

「それは分からんが、私たち公孫家が一番に気にするべきものは幽州だ。身内の争いは勝手にしてくれ、どう足掻いても辺境の私たちには手の出しようもないことだ」

 

そう、辺境の公孫家が中央の争いに加担することはできない。やっても啄郡のみの蜂起だろう。現幽州を治めているのは皇帝の一族である劉虞である。その権力は宗家である以上私たちより大きいのは確実、ならわざわざ戦うのを早める必要ない。まだその時でない以上、富国に力を注ぐべきだ。

 

そもそも今回の会談は顔見せ兼他勢力とのパイプ作りである。なら後のことは後で考えればいい。

 

「それに仰ぐべき上がいつまであるとも限らないだろ?どちらにしろ、私らは今までと同じように異民族を相手にするんだ、馬鹿馬鹿しいことに力を使っていられない」

 

「そうね、それには賛成よ……でも貴方たちは何時、何処で、誰に向かってその力を使うのかしら?」

 

好戦的な笑みで彼女が出した答えは、敵が誰であるかを明白に問い質す言葉であった。どうやら私たちは既に彼女にとって敵として認識されているらしい。まずは意識させることに成功である。

 

だが嫌な予感がしきり走る、彼女がここまで真っ直ぐに問い質すとは非常にやりずらい。

 

かの有名な人は言った。

 

「狐の如く狡猾で、獅子の如く獰猛でなければならない」

 

狡猾な狐なら囲んで追い込めばいい、ただ獰猛な獅子であるだけなら罠を巡らせればいい、だがその二つを持っている彼女には隙がない。

 

はてさて、マキャベリさんよ。こんな覇王はいかがしたらいいのだろうか?

 

「それは分からない、何処まで行くのかこの先判断し辛い」

 

「そう……ならまだ私たちは敵対していないわね」

 

「そういうことだ、他にもいくつか提案したいがいいか?」

 

「あら、何かしら。辺境の公孫家が一体私たちに何を望むと言うの?」

 

「うむ、通商協定と人材交流だ」

 

そこで繰り出したのがこの二つ。主にうちの商品は馬や獣関係である。軍馬や毛皮、馬用の鎧等騎兵に関してのものが多い。

 

「通商協定の件は……そうね、引き受けましょう。ちょうど私たちもどこかの地域としたかったのよ」

 

「華琳様、細かいところは後日ゆっくりと決めればいいでしょう、そちらも?」

 

「こちらとしても異論はない」

 

「問題なのは人材交流ね、一体どうしようというの?」

 

笑みを浮かべた曹操は一切こちらの提案を断っていない、不安である。目の前の姉さんも同じように考えているだろう。

 

「簡単だ、客将と少数の軍団を両陣営に、期間付きでどうだ?我らは騎兵の扱いは長けるが歩兵がな。代わりにそちらは騎兵ということだ」

 

つまり曹操の歩兵強い(たぶん)だからその調練や装備などの情報くれ。代わりにこっちの技術とかやるからさ、ということだ。まぁ、うちの兵法なんかそうそう真似できないけど。

 

「なるほど……でも私たちは半端な騎兵はいらないわ」

 

「それはこちらも同じ。貴殿らの歩兵にその価値があれば、だが」

 

そう言った瞬間、さらに夏候惇の眦が吊り上り、同じく夏候淵も青筋が浮かびそうなほどに険しい顔をしている。だからと言って私も郁も絃央も澄ました顔でそれを無視する、潜ってきた修羅場は伊達じゃない。こんなことで取り乱すほど、辺境はやわじゃない。

 

「それはあなたたちにも言えることじゃないかしら?」

 

そう切り返された姉さんは黙って私を指差して堂々と言う。

 

「証明して見せようか?戦場はすぐ近くだ、そちらから好きな士官を一人くれ」

 

はぁ……苦労するのはいつも私だ。

 

そして彼女らの利用価値があるかを判断するために戦の前に会談するのだ。それにそれだけの将がいるか、戦って勝てるのか、それを見極めるのが私にとっての一番の目的かもしれん、公孫家には違うが。

 

「貴殿らに公孫家の流儀をしっかりと見せつければな。言葉は不要、後は戦場で語るのみだ」

 

「たいした自信ね?それなら見せてもらいましょう、それとそちらも一人士官を頂戴。この曹孟徳にそこまで言うならこちらも見せてあげましょう」

 

「はい、華琳様!この春蘭、全身全霊をかけてその命を遂行いたしましょう!!」

 

「姉者、私の事も忘れるな。こちらの流儀もしっかりとお見せしなければ失礼だろう」

 

3人そろって笑い合う。そうなれば自然と闘気が満ち溢れ、天幕が溢れんばかりの氣で満たされる。視線の交差をしながら私たちはその闘気を抑え込むどころかどんどん発氣する。

 

それを見ている我らの主は片や本当に楽しんでいる者と戦々恐々としている者がいる。どちらがどちらとは言わないが……。

 

「さて、話はこれで終わりだ。あの賊を倒した後、もう一度私はここに来る」

 

「あら、もう帰ってしまうなんてつれないわね?あなたの妹さん、どう?一緒に寝ない?」

 

その言葉に私はまさか自分がその標的になるとは思っていなかったので固まる。何も言葉が出ない、一体どうしろと言うのか?

 

断ろう、うん、断ろう。なんか嫌な未来しか浮かばない、キマシタワーなんて御免である。

 

「生憎だが私にその趣味はない」

 

「それは残念、あなたの妹さんを随分と気に入ったのだけれど。どう?私にくれないかしら?」

 

「こいつはダメだ、代わりにいいのを紹介しようか?」

 

「どの子かしら?」

 

「義勇軍の関雲長。美しい黒髪で長身の武人だ、貴殿なら好きだろう?」

 

姉さん、関羽のことを売ったな。いや、慌てて咄嗟にでたのが彼女だっただけか。私に害があるわけでもないからどうでもいいな。

 

「あら!あの子は是非ほしいわ」

 

「それは本人に聞いてくれ、会うなら紹介する」

 

「ええ、楽しみしてる♪」

 

「お姉さまばかりずるいですわね、私にもどなたかいませんの?」

 

「すまんが貴殿の好みが分からない以上、こちらから紹介できない。まぁ、残っているのは背が小さい者とがいるが……」

 

いきなり話に混じりはじめた曹洪がそう言うと、姉さんはまさかと思いながらも返事をしている。

 

「ッ!?その子は?可愛らしい小さな女の子かしら!?」

 

「あ、ああ。隣にいる軍師殿よりも小さい子がいるにはいるが……」

 

「是非私に紹介してくださいませ!!」

 

「わ、分かった。その者も義勇軍の者だ。名は張翼徳と言う、後で関雲長と一緒に紹介しよう」

 

「ありがとうございますわ♪」

 

この一族は全くそうなのだろう……二人とも語尾が浮かれているのは気のせいだろうか。私には関係ないからどうでもよいが、知らぬ間に生贄が二人できた。

 

「では、後のことは戦後に」

 

「そうね……と言いたいところだけど。私たちもあなたに求めることがあるの」

 

やっぱり来たか。ただで終わると思っていなかっただけで私たちも自然と態度が固くなる。一体何を求められるのか、それがこちらには分からない。

 

「私たちからの要請はただ一つ、明日明朝に軍議があることは知っているわね?そこでこちらの意見に賛成して頂戴」

 

「それだけか?」

 

「ええ、それだけよ」

 

それが怖い、一体何を提案するのだろうか。その『何』が怖い、一体何に賛成しろと言うのだ。

 

姉さんもそれを怪しんで考え込むが通商協定と人材交流を天秤にかけると賛成せねばならない。どうなっても曹操が台頭するのは歴史が証明している。

 

「……わかった、それなら了承しよう。それで明日の軍議に何を言うんだ?」

 

「それは明日になってからのお楽しみよ」

 

「ふむ……我らにも教えられないか?」

 

「別に?ただ陣とかについて少しね」

 

「なるほど……」

 

怪しい、怪しすぎるがこちらにはそれを聞くだけの手札がなく、そして陣と言えば軍事関係の話だ。機密の部分になり、今はまだ協力者、同盟でない以上聞いても何もそこから得られない。だからこそ何も言えずにこの場から去るしかない。拭いきれない嫌な予感が私の頭の中をぐるぐるとまわる。

 

なんかやばいものを引いたかもしれないな。

 

「では明日の軍議でまた会おう」

 

「そうね」

 

そうして私等は天幕を出る。そしてしばらく誰もしゃべらないまま私たちの陣地へと戻り、そして天幕へと入ると同時に姉さんは地面に崩れ落ちた。

 

「……なぁ」

 

「何だ?」

 

「あれで大丈夫だったか?」

 

「たぶん、と言いたいところだが明日の軍議が気になる。奴は十中八九何かを起こすだろう、巻き込まれたな」

 

「そうね……でも白蓮にしてはいい線よ。そこだけがどうしようもなかったけど」

 

「なんか……すまん」

 

それを私と郁から聞いた姉さんは俯いて謝る。でも私も何も言えないから責めるつもりはない、それは郁も同じだ。

 

「なに、相手はあの曹孟徳だ。それだけできていれば大丈夫さ。問題は明日のことだ、誰を行かす?」

 

「私と黒蓮は無理だろう、絃央もだめだ。なら残るは郁しかいないが」

 

「そうなると義勇軍の監視が居なくなるわよ?あの子らじゃ勝手に何かをしそうだから誰かしらほしいわ」

 

「ん~…………しょうがない、絃央が監視をしてくれ、何あった時は私の名前を出せ。そうすれば桃香じゃ無位にもできないはず。注意するのは朱里と雛里だな」

 

「あの2人は現実が見えているからな、それなりのことできるはずだ」

 

例えば兵をどこに集めるとか、あまり交戦しないとかできうる限りや見つからないところでとか。

 

「それはもう置いておけ、確か陣って言っていたな?」

 

「ええ、恐らくは本拠地への侵攻。それへの配置の事だと思うけど……」

 

「配置してはまずいのがあるのか?」

 

「ないだろう……が、足手まといの袁術か?」

 

「いえ、袁紹軍では?」

 

「でも孫家もいるぞ?」

 

「陣に行ってきた限りではそう多くはない。恐らく1万以下5千以上の所だろう、だが古参兵をちらほら見た」

 

そう、あそこにいたほとんどの兵は元孫堅の兵だろう。そして彼女の後継たる孫策に今は従い、この戦場にきている。そのため孫権と違い、その実力を知っている彼らは孫策の方へとどうしても偏ってしまっている。

 

「袁術の兵はそのほとんどが使いものにならないそうだ。しかし兵数だけ言えば官軍の次、3万だ」

 

「ならその線は薄いんじゃないか?」

 

「なら何をやらかす?」

 

「陣は十中八九配置だろう、後は誰がどこを受け持つか……」

 

ダメだ、情報が少ない。先の戦いがあったせいでこちらはまともに情報を集められていない。確か敵総数が20万以上、将は張三兄弟だったはず。他にもいるかもしれんが大丈夫だろう。

 

「今の情報だけじゃ分からないわね。かといってこれから情報を集めるには時間が足りないわ」

 

結局のところ、曹操の手札がわからないので応手を用意できない。とりあえず何かあるのだろうと思って用心しておいた方がいい。どちらにしろ、こちらは既に曹操の要請に承諾しているのだから。

 

「とりあえず何かあるのだろう、姉さんは用心してくれ」

 

「それはよくわかっている、あの感じでどうして油断なんかでてくるんだよ」

 

ごもっとも。

 

「私と郁は引き続き情報を集めよう」

 

「そうね……ここには知り合いの商人がちらほら見えたからそこからあたるわ」

 

「私は他の陣地を偵察がてらに見てくるか」

 

実際時間がない今はそれくらいしかやることがない。

 

「頼むぞ、二人とも。私と絃央でできる限り曹操の手と交渉の内容を詰めておく」

 

「ああ、じゃあ郁。行こうか」

 

「ええ、頼むわね」

 

そう言って私等は姉さんたちを残し、天幕を出て行った。

 

◆◇◆◇

 

曹操軍side

 

公孫家の人間が天幕から出て行った後、華琳らは今までの会談内容を吟味しつつ、公孫家の自体の評価をしていた。

 

「さすがは公孫家と言ったところね、そこいらの者と比べると雲泥の差だわ」

 

「はい、華琳様。明らかに2人の圧力を意にも返していませんでした」

 

桂花はその時のことを思い出す。あの夏候姉妹、曹孟徳の配下では最強の武人である2人の威嚇に全く怯んでいなかった。すぐ隣にいた彼女でさえ向けられていない闘気に心底震えていたと言うのに。

 

「それどころか私に闘気をぶつけてきたぐらいだぞ?妹の方はよほどの武人だ」

 

「他の配下も全く怯んでいなかったわね。それに誰も相当戦慣れしていたわ」

 

それは白蓮が華琳に向かって価値があるかと聞いた瞬間の殺気と怒気が混ざり合った張りつめた空気の中で誰も取り乱した人間が居なかったことから判断した。その空気に慣れるなど、よほどの戦場に出ていなければ身に着かない経験であることを知っていた。

 

「桂花、公孫家の出してきた案をどう見る?」

 

「まず人材交流の方は明らかにこちらの手の内を探りに来ています」

 

「それは分かりきったことよ。まぁ、こちらからも人材を送れることなのだから五分五分と言ったところでしょう。それどころか強力な騎兵がいない私たちの方が利点は多いわ」

 

そう判断したからこそ華琳は公孫家の人間を招くことに同意した。そしてそれは公孫家がいずれは彼女の敵となることを警戒したからであった。事実、華北の冀州にいる袁紹を倒すことができるのなら、その後は公孫家と華琳の一騎打ちである。

 

「または連携の確認かもしれません、袁本初が動くとなると公孫家では対応しきれないはず、ならばこちらと手を組むことも考えられるでしょう」

 

袁紹が軍を動かすなら数の少ない公孫家は不利だ。さらに地理的にも冀州との距離が近いため、本拠地の啄郡を空けることはできない。戦力を集中されれば如何に強力な騎兵がいたとて勝てない。なら分散させるために華琳と手を組むのは考えられ、そのために曹操軍の情報を集めているかもしれない。

 

「まぁ、本音は様子を伺いつつ静観ってところね。でもいずれははっきりとさせてほしいわ」

 

「あのような感じならまず判断を間違えることはないかと思われます。仲間になるなら利用を、敵になれば潰せばいのです」

 

それが華琳のやり方だ。そのことを桂花はよく知っていた。

 

「次に通商協定ですね。あれはおそらく袁紹の戦力を削りきています」

 

「確か公孫家の主な商品は馬だったわね、それも軍馬が多かったはず」

 

「はい、報告ではその通りです。ですが相場はかなり高かったはずで数をそろえるのにかなりの資金が必要だったので主な取引相手は冀州でしたね」

 

「麗羽の所ね、名門袁家は資金が潤沢だからそれなりの取引相手でしょう」

 

そうして華琳は公孫家の軍馬の値段を思い出す。袁家の潜り込ませた商人からの報告によると、袁家は公孫家の軍馬を多く輸入していた。それも通常相場よりも高いのにである。だがそれに見合った軍馬なのだろう、一度袁紹の騎兵を見たことがあるがそこいらの軍馬よりも大きく、それでいて持久力も速さ兼ね備えていたように見えた。

 

「春蘭、秋蘭。あなたたちはたしか麗羽のとこから買った公孫家の軍馬を使っていわね?」

 

「はい、私も秋蘭も随分と前からです」

 

「その軍馬と通常の軍馬を比較なさい。どれだけ公孫家の軍馬が優れているかを知る必要があるわ」

 

そう華琳は公孫家の軍馬の能力を知りたかったのだ。あわよくば通商協定で公孫家の軍馬を安く買い、優れた騎兵部隊を組織しておきたいと考えているからであった。

 

「私の主観では通常に軍馬よりもかなりの持久力があます、それに力強いです。それが一番の印象に残っています」

 

「私の方はよく調教されている点ですね。あれなら経験者なら誰でも簡単に操れるでしょう」

 

「あの大きな軍馬ってそんなに調教されてたの?私はまだ乗ったことがないから分からないけど……」

 

そう言ったのは指揮には必要だが後方にいる桂花である。なので通常の馬で十分であり、公孫家の良い馬を使う必要はなく、使っていなかった。

 

「ああ、戦場では怖がらずに平気で言うこと聞く」

 

実際に黒蓮式に調教されている軍馬は操作性においても優れている。更に鐙などのも開発されており、公孫家では通常よりも速く、それでいてすぐに軍馬を補充する体制を整えていた。だからこそ、騎兵の多い編成が実現可能なのだ。

 

「それは他の軍馬と同じなの?」

 

「いえ、明らかに操作性は公孫家の方が上ですね。それに持久力も段違いですよ」

 

「分かったわ」

 

つまり公孫家の軍馬は速く、持久力もあり、それでいてよく調教されているために通常の軍馬よりも相場がかなり高い。だがその軍馬によく調練された兵が乗ることでさらにその破壊力は跳ね上がる。それが公孫家の強さの秘密だと華琳は気が付いた。

 

「真似するのは無理そうね」

 

「はい、世話係の話じゃ真似どころかどうやったらこんな軍馬が育つのか分からないと」

 

「ならあながち通商協定を結ぶのも間違いじゃないわね。でもね……人材交流はこれを知っていたのかしら?」

 

「かと思われます、実際に公孫家の軍馬を集めて騎兵を作るとなると……」

 

そう言って桂花は金庫番である曹洪のことを見ると彼女はその相場から必要な資金を計算していた。

 

「できないことはありませんわ。ですが騎兵を揃えるのと歩兵の装備を充実させるのがいいか、難しいところです」

 

「華琳様、私はまだ騎兵を整えるのは尚早かと思います」

 

「あら、優秀なら是非取り入れるべきじゃない?」

 

「そうだぞ!桂花!!絶対に騎兵は必要だ!!」

 

「あんたはそうでもこっちは困るのよ!!」

 

「うん?そうなのか?」

 

そう言って頸を傾げる春蘭に桂花はため息をついた。物事を簡単に考えるのは不得意な彼女は難しくなった途端にさらに使い物にならなくなる。

 

「その理由は?」

 

「まず、既存の兵と……特に歩兵との連携が難しいかと。はっきり言ってどうしても持て余すでしょう」

 

「なら別によいではないか」

 

「それが通常の騎兵と同じ働きしかできなかったらただの無駄よ」

 

良い馬を買ったとしてそれが従来の馬と同じ程度の働きしかしないなら意味がない。だからといって少数だけ揃えても意味がなく、中途半端になるなら歩兵にその予算を回した方が良い。

 

「それにまだ私たちの陣営には騎兵をそこまでうまく運用できる将がいません」

 

「なるほどね」

 

「それは何時も通りじゃだめなのか?」

 

華琳が頷く中、春蘭と秋蘭は理解できずにいた。彼女ら確かに馬には乗るが率いている大半は歩兵である。そして実戦の経験からも騎兵を足の速い歩兵のようなものとして捉えていた。ましてや鐙など馬具が皮の鞍ぐらいしかないのでそこまで騎兵を揃えることは時間も資金も人材もなかった。

 

「ええ、というよりも今は私たちの軍でも騎兵はいるけど規模は1000騎程よ。それに比べて公孫家は少なくとも5000騎は騎兵、それも乗り手のほとんどが馬に精通しているの」

 

根本的な運用方法が異なると言っている。大陸で戦う華琳たちに歩兵が主体になるのは当たり前で、黒連たちの考えはどちらかというと異民族の考えに近い。

 

「そんなのと素人の私たちとじゃ運用も思想もすべてが違うのよ。主体が何なんのか、それを考えたときに歩兵しか率いることがない私たちでは騎兵を主に置くのは未知数だわ」

 

「だからこそ限られた者にのみ配置すると?」

 

「その通りです、もしくは他勢力に売るかですね」

 

「そう言えばちょうど河南には袁術と孫家がいたわね?」

 

視線を向けられた曹洪はすぐさまその利益を計算しだす。そしてすぐにその計算を終えると華琳に向かかって頷いた。

 

「さすがはお姉さま、これなら十分利益が出ますわ」

 

「問題はそれがどれくらい相手の戦力増加につながるかなのよね……」

 

「そちらの方は誰かをあちらに送ってから確かめましょう。幸いにここにいる多くの諸侯が張角の首を狙っていますので」

 

「そうね……誰を送ろうかしら。ここにいるあなたたちはだめよ、それで残るのは流琉たちと凪たちね」

 

流琉たちは正直言って料理のことはともかく戦術なんかのことは分からないだろう。なら逆に凪たちはどうか、一応先の義勇軍を率いていた為、それなりの知識はあるはずだ。でもまだこちらについたばかり、正直安心して任せられない。

 

(なら残るのは一人だけね)

 

「栄華、あなたが行きなさい」

 

「私なのですか!?」

 

「ええ、そうよ。現状あなたしかいないからちゃんとそれを確認してきて頂戴」

 

「はぁ……お姉さまの命なら仕方ありませんね。この栄華がしかと公孫家の実力を確認してきましょう」

 

「期待しているわ」

 

「はい、お任せ下さい」

 

華琳の命に全力で答えるための栄華は気合の入った笑みで頷いた。さすがは華琳の従妹であるように気品と言い知れぬ空気を纏っていた。

 

「さてこちらも無様なものは見せられないわよ。春蘭、秋蘭、私の先方を任せるわ、黄巾を堂々と蹴散らしなさい」

 

「「御意!!」」

 

「それと桂花、無様な策は恥と知りなさい。この曹孟徳の流儀を敵に知らしめなさい」

 

「は、お任せ下さい」

 

将と軍師、共に士気は高く、華琳が育てた兵たちもいる。こちらの準備は既に整っており、後は明朝の軍議を経て敵を倒すだけである。そのために公孫家と孫家には仕込みをしており、だからこそ策と武どちらも揃っている彼女に自信はあった。

 

(黄巾賊首領張角の頸、この私がもらうわ)

 

そうして深く笑った彼女に天幕にいた誰もが息を飲む。それは気品に満ちながらも大胆不敵の笑みであり、覇王そのものであった。

 




誤字脱字、感想等ありましたら気軽に書いてくれたら幸いです。

後感想はしっかりと読んで参考にしています。

また、勢力関係ですが複雑すぎると面倒や準備に多く時間を使ってしまうため、
宗教関係などは取り入れず近代のような王や軍隊などの勢力関係にします。

魏→華琳の皇帝主義(華琳様万歳!!魏万歳!!ハイル華琳!!)
蜀→桃香の王権(でも裏では朱里たちがいろいろやってるよ!甘やかされてるよ!!)
呉→絶対王政?(民のことを考えつつ王様やるよ!一番まともだね!)
公孫→白蓮の王政(仲がいいよ!一族経営!!皆で麗羽たちをぶっ飛ばすよ!)
袁紹→麗羽の王政(オーホッホッホ!利用されるけど金も兵もたくさん!)
その他

ぐらいな感じで。

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