真・恋姫で地味ヒロインの妹してます   作:千仭

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拙い文章ですが、楽しんでいただけると幸いです。

それではよろしくお願いします。



軍議

黄巾賊を包囲し、殲滅するための会議、名誉を独り占めするための会議、独立へのための会議、来るべき戦いのための会議と人それぞれではあったが明朝の軍議は始まった。

 

一番上座にいるのは何大乗軍に総大将として任命された皇甫義真将軍である。そしてその近くには曹孟徳、袁本初と中央に近き者が陣取り、そのさらに上座に袁公路と公孫伯珪がいる。そして最後の下座には袁公路陣営の孫伯符、公孫家に取り込まれた義勇軍の劉玄徳がそれぞれ配下の二人を後ろに立たせていた。

 

「まずはこの地に集まってくれたことに感謝します」

 

そう言って口火を切ったのは皇甫義真将軍その人だった。普段からあまり目立たない彼女ではあるが、それでも彼女はこの乱を鎮めるだけの力はあった。その彼女は周りにいる人物を見て確信する。乱の鎮圧に失敗はない、これだけの有能な武将らが集まっているのだから。だが懸念がいくつかある、それは……。

 

(こいつら私すら見てない)

 

そうして各陣営を見渡した彼女はため息をつく。一触即発とも言わんばかりに空気が重くなった天幕。みなぎる覇気を醸し出す曹操に対抗する派手な衣装の袁紹、辺境らしく武骨に固い態度の公孫賛、話を聞かずにはちみつ水を飲む空気読めない袁術とその従者、飄々としている孫策ら、はらはらしている義勇軍。

 

(やる気なのはどの陣営も同じだけど……問題は配置のみ)

 

「始めに敵の情報から、各陣の配置決めはその後で良いでしょう」

 

そうして視線を動かすと誰もが了承の意を示した。それを確認した彼女は控えていた副官に合図し、目の前の大きな机に地図や相手の駒を乗せる。

 

「敵の総数は不明ですがつかみでは30万ほどだそうです。敵の後方は大きな崖になっており、ここからは進軍不可能、実質討伐軍を3軍に分けて包囲殲滅します。異論は?」

 

全員がない、それを確認した彼女は話を先に進める。元々籠城している敵に対して多くの手段を取れるわけではない。つまり誰もが考えうる方法にして、連携があまりいらない方法を選ぶ。

 

「城壁内にどれだけいるかは分かりませんが、恐らく戦えない難民の数万人ぐらいでしょう。そして戦えるのは張角の直下の10万ほど」

 

「それは20万の敵が壁外に布陣していますの?」

 

「ええ、正面と東西の門前に。正面を固めるのは張梁の8万ほどの歩兵」

 

地図の正面城壁の所に張梁と書かれた木製の駒を置き、さらに二つ東西の門前に置く。

 

「東門を守るのは波才の率いる7万の同じく歩兵、西門は張宝の7万です。何か質問は?」

 

「敵の装備は如何ほどに?」

 

それが気になったのは白蓮。すでに曹孟徳と同じだけの功を持ち、他陣営よりも一歩先に行っている。それは曹孟徳も同じ。

 

「一部を除き、そのほとんどが武器のみです。恐らくですが私たちの動きで急遽難民を兵にしたのでしょう、剣以外にも木の鈍器などです。また士気は低いと思いますが何分数がいます」

 

「なら正面は官軍が。一番数が多いでしょうし、装備も充実しているわ」

 

曹孟徳がそう言うと、誰もがそれに頷く。官軍としての面子や戦力、黄巾との実戦経験などこの中で一番大きい。そしてそのことに全員が頷いたからには無能は一切いない、そう彼女は確信した。

 

「他には?」

 

だからこそ彼女は司会をしつつ、この場を他に任せる。彼女も将軍、この討伐軍の本質は理解している、それは確固たる名声を上げる激しい戦いである。既に戦いは始まっており、交渉や会談、根回しなど始まる前から行動する者がいることは確認済みである。

 

(曹孟徳と公孫伯珪、孫伯符もだったかしら?名門袁家の本初も商人たちと話を、袁公路の方は配下が何かやってたわね。いや、これで私の頸がつながったわ~)

 

「順当にいけばこの名門たる袁本初が東西どちらかに布陣すべきですわ」

 

(麗羽様……余計なことをしなければいいのですが)

 

田豊は心配しながらその様子を静観する。主が許可を出さないからこそ、発言しないが許可が出るのならすぐにでも変わりたい気分であった。主に自分の胃の安寧のために。

 

「そうなら数が多い袁公路殿もでは?」

 

「へ、妾もかえ?」

 

「戦力的に言えばそうなるわ」

 

「こちらも頭数が少ないから異論はない」

 

「わ、私たちも同じです」

 

「なら後はそこに数の少ない私と公孫軍が合流する形でいいかしら?」

 

「異論はありません。皆さんはどうですか?」

 

首を横に振る者はだれ一人いない。すんなりと誰がどこを受け持つか決まったが、後はだらがどの敵を迎え撃つか、正確に言えば東西のどちらかを誰が持つかだ。

 

「麗羽、あなたが西門をもちなさい」

 

「なぜ私が華琳の指図に従わなければならないのかしら?」

 

(……嫌な展開ね、本当に何かしなければいいんだけれど)

 

曹操とのやり取りに悪寒が止まらない田豊はすぐにそのことが間違いないことを理解する。

 

「あら名門の袁家、それも袁本初である麗羽が黄巾の将軍を相手にしないと?部下である波才の軍を相手どるというのかしら?」

 

「そんな訳ありませんわ!!いいでしょう、そこまで言うのでした私の軍が西門の張宝を打ちますわ!!」

 

(ああ、またいいように使われて……)

 

ここにいるほとんどか袁本初の扱いを理解した。しかしその中でもやはり付き合いの長い華琳が一番理解し、扱いがうまかった。そして田豊の胃が徐々に痛み出す。

 

「ならば東門は袁公路殿になるがいいか?」

 

「いいですよ、ねぇ?美羽様」

 

「うむ、全部七乃に任せるのじゃ!!」

 

そして後残るのは公孫家と曹孟徳である。孫伯符は既に袁公路陣営、どちらが袁本初と官軍と組むかであった。

 

「私としては官軍とがいいが……孟徳殿は?」

 

「私も同じね……ただ麗羽は私と組みたくないはずでしょう」

 

「もちろんですわ!!」

 

(麗羽様、そうですその通りです!やればできるじゃないですかっ!)

 

そして華琳が白蓮を意味深なまなざしで見る。そのことを理解した白蓮すぐさま頷き、昨夜決められたことに従う。だが、彼女の顔はまるで苦虫を潰したような顔であった、それはこの場にいた孫伯符の軍師である周公瑾と義勇軍の軍師である諸葛孔明も同じ。

 

そして田豊は普段ない主のナイスプレーに隠れた袖の中で密かにガッツポーズする。

 

「不和を招く意味はない、私たちは袁本初殿と共に西門を受け持とう」

 

「感謝するわ、ではいつから進軍を?」

 

「できれば速い方がいいでしょう。そうですね…………兵の休息と準備、それでは3日後の明朝から進軍を開始します」

 

つまりその3日は兵の休息なり、戦いに必要な物を補充したりしろと言う意味である。もちろん各陣営の交渉や会談はこの時間にやり、各人が各々で戦いを進めろという意味でもあった。

 

全てが華琳の描いた通りの軍議になりつつある。本来同じ功を持った公孫家が譲ることは珍しいのだが、約束通りに動いたためさほど軍議が必要ないほどにスムーズである。

 

他にも兵糧の分配や足らない物資の融通など、終始曹操が主体で話しが進む。どう見ても官軍が有利……というよりも官軍の面子を立てながら曹操が誘導をしているため、何大将軍と近しい袁本初は機嫌がよく、公孫賛陣営は曹操の約束と中央に協力者がいないために口をはさめない。

 

「他には?」

 

「1点だけあるがよろしいでしょうか?」

 

「ええ、何でしょう」

 

「討伐の期限は?できれば教えて頂きたい」

 

そう質問したのは白蓮であった。そしてそれを聞いた瞬間に他の者も顔つきが変わる、それは周公瑾と諸葛孔明も同じ。完全なる下座、特に現在前者は袁公路の、後者は公孫家の陣営とされ、発言はそのまま上への責任となり、元から釘を刺されていたために発言できないでいた。

 

だがその中で華琳と同じ功を持ち、北の雄と名高い公孫家の人間がそれを言う。それは公孫家の方向転換の他にも両者を助ける道でもあった。

 

「帝は早期の鎮圧を望んでいます、それはすぐにでも」

 

「それは大体どれほどに?」

 

白蓮はさらに突っ込む。なぜならそこには将軍である皇甫義真の左遷がかかっていたからだ。あまりに時間をかけると朝廷からの横やりで今度は彼女以外の将軍が新しく派遣され、前任と同じように彼女が左遷される。

 

だがそれは今ここにいる人間の誰も彼女を必要としていために認められない。それはこちらのことを理解して戦術を組む将軍だからであった。こちらにほとんど干渉しない彼女のやり方は非常にこの討伐軍に合っており、何よりそんな時まで戦うつもりは誰一人なかったし、仕切り直しもきかない。

 

そしてそれほどの持久戦をできる陣営はこの中で二つだけ、官軍と袁本初の両陣営である。他の陣営は長引かせればするほど財源や物資、兵糧などが枯渇する。つまり戦うだけの体力がなくなっていく。

 

さらに下手に干渉され、使い潰されたり、無駄な戦術で兵力を減らされたりとしない。そしてここにいるほとんどが有能な実戦経験者にして武将、さらに知恵者や武名高い武人がいる。その者らが戦場を、戦を理解していない訳はなく、暗黙の了解として連携し、そしてそれができるだけの指揮官たちであった。

 

だからこそ白蓮は期日を明確にする。彼女の左遷前に全てを終わらせ、曹孟徳の独壇場を少しでも阻止し、堅実な功を手に入れるために。本来なら独り勝ちをしそうな華琳らを彼女の土台から引きずりおろし、孫策らと競わせるために。

 

そして何よりもこれはただの質問であり、昨夜の協定の華琳の意見に賛成するだけであり、反対もしないことだ。協定破りでもなんでもない。

 

これは曹孟徳だけの戦いではない、そう言わんがばかりに白蓮は彼女のことを睨む。

 

「戦い始めてから約15日ほどでしょうか」

 

そしてそれを聞かれた皇甫義真将軍も公孫家に感謝をしていた。自分の左遷がかかっている、今まで築いたものが全て失われる、そのことがないことに安堵した。さらに本当は1月ほどであるが、早めに設定したことにより、迅速に乱を鎮圧したとできる。

 

それは官軍のみで鎮圧できるのなら問題はなかったが、今回は多くの勢力に協力を頼んだからにはそれは言えない。なぜならそれは将軍である彼女の都合であって、他勢力からすれば関係ない。配慮する必要もなく、気に入らなければ他勢力のみで戦えばいい、それができるほどの戦力であった。

 

偶然ともいえる互いの利益が一致したために彼女の頸は繋がるのだ。

 

「承知しました。袁本初殿も皆様もそれで大丈夫か?」

 

「ええ、問題ないわ」

 

「美羽様もよいとおっしゃっています」

 

それぞれの陣営がその期日を守る、その言葉を聞いた彼女は自分の戦いが終わったことに安堵し、そして後は何もやることがないと確信した

 

白蓮はそして先の続きを言葉にする。この官軍を除いた諸侯の中でもっとも力があり、同じ戦場に立つ者を焚きつけることに。会ったことは幾度かあり、扱いは先の曹孟徳が教えてくれた。

 

「ならばかの名門である袁本初殿、この中で一番に城壁を抜きましょう。そうは思いませんか?」

 

「当たり前ですわ!!この袁本初と公孫伯珪殿が合わされば15日以内、いえそれよりも前で抜いて見せますわ」

 

(ちょっとーーーーーーーーーーーー麗羽様ァアアアアアアアアアアアアアッッ!?)

 

高笑い気味に宣言した彼女の言葉に誰もが顔を顰めた。官軍を除き、城壁を単独で攻略できるのは袁本初のみである。それを誰よりも早く攻略すると言ったからには彼女はやるだろう、それは幼馴染の曹孟徳もよくわかっている。

 

そして田豊は胸の中で叫ぶ。まさかこの城壁攻略に本気で後先考えずにやるとか、公孫陣営にさっそくいいように使われるのかとか、もう本当に心労が絶えない。

 

だがそれでもそこに公孫陣営が加わるのである、抜けない道理はない。それは事実であり、曹孟徳も、他の陣営も理解している。ついでに田豊の胃の痛みを和らげるのもある。

 

「わかりました、共にかの城壁に穴を空けましょう。なに、我らと袁本初ならすぐにでも抜けましょう」

 

(公孫さぁあああああああんっ!言うな!それ以上何も言うんじゃないっ!)

 

「もちろんですわ!」

 

そう言うからには公孫家は引くに引けなくなる。言ったからにはそれを実現せねばならない、太守の言った言葉はただではないのだ。さらに田豊の胃に穴が開きそうな追撃に彼女は頭の中で転げまわる。

 

「なら私たちは待たせてもらうわ、本初殿が初めに城壁に穴を穿つことを」

 

(もうやめてぇ~これ以上何も言わないでぇ~)

 

そしてそれは公孫陣営側が進んで損な役を引き受けたことを理解し、感謝する。だがそれを示したように笑う曹孟徳に挑発とも言えるように白蓮は笑い返し、孫策の方を見る。そしてそれに眉を歪め、曹孟徳は隣にいる孫策らの陣営の氣の高まりに気づく。

 

(へぇ……私たちと競うと言うの?)

 

(うふふふふ……公孫賛も分かってるわね!)

 

(……これってキレてるかな?)

 

(勝手にやってよ、こっちまきこまないでよ)

 

顔には出さないが、その挑発に笑みを浮かべる曹操と内心冷や汗いっぱいの公孫賛。勝手に笑顔になる孫策、関係ない袁紹と袁術、場は混沌としていた。

 

(精々頑張ってくれ)

 

(こいつらはやるのか?やるんだな?かかってこい)

 

(こいつら好き勝手にやって……)

 

その問いに答えるように氣を高める孫策に喧嘩を売られたように思った春蘭。

 

勝手に始まる闘氣のぶつかり合いに周りと将軍の顔は引き攣っていた。そして対抗するように氣を高め始めた曹操陣営。無言のにらみ合いが主を置き去りにして始まる。

 

(もう……やだ)

 

泣きそうな田豊。

 

(やばい、こいつらまじで私のこと見てない)

 

戦々恐々する将軍はすぐに動き出す。

 

「では、これで軍議を終了します」

 

『はっ』

 

「解散」

 

そう言ってこの各陣営は天幕を出て行った。だがそれは新たな戦いの始まりであり、誰が張角の首を真っ先に取るかの勝負であった。

 

「まぁ、私に関係はない、と」

 

そうして彼女も天幕から出て行った。心配ごとがなくなり、その胸中はさっぱりとしていた。一方の袁本初陣営の田豊の胸中あまりの憂鬱具合に胃から何かがでそうだった。

 

「ああ、空はあんなに青いのに……」

 

◆◇◆◇

 

曹操side

 

「中々に強かね、公孫はもっと穏便だと思っていたわ」

 

自分の天幕に戻った華琳はすぐにそう愚痴をこぼす。今までの手回しが無駄ではなかったが、自分の狙いが外されたことに少しだけ嬉しさと悔しさを混ざらせた感情が彼女を支配していた。

 

「私も読み違えました。手にいれた情報では公孫伯珪は温和で裏表がない人だと聞いていましたから……てっきりこのような類は苦手かと」

 

「私もよ、桂花。おとなしく彼女があの場で譲ってくれたからいけると思ったけれど」

 

若干の溜息を吐く華琳に桂花は自らの考えが至らないことを悔いた。昨夜の会談で十分に根回しが完了し、懸念したことはあったがまさか彼女がその隙をついてくるとは思ってもいなかったのである。

 

完全に公孫家を舐めていた、策略が得意ではないと言いながら今回のことである。そう2人で若干肩を落としていると、軍の金庫番たる栄華が天幕に戻ってきた。どうやら補充の件は既に終わっているらしい、その顔は笑顔に満ちていた。

 

「あ、お姉さま。帰ってらっしゃったんですか、軍議の方はどうでしたか?」

 

「公孫家にしてやられたわ」

 

「クスクス……お姉さまがそういう御顔するなんて珍しいですわね」

 

珍しいものが見れたと栄華はおもしろそうに笑う。

 

「それで?一体何がありましたの?」

 

若干の不満もありながら華琳は先ほどの軍議で起こったことを話す。

 

「それはなんと、まぁ、強かですね」

 

「彼女らはいずれ私の敵になりそうね……いや、既になるのを覚悟しているのかしら」

 

「でしたら昨夜の会談も袁家があるまでの協定となります」

 

「河北の取り合いになるわね」

 

「公孫家と袁家、華琳様はどちらの方が組みやすいと?」

 

疑問に思った桂花が華琳に問う。それによって取る戦略は大いに変わる。公孫家と袁家がやり合っている間に袁家を潰すか、公孫家を潰す、はたまた両者を潰すか。最後の手段は、おそらく一番危ないだろう、袁家は華琳のことになるとすぐにむきになる。そこを付け込まれて公孫家と袁家が同盟したらこちらに勝つすべはない。

 

ならどちらかと組むしかない。でも袁本初は華琳と仲が悪く、組めるかどうかも分からないが。

 

「組みやすいのは公孫家でしょう……今のところは同じ相手を意識しているのだし。でも敵にしたくないのは麗羽なのよね」

 

「袁家の方は潤沢な資金と広大な領地、将は袁家の二壁がいますがそこまで強くはないでしょう、春蘭様もそう言っていましたし。問題があるとしたらその資金に支えられた軍と軍師である田豊でしょうか?でも彼女はいつも振りまわされていますし大丈夫かと」

 

「確か今回袁本初殿は3万に上る兵を連れになっているのよね?」

 

「はい、栄華様。それに加えて装備は充実、攻城兵器すら持ち出していると報告があります」

 

「でも公孫家も優秀な騎馬兵がいると聞いておりますわ」

 

「公孫伯珪の白馬義従とその妹の黒馬義従ですね。情報は少ないですが、それでも異民族相手に連戦連勝の猛者たちと聞いています」

 

「騎兵と軍、どちらも当たりたくはないですわね。でも対処しやすいのは騎兵の方かしら?」

 

「ええ、昔からの対騎兵用の兵法もいくつかありますし、考え様によっては……」

 

「侮ってはだめよ、桂花」

 

戦いやすい、そう言おうとした瞬間、華琳の声が彼女の言葉を遮る。

 

「確かに先人たちが残した用法は幾つもある、でもそれが通用する相手かどうかは別よ。それに私たちが知っているのなら彼女らだって知っている可能性もあるわ」

 

「ですが華琳様、騎兵の用法など限られているのでは?」

 

「それが付け込まれる隙に繋がるわ、注意なさい」

 

「申し訳ありません……」

 

シュンと萎びた彼女に華琳は嗜虐心を煽られる。今すぐにでも閨に行って目の前の少女を抱きたい、苛めたいと思ってしまう。だがここは戦場、ゆっくりとすることはできないし、する気もない。

 

「そんなことよりもまずは目の前のことよ。やることは変わらない、私の目の前に立ちはだかるというのなら、薙ぎ払うだけよ」

 

「はい、華琳様」

 

「そうですわね、お姉様のおっしゃる通りですわ」

 

そうして華琳らは二日後の戦いのため、動き出した。

 

 

孫呉side

 

「あ~もうなんなのよ、あいつら」

 

「だが最悪ではない」

 

「でしょうね。今回は黒蓮様のお姉さまに助けられました」

 

「ほう、公孫家がかの?」

 

「はい」

 

天幕の中で先ほどまでの内容を華琳と同じころ、説明していた蓮華は心の中で感謝をした。今回の軍議では袁術陣営として参加していたため、席はあれど発言はできなかった。その中で唯一華琳に発言することができた黒蓮たちが発言したために孫呉は助かったのである。

 

「なるほどですねぇ。辺境と聞いていましたが、こっちの類も意外とやりますかぁ」

 

「穏の言う通りだ、戦ってばかりだと聞いたからな。不手際があると始めは思っていたが……」

 

冥琳自体も始めの華琳の様子からあらかた根回しは終わっており、後は一本道で軍議が終わる、そういう空気だった。だが、公孫家の発言のおかげで将軍も、孫家も、義勇軍も、袁紹も皆救われた。

 

それは潰れ役を袁紹と公孫家が立候補したためである。城壁の前にいる3軍の内、1つでも突破されれば今度は中にいる張角の10万と真っ先に戦うということを意味する。そのため、正面の曹操と孫策は守りが薄い城壁を攻略することになるのだ。後はそこでどれだけ早く突破して張角の頸を手に入れるかである

 

本来は真っ先に動かなければならない孫策らに代わって袁紹軍らがそれをする。しかも日付を決めて宣言したとなるとそれは決まったも同然、後は何時彼女らの正面の軍が撃破されるかである。その後に城壁の敵兵らの移動を確認した後、正面と城壁を突破する。

 

やりやすいは明白であった。

 

「確かそれらとこれから会談があるのだろう?」

 

「え~またぁ?」

 

愚痴を言うのは孫家の大将である孫伯符である雪蓮だった。その顔は非常に面倒くさいような顔をしており、妹の蓮華はすぐにでも逃げだしそうな姉に怒気を隠さないで言う。

 

「姉様、まさか人に任せて逃げ出すとか言わないですよね?」

 

「だって面倒くさいじゃん?それにそこはほら、冥琳とか蓮華とかいるし私が居なくてもいいかなって」

 

「そうですか……ならここで姉様を縛らなきゃいけませんね」

 

「え、ちょっ」

 

どこからもなく取り出した縄を持ちながら素晴らしい笑顔でそう言い切った蓮華に凍りつく周囲一同。昨日まで張りつめた空気を持っていた彼女だったが、今は別の意味で張りつめた怒気を放っている。

 

「大丈夫ですよ?痛くはしませんから……痛くは」

 

「嘘!ぜった~い嘘ッ!!」

 

「嘘ではありません。ただ少々動けなくなるだけですから……」

 

「め~り~ん、蓮華が苛める」

 

その様子に助けを求めた雪蓮に、求められた冥琳はため息をつきながら蓮華のことを注意する。

 

「蓮華、そこまでにしておけ。雪蓮も冗談はやめろ」

 

「は~い」

「嫌です♪」

 

『………………』

 

予想外の言葉に無言で見合う一同。その中でも蓮華の目だけが怪しく光っている。どうやらさっきまでの会話は冗談ではなく本気らしい。ふざけていた雪蓮の額から冷や汗が滴り落ちた。

 

「知っていますか?姉様、最近私はある方に言われてとりあえず自分に素直になることにしたんです」

 

「そ、そう、それはいいことね」

 

「でしょう?それでですね、まずは私よりも怠け者で大人げなくて怠け者でお調子者で怠け者に容赦しないことにしたのです」

 

「へ、へぇ~。それは一体誰なの?」

 

「言っていいのですか?」

 

「言わなくていいです」

 

即答した彼女にゆっくりと蓮華が近づいていく。その手には縄が握らており、それを彼女は弄んでいた。それも今から縛り上げるのが楽しみだと言わんばかりに。

 

「あら、姉様ったら遠慮なさらずに」

 

「え、遠慮なんかしてないわよ?」

 

「本当ですか?先程みたいに何かあるのではないですか?」

 

「すみませんごめんなさい許してちょうだい」

 

「え?許すなんてありませんよ?」

 

今までにない危機感を抱いた雪蓮は目の前の妹らしき鬼に頭を下げた。このままでは何をされるか分からない。

 

「決定事項です♪」

 

そう今までにない笑顔で言った蓮華は思春と共に姉に襲い掛かる。そしてまさか襲い掛かられるとも思わなかった姉は無駄な抵抗もできずに簀巻きにされ、椅子に縛られた。

 

「では、話を戻しましょう」

 

一仕事終わった彼女と思春は何事もなかったように話を戻す。縛られた雪蓮の方はもはや空気になっており、無理矢理聞かされている状態であった。

 

袁紹side

 

袁本初である麗羽が高笑いながら天幕の中で座る。その横には袁家の双璧と呼ばれる文醜と顔良、顔を青くしている田豊が先の軍議でのことを振り返っていた。

 

「この袁本初にかかればあんな城壁、1日で抜いて見せますわ!」

 

「麗羽様、できないこと無いけどそれでは被害が大きいと思います」

 

袁家の良心こと斗詩が危険性を言う。

 

「でも斗詩、あたしたちじゃたぶんいけるぜ?公孫家もいるしな~」

 

そのことに袁家の問題児こと猪々子が答える。だがそれどうしても楽観的考えであり、そんなことだから公孫家側にいいように使われるんだと俯いて考える袁家の心労こと真直である。

 

「そうですわ、武名名高い公孫家の強力に私たちの力が合わされば抜けることは簡単ですわ」

 

「……でもいいように使われるんですね」

 

「どうしたんですの?真直。そんな青い顔して……まさかあの日かしら?」

 

「……もういいです」

 

全く当ての外れた主の言葉についに真直はやさぐれて机の上に突っ伏した。それを心配そうに隣の斗詩が背をさする。

 

「真直……大丈夫?」

 

「斗詩……あなただけが頼りよ」

 

「ごめんね、私じゃ猪々子を止めるだけでいっぱいなの」

 

「ありがと、それだけでもどれだけ私が救われるか……」

 

互いに憐れみの顔で見つめあうとそのままヒシッ!と抱き合う二人。いつの間にか二人には類友ともいえる絆が誕生していた。主に被害者の会である。

 

「ふぅ……それで?麗羽様、どうします?かの公孫家が協力を惜しまないとは言えど私たちは15日以内にあの城壁を抜かなければなりません」

 

「あら、そんなことは承知ですわ」

 

「ですが今回の戦に攻城兵器は持ってきていません。即席のものならすぐに用意できますが……」

 

「作ればいいのでしょう。そこら辺の木を使って」

 

「確かに梯子などは作れますが他の物は無理です。急がせても数日かかりますし、数が用意できません。最悪白兵戦のみの攻城戦と考えて下さい」

 

今回の戦にまさか攻城兵器が必要だとは思えず、野戦に必要な物しか持ってきていない。確かにそれは真直の失態ともいえるが、情報がなかったために一様にそうは言えない。

 

問題は破城槌のようなものが作れないこと、ならば被害が大きくなる簡易的な槌だけのものと梯子の白兵戦が主体の攻略になる。他にも城壁内部で撹乱し、それに乗じて攻めるありだが、実行部隊はない。確実性がないのならそれに賭けるべきではないと彼女は判断する。

 

また、いいように使われた公孫家への報復という名の軍議がこの後待っている。巻き込んだ借りは必ず返すのが彼女の中では決定事項だった。

 

「恐らくですがこれから公孫家との軍議がありますので、その場ではこの私にお任せ下さい。麗羽様の代理として交渉いたします。ついでに猪々子はいりません、斗詩はお供に御付け下さい」

 

「真直が頼みなら聞いてあげます、私は軍議に口を挟みません。私の代理として全て真直が交渉なさい」

 

「は、ありがとうございます」

 

そう言って真直は頭を下げた。このように彼女の頼みを素直に聞いてくれれば良い主なのだが、余計なことをすると自爆するか運よくうまく行くかのどちらかになるのが多い。軍師としてかなりきわどいことばかりなので心労が絶えない。

 

そして彼女はすぐにでも軍議のための準備をするために天幕を出る。すぐに自分の天幕に戻り、ひたすら軍議についての思案を始めたのであった。

 

(待ってなさい、公孫賛。絶対にぎゃふんと言わせてやるんだからっ!!)

 

「ふふっ……ふふふっ…………フフフフフフフフフフフフフフフフフフ」

 

天幕内で怪しく笑っている彼女を見た付添いの武官たちによって変な噂が流されたのは別のお話。

 

 

 




誤字脱字、感想等ありましたら気軽に書いてくれたら幸いです。

またリアルが忙しくなりそうなので次回の更新はなるべく急ぎますが
1月は難しそうです。

転勤とか、引っ越しとか、新人研修とか、死にます。

それでは。
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