真・恋姫で地味ヒロインの妹してます   作:千仭

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今回で投稿するのが遅くなってしまうと思います。

しかしリアルが忙しくなくなくなったらまたペースを戻したいと思います。


それでは今回もよろしくお願いします。


理想主義者VS現実主義者

幽州西部 黒蓮Side

 

「ふう、これだけ揃うと圧巻だな」

 

「ええ、そうですね」

 

 私がそう言うと隣で待機していた副官が相槌を打って答えた。なぜなら今、私たちの目の前には義勇軍を含む約二〇〇〇〇人の兵たちがいるからだ。その中でも特に姉さんの「白馬義従」と私の「黒馬義従」の両部隊が特に目立っていた。

 それは整然と並ぶ白と黒の騎兵軍団、他の隊とは一線を画す公孫家の精鋭中の精鋭たちである。白馬しかいない姉さんの「白馬義従」は全員が弓と剣を装備し、軽装の鎧をつけていて機動力に特化している。そして彼らは遠くから相手を射抜き、相手の攻撃をいなすのが特徴である。

 それに対して私の持久力があって力強い黒馬だけが揃う「黒馬義従」は全身に鎧をつけて手にはロングスピアのような長槍とカイトシールドのような盾を装備している。さらには馬の前面にも鎧をつけていてその重量とスピードが合わさった突撃による莫大な破壊力を持つ重装甲騎兵(カタフラクト)である。

 そしてここから少し行ったところに黄巾賊補給部隊約三〇〇〇〇人がいて、もうすぐ私たちはそいつらを殲滅する討伐戦を始める。

 

公孫賛軍 計一六〇〇〇人(戦闘兵のみ)

 

公孫伯珪本軍 中央 

 

歩兵(弓兵を含む) 四〇〇〇人

 

白馬義従 二〇〇〇人

 

計六〇〇〇人

 

公孫賛第二軍(公孫越) 右翼

 

歩兵(弓兵を含む) 三五〇〇人

 

黒馬義従 一五〇〇人

 

計五〇〇〇人

 

公孫賛第三軍(趙子龍) 左翼

 

歩兵(弓兵を含む) 四〇〇〇人

 

騎兵 一〇〇〇人

 

計 五〇〇〇人

 

義勇軍 各軍後続 

 

歩兵(弓兵を含む)三〇〇〇人

 

計三〇〇〇人

 

 さて今の軍編成はざっとこんな感じだ。姉さんの中央本軍が一番多くて左翼第二軍の私のところが五〇〇〇人、右翼の星が四〇〇〇人。そして義勇軍だけの北郷達は四〇〇〇人で各軍の予備兵力を受け持つことになっている。

そしてなぜ騎兵の割合が多いかと言うと北方民族の匈奴などは騎兵を軍の主力としているからだ。騎兵は広い広野などでは大きな役割を果たす、それは機動性だ。それに対抗したため、私たちも普通の軍よりも騎兵の割合が多い。

 ちなみにこの正規軍の人数は無理やり集めた新兵などを含んでいるため実質正規軍は一二〇〇〇人であって後の三〇〇〇人は義勇軍みたいなものだ。部隊編成の時も後衛の方に配備してある。

 

そんな中私の副官がついさっきまで行われていた軍議のことを聞いてきた。

 

「でも先ほどの軍議は何があったんです?劉備殿が泣いて天幕を出て行ったのですが」

 

「ああ、あれはあいつらがただの理想家だっただけだ」

 

 なぜなら正規軍である姉さんと私、客将の星の三人が義勇軍である北郷達と言い争いになったからだ。そして私や姉さん、星にというか主に私に言いくるめられた北郷達が怒って軍議の途中に出て行ったからだ。それも誰が見てもすぐにわかるよう泣きながらだ。

 

はぁ、あれは私が悪かったのか?でもあれでよかったんだと心底思うんだけどな。

 

「理想家ですか?」

 

「そうだ、そしてどこまでも甘い」

 

話し合えば分かり合えるって?バカバカしい。

 

「でも―――――――――だからこそあいつらはあんなにもまぶしいのかもしれんな」

 

私はそう言いながらさっきまで行われていた軍議のことを鮮明に思い出していた。

 

 

 

―――――――――軍議・白蓮天幕

 

 今、この軍議に出席しているのは姉さん、私、星、北郷達だ。それぞれ私が細作によって未来の技術を使って作らせた幽州啄郡近郊の大きな地図を囲んで座っている。

 

「さて、これから黄巾賊討伐の軍議を始める」

 

 姉さんがそう言うと私たちはその場でうなずいて各々が私が作った地図を見始める。その大きな地図にはなにも乗っておらず、ただ平原が広がっているだけの地図だった。

 

「黒蓮、賊の情報を」

 

「わかった、姉さん」

 

 そう言って私は木でできた黄色い大きめの凸型模型を地図の上に乗せる。それに対峙して私たちの軍は三つの青い凸型模型をおいた。

 

「細作の情報によると敵の総数は歩兵三〇〇〇〇人程度、そのほとんどが元農民らしい」

 

「敵の大将は?まさかいないのか?」

 

「ああ、どうやらいないらしい。指揮官らしき者はいるらしいけどそいつはただ指示を出しているだけの素人らしい」

 

「ただの賊の集まりか、なら簡単に包囲できるな。陣は鶴翼で包囲戦を行う、正面の敵は私が抑えるから左翼の星と右翼の黒蓮は歩兵で側面から敵を攻撃、黒馬義従と第三軍の騎兵で敵後方から突撃して一気に戦線を破壊し、そのまま殲滅戦に入る。義勇軍は各後衛で待機、前線が崩れそうになったら……」

 

 そう姉さんが全体の作戦を決めて私たちに指示を出していくとその途中で劉備が姉さんに疑問を投げかけ、

軍議を中断させた。それに伴い劉備の近くにいる北郷と関雲長、張翼徳が劉備と同じように少し怒ってるような目で私たちを見てくる。

 

「ねえ、白蓮ちゃん、今回の討伐戦って賊を殲滅するの?みんな殺しちゃうの?」

 

「そうだけど、何か問題でもあるのか?」

 

 姉さんが当たり前のようにそう答えると劉備は大声でそのことに反対した。そしてその隣では北郷達も同じように頷いている。

 

「大ありだよ!!なんでみんな殺しちゃうの!?」

 

「そうです!!あそこには多くの元農民がいるですよ!?」

 

「あ、ああ、とりあえず落ち着け、桃香、愛紗」

 

 劉備と関羽が姉さんに食ってかかり、姉さんはその二人の勢いに少し後ずさって困惑している。それを私は“始まったか”というような嫌な顔をしながらその成り行きを見ることにした。星はというと悪戯っ子のような目で劉備達を見ていて、どうやらこのことに一切介入せずに傍観者として楽しむようだ。

 

案外腹黒い奴だな、いや、それよりも止めろよ?

 

 そう私がアイコンタクトを星に送ると彼女は“面白そうではないですか?”とアイコンタクト返してフッと一瞬だけ茶目っ気のある笑顔で私に笑った。

 

おいこらちょっと待て、随分と楽しそうだなお前は!

 

私と星がそんなことをしている間も劉備たちの口撃は止まらなかった。

 

「落ち着いてなんていられないよ!!なんで話し合わないのに殺しちゃうの!?話し合ったらきっと戦わずにすむ人たちもいるはずなのに!!」

 

「俺も桃香に賛成だ。相手は元農民なんだろ?なんでそこまでやらなくちゃならないんだ?」

 

「主たちの言う通りです!!なぜ投降を呼びかけないのですか!?」

 

「そうなのだ!!鈴々も反対なのだ!!」

 

「ま、まぁ、その、な?」

 

 さらにそこに今度は北郷たち全員が援軍として参加し、姉さんは四対一と劣勢に立たされ、額に盛大に脂汗をかいている。その近くでは星が一歩引いてその言い争いの様子を楽しそうに眺めていて止める気配はない、というかむしろこれより悪化することを望んでいるようだった。

 そしてそれにタイミングを合わせたかのように星が目で“行ってきなさい!!”とアイコンタクトを送ってきて、それと同時に姉さんが助けを求めて私の方を少しすがるような目で見てくる。

 

はぁ、結局私に回ってくるのか。

 

 そして私は覚悟を決めて、全身に氣を送り込みわざと怒気に見せかけた闘気を出して中央にある机を叩き、勢いよく立ち上がった。

 

「チッ、姉さん、こいつらとまともに話しあったら時間の無駄だ。私達だけでやってしまおう」

 

 そう言って私は劉備たちを睨みながらとりあえず劉備たちの目標を私に向けさせる。私の言葉によって全員がこちらを向き、関羽と張飛は怒気をこちらに向けている。

 

「なん……だと……!?」

 

「黒蓮………お前また」

 

 その言葉を聞いた北郷が某有名なオレンジ色の死神さんが言ったセリフを言いながらこっちを見てくる。一方の姉さんは解放されたが私がまた問題を起こしたと思ってこれ見よがしに盛大にため息をついた。

 

姉さんゴメン。それと北郷、それはネタなのか!?

 

 そう思いながらも私は目の前にいる馬鹿共相手に売った喧嘩をやめようとは考えず、むしろ「ぎったんぎったんにしてやんよ!!」と意気込みながら次の言葉を言い放つ。

 

「本当の事だろ?目先のことしか考えれない愚か者たちだ」

 

「貴様!またも主たちを愚弄するか!!」

 

 そして今度は関羽が私の目の前まで来て盛大に怒気を発し、親の仇のように睨みつけてくる。それを私は微動だにせず受け止め、負けないように睨み返す。

 

生憎と私は売った・売られた喧嘩はとことんやる主義なんだ。覚悟しろよ?

 

と心の中で思いながら目の前にいる『甘い』奴らに一切遠慮も加減も客将に対する礼儀さえない言葉をはっきりと馬鹿にしたような目をつけて言い放った。

 

「愚弄も何も貴様らが馬鹿で甘すぎると言ってるんだ。少しは頭を使え」

 

「貴様!!」

 

 それを聞いた関羽が私の胸倉を掴んできたが、私は彼女の手首をつかみ取り内氣功で高めた握力で容赦なくギリギリと締め上げる。ホントに音が鳴っているのように彼女の腕が軋んで顔を歪ませたが、彼女が私と同じように腕に内氣功を送りこんで腕を振り払った。

 

「黒蓮それは言いすぎだぞ!?」

 

 そしてさすがに今の言葉と行動はまずかったのか姉さんが私のことを咎めて来るが私はそれを意に介さず、むしろここからだと言うように姉さんに向かって邪魔をさせないように睨みつけながら口を開く。

 

「姉さんは黙ってろ、こいつらには“現実”を思い知らせなくちゃならない」

 

 そして新たに始まろうとしている口論をやめさせようと口を開こうとしたがすぐ後ろにいた星がそれを無理やり抱きついて辞めさせ、“遠慮はいらないですぞ、派手にやってしまいなさい”と暴れる姉さんを押さえつけながらアイコンタクトを送ってくる。

 

お前は一体何がしたいんだ?

 

そう怪訝な目で星を一瞥するとすぐさま劉備の方へと視線を向ける。

 

お前らに本物の『現実』ってやつを教えてやる。

 

「現実を私たちは見てきたから!!それを知ってるから!!私たちは義勇軍に参加したの!!」

 

「それで?義勇軍に参加したら何か変わるのか?」

 

 劉備が必死になって今まで見てきた劉備なりの『現実』を根拠に叫ぶ。それに対して私は冷静に劉備たちに行動の意味を聞く。

 

「それであそこにいる人たちとちゃんと話し合ってちゃんと生きていけるようして!そうしたら他の村の人達も安心して暮らすことができるようになるし、苦しむ人たち全員を助けることができるもん!!」

 

「俺もそう思う!賊に襲われて苦しんでいる人たちを無駄な血を流さず守ることができるはずだ!!それに白蓮たちが呼びかければ投降する人たちだっているはずなのに、なんでそれができるのにやらないんだ!!」

 

 北郷が劉備と供に私たちのことを攻め立て始める。救うべき民を救うことができないなんて何が民を率いる太守だと、何が責任のある為政者だと。それを聞いた私は一瞬、北郷達がまぶしいと思った。だが現実はそんな甘くはないことを私たちは嫌でも知っている。

 

本当に甘いことしか考えられない馬鹿共だな。全員が救えるだと?そんな夢物語あるはずがないだろ。

 

 それは私たちがかつて望んだ理想、しかし年を重ねるにつれて、為政者として経験を重ねるにつれて不可能だと理解してしまった虚像。

 

だからこそ―――――――

 

「貴様ら揃いも揃って全員馬鹿か?」

 

私はいまここで―――――――

 

「お前!!」

 

その甘くまぶしいと思える虚像をこなごなにぶち壊す!!

 

「それで本当に(・・・)助かると思ってるのか?そう思ってるなら今すぐここから出て行け。そんな馬鹿共はどこに居たって何も変えられない(・・・・・・・・)し、誰も助けられない(・・・・・・・・)。それにそんな馬鹿共に金も時間も使う余裕は今の私たちにはない」

 

「「「「なッ」」」」

 

 北郷も関羽のように詰め寄ってきたが私が言った辛辣な言葉を聞いた瞬間に北郷達全員が息を呑んだ。否、呑まざるを得なかったというべきか。なぜなら私が彼らの行動をはっきりと否定したからである。今まで自分たちが考えてきた根本的な考えを否定された劉備たちはあからさまに狼狽えていた。

 確かに目の前にある問題は劉備たちの考えで解決できるだろう。しかしそれが解決できたからと言って賊がこれからも増えていき、町や民が襲われる根本的な(・・・・)解決にはならない。

 

「大体なぜ農民が賊になった?その原因は一体なんだ?」

 

「……生活できなくなって仕方なく」

 

「その通りだ」

 

 それの原因は今劉備が言った通りである。だがそれを解決すことができる手段は軍事的手段(・・・・・)ではなく、その土地を治める為政者の政治的手段(・・・・・)のみだ。根本的な原因の解決をしなくては何時までも無限とは言わないがそれに近い数の賊や反乱がでるだろう。

 

「なら……」

 

「貴様らはそれをどうやって解決するつもりなんだ?」

 

 私はその手段を劉備に問う。どうやら彼女たちは目の前のことを解決すれば根本的な解決につながると勘違いしている節がある。これはそんな簡単な話ではない。

 

「そ、それは……みんなに食べ物とか衣服とかを提供すれば」

 

「それを啄群の民から集めた()を使ってやるのか?」

 

劉備が言いよどみながらも自分が出した浅はかで甘い答えを私の一切容赦しない言葉が切り裂いた。

 

「「「「ッ!」」」」

 

 そしてそれを聞いた劉備たちの本日二度目の絶句。彼女たちはどうやら彼らだけを助けたら終わると思っているらしい。確かに彼らを助けたことで義として有名にはなるがそれで他の難民たちが集まってきたらいくら大都市である啄郡でも養えきれるはずはない。

そして彼女たちは今の私たちがそのすべての難民を養えるほどの物資と資金を持っているものだと思っているらしい。それは大きな啄郡を統治している姉さんの手腕で余剰分を放出しているだけに過ぎないのを錯覚しているだけだ。

 この不安定な世で劉備たちが想像している集まってくる難民全員を養えるほど金があるのは宿敵の袁本初ぐらいだろう。他の諸侯などどんなに豊かに見えてもそれほど資金は持っていない、現代でも財政問題はつきものであるように。

 

「確かにできることなら私達も彼らを助けたい。でも彼らを助けることでかならず違うところからも難民がやってくるし、さっきも言ったが私達にはそれを養えるだけの資金もない。それに物資も糧食もだ。そこに大量の難民が来てみろ、今の私たちにはただ同然でそれを養うことはできない、近い先かならず破綻する」

 

  いくら豊かなように見えている町でも当たり前のように限界はある。そしてその限界を超えたなら今度は反乱などによって一気に破綻するだろう。資金がなければ軍や様々なことは維持することができなくなり食べ物などは時間がなくては作れない。武具なども原料の鋼などの金属がなければ生成することはできず、結果、郡民はそれらを求めてよその場所へと移住するかそこを治めている領主に牙をむく。

 

「それでも何とか」

 

「それで啄郡の民を犠牲にしろと?」

 

 目の前の民を殺さずに生かして彼らを養い、戦力や労働力にするのは莫大な資金と物資、食料など様々なものが大量に必要となる。それを今の私たちが用意することができる訳がない。なぜなら漢王朝の属国支配が弱まっていき北の遊牧民たちの監視などもしなければならないからだ。そして何かあった時のために軍を整備し、いつでも運用できるようにするのにはそれなりの金がかかる。その金を用意するにも民からの税金が主な収入源なのにさらに税を課すことはできるはずがない、それは民が税で破綻することになるからだ。

 

「それは!!」

 

 いい加減にしろよ!なぜ気が付かない!となぜか無性に苛立ってくる。しかし私はそれを表には出さずにいるため、徐々に心のうちに溜まり始める。そして声を荒げないように注意を払いながら私は私なりの為政者としての立場から劉備たちに説明する。

 

――――――――――『為政者』とは何か、ということを。

 

「いいか?私たちは為政者だ、治める民を守るのが治める我らの義務でもある。それなのに貴様らは彼らを助けたはいいが結局は守るべき民と助けた彼らの両方犠牲にするつもりなのか?」

 

 そんなことをしてしまったら為政者として失格である。さらに自分の欲望を満たすために重い税を課すのと違って悪意なく善意でやってるところがなお性質が悪い。なぜなら善意でやっているためどこまでやっていいのか判断しづらく、温情に駆られて見境なくやってしまう可能性があるからだ。

 

※真・恋姫 魏ルート 第四章での民に糧食を分けすぎる一刀がいい例

 

「違うもん!!私たちはただ苦しむ人たちを助けたいと思って」

 

 だから彼女らが言っていることが必ずしも統治される側にとって最善かと言われれば違うだろう。統治される側にとって一番大切なものは恐らく家族であって見知らぬ人ではないのだから。

 

それが甘いと言っている!

 

 そして今まで穏便にことを治めようとした私の堪忍袋の緒が切れた。もはや苛立っていることを少しも隠そうとせずに目の前のどこまでも甘い劉備たちに怒鳴る。

 

「それが甘いと言ってるんだ!!できないことをできると言ったら後でかならず自分自身のところへ帰ってくる!それはさらなる戦場を、苦しむ人たちを増やすことになるんだ!」

 

それで守るべき民に負担がかかってなおかつ助けた元農民たちにも満足のいく政策などができなかったたら新たに反乱分子が生まれ、それは町の治安を悪くするだけではなく鎮圧するためにさらなる資金を必要とする。結果的にそれは再び反乱分子を生み出すこととなり∞ループに陥る可能性さえ出てくる。そうなっては本末転倒だ。

 そして私はこの時困惑していた。なぜこんなにも劉備たちを見て苛立ちを覚えるのか、そして私に取っては珍しく怒鳴ってしまっているのかと。その理由はわからなかったがとりあえずなぜか劉備たちが気に入らず見るに堪えないことだけははっきりと理解していた。

 

「それに殲滅するのは戦略的目的でもある」

 

 それらを話して次には戦略としてことを話す。ここではそれが大きな意味を持つと私たちは気が付いているからだ。

 

「戦略的目的だと」

 

「ああ、今、私たちに必要なのはなんだと思う」

 

 私が劉備たちにそう聞くと彼女らはバカみたいな答えを返してくる。若干自分のこめかみが引くついてるのが感じられるがそこは大人として我慢する。

 

「お金じゃない?」

 

「物資ですか?」

 

「兵力だろ?」

 

「食べ物なのだ!」

 

馬鹿だろ、特に最後のは!

 

「全部違う。今私達が欲しているのは“名声”と”黄巾賊を殲滅したという“事実”の二つだ」

 

「どうしてそんなに名声ほしいの?」

 

 劉備が困惑しながら私にその必要性を聞いてくる。それに対して私はこめかみだけではなく、口元も若干ひきつりながらもできるだけ彼女らがちゃんと理解できるように一つ一つ確認しながら説明する。

 

「いいか、今の私たちの……姉さんの地位はなんだ?」

 

「幽州啄郡の太守でしょ?」

 

私がそう聞くと劉備はさも当たり前のように答えた。

 

「そうだ、姉さんはたかが太守なんだよ。州牧ですらない、それはつまり啄郡近郊の人たちしか守れないということだ」

 

 幽州牧ではない以上啄郡近郊の人しか治めていないということだ。幽州全域ではない以上、兵の数も集められる税も果たすべき責任も全て限られている。

 

「そしてなぜここに黄巾賊が現れたかというと単純に私たちが力のない諸侯として思われているからだ。だからこそ賊はここ幽州に来たたんだ。陳留の曹孟徳の“名声”を恐れ、飛将軍の呂奉先が黄巾賊を撃退した“事実”を恐れてな」

 

 姉さんよりも一つ上である陳留刺史の曹孟徳は自ら治める土地をそのカリスマ性と“名声”によって間接的に賊の被害を減らしている。そして飛将軍の呂奉先はその武勇で黄巾賊を撃退した“事実”を利用してというか勝手に賊の方から恐れて彼女の近くにはやってこない。

 

「それは私たちが彼女たちのような“名声”も何かをした“事実”もないからだ。つまり私たちはあいつらに嘗められてるんだよ。たいした実力もないただの諸侯だとな」

 

 そしてそれは私たちの啄群には当てはまらない。なぜなら北方のことなど政治的中心である洛陽などから見ればたかだか地方のことであり、よっぽどのことをしない限り武勇などは少しか轟かない。

 

そう、今回の大規模殲滅のようなことをな。

 

「だからってあそこいる人たちを全員殺すのなんて間違ってる!!」

 

それはわかっている。でもこれは正義とかでは解決できない問題だ。

 

「ああ、そうかもしれないな。だが考えてろ、あそこにいる賊の全員の犠牲と全員助けてさらなる被害を受ける啄群の民たち犠牲、どちらの方が犠牲が多いと思う?私は確実に後者だと考えるが」

 

 高々三万ほどの元農民たちとそいつらを助けて無限ともいえる難民を養うという被害を受ける啄郡の数十万の民たち、最大多数の最大幸福を目指す私たちが今それに沿って政治を行いこの地を治めている。それはたとえ少数の人が不幸になろうとも、その行いで大半の人が幸福になるのであればそれが今の世の中では一番いいと私たちが考えているからだ。

 

「確かにそうかもしれないけど……でも!」

 

 私がそう言ってもなお頑なに全員が助かることをできると信じてやまない劉備が理想的な言葉を紡ごうとする前に私の現実的な言葉が遮った。

 

 

「なら私は今あいつらを全員殺して多くの啄群の民が助かる方を選ぶ。小を殺して大を生かすためにな」

 

 

救う命に優劣があることを示すために。全員を救えるほどこの世は甘くないと知っているがゆえに。

 

 

「そしてあえて言わせてもらう――――――貴様の掲げている『理想』などはただの虚像だ!」

 

 

 そうはっきりと意志のある声で言うと劉備が信じられないような目で私を見た。そして次に姉さんの方を見たが姉さんは私が言ったことには何も言わずにただ黙っているだけだった。

 それを見た劉備が微かに何かを言おうとしたがその目に段々と大粒の涙が浮かびだし、そのまま天幕を走って出て行く。

 そして今度はそれを見た北郷たちが怒りの目でこちらを見てきたが、それをするために例え少数の人間を否定してまでもそれを行うことを覚悟を決めた姉さんと私の雰囲気に圧倒され、劉備を追って全員天幕から出て行った。

  

 そして天幕の中には姉さんと私、星だけが残され、しばらく無言の時間が流れたが星が口を開いたことでその場の雰囲気は少しは和らぎ始める。

 

「随分と容赦なくやってしまいましたな?黒蓮は」

 

「まあ、あいつらの馬鹿さ加減についカッとなってしまったからな。それにあいつらに言葉を選ぶ意味もないだろ?」

 

違うのか?と言葉にはせず星の方を見ると彼女も確かにと小さな声で呟いた。

 

それにどうにもあいつらを見てると苛立ってくるんだよな。

 

「それよりもどうするんだよ?あれじゃ桃香たちは使いものにはならないぞ?」

 

「うッ」

 

 そう姉さんが私を責めるような目で見てくる。完璧に彼女たちをあんなふうにしてしまった責任は私にあるので目を合わさないように少し横に目をそらした。

 

だってあいつらがいけないんだ。理想主義なんて掲げるからさ。

 

「露骨に目をそらすな!」

 

「いたッ!」

 

 再び露骨にため息をしながら私に拳骨をした姉さんはどうしようか迷っている。頭数に関羽と張飛を入れていた今回の作戦はどうやら彼女ら抜きでやらなければならないらしい。

 

「まあ良いではないですか。元々は我等だけでやるのですから」

 

「姉さん、星の言う通りだと思う」

 

「お前が言うな!!この馬鹿!!」

 

 私が星の言ったことに乗っかると開き直っている私を見て姉さんは呆れた顔をしながら再び必殺の右拳で盛大に私の頭を殴った。ちなみにさっきよりもだいぶ痛かった。

 

「…………………」

 

最近姉の暴力が酷くなってきたんですが誰か相談に乗ってもらえませんか?

 

「なにか文句でもあるのか?なあ?」

 

「いや別に」

 

 私が何か言いたそうにジーと姉さんを見ていると再び私の目の前で握り拳を作る姉さんが盛大に額に怒りマークを浮かばせていた。その後ろにはなにか鬼気迫る面影が浮かんでいたから下手に刺激しないようにしようと思う。

 

「仕方ないが星の言うとおりにするしかないか、桃香たちには悪いが義勇軍として後ろに下がってもらおう」

 

「わかった」

「うむ、任されましたぞ」

 

 そう言って姉さんと星は準備のために天幕を出て行った。そして残された私はしばしその天幕の中で無言で

何故あんなにも苛立ってしまったのかを考えていたが何も答えがでなさそうだったので結局姉さんたちに付いて行くように外へと向かった。

 

 

―――――――――――

 

 ということがあったのだ。そして私が物思いに耽っていると隣にいた副官が私を大きな声で呼ぶまで気が付かなかった。

 

「あ、ああ、悪い。少し考え事をな。で終わったのか?」

 

「はい、全部隊の出撃準備は整っております」

 

「そうか……なら、行こうか」

 

「ハッ!!」

 

そうして私達は戦場へと向かっていった。

 




またアドバイスなどがあったら助かるので気軽に書いて下さい。

よろしくお願いします<(_ _)>

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