真・恋姫で地味ヒロインの妹してます   作:千仭

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今回はいつもより短めになってしまいました。

また誤字脱字などが多い作者なのであったら教えて下さると非常に助かります。

ではお楽しみください。


賊殲滅戦(後)

―――――――黄巾賊side

 

 その声が聞こえたのは戦いの最中の突然のことだった。黄巾賊は目の前の敵に無我夢中で攻撃していたので後方に部隊が回り込んでいたなどまったく気が付いてはおらず、後ろからの声に混乱しはじめる。。

 

「な、なんなんだ!?」

「敵の増援か!?」

「う、うわああ!」

「後ろから敵が!?」

 

 元農民が多い今の黄巾賊が前線を除いて声が聞こえてきた方を向くと白馬に乗った騎兵部隊が弓を構えてこちらに狙いをつけている。

 さすがは白馬義従、平原を走り大きく揺れる馬の上でも決して慌てることなく弓を構えて慣れた手つきで引きはじめる。そして弓の射程入った瞬間に騎兵たちは一斉に弓を射始め、その矢は外れることなく黄巾賊の後衛に命中し確実にその数を減らしていった。たちまち黄巾賊の後衛がいきなりの矢に対して混乱し始め、陣形とも呼べない歪な陣形が崩れ始めて大混乱に陥る。

 もはや後衛に限らず、黄巾賊本隊もがまともに武器を構えて迎撃することも混乱を鎮めることもできないほどに収集が付かなくなっていた。そしてそのままいくらか弓を射続けた騎兵たちは黄巾賊に近づくと悠然と後方に後退していく。なぜなら彼らは黒馬義従が突撃する前に相手の後衛を混乱に陥らせ、突撃しやすくするという目的は十分に達成できているからだ。

 そしてその後退した騎兵たちの後ろからは今度は黒い馬に乗った見るからに固そうな重装騎兵部隊が盾と槍を構えながら現れた。その次に先頭にいる戦斧を持った武人に眼が行き、その武人を見た瞬間にその部隊が何なのかを悟る。その黒い騎兵部隊は異様なほどに戦意が高く、その隊全体が闘気の塊でもあるかのように感じられたからだった。

 

「ああ……」

「ま、まさか!」

「そんな!?」

 

 さらにその部隊を見た一部の元農民たちが絶望の声を上げる。彼らはあの部隊とそれを率いる将が誰のことかをよく知っているからだ。それは彼らがこの幽州でこの黄巾賊に合流した元農民たちで幽州に住む者の中であの部隊を知らない者はほとんどいない。

 

 

その部隊の名は「黒馬義従」

 

 

幽州最強の騎兵部隊

 

 

そしてそれを率いている者は公孫仲珪

 

 

幽州で最強と称される武人

 

 

 その部隊が今にも自分たちを殺そうと迫ってくる。それを見た幽州の元農民たちはなぜ自分たちが黄巾賊に参加したのかと後悔に陥った。そしてすぐさま自分たちが一切の手加減もなく殺されるイメージがわきあがり、それは数秒後の自分たちの未来だと彼らの生存本能が告げる。

 こうなることは最初っからわかりきっていたのにと手に持っていた武器を地面に落とし、その最強の部隊から少しでも遠くに逃げようと動き始めるがもはやこの大混乱の中では逃げ出すこともできない。

 

「うわあああああああああ!!」

「いやだああああああああ!!」

「あああああああああああ!!」

 

 と叫びながら幽州の元農民たちがにがむしゃらに部隊と反対の前線へと向かって進みだす。そのあまりにも絶望に満ちた声に加えて慌てて逃げ出す姿を見た他の黄巾賊にも絶望と混乱が広がっていき、さらなる混乱へとつながっていく。それはこの戦が終わったことを示したことでもあり、後に残るのは無抵抗な者どもを一人残らず殺すという虐殺だけだった。

 

 

そんな絶望と混乱の中、幽州最強の重装騎兵部隊が一人残らず殺すために黄巾賊に容赦なく最強の牙を突き立てた。

 

 

―――――――桃香side

 

 妹さんの部隊が一切の減速なく黄巾賊と衝突した瞬間に人が吹き飛んだ。幻想でも嘘でもなく本当に人が空高く吹き飛んだのだ。さらにそれは妹さんだけではなく、部隊と衝突した者たちが根こそぎ吹っ飛んだのであった。そしてそのまま勢いを殺さずに部隊の倍もある黄巾賊の中を敵の血肉をまき散らしながら歯牙にもかけずに突き進む彼女たちを見て部隊の力を思い知らされた。

 

「うそ……」

 

「これが」

 

「すごいのだ」

 

 実際にそれを見た私たちの脳内には星ちゃんが言っていた「中華最強の騎兵部隊」という言葉が自然と浮かび上がり、絶対に相手にだけはしたくないと思った。

 黒蓮たちの騎兵突撃は実際ものすごい衝撃力があり、時速60kmで約600kgあるバイク集団が槍を持って突撃するようなものである。その衝撃力は言わずもがな簡単に人など吹っ飛ばすことができる。

 

「これが妹さんの実力……」

 

 そう一人呟きながら私は彼女との差を見せつけられ、黙って無抵抗の黄巾賊の中を突き進む妹さんだけを見ていた。その見つめている先にいる彼女の顔からはこの戦場において不思議なほどに無表情であり、彼女から怒りや悲しみと言った感情が何も伝わってこなかった。そしてそのことを感じたのと同時に白蓮ちゃんとは違う力を持ち、例え自分の領内の民でさえも害になるのならば容赦なく切り捨てる彼女の姿に一種の恐れを抱いた。

 

あのまま行くと妹さんはどこまで進み続けるのか。

 

 それだけが私の心に思い浮かんだ。恐らく彼女は守るべきもののためなら例え姉妹である白蓮ちゃんや自分自身でさえも簡単に切り捨ててしまうだろう。そしてそれを平然と行えるなんてもはや心のどこかが歪んでいるか、または壊れている人間であることは間違いない。

 

あんな人がいるなんて。

 

 私は信じられないような目で彼女を見ていた。誰かを切り捨てなければ答えが出せず、それを躊躇しないことなど私には理解できない。いや理解などしたくはない。私たちが目指している理想とはまったく反対の位置にあり、そしてそれは私たちとは絶対に相容れないことを悟った瞬間でもあった。

 

「うっ」

 

 そして彼女たちが通り過ぎた後には夥しい数の黄巾賊の死体と血の海のような地面だけが残っていた。そのあまりにも悲惨な光景を見た私は思わず戦場から目を逸らした。

 

 

―――――――黒蓮side

 

「突撃!!」

 

 私の指示が下ると黒馬義従の前面に白馬義従が綺麗な横陣で陣取った。姉さんが鍛えただけあってその陣形は一切の乱れもなかった。そして弓の射程距離に入ると不安定な馬の上から全員が揃って弓を放ち、放たれた矢は後ろから黄巾賊後衛に直撃、相手はなすすべもなくすぐさま大混乱に陥った。

 そして相手との距離が縮まると白馬義従は後方に悠然と離脱していき、絃央が擦れ違い様に私に「ご武運を」とだけ言って離脱していった。

 

 私たちの目の前から白馬義従が消え去るとその開けた視線の先には大混乱に陥っている黄巾賊の本隊が見えた。そこにいる誰もが私たちとは戦おうとせずに逃げようとしていた。それはもう収集のつかないほど広がっており、軍としてただ戦うという低い役割しかないのにその役割さえも失い始めていた。

 

「あいつらは我らを害する敵だ!!」

 

 私は先頭で隊全員に聞こえるように叫んだ。いや――――自分自信に言い聞かせるために、私自身が彼らはもう啄郡のために切り捨てたんだと思うために。だから例え元幽州の民であっても幼い少年であっても殺してこの手を大量の血で染め上げるために。

 

「ならばあそこにいる奴らを全て殺せ!!」

 

 切り捨てたのならば決して迷うことはするな。もし迷ったならばそれは戦場にて命取りになる。だからそう答えを出したのなら、やることが決まっているならば無抵抗な奴らでも躊躇は一切必要はない。そしてそれは今までしてきたこと何ら変わりはない。朝起きたら顔を洗うような習慣と同じで当たり前のことを当たり前の様にすること。

 

「ハア!」

 

 そう思いながら私は目の前にまで迫った黄巾賊の背に向かって容赦なく戦斧を振るった。無抵抗な黄巾賊は私の戦斧に触れるとまるで紙屑のように血肉をまき散らしながら吹き飛んでその生を終わらせた。それがスピードを緩めずに突っ込んできた私の隊のいたるところで繰り広げられていた。

 

 

ある者は槍に貫かれ、またある者は容赦なく馬の蹄に踏みつぶされる。

 

 

 たった数秒でそこには地獄のような光景(せんじょう)を私たちは作り上げた。年端もいかない男の子が泣き喚いていようと老人が天に何かに祈っていようと私たちは決して手を休めることはなく、そこには容赦も慈悲も存在しなかった。

 

「セイ!!」

 

 ただただひたすら敵を殺すことだけを機械のように繰り返す。本当は無抵抗な奴などは殺したくはないのだが啄郡のために死んでくれと思いつつ一切手を休めることはない。

 

 

―――――――それが私の出した『答え』なのだから

 

 

無抵抗な敵を薙ぐ。

 

 

それを何度も繰り返す。

 

 

何度も何度も。

 

 

何度も何度も何度も。

 

 

ただ機械のように。

 

 

無抵抗な人の生を終わらせる作業を続ける。

 

 

その死体を作り出す作業はその後も長く続いた。

 

 

†††††††††††††††††

 

 

 黄巾賊に突撃してからどれぐらいたっただろうか。空を見上げると少しだけオレンジ色に染まり始めていた。そして先ほど姉さんが勝鬨を上げたことでこの戦を勝利して終わったことがわかり、公孫の兵たちがそれぞれ空に向かって武器や握り拳を突き上げ、勝利の喜びに浸っていた。それは私たちの黒馬義従も同じであり、戦場に多くの兵たちの声が響いていた。

 そんな中、私はさっきまで戦っていた戦場を馬上から見渡す。そこには無残に切り裂かれ、あるいは無造作に転がっている黄巾賊の約三〇〇〇〇人の死体と今回の犠牲者、そして血に塗れた剣や泥を被った黄巾の旗が目に入った。

 

「これが私の出した『答え』の先にあるものか」

 

 そう一人で戦場を見ながら呟くとその声は兵たちの大歓声ですぐさま消えていく。なぜか私は何時もと違ってやるせない気持ちになり、気が付くと劉備の言葉を思い出していた。

 

 

―――――――なんでみんな殺しちゃうの!?

 

 

それが啄郡のために必要であったから皆殺しにした。

 

他にたいした理由はないし、そこに余計な感情を込める必要はない。

 

 

―――――――話し合ったらきっと戦わずにすむ人たちもいるはずなのに!!

 

 

ああ、そうだろうな。

 

でも殺すことを決めたのは姉さんと私だ。

 

そう『答え』を出したから実行した、ただそれだけのことだ。

 

……そう、それだけのこと。

 

 

―――――――だからってあそこいる人たちを全員殺すのなんて間違ってる!!

 

 

………そうかもしれないな。

 

他に道があったかもしれない。

 

 

 私は気が付かぬ内にそんなことを思っていた。しかしそれに気が付いた瞬間に頭の中からそのことを強制的に追い出す。思考を全てクリアにし、ぐだぐだ考えることを放棄する。

 

「こんなことを考えるなんてらしくもないな」

 

 はたして私は今回のことを後悔しているのだろうか。私たちが出した『答え』の先にあったものが、戦場に残った『もの』がただの多くの人の『死』であったように見えたから。

 

自分が出した『答え』に後悔はしないとあの時に決めたじゃないか。

 

そう頭の中を切り替えて私は戦場から立ち去った。

 

 

†††††††††††††††††

 

 この後、幽州全体でこの殲滅戦の噂が広がり、それはやがて華北を中心に広がっていった。そして啄郡の公孫伯珪は幽州一精強な軍を持つとされ、その武名を馳せることとなった。また妹の公孫仲珪も同じように先の戦いで黄巾賊を一番屠った優れた武人として武名を馳せる。それと同時に曹孟徳まではいかないがこの中華の中で注目される人物にもなったのだった。そのため幽州の啄郡近郊ではその武名に恐れた黄巾賊や賊などはでなくなり、啄郡近郊の治安は上がったのであった。

 そして啄郡に帰った二人と劉備一行は溜まっていた政務やいざという時に備えて内政や軍強化を精力的に行っていくことになる。

 

―――――――なぜなら戦いはまだ始まったばかりなのだから。

 




何かアドヴァイスや思ったことをなど気軽に書いてくれる嬉しいです。


よろしくお願いします。

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