リゼロ短編集   作:コーンスナック菓子

3 / 9
※ちょいグロ

アニメ23話(ユリウスがスバルを介錯するとこ)放送時、フェリスが決断しないとユリウスはスバルを『絶対』に介錯できないという作者様の呟きに妄想が膨らんで書いたものです。
スバルギウスは本来、性格や口調がペテルギウス100%のはずですが、私の趣味でスバル成分が多めになっていますのでご注意ください。

《なんとなくの設定説明》
書籍ではヴィル爺がスバルとフェリスに大事な話があると駆けつけたときスバルがいない、探せ!な感じでアニメ23話のラストにつながりますが、この話ではヴィル爺がスバルを探す前にフェリスにクルシュ達のことを伝えたためフェリスがいません。
フェリスが出て行った後ヴィル爺は村でスバルを探し周り、ユリウスが1人でスバルを追ってきたが止められず大怪我。その後スバルは村に向かい、ユリウスもなんとか追いかけて村に来た。
みたいなふわふわした感じです。あまり深く考えずにお読みください。


『スバルギウス』

 ダメだ。もっと遠くに。

 エミリアから、みんなから遠くに離れないと。

 

 どんなに気持ちが急いでも、湿った土に足をとられ、思うように前に進めない。

 自分の意思に反して口から漏れだした笑い声にスバルは焦った。

 

 精神を侵され、ナツキ・スバルという存在がペテルギウスという存在に塗りつぶされていく恐怖。

 

 早く森の奥にいかなければ。そう思うのに次第に足が遅くなる。

 何をしてる、早く行くんだ。俺は頬を叩いて乱れる意識を叱咤し、目的地に向かって走った。

 

 俺はこんなところで立ち止まっている暇なんてない。早く、早くエミリアのところにーー。

 

「スバル、どこへ行く気だ!」

 

「ーーーー」

 

 その声に足を止め、顔を上げれば、視線の先に細身の影が見えた。

 ユリウス・ユークリウス。俺を追いかけてきたのか。

 

 焦燥し息を切らせて、それでも優雅な立ち振る舞いを忘れない最優の騎士。

 たぶん、ユリウスは気付いている。

 

「遅かったな」

 

 俺は頬が裂けるような笑みを浮かべた。

 

 

 * * * * * * * *

 

 

「スバル、目を覚ませ! こんなこと君は望んでないはずだ!」

 

 焦げるような匂いと赤い景色の中、薄紫の髪を血で染めたユリウスが叫んだ。

 俺は俺が望んだことをしているというのに、あいつはいつまでもそんなことを言い続けている。

 俺がそれを分からせようとユリウスに手を伸ばすと、ユリウスを守るように一人の老剣士が立ちふさがった。

 

「ユリウス殿、あれはもうスバル殿ではない」

 

 傷を負い、左肩が動かなくなったヴィルヘルム。しかし剣鬼の息は乱れておらず、静かに剣を構えていた。

 

「……覚悟っ!」

 

 剣鬼に一瞬で距離が詰めれ、スバルの目の前を鋭い刃が通り過ぎる。

 死の気配を感じ、反射的に体を仰け反ってなんとか回避に成功したが、危なかった。

 俺は急いで距離をとり見えざる手で応戦するも、剣鬼にとってそれは目に見えているかのように避けられ、再び距離が詰められる。

 手の数はこちらの方が多いうえに、相手は手負い。それなのに俺は見る見るうちに押し負けていく。俺を無害だと思っているうちに不意打ちで殺せなかったのは少々痛手だったようだ。

 

「やっぱり強いデスね、ヴィルヘルムさん」

 

 俺の努力では決してたどり着けない境地。その強さは屈辱であると同時に賞賛に値する。

 そしてついに俺は追い詰められ、剣鬼がトドメを刺そうと剣を振り上げた。

 このままでは剣を防ぐより先に斬られるだろう。

 

「奥さんのお墓参り、行ってあげてくださいね」

 

 俺は死を覚悟していた。

 だが、その俺の言葉にヴィルヘルムの振り上げた腕が僅かに硬直し、剣の動きが止まる。

 その一瞬を俺は見過ごさなかった。

 

「アナタの覚悟はその程度だったのデスか?」

 

 ブチリ。そんな生々しい音。

 そして赤い雨が降った。

 

 ヴィルヘルムの首は汚い断面をさらし、霧のように血が噴き出す。

 硬いと思って力を込めて捻ったが、あっけなく千切れる脆い老体だった。

 ためらわなければ俺を殺せていただろうに。

 

「あははは! 油断! 油断大敵デスよヴィルヘルムさん。俺が正気に戻ったとでも思いましたか? それとも奥さんのことを思い出してためらっちゃいました?」

 

 一瞬の隙を見せ、俺なんかに負けたヴィルヘルム。

 そのためらいがどんな理由だとしても、なんて『怠惰』な死に様だ。

 『一秒も、一瞬も、刹那も諦めず、見据えた勝利に貪欲に喰らいつけ』、そう言ったのはアナタデスよ?

 

「ーー失望しました。あぁ、アナタ……怠惰デスね」

 

 踊るように鮮血を撒き散らせながら倒れる老人。

 びくりびくりと痙攣しているその死に様に憧れていた気持ちも冷め、俺は衝動的に指を噛む。

 

 親指。人差し指。中指。薬指。小指。痛い痛い痛い痛い痛いーー

 噛み潰した指の燃えるような痛み。流れ出る血の温さ。俺は生きている。

 ああ、エミリア。彼女に早く会いたい。

 

 

「怠惰の大罪司教!!」

 

 突然の大声。その声に彼女への思いは水をさされた。

 俺が振り返ると血まみれの男が立っている。

 忘れていた。不浄を従える精霊騎士が一人残っていたことを思い出し、俺は自分の怠惰を恥じる。

 

「彼から……スバルの身体から離れろ……っ!」

 

 ユリウスが倒れそうな身体に鞭打って立っていることが空気の読めない俺でも分かった。

 死にかけのくせに、よくもまあ頑張る。

 俺の攻撃にユリウスは土煙に目を凝らし、それでも避けきれなかった攻撃に傷を負いながら俺に戻れと叫び続けた。

 

「頼むスバル……私に……」

 

 いつも優雅で余裕を失わない。そんな奴だと思っていたが、

 

「お前でも、そんな顔すんだなユリウス」

 

「スバーー」

 

 狼狽える精霊は怠惰。傷つけない剣は無力。

 俺はユリウスの言葉を最後まで聞かず、出せる全ての見えざる手を真上に伸ばす。

 

「じゃあな」

 

 別れの言葉をはなむけに、ユリウスを地面に押し潰した。

 醜い音とともに肉塊が無残に飛び散り、血が真っ赤に地面を染め上げる。

 最優の騎士の、実に呆気ない最期だった。

 

「ははっ、あはは! あはははははは!!」

 

 ユリウスの死に、俺はその場でくるくると回って指先から流れ出る血を撒き散らせながら笑った。

 なんて『怠惰』なんだ。味方を殺されても俺に剣を向けることができない奴だったとは。お前には『最優』よりも『怠惰』の方がお似合いだよ。

 

 哀れ。俺はお前を哀れむぜ、ユリウス。

 試練に立ち向かいもせず、お前は最期までなんの幻想を見ていたんだろうな。

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 俺は与えられた愛に対し、勤勉をもって応えなくてはならない。故に試練を与える。

 この世界に、この日々に、この時間に、この一瞬に、俺が魔女の寵愛を受けたことの意味を見出すために。

 そして愛を貫くためには障害が不可欠だ。障害があってこそ俺の勤勉さが、怠惰に抗う信仰が試される。

 それこそが(ワタシ)に試される試練のとき。

 

「だから……ごめんな」

 

 立ち向かってくる敵。逃げ惑う村人。

 俺はその障害全てに試練を与え、潰しながら村の奥へと進む。

 

 あぁ、なんてすばらしい身体なのでしょう。これほど馴染む肉体がこの時に与えられたことを魔女に感謝するのデス。

 愛に、愛に報いなければーー

 

 

 * * * * * * * *

 

 

「スバル……?」

 

 ーー声が聞こえた。

 

 銀鈴の音声。ようやく見つけた愛おしい音色。

 恋い焦がれた彼女との再会に心の底から歓喜し、言い表せぬ狂喜に体が震えた。

 

「スバル、どうしたの!? 怪我してるじゃない」

 

 まだ村の惨状に気付いていないのか、彼女は傷だらけの俺を見て慌てて治療に取り掛かった。

 

 噛み潰された指に治癒魔法を使う彼女の表情は真剣そのもの。

 あんな酷いことを言ってしまった俺を心配してくれる彼女の優しさが嬉しくて想いが込み上げてくる。

 

 好きだ、エミリア。大好きだ。

 この日をどんなに待ちわびてきたことだろう。

 

 集中していて無防備なエミリアの手を握り締めると、彼女は驚いたように顔を上げ、そして涙を流す俺を見てさらに驚いて目を丸くする。

 そんな愛おしい彼女に、俺は優しく微笑んだ。

 

 長い長い道のりだった。苦しくて苦しくて仕方なかった。

 それでもエミリア、俺は君に会いたくてここまで来たんだ。

 俺の『愛』を受けとってくれ。

 

「やっと捕まえた」

 

 銀髪の半魔に試練を。

 ーーさあ、終わりの始まりデス。

 

 

 

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