リゼロ短編集 作:コーンスナック菓子
時間は4章1話目の竜車でロズワール邸に帰るところ。書籍とウェブでこの場面が違いますが、ウェブ版の方です。
スバルが「気まずい空気読んで黙るのは俺らしくない」みたいなことを原作で言ってましたが、これを読む時は忘れてください。ご都合(私の趣味)でごめんなさい。
スバルがエミリアとレムに両手を引っ張って取り合ってほしいと言ってたので書きました。完全に二股なので苦手な方はお気をつけ下さい。
心地いい日差しが窓から差し込み、部屋の中をやわらかに照らす穏やかな朝。
木でできたテーブルの上には美味しそうな料理が並んでいた。
「スバルくん。あーんして下さい」
「あーん」
隣に座るレムが差し出した野菜を、俺は言われるがまま口を開いてぱくりと食べる。
「おいしいですか?」
「めちゃくちゃうまいよ」
「ふふっ、ありがとうございます。スバルくんのために愛情込めて作りました」
嬉しそうに微笑むレム。
彼女が笑ってくれるのなら、たとえ不味くても食べるだろう。しかし、その必要は一切なく、レムが作ってくれる料理は嫌いな野菜も美味しく食べられるのだ。
そうして俺がレムに感謝しながら野菜を食べていると、今度は横からズイッと皿が突き出された。
「スバル、このリンガ私が剥いたのよ。すごーく愛情たっぷりなんだからね!」
エミリアが差し出した皿には歪な形のリンガが山盛りのせられている。
その皿を俺の口に丸ごと突っ込みそうな勢いで、エミリアは食べて欲しいオーラを振りまいていた。
「あ、ありがとエミリアたん。ずいぶん剥くのが上手くなったね?」
本当に皿が突っ込まれると困るので、俺は差し出されたリンガをひとつ取って食べる。
今もお世辞でも上手とは言えないが、前は切ってすらなかったのだから食べやすくなっているだけでも上出来だろう。
俺がリンガを咀嚼しながら横目でエミリアを見ると、俺の言葉を素直に受け取って嬉しそうにえへへと笑っていた。
「E・M・J」
エミリアたん、まじ、純粋。
* * * * * * * *
「見て、スバル。きれいな花がたくさん咲いてるわ」
外を歩いているとエミリアが花畑を見つけた。
「すっげー、満開じゃん。でもこの間きた時は咲いてなかったよな?」
「この花は開花してから数時間で枯れてしまうため、滅多に咲いている姿は見られません。きっとスバルくんとエミリア様の日頃の行いがいいから見られたのですね」
「なに言ってんだよ。いつも俺よりレムの方が頑張ってるだろ? あ、ちょっと待ってて」
レムの説明を聞きいているうちにピンときた俺は、思いつきを形にするため花畑に足を踏み入れた。
「じゃーん。完・成!」
「これは花束……ですか?」
「わぁ、おったまげるぐらい綺麗ね」
「ふっふっふっ。昔ちょっと憧れてスキル身につけたのさ。というわけで、はいお姫様」
俺は二人に出来たばかりの小さなブーケをひとつずつプレゼントした。
レムはそのブーケを壊さないようにそっと受け取ると幸せそうに眺め、エミリアはもらったプレゼントに目を輝かせて嬉しそうに笑っている。
野の花で作ったシンプルなブーケだが喜んでもらえてよかった。
「綺麗な花畑。そこに俺が作ったブーケを持つ美少女達……ステキ、見惚れちゃう!」
俺が二人に魅了されてクネクネしていると、側にいたレムが可笑しそうに笑う。
「レムも、スバルくんを惚れ直してしまいました」
「まじで? 何か惚れ直すようなことあった?」
「はい。スバルくんはいつも素敵ですから、毎日惚れ直してしまいます」
レムはそう言って俺の手を握った。
温かい手。そしてほんのりと朱に染まった彼女の頬。
そんなレムの笑顔を見て照れ臭くなり、俺は視線を逸らしてレムが握る手とは反対の手で頬をかいた。
開花時間の短い花。ずっと咲いていればいいのに、もうすぐ枯れてしまう。
それを少し寂しく思っていると、背後から頭に軽いなにかが乗せられた。
「はい、スバル」
「あれ? エミリアたん、これは……」
「えへへ、花冠よ。スバルが前に作ってくれたのを見よう見まねで作ってみたの。私達がお姫様ならスバルは王子様だもんね」
花冠は上手く編まれていないのか、頭上からぽろぽろと花が落ちてくる。これでは動いている間に全部落ちてしまいそうだ。
それでも作ってくれたエミリアの気持ちが嬉しかった。
「王子様とかまじ照れる。今度から白馬ならぬ白竜に乗ってエミリアたんをお迎えに行っちゃうよ?」
「スバル、パトラッシュ以外の地竜に乗れるの?」
「うっ、そこは聞かないで……」
「大丈夫ですスバルくん! レムが手綱を握るので、スバルくんは後ろに乗って下さい!」
「それ、意味なくね!?」
エミリアの隣にいられて、レムが隣にいてくれる。
これ以上の幸せを俺は知らない。
しかしどうしてだろう。すごく、悲しい。
「スバルくん大好きです」
「私も。スバルのことすごーく好き」
「レムのスバルくんへの愛は誰にも負けませんよ?」
「わ、私だって負けないんだから!」
レムとエミリアに両側から腕を引っ張られ、痛みがだんだんと洒落にならなくなってくる。
それでも俺は二人に止めてくれとは言わない。言えるはずがない。
大好きな女の子達が俺のことを好きだと言って取り合ってくれる。
それはまさに夢にまで見た光景。
最高に幸せなーーーー
* * * * * * * *
「スバル?」
「…………ぁ?」
呼びかける声に、俺は夢から目を覚ました。
竜車の中。隣には心配そうに俺の顔を覗き込むエミリア。目の前には寝台で眠っているレム。あとはオットーの話す声が聞こえる。
そうだ。俺はロズワール邸に帰る途中、あり余る時間を活用して俺とエミリアとオットーの三人で今後の方針を練っていたのだ。
しかしオットーの油の買取の話になった途端、意識が遠くなって……
「そうか俺、眠ってたのか」
「というわけで僕は……って、ええっ? ナツキさん寝てたんですか?」
オットーの反応を見るに寝ていた時間は長くないようだが、まるで寝すぎた時のように意識がぼんやりとしている。
視界も、少し霞んでいるようだ。
「スバル、大丈夫? どこか痛いの?」
エミリアは気遣うように俺に問いかける。なぜ彼女はそんな心配そうな顔をしているのだろうか。
疑問に思ってたいる俺に、エミリアはどうすればいいかわからない様子でおそるおそる俺の頬に触れた。
触れられて、俺は初めて気づいた。
「あ……」
俺は泣いていたのだ。
「起こしちゃってごめんね。でもスバル泣いてて、それで心配で……」
エミリアがいて、レムがいる。幸せな時間だった。
だけど、俺は心のどこかでこれが夢だと気付いていたんだ。
「だ、大丈夫だよエミリアたん。ちょっと疲れてただけだよ。君の声を聞いたら疲れも遥か彼方へ吹き飛んじゃったから、もう大丈夫!」
「……ほんとに?」
「本当にほんと! 元気ハツラツ!」
俺は腕を大きく振り上げ元気さをアピールしてみせるが、彼女の表情は曇ったまま変わらない。
その空元気が無駄な努力だと悟ると、俺は強がっていた笑顔がくずれた。
俺は俯いて閉口し、オットーも気をつかってか話しかけてこないので自然と竜車に沈黙が流れていった。
「膝まくら、しよっか」
最初にその沈黙を破ったのはエミリアだった。
エミリアはそう言うと、楽にしていた足を整えて招くように太ももをぽんぽんと叩く。
疲れた時は膝まくらをしてほしいという約束をエミリアは覚えていてくれていたらしい。
「……ありがとうエミリアたん。でも大丈夫。欲を言ったらもちろんしてほしいけどさ。今は、平気。ほんとにありがとう」
夢を見て、落ち込んだのは事実だ。本当は膝まくらしてほしい。
だが、あのとき俺はレムを取り戻すと誓った。
「ただ……あのさ、ひとつわがまま言ってもいい?」
「もちろん。私にできることなら」
慰めもご褒美も今はいらない。
だけど、本当にレムを取り戻せるのかわからない不安はある。
その不安に負けてくじけてしまわぬよう、諦めない覚悟が今はほしい。
「ごめん。手、握ってもいいかな?」
俺のわがままをエミリアは頷いて快く了承してくれた。
そのことに感謝して、差し出してくれた彼女の手を握る。
レムのことを考えながらエミリアの手を握る俺は最低かもしれない。それでも俺はこの手を離さない。
たとえ、それを誰かに罵られても二人の手を離す気はない。強欲でも傲慢でもなんでもかまわない。二人がほしい。
エミリアと反対の手でレムの手をそっと握り、二人の手のひらから伝わるぬくもりに夢を思い出す。
思い描いてた夢の夢。ありえない現実。諦めたら、二度と見ることは叶わないだろう。
夢が儚い花のように散ってしまわぬよう、もう一度心の中でレムに誓う。
エミリアを惚れさせてOKもらうことは、俺の中ではすでに決定事項。
そしてレム、お前を目覚めさせることも俺にとっては決まったことなんだ。
いつか必ず、夢の続きを見よう。
必ず、必ず迎えに行く。
お前が俺の手を握ってくれるその日が来るまで、俺がお前の手を握るから。
だから、目が覚めたら千切れるくらい思いっきり引っ張ってくれよ。レム。